ちありすさんの日記
ちありすさんが書いた日記の一覧を閲覧できます。
日記一覧
ちありす | |
2021/09/30 22:10[web全体で公開] |
ちありす | |
2020/09/23 23:03[web全体で公開] |
😶 AR2E フィンジアスの天翼族 以下、すべてフリー二次創作設定です。 ご自由にご利用ください。 ==================================================== 帝国騎士団に知的好奇心の旺盛な一人の若者がいた。 ある時、若者は以前から抱いていた疑問の答えを求め、天空兵団の指揮者たるアロイスの許を訪れた。そして、若者は彼に尋ねた。 なぜ、あなた方フィンジアス島の天翼族には白い翼の者がおられないのでしょうか。 世の天翼族らの翼の多くは白いものであるというのに。 島の天翼族の族長であるアロイスは、自身の翼を緩やかに羽ばたかせた。鷲にも似た色のその羽へと、若い騎士は目を向ける。そして、野山に生きる猛禽を想起した。まるで豪気で勇猛な、気高き鳥獣のようであると。 彼のみならず、天空兵団に所属する天翼族らはみな一様に色付いた翼を有していた。茶、黒、赤、青、黄……程度の違いはあれど、そのすべてが純白と程遠いものであることは確かであった。 好奇心に煌めく真っ直ぐな瞳を受けながら、こんな伝承があると、アロイスは口を開いた。 その内容は、以下のようなものであった。 邪神と神々が戦いを繰り広げた“風の時代”。その最後の戦いはフィンジアス島で行われた。 神々は窮地を乗り越え、邪神の勢力に勝利した。 戦いを経て真の王となった太陽神は、邪を封じし“銀の剣”をフィンジアスの地に突き立てる。そして神々は自身の傷を癒すべく、神界へと立ち去った。 長き戦いの場となったエリンの大地は、瘴気に満ちた荒廃の地と化していた。 そこで神々は神界へと立ち去る際に風の精霊王へと命じ、強き風によって蔓延る瘴気を吹き払わせた。 この“風の粛清”を境として“風の時代”は終わりを告げ、次なる時代──のちに“水の時代”と呼ばれる──が始まった。 だが、終戦の地となったフィンジアス島の瘴気は容易に払われはしなかった。“銀の剣”が遺されているとはいえ、いつその封が解けるかも分からない。 そこで“水の時代”の始め、白き翼持つ雷神はフィンジアス島に天翼族を生み出した。己に似た翼によって山脈内を自在に舞い、邪神の勢力の残党を打ち倒す、気高くして力ある種族として。 神の命を受けて誕生したフィンジアスの天翼族は山脈の奥地に住まい、邪神の勢力と戦い続けた。数百年もの間、“火の時代”の現在へと到るまで。 そうして長きに渡って魔と対峙し、その瘴気を受け続けた天翼族らの翼は、次第に濃く色付いていった。野鳥や魔獣の類にも近しき、猛々しさを思わせるものとなったのだ。 今やその翼は、父たる雷神とは異なる様相を呈している。だが、その様こそは戦う宿命を抱きし血の証。誇り高き戦士の証明なのである。 アロイスは口を閉じ、目の前の騎士へと目を向ける。若者の眼は強き感銘の輝きで満ちていた。 神話の体現者を目前としている心地になりながら、やや勢いのある声調で若き騎士は再び尋ねた。 では、あなた方が長らく山脈の奥地に住まい、他の種族と関わりを持たなかったのはその宿命のためであったのですか。 そうであるかもしれないと、“天の眼”は意味深げな笑みを湛えながら言葉を返した。その返答と表情に、若者は不思議そうにしながら首を傾げる。更なる興味を引かれた様子の若者を見て、アロイスは再び口を開いた。 伝承が真実であるのか、俺には分からない。 口伝されゆく中で装飾された部分があるかもしれないし、すべてが創作であるかもしれない。単に都合の悪いことを覆い隠すための言い訳として、伝説を作り上げた可能性だってある。 例えば、他種族に知られては困る秘密が集落内に存在し、それを守り続けるために不干渉の口実をでっち上げたとか。あるいは余所者嫌いの頭でっかちが、ただ引きこもりたいがために言い出したとか。 翼の色もそうだ。山脈内で生き続けたために、その環境に適応しただけかもしれない。もしかしたら、俺たちの祖先に翼持つ“動物の王”と交わった者がいるのかもしれない……なんてことも考えられるだろう。 目を剥く若者の姿を見て、天翼族の族長は面白がるように笑った。 本当のことなど、誰にも分からんさ。伝承こそが真であるかもしれないしな。 現に、俺たちは魔族らとの戦闘に慣れている。山脈内に出没する奴らを相手取り続けていたのも事実だ。 俺に分かるのは一族に伝わる伝承と、考えうるその他の可能性くらいのものさ。 若者はしばし沈黙し、アロイスの言葉を反芻した。 そしてぱっと頭を下げると、勢いよくありがとうございますと口にした。 こうしてはいられないと、若き騎士は依然として輝く表情で……むしろ先程より一層歓喜を増した様子で、目前の天翼族へと感謝の言葉を並べ立てる。 そして逸る気持ちが抑えられないとばかりに、急ぎ足でその場を立ち去った。たった今知り得たことを、この心情を、閃きを、余すことなく書き記しておかねばと思いつつ。 去り行くその背を見送りながら、族長はそっと呟いた。 真実へ至るのはお前のような者であるのかもしれないな、と。