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😶 或る民俗学教授のレポート (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)古代より山の神として信仰され、信じられてきた妖怪がいる。その名を天狗という―― 天狗は山に棲み、千里眼や未来視などの神通力を有した半神的存在であるとされ、修験者の姿をしていると考えられたり、鼻が異常に長い老人の姿で描かれることが多い。また、鳥のような頭部と翼を持った姿で表されることもある。民間伝承では、赤い顔で禿頭であったとも伝えられる。日本では、天目一箇命の子とされる土蜘蛛(地童)も、鳥に似た頭部を持つ異形の存在だとされてきた。この土蜘蛛の伝承は各地に点在し、また民間でもよく知られているものである。一方、中国では、人間の姿をとった仙人であり、風を司るとされた。これは日本における烏天狗との類似を示すが、さらに中国の文献には、人間の身でありながら空を飛ぶ術を身につけた存在として、管子に登場する禽獣(けんじゅう=動物の意味)の名を挙げた例が見られることにも注意したい。つまり、ここで天狗とは、日本における烏天狗ではなく、中国における管子の伝えるところに近い存在であるといえるのだ。 さて、以上のことをふまえた上で、かつて存在したとされる変わった天狗の一族について述べて行こうと思う。 現在の奈良県にある金剛山の麓にて小さな村がある。今では、村人が数えるほどしかいない廃れた限界集落となってしまったものの、かなりの歴史があることから、かつてはそれなりの規模を誇っていたことが窺える。そんな村の文献の一つに興味深い絵が記されていた。それは、人と全く同じ容姿をした女達が描かれているもので、女の隣にこの地域独自の言語で「風」「光」などと記された文字。そして、女達の名称と思われる一文が記されていた。 ――曰く、言ノ葉天狗と称す。 また、他の文献にて言ノ葉天狗に関する記述も見られる。それによると、その姿はまるで人のそれで、同じく人語を介す。その多くは女であったと云う。性格は、同族であろうと厳しく接し、武力にも長けていたらしい。しかし、恩義に篤く情を重んじる部分もあったとされているようだ。このような文献が残っていることから推察すると、この天狗たちは村を守っていたのではないかと思える。ただ、現在ではその形跡は何も残されていない為、真相は不明であるのだが……。 さて、ここまでの話を聞いて違和感を覚えた人は少なくはないだろう。 女達が何故天狗と呼ばれていたのか。その疑問を解決する糸口は先程紹介した絵にあった。絵には女達の他に「風」や「光」といった文字が記されていた。この意味を私は最初女達一人一人の名だと捉えていたが、その考えは村長宅に代々伝わっていた絵巻によりひっくり返ることとなる。 絵巻には、女達が構えながら女の3倍はあるであろう鬼と思わしき者と交戦している様子が描かれていた。そして、先程の絵で話した「風」という文字の隣にいた女もまた、他と同じように鬼と戦っていたのである。そして絵巻には、こう記されていた。 ――――言ノ葉天狗、言霊と妖印を以て応戦せり。 ここで云う、「妖印」こそが先ほどの文字の答えだと解釈して良いだろう。 そして、「言霊」。それは言葉に宿るという不思議な力の事を指すと考えられる。天狗の特徴として、神通力を操るというのがあるが、「言霊」こそが彼女らにとっての神通力のようなものだったのかもしれない。さて、ここまでくれば言ノ葉天狗の由来について大方の人が私と同じ考えに行きついたと思う。 言ノ葉天狗とは、「言葉」,「文字」を言霊による神通力によって操ることに長けた者達であり、妖印と呼ばれる一文字の力を引き出せる能力を持ち合わせていた。名前の由来もきっとそこから来ているのであろう。 この天狗の正体が一体何者であったのかまでは断定出来ないが、かつてこの地を守護し、人と共存していたことは間違いないのではないだろうか? 今となってはその痕跡は全く残っていないものの、言ノ葉天狗達は今もどこかでひっそりと暮らしている可能性があるのではないか……。そう思いたいものだ―――
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