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😶 クトゥルフ短編「灰の漁村」(今日はルルイエ浮上百周年らしいので) (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼) 今日3/23はルルイエ浮上から百周年にあたる日とのことなので、クトゥルフの短編小説を書いてみました。 「灰の漁村」 場所については、東京から特急電車で二時間の距離、としておこう。日本の首都である土地からその程度の時間でたどりつける位置ということだ。 人気のない漁村だった。厳密にいえば、村ではなくどこかの市に所属する一地方になるのだが。とにかく田舎は人が少なくどんどん市町村合併でより大きな自治体に飲み込まれていくのである。 入り組んだ海岸線に隠れるように存在していて、知らない人間が立ち寄ることはまずない場所だ。近道をしようとしてカーナビの指示を無視して小道に入った挙句、カーナビが海へのダイブを指示するといういかれた指示を出さなければ、私もそこに行くことはなかっただろう。つまりは道に迷ってたどり着いたのだ。 そこに迷い込んだ私が最初に感じたのは、強烈な潮の匂いだった。それも都会から田舎にやってきたときに感じる新鮮なでさわやかなものではない、淀んだ匂いだ。手入れされずに朽ちた漁網。いつの時代のものかわからない木造の漁船。浜辺のこれまた朽ちた木造の小屋。ありとあらゆるものが見捨てられたように思えるような場所だった。 こんな場所でも人は住んでいるようで、腰の曲がった老婆が、洗濯物を取り込もうとしていた。ゴムの様に灰色の肌をした老婆だ。かなりのお歳なのだろう。 そんな光景を見ながら、先を急ぐ私だったが、急に怖くなった。ここはただの寂れて忘れられた場所にしてはなにか異質だ。灰色のゴムのような肌をした老婆を見ていると、この場所がなにもかも朽ちた灰色の場所だということに気が付いた。道も家も人も、そして空を覆うどんよりとした雲、さらには海の色さえも。すべてが色を失った生命の活気を感じられない灰色の場所なのだ。 時間をロスしても構わない、この漁村を通り抜けたりせず、元来た道を戻ろう。この先に進んで、これ以上、道に迷いたくはない、そろそろ日も暮れる。森の中でこの色の褪せた世界にいることを考えたくはない。ここではなぜかわからないが、夕暮れの太陽すら、どういう加減なのか鈍い鉛のような色をしているのだ。 道を引き返し、不気味な灰の漁村を出て、山道に入る。そのころにはもう日が暮れていた。まだ日暮れの時間ではないが、山に囲まれた小さな湾なので太陽が隠れてしまうのが早かった。 道を照らす街灯もないので、私はライトを点灯した。 私がこの時にライトの明かりに照らされて浮かび上がった光景をみて感じた感情をどのように表せばよいのだろうか。それは恐怖であった。恐るべき恐怖はあの漁村だけではなく、その周りにも広がっていたのだ。 私はひたすら恐怖から逃れるために、必死に車を走らせ、なんとか主要幹線道路に出た。少し走っただけで、目立つカラフルな看板が目に入る。日本のどこにでもあるコンビニの看板だ。それはほっとする日常の色のある世界だ。喉がカラカラに乾いていたので、私はコンビニに車を止めた。少し休憩しようそれから目的地に向かってもいいだろう。私は飲み物を買うため、車を降りる。 店内に入ると、いつもは気にも留めない軽やかな店内音楽が耳に入り、少し気分が落ち着いた、ガラスの冷蔵庫の中にある黄色や赤のラベルに包まれた炭酸水。弁当の棚にあるサラダパックの鮮やかな緑。普段なら絶対に見ないだろう、店内のポップ。そこはあの灰の世界とは違った馴染みのある色に満ちた世界だった。 「ありがとうございましたー」 若い店員の声を背中にうけつつ、コンビニを出た私は緑のラベルの暖かいお茶のキャップをひねり一口飲んだ。落ち着いてみれば、さっきのことはただの疲れによる見間違いに思えてきた。そうだ、そんなことがあるわけがない。 あり得ないのだ。暗くなりライトをつけた瞬間、それまで灰色だった世界が一転し、森や道、たまたま車の窓にぶつかってきた虫、ありとあらゆるものがぎらぎらと灰のような虹色に輝きだしたなどということは。 ~終~ ・あとがき 突発で書いてるので、冒頭はありがちなインスマス系で進めながら、後半から自分の大好きな「宇宙からの色(もしくは異次元の虹彩)」にシフトしてます。 小説の場合は、登場人物にノーヒントで話を進められるから楽ですね。そう思うと「インスマスの影」なんかは、ちゃんとおじいさんから昔話を聞かされたり、ホテルからの脱出があったりとTRPGのシナリオにも転用できるしっかりした作りになってるんだなぁと感じます。
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