●エーベルバッハ内海諸領 ここでは五十年前の戦争を契機に発生した、エーベルバッハ内海を中心に、概論を語ろう。 エーベルバッハ内海はかつて肥沃な陸地『エーベルバッハ大公領』であった。 マナ万能だった当時は、一般人はノウハウも分からない大魔法により、諸々の上位精霊を使役し、人にとってのみ快適な生活を横臥しており、当時の誰もが思っていたように『この日々は永遠に続く』とさえ、人々は魔力を浪費していた。 しかし、混沌との戦いでマナがほぼ失われ、精霊たちを使役する魔法的な呪縛も失われてしまう。 これにより上位精霊たちは夢の領域に帰っていく。だが、置き土産を残すものもいた。 ことにベヒモスとクラーケンの怒りはすさまじく、大公領を地に埋め、その後に大洪水で痕跡をも沈める。 混乱に呼応して、ドラゴンたちも諦観していたドワーフに怒りを向け、北東の王国を滅ぼし、廃墟と化す。ドワーフたちの間で『嘆きの離散』と呼ばれる事件であった。 北西の森ではこの混乱に乗じ、闇帝國の残党が進出、森を制圧『妖魔の森』と己を顕示した。 更に南下し、土地を切り取り放題という状況だ。 ドラゴンであれ、妖魔であれ人々が一致団結すれば撃退できたかもしれない‥‥いや、撃退できなかった。 人々は高度な魔法──知識がなくとも膨大な魔力で行使できる魔法──に慣れてしまい、莫大な魔力なしでは、戦いどころか自分たちの生きる糧の確保ですら危ぶまれたのだ。 しかし、天使は人々を見捨ててはいなかった。 神託により、ノーザンクロイツ大聖堂が、神秘の天使ヘリエルの秘伝であった、幾つかの魔法を模した、精霊語、神聖語、古代上位語による簡易版の呪文『人の子の魔法』を流布し始めたのだ。 最初こそ、修得の難易度と効果の小ささを知り、尻込みしていた人々だが、生き残るために魔法に手を出し、マナの残滓と己の力量により魔法を使うことを覚え始めた。 西方では妖魔との回戦が始まり、妖魔の森まで相手の縄張りを押し込む。 だが、人口に膾炙したことにより、妖魔側にも魔法の知識は渡り、知恵のある者は、今を切り拓く手段として行使を始める。 そう人々は再び叡智を手にしたのだ。パックス・マナ──そう呼ばれる僅かな休息が始まった。
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