raku2さんの日記 「小咄」

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raku2日記

2020/01/13 22:56

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😶 小咄
 石造りの階段に、コツコツと音が響く。
 耳がそれを捉え、休止していた脳がゆっくりと鎌首をもたげ、閉じられた目が開く。身じろぎをしようとして、鎖が擦れ、自身の身分を思い出す。
「目が覚めたか?」
 鉄格子の先から低い声が響く。節くれ立った指には何れも大粒の宝石をあしらった金の指輪が嵌められており、片方の薬指には、此方も銀に細工を施された指輪が一際輝いている。男の質問に、こくんと正直に頷いた。
「することは……分かっているな?」
 皺がれて瘤になりつつある頬が、笑顔を作る口に釣られて持ち上がる。中からは金歯が数本覗き、ごくりと喉を鳴らした。汗が伝う。
「後は好きにしろ」
 隣に居た牢番に申し付けると男は早々に去っていく。
「良いよなあ、美人は。中に入りゃあ食ったって何も言われねえしよ」
 鍵束を取り出し、牢を開ける。手慣れた様子で四肢の拘束を解き、代わりの手錠を付けさせられ、上階に移動し、更衣室へと足を踏み入れる。牢番が手錠を外すと、扉にもたれかかる。ノックをすると体重が抜け、扉が開かれる。共に、口笛を吹いた。
「何度見ても、イイもんだなあ、その服はよー。飽きないぜー」
 思わず睨み付けると、両手を上げて、手錠を掛け直した。
「冗談だよ。手は出さねえって約束だからな。今日も、夜は大変だろうなあ」
 まだ昼間だが、夜のことは考えたくはないと言う様に、虜囚は目を伏せた。
「あー、終わったら……きちんと慰めてやっから……」
 調理場と書かれたその部屋は彼女にとっての、戦場だった。エプロンドレスを忙しなくはためかせ、急遽、奴隷市場で買い取られた彼女の評判は、先程の主人にも、牢番にも好評だった。つまみ食いが多いのが玉に瑕の様だが、その仕事ぶりは評価され、先日専用部屋を譲る運びとなった。因みに四肢拘束は奴隷として買い取られたのだからと、暫くはそのままにしておくべきだと主張したらしい。

見た目極悪な成金だけどめちゃくちゃ人の良い商人とエルフいう昔見たネタを元に。
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