Keiさんの日記 「歴史のお勉強のお話」

Keiさんの日記を全て見る

みんなの新着日記を見る

Kei
Kei日記
2023/05/20 18:37[web全体で公開]
😶 歴史のお勉強のお話
ご機嫌よう。

突然なのですが、エリオガバルスのお話をしても良いかしら?

エリオガバルスは、セウェルス朝ローマ帝国の皇帝で、かつてはローマ史上最悪の皇帝と呼ばれることもございました。いまでも「在意中に皇帝らしいことは何一つしていない」ことで非常に評価は低いですが、一方で「何もしていない」ことによって最悪の座からは逃れているかしら。

まず、エリオガバルスに至る前のお話として、カラカラ帝を避けて通ることはできません。以前の歴史の教科書ではカラカラ帝は割と名君という位置付けでしたが、いまはどうでしょう? 実際にはカラカラ帝は本当にひどい皇帝で、たとえば暴君として知られているネロなどカラカラの前では霞程度にすらなりません。彼の政策や事業、たとえばアントニヌス勅令は現代の文脈では人権という側面から捉えてしまうかもしれませんが、実際にそういう側面はございませんし、カラカラ浴場のようなの公共事業だって、経済的効果よりも何よりも、単に自分の名前を残したいがために行われた事業でした。どちらも帝国の経済を破壊するのには役立ちました。それ以外といえば暗澹たるもの、何よりも彼自身が非常に問題のある人物だったのです。

歴代のローマ皇帝の多くは暗殺を恐れていましたし、カラカラ帝も暗殺されました。ところが、カラカラの暗殺後皇帝となったマクリヌスは自らの皇位を盤石なものにしようとして失敗、そこで担ぎ出されたのがエリオガバルスです。

エリオガバルスはカラカラの血を引き、セウェルス朝は断絶などしていないという触れ込みで登場しました。もちろん実際にはセウェルス朝の血筋ではなくシリア系の家系で、本当ならローマ帝国とは何の接点もなく終わるはずでした。でも、大伯母がカラカラの母、つまりセウェルス朝初代皇帝の妃だったのです。それまでローマとは何の接点もなかったのに、一族がローマにおける地位を維持するために、エリオガバルスはカラカラの息子ということになりました。

もともとエリオガバルスの家系はシリアに伝わる土着の太陽信仰の神官で、彼自身将来は神官になると思っていたのでしょう。それまでのローマ皇帝のような「男性的」な人物ではありませんでした。でも、ある日突然、お前は明日からローマ皇帝だと告げられます。だからローマに行かなければならない。

意味がわかりませんでしたが、こうも言われました。皇帝なのだから好きにして良い。

彼がローマに凱旋した時、市民はその装いにびっくりしたそうです。市民が期待したような男らしい皇帝ではなかったから。なよなよと女装してたから。

彼はローマの宗教は知りませんでしたが、自分の宗教は知っていました。そこで、シリアの太陽神をローマに連れて行くことにしました(実際に象徴となる巨大な岩を運んだため、エリオガバルスのローマ凱旋は予定よりも半年一年と遅れました)。シリアの太陽神を知ってもらうために、その巨石をローマ神殿に据え付けました。このことはローマ市民の怒りを買いました。

彼は皇帝として子をなさなければならないと言われました。相手は好きに選んで良いと言われました。

彼が選んだのは、よりにもよってウェスタの巫女、ローマにとって絶対に何があっても犯してはならない不可侵の存在でした。このことはローマ市民の怒りを買いました。しかも、程なくして彼女と離婚しました(後に再婚してまた離婚します)。更にローマ市民の怒りを買いました。

ですが、だいたいそもそも、エリオガバルスは帝王学はもちろんのこと、ローマについて何も学んでいませんでした。ただこう言われたのです。皇帝として好きに振る舞って良い。政治的なことは全て祖母が面倒を見る。

彼は結婚と離婚、退廃的な饗宴を繰り返し、最後にはローマの傭兵隊長(男)と結婚しました。女装して宮廷の前で男漁りをしては、寝室で「夫」に「ふしだらな女」だと殴られることに悦びを覚えました。

エリオガバルスはその治世のあいだ皇帝らしいことは一切何もせず、最後にはローマの親衛隊に暗殺され、その死体は埋葬されることなくティベレ川に投げ捨てられました。その治世は4年弱でした。

どうかしら? わたくし、エリオガバルスって確かに良い皇帝ではなかったのだろうとは思うのですが、けれど、なんというか……正直言って割と好き……。いつかこのお話をモチーフにしたシナリオとか遊んでみたいですし、あっここに古代ローマを舞台にしたTRPG「レックス・アルカナ」がございますわね……。
いいね! いいね!14

レスポンス

ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツKei
2023/05/20 20:06[web全体で公開]
> 日記:歴史のお勉強のお話
アントナン・アルトーの本「ヘリオガバルス あるいは戴冠せるアナーキスト」を読んで、「ユニークな人だったんだろうけど正直言って性格破綻者で、死刑にまでする気にはなれないが会っても絶対好きになれないタイプのやつ」だと思いました。
宇月原晴明「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」は大好きなんですがねえ。
聖岳生馬
聖岳生馬Kei
2023/05/20 19:17[web全体で公開]
> 日記:歴史のお勉強のお話

「レックス・アルカナ」に繋がる名文でございますわね。
一匹の死んだヌタウナギ(X連携)
一匹の死んだヌタウナギ(X連携)Kei
2023/05/20 18:52[web全体で公開]
> 日記:歴史のお勉強のお話

あっしがエリオガバルスの名前を聞いたのは多分人生において3回くらいしかありませんぞ…
それはおそらくフンアフプーとイシュバランケーよりも少ないです…←単に最近神話調べてるだけ

いやぁお懐かしや…
そういえば「レックス・アルカナ」とはいかなるものでござるか?

コメントを書く

コメント欄:(最大1000文字)

※投稿するにはログインが必要です。