【ゆうやけこやけ】コタンコロカムイの花

cod fish
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登録日:2020/05/06 16:47最終更新日:2020/05/06 16:47

本作は、「神谷涼、清水三毛、インコグ・ラボ、新紀元社」が権利を有する「ふしぎもののけRPG ゆうやけこやけ」の二次創作物です。

【人物紹介】
・アヤメ
PL:cod fish
https://trpgsession.click/character-detail.php?c=153778803530codfish0408&s=codfish0408
【性別】女
【年齢】人間の姿は15くらい(実年齢は50)
【正体】狸(ホンドダヌキ)
[へんげ:3] [けもの:1] [おとな:3] [こども:1]
山に住んでいるちょっとした化狸。
町の方によく降りてきて、化かしたり、惑わしたりして楽しんでいる。
でも、おちょうしもので、最後にはちょっと痛い目をみたりしながら楽しく過ごしている。
長く生きてる分、化かす力(へんげ)や、知識(おとな)を身につけているが、性格はあまり良くない。
基本的に、他の動物には「山の同胞」として優しめに接するが、狐にだけは強くあたる。
(とはいえ、揶揄する程度だが。)
[弱点/追加特技]
【おひとよし】【おっちょこちょい】
【おちょうしもの】【たぬきおどり】
【いたずら】【やんちゃ】

初期つながり
アヤメ:対抗(1)☆:信頼(1):ましろ
アヤメ:憧れ(1)☆:信頼(1):つつり
アヤメ:好意(2)☆:受容(2):くりから町

・ましろ
PL:海王
https://trpgsession.click/character-detail.php?c=154004855118yrtm&s=yrtm
【性別】女
【年齢】12歳(人間状態) 1歳(キツネ状態)
【正体】狐(キタキツネ)
[へんげ:4] [けもの:1] [おとな:0] [こども:3]
純白の毛並みを持った狐。一族全員が同様に白い毛並みを持つ。
人里から遠く離れた狐の里から町へとやってきた。
里では人間と何百年の間交流がなかったため、里の狐たちの人間観は古い。
そのため時代がかった格好をしており、その上話し方も古臭く、街中ではかなり目立ってしまう。
生まれてからそれほど経っていないためかなり子供っぽい。
[弱点/追加特技]
【へんてこ】【ふわふわ】
【あぶらあげ】【うそつき】
【つよがり】【おくりもの】

初期つながり
ましろ:信頼(1)☆:対抗(1):アヤメ
ましろ:信頼(1)☆:家族(1):つつり
ましろ:憧れ(2)☆:受容(2):くりから町

・つつり
PL:イカ銀行
https://trpgsession.click/character-detail.php?c=153793461317cf9100&s=cf9100
【性別】女
【年齢】22歳(人間形態)2歳(本体年齢)
【正体】鳥(シマエナガ)
[へんげ:1] [けもの:4] [おとな:1] [こども:2]
天賦の才と鞍馬神流剣術(嘴)で数多の妖魔を切り捨てた優秀な忍……だった。
熱い言い回しと鋭い剣術(嘴)が振るわれるのはあくまで自分の居場所を守るためのみ、
戦いとは無縁なあの町の平和な空気に当てられてか本性を現した。
居心地の良い場所で緩みに緩んでしまい、枝毛MAXになった残念系お姉さん。
ピーカーブーでいう大人イノセント。

「なんかいつの間にか人間にへんげできるようになってるわね。慣れると便利だわ。」(ポリポリ
[弱点/追加特技]
【めだま】【なかま】
【おしゃべり】【きいてきいて】

初期つながり
つつり:家族(1)☆:信頼(1):ましろ
つつり:信頼(1)☆:憧れ(1):アヤメ
つつり:保護(2)☆:受容(2):くりから町


・お爺さん
この町に昔から住んでいるお爺さんです。物知りですが茶目っ気があり、変化たちのことはよく知っています。
名前は誰も知りません。彼を呼ぶ必要がある時には特にユーカラ(語り部)爺さん、などと呼ばれています。
人と変化を結ぶ対等な立場として、あなたたちに協力を求めます。

・ダイキ
この町に住む小学生ぐらいの男の子です。大雪の原因を聞きにお爺さんのところへやってきました。
話し方は年相応ですが、優しい心を持っています。5歳ぐらいの頃、同じく大雪の降る晩、高熱を出して寝込んだことがあります。
お世話になった隣近所のお姉さんのお引越しが近づいており、少しだけ寂しいみたいです。そのことをからかってきたコタンコロカムイは、お互いになんとなく気に入らない様子です。

・コタンコロカムイ
シマフクロウの変化です。カムイチカプ(神の鳥)とも呼ばれ、魔を追い払う役目を持つとして、多くの伝承の中にも取り上げられています。
このフクロウは成長すれば翼が2mを超えるそうですが、それと比べると彼はまだ若く、小さいみたいです。そのためか、自分より小さな鳥などにくってかかることもあるようです。
落ち着きのなさなどから、時々お爺さんに叱責されているようです。

・パヨカカムイ
山の土地神さまです。また、元々は沼を支配していた蛙の変化でもあります。一見すると目元の涼し気な青年の姿ですが、爛れた皮ふと毒気を持つ恐ろしい疫病の神です。そのせいか少し皮肉っぽい話し方をします。
おおよその土地神さまと同じように、人間や変化には何の興味もありません。
昔、山に子供が迷い込んで、彼に歌を聞かせてくれたことがあるそうです。彼はそのお礼に、道案内と病除けの加護を与えたそうです。しかしそれを聞いた者は皆一笑に付し、パヨカカムイに限ってそれはありえない、と否定するそうです。



――――――――――――――――――――――――――――――――
その日は…いや、その日も、大雪が降っていた。
人間とは違って、いくら自前の毛皮を持っていたとしても寒いものは寒い。
ましてや、ここは慣れない土地、しかも山である。今更ながら危機感を覚えて、遠くに見えた山小屋を目指して歩いた。

なんとかたどり着いた山小屋には先客がいた。
囲炉裏を囲むように、優し気な老人、(認めたくはないが)気品の良い白狐(ましろ、というらしい)。のんびりしているシマエナガ(つつり、だと気だるげに自己紹介してくれた)。
そして、喧嘩をしている少年と、偉そうなフクロウ。
何やら大所帯だが、それはそれで悪くない。少なくとも、猟師が中にいて、皮算用されるよりはずっといい。
囲炉裏の近くの「ござ」に陣取り、冷え切った体を温め、濡れた自慢の毛皮を乾かす。

「こんな天気だと外飛ぶ気も起きないわねー…」
「こんな日は部屋でごろごろするに限るのじゃ」

つつりとましろは口をそろえてそう言う。
それもそうだろう。誰がこんな大雪の中、外に出ようというのか。
ましろに倣って、好物でも嗜みながら(実においしそうにあぶらあげを食べている)時間を過ごすのが得策かしら?
ただ、酒は手元に無いし、煙管は葉が濡れているので、のんびり火に当たることにした。
横では、つつりの羽が「ござ」に引っかかったりして、ちょっとした騒ぎになっていた。
つつりがましろの上に避難することで収まったようだが…
どちらも真っ白で、佇んでいるだけで絵になる。動かなければ、精巧な雪像にも見える。
対して、自分は茶色の毛並み。自慢ではあるが、時々、他の色が羨ましくなる。
吐き出したため息は自身への落胆か、気分が緩んだためのものか。
老人は後者と受け取ったらしく、語り掛けてきた。

「ところで、じゃ。おぬしら、この大雪の原因を何とかしてくれんかのう。」
「あまり気乗りはしないけど、この雪を晴らさないと録に飛べないものね」
「一宿一飯の恩がある。わらわたちにまかせてくれ」
「よかよか。爺は嬉しい」
「原因?雪に原因なんてあるのかしら。まぁ、このまま立ち往生するわけにもいかないし、分かったわ。」
「原因か。それは【パヨカカムイ】の仕業なんじゃ。北の山の土地神がこの雪を降らせちょる」
「爺はこれをなんとかできる変化たちを待っとった。やあ、此度は行幸じゃ行幸じゃ」
「神様ねぇ。雪景色は素敵だけど、そろそろ飽きてきたから止めてもらわないとね。」
「それで、なんじゃが……ううむ。土地神の真意はよぅはわからぬが、そのあたりも含めて、お主らに願いたい」

どうやら、この大雪は人為的…いや、神意的なものらしい。
神が人々のことを考えずに振り回す、という話は古今東西を問わず、いくらでもあるものだが、それに巻き込まれる側としてはたまったものではない。
別に雪が嫌いかと言えば、そうではない。
ただ、銀景色はいいものだがここ数日で見飽きたし、はらりはらりと降る雪は風情があるが、小屋の外は桶をひっくり返したような大雪だ。
いくら(自己評価として)寛容であるといっても、限度がある。
パヨカカムイなる神に口の中で不満を唱え、解決への決意を固めた。

「あー…それと、なんじゃが…」
「ん?あー、はいはい。」

老人が目線を横に滑らせる。その先には、先ほどまで喧嘩をしていたフクロウと少年(ダイキ、というらしい)。
老人の話では、あのフクロウは神に通ずる鳥らしい。コタンコロカムイという大層な名前があるそうだ。長い。
…人間の子供と喧嘩をしているようでは威厳もなにもあったものではないが。
その喧嘩も、幼稚な罵倒に煽り。少年のほうは年相応と言えるが、神に連なるものとしては如何なものか。
幸い、まだお互いに手は出ていないが、いつ転がるか分からない。
ましろが二人をなだめようとするが、聞く耳を持たない。つつりに至っては、興味なさげに見ている。
自分が止めるしかないのだろうか。ないのだろう。
理由は大体分かっている。「男の子っぽい意地の張り合い。」
ならば、少し張りつめているものを緩めれば万事解決だろう。

「あのケンカ、止めてきましょうか?」
「ううむ。頼めるか?」
「お あのタヌキのねーちゃんが止めに入るのか やったれやったれー」
「えぇ。口三味線は十八番よ。」
「まかせたぞ」

任されたので、少々気合を入れる。
木の葉を触媒に、可愛らしい人の姿に化ける。
紫の着物を揺らしながら、フクロウと相対する。

「コタンコロカムイだったかしら?森の賢者にして空にはばたく者よ。」
「……なんだよ、藪から棒に」
「その『両翼の如き広き』慈悲の心で矛を収めてはもらえないかしら?」

要約すると、『それなりに格がある存在だったら、くだらない喧嘩はするな。』という意味。
それに気づくかどうかは知らないけど。
ただ、怪訝そうな顔をしながらも矛を収めたようなので、とりあえずはいいかしら?
さて、もう一人…少年のほうも説得しなければならないわね。
クルリと振り返り、少年のほうを向く。
ついでにしゃがんで、少年よりも目線の高さを低くする。

「ねぇ、ケンカはだめよ?…お姉さんとの約束よ?いいかしら?」
「…わ、わかったよ、狸のねーちゃん?」

相手の手を取り、瞳を潤ませ、上目遣いで言う。
少年は目を逸らし、少し頬を赤くしている。
…男を静かにさせるのに、この手が一番速いと知ったのはいつのことだったか。
自分の容姿を褒められているようで、悪い気分はしないのだが、純粋な少年やましろの前でこんなことをすると自分が薄汚れた存在に思えてならない。
あとつつり、囃し立てるんじゃない。私も少し恥ずかしい。

あと、なぜかフクロウが調子に乗ってつつりを見下したようなことを言っていたが、些細な事だろう。
能ある鷹は爪を隠すのだ。つつりは鷹よりも鋭い爪を持ってるようだけど。
…それにしても、あんな横暴で、幼くても神の一端なのね。羨ましいわね。
暖かい小屋の中、あくびを噛み殺しながらぼんやりと思案していた。



それから少々の話があって、パヨカカムイと話をしに行こう、ということになった。
まぁ、それが一番早いかしら。
小屋の外に出ると、刺すような冷気と、叩きつけるような風と雪が襲い掛かる。
…やっぱり、小屋の中で待ってちゃだめ?うん、やっぱり?
この雪の元凶であるという神に更なる不満を募らせる。
その神のところに行く手段だが、このフクロウが特別な力で連れて行ってくれるらしい。
なるほど、素晴らしい。寒いから早くしてくれない?
その内心を聞いたのか定かではないが、どうやら今から送ってくれるらしい。
そのフクロウの姿が少しだけぼやけ、青と白の民族衣装に包まれた少年の姿にも見える。
少年は右手を空に掲げ、次の瞬間、まわりの風景がふわりと歪む。
一瞬、目眩のような感覚に、思わず目を閉じる。
次に目を開けた時、そこはパヨカカムイの住まうカムイモシリという場所だった。
目の前を魚が泳ぎ、上を見れば弱弱しい太陽の光が水面の向こうに見える。

「…あら、泥船に乗って沈んだ覚えはないのだけれど。」
「結界術の一種かしらね・・・便利そうな術ねー・・・」

パヨカカムイは、長い髪の毛を後ろでまとめて一つにした長身の男性の姿をしています。その髪も瞳も灰色。
その目は細く鋭く、意地悪そうにも、思慮深げなようにも見える。なんとなく私と同類に思える。

「おっと、神の御前だったわね。いと深きにおられる神にかしこみかしこみ申しまする、此度の大雪に関し、ご神託をいただきたく…」
「…結構……世辞はどうでもよい」

どのような性格かを推し量るために、慇懃無礼な態度でもって喧嘩を売る…が、売れ残る。
買われたら困るのは私なのだが、ロクに反応なしというのもつまらないものね。

「嵐を止めてくれんか?みんな困っておるのじゃ」
「……神の附宮に断りもなく押し入り、何用かと思えば……ふん、嵐だと?」

ましろが頼み込むが、彼はけだるげに頬杖をついて、じろりと眺める。
僅かに見えた彼の爛れた皮膚…聞いた話では、彼は疫病の神でもあるという。
おぉ、怖い怖い。しかし、吹雪を止めると引き受けたからにはやらねばならない。
だが。

「……知らぬな。」
「そう、なら、ここに来た意味はなかったかしら。」

神自身が否定した。ならば、原因は別のところにあるのでしょう。
神の言葉ともなれば、それはまさしく信託。
神ともなれば、口を閉ざすことも、私たちを追い出すことも容易い。虚偽を口にすることなんてないだろう。
私たちのような俗世に活きる動物どもに神が嘘を言うなどという姑息なことをするわけない。単純な話ね。
…しかし、つつりとましろは、そうは考えないらしい。

「なんか訳ありな感じかしらねー ちょっと話せば気が楽になるかもしれないわよー?」
「わらわたちにできることがあるならなんでもやるぞ」
「ちょっと、ましろ!?流石にそれは無礼な言い分じゃない?」
「おぬしが降らせているのは分かるぞ。わらわの目はごまかせぬ」

神が否定しているのに、さらに追及するのはあまりにも無礼ではないかしら?
…慇懃無礼な態度で反応を見ようとした者の台詞ではないけど。
しかし、である。かくれざとで生まれ育ったましろは不思議な力に対して、非常に鋭い感覚を持っているらしい。
その証拠に、神は観念したのか、あぁ、そうだ。と認めたのだった。

「そこのコタンコロカムイを見ていれば自ずと知れよう。神とて、泣きもすれば笑いもする」
「もちろん……虚偽も口にする。そして、それをお主らに話す道理もない」
「山は厳しい。そこに住まう全ての生き物に公平にある。」
「儂は【すべてに公平である】。土地神であるが故な」
「残酷じゃ。そしてそれゆえ醜い。……雪の下に全てが埋まり凍れば、醜くはなくなる」

どうだか。口の中で言葉を転がす。
山は厳しい、それは理解できる。
ただ、雪を降らせている存在がそれを口にするのか、と疑問に思う。
夏の日差しは地面を焼く程に厳しいし、冬の寒さも脅威だ。
…だが、今回のコレは、何かの私情が絡んでいるように思えてならない。
その答えは、フクロウ…コタンコロカムイがもたらした。

「そいつは嘘だぜ、それこそな」
「パヨカカムイ、お前はさっき【すべてに公平である】と言ったな」
「ところがお前は十年も昔、山に迷い込んだ一人のガキを助けたな?」
「ユーカラのお爺から聞いたぜ。お前はそこで、いつもなら平等に見逃すはずが…何の気まぐれか、その少女を助けたな?」
「あら、随分素敵な公平もあったものねー・・・」
「…へぇ?」

つつりと顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。つつりもニマニマと悪い笑顔だ。
随分と面白い話を聞けたが、それを面白くないと思う者もいるようだ。
パヨカカムイは恐ろしい形相を浮かべ、こちらを睨む。
それに呼応するように、遠くから弓を放つような音が聞こえてくる…どうも御機嫌はよろしくない様子だ。
それを無視して、コタンコロカムイは言葉を連ねる。

「そいつの名は【アカネ】。驚いたぜ、さっき会ったガキからも、おんなじ名前を聞いたんだからな」

その名前は私も聞いた。
小屋にいた少年の近所のお姉さんだとかで、近々引越しをするとか。
すると…あの神も、その彼女とは別れたくなかったのかしら。



ややあって、パヨカカムイは少しずつ語りだした。…その顔はそっぽを向いているので表情は窺い知ることはできないけど。
「あの人間は…アカネは」
「疫病の神として、醜いと顔を背けられるのは慣れておる。しかしあの娘は、どうにも勝手が違った……面食らったよ」
「山に迷い込んでおるというのに、底抜けに明るくて……気がつけば儂は山を案内していた。」
「…不思議な感覚だった。醜い世に純真なものを見つけたことが。そして再びそこに連れ戻そうとしているのが」
「あのまま…何も知らぬ幼子を、穢れもしらぬまま見殺しにしてやるのが、あるいはアカネのためとも思うたが……それでも、と思うた」
「神としてはどうかと思うわね。でも、『あなた』は、彼女を助けた。」

世間一般での神とは、何物にも平等で、情を持たず、淡々としている。というのが通説。でも、

「……じゃから言ったろう。例え神でも、泣けもすれば笑いも……するのじゃ」
「ふふ、いい顔で笑うじゃない。」

私としては、こういった人情のある神のほうが好みだ。
…興味なさげに聞いているコタンコロカムイとは反りが合わなさそうだけど。

「でも、その娘…アカネ殿のことを大切に思っているのじゃろう?なぜこんな吹雪を起こすのじゃ?アカネ殿も町におるのじゃろう?」
「大切なものを手元から離したくなくて、雪の中に閉ざした…ってとこかしら?でも、籠の鳥は空をはばたけずに終わるのよ。」
「もの好きな神様もいるものね 自分に正直になったほうが楽よー?」
「……無礼者め」

パヨカカムイは薄く微笑んで首肯した。
…それにしても、この神といい、あの狐といい、どうしてこう、引きこもりの神は似たようなことをやらかすのか。
逃がしたくないからと雪やら雨やら降らせるところ、素直じゃないところまでそっくりである。
今度、どうにかして会わせてやろうか。きっと仲良くなるに違いない。

「……これでよいだろう」
「素直じゃないわねぇ・・・」
「まったく無礼千万な物言いじゃ……儂は疲れた。もう帰れ」

パヨカカムイが町のほうに向けて腕を振るい、気だるげな表情を浮かべる。
つつりがニヤニヤとイイ笑顔を浮かべているが、疲れたような様子で手で追い払う仕草をする。

「ありがとうなのじゃ。アカネ殿にもパヨカカムイ殿のこと伝えておくのじゃ」
「……いらぬ」

少しの逡巡の後に放たれる拒絶の言葉…
いや、まさか、この神は、あれだけのことをして引き留めようとしていたのに、何も言わずに別れるつもりなのだろうか。
それはよくない。非常によろしくない。ならば、私達で何とかするしかない。
そう、これは忠言だ。想いは伝えるべきである、とか。何もせずに別れるべきではない、とか。
決して連日の大雪による寒さだとか、虚言に惑わされた腹いせだとか、そのようなことでは決してない。
内心を見ることができれば、非常にイイ笑顔をしていることがわかるだろうが、おくびにも出さずに問いかける。

「待った。まさか、その彼女と手ぶらで別れるわけじゃないわよね?何も用意が無いなら勝手にこっちで用意するけど。」
「……どうせ向こうも覚えてはおらなんだろう。頑是ない童のころのはなしよ」
「そう。なら、勝手に用意させてもらうわ。」
「忘れているなんて、そんなことないのじゃ。きっとおぼえているはずじゃ。」

よし。言質は取った。重ねて言うが、これは決して腹いせや個人的不満によるものじゃない。
思わず口角が吊り上がる。なにやら怪訝な表情で見られている気もするが、些細なこと。
神からの贈り物、か。なら、少しくらい気取ったようなものでもいいかしら。

「くっくっく、殿方から乙女に対する贈り物は指輪か花と相場が決まってるわ。貴方の土地の花なら、十分貴方からの贈り物でしょう?」
「甘い物でも喜べそうだけど、花の方があなたらしいのかしらね」
「わらわはまだよくわからんが…そうなのか?アヤメ殿はさすがおとなの女性じゃ」
「手伝ってくれるなら、探し物はましろに頼みたいわね。」
「花ならわらわも好きじゃ。きっとアカネ殿も喜んでくれるぞ」
「……それでは、こうするか。」
「それもいいわね。花束に加えましょう。」

実際に贈ったことも贈られたこともないのでテキトウを述べて花であるべきだと提案する。
すると、パヨカカムイは不思議な力で見たこともないような花を作り出す。
心なしか、輝いているようにすら見える花。
確かに魅力的だ。本人(神?)が作った花。素晴らしい。でも、『言葉』がない。無言で花を押し付けても不思議なだけだ。
『花』は『言葉』を添えてこそ。
花を探すために沼の底から出て、すっかり吹雪の止んだ山に戻ってくる。

「ましろ、貴方に見つけてほしいのは『白い狐花』よ。」
「おお、そうじゃな。わらわならいい花を見つけられるはずじゃ。まかせておくれ。うむ。白い狐花じゃな。」
「雪が晴れたのなら空から捜索を手伝えそうね」
「理由は4つ。この銀景色の如き白であること。実は毒があること。花言葉は『また会える日を楽しみに』ってね。」
「はー、そういう意味があるんじゃな。わらわ全く知らんかった。物知りじゃな」
「まぁねぇ。数十年と少女をやっているもの。このくらいは自然と身につくものよ。」
「そうなのか?」
「そんなもんよ。あ、ついでにスノードロップも見つけてくれると嬉しいわ。こっちは無くてもいいけど。」

理由は4つと言ったが、ここで全部ネタバラシというのも面白くない。文字通り、『言わぬが花』というもの。
それはそうと、ましろとつつりが手伝ってくれるなら、もはや見つかったも同然ね。
…それにしても、いつも思うのだが、どうして空を飛べる狐は皆常識がずれているのだろうか。
アレだろうか?社会から浮いているから実際に浮くことができるとかいうことだろうか?そんなバカな。
さて、探し物を頼んで自分が待つのは申し訳が無いので、自分でも歩いて探す。
…空を飛んで探すつつりとましろ。それと比べて、自分は地面を歩くしかない。
ひとつ、ため息をつく。羨ましい、という気持ちが無いわけではない。
ただ、こういうものは適材適所。裏方は表に出るべからず。身の程というものがあるだろう。面倒だし。
そんなことを考えていたのが悪かったのだろうか。雪に足を取られ、おもいきり転んでしまう。
…幸い、雪が厚く積もっていたおかげで着物が泥で汚れることはなかったが、冷たい。雪も、神二柱からの視線も。
やはり、慣れないことはするものではない。適材適所。雪で冷えた頭に書き留めた。

「見つけたのじゃー。多分これが白い狐花じゃー」
「こちらENAGA1、ホワイトアマリリス発見!繰り返すホワイトアマリリス発見 オーバー」
「ありがとうね。これで素敵な花束ができるわね。」
「きれいな花束にするのじゃ」
「気は済んだかよ?」
「うむ。待たせたな、コタンコロカムイ殿」
「えぇ。十分、乙女が喜ぶ贈り物ができたわ。」

ほどなくして2人が白の彼岸花を携えて戻ってきた。
雪で一面真っ白だというのによく見つけられるものだと感心する。
まぁ、ともかく、大きな和紙でくるんで花束にする。…花がきれいなので、素人仕事でも様になるものだ。
毒のある狐花(彼岸花)を贈り物にするのはどうかとも思わないでもないが、送り主が毒をもつ疫病の神でもあるのだ。
送り主を象徴しているみたいで、悪くはないかしら?
スノードロップは別にして、巾着に入れて懐にしまっておく。
贈り物にするとロクでもない意味になるから、別の使い道で使おう。

「うんうん いい花束じゃないかぁ」
「本当なのじゃ。アカネ殿喜んでくれるとうれしいのう」
「…ちったぁ礼をしたいし、花束は俺が預かってやる。しおれちまわないようにな」

口々に花束の出来を褒める中、コタンコロカムイが随分と殊勝なことにそのようなことを名乗り出る。
たしか、明日の夜にお別れだったか。確かに花がしおれてしまうのはよくない。
ありがたいので力を借りる。当然、適当に持ち上げる発言をして調子に乗らせておく。
…あぁ、そうだ。

「コタンコロカムイ様?もう一つお願い、いいかしら?」



翌日の夜。私は花になっていた。
花のように可愛らしい、という話ではなく、菖蒲の花に化けて花束の中に紛れているのだ。
…正直、白い花の中に一輪だけ紫の花というのは悪目立ちすることこの上ないのだが。

「…にしても、妙なことをやるもんだな。」
「必要だと思ったのよ。多分ね。」

花束を足で掴んでいるコタンコロカムイと言葉を交わす。
いまごろ、つつりとましろはダイキについていって、アカネなる少女と会っているのだろう。
興味が無いわけではないが、今回の主役は人間と神様。下手にに変化が口を出す必要もない。
ただ、私は私の役割を最後までやるだけ。

「…そうね。伝えられなかった言葉、伝わらなかった言葉って、どう思う?」
「いきなりなんだよ。…そんなの、伝えられなかった奴が悪いだけだ。」
「ふぅん、そう…」

などと話していると、駅…お別れの場所はすぐ近くだった。
駅のホームには、人間の姿のましろとつつり、ダイキ、トランクを携えた少女(アカネだろう)がいた。

「ここだったな?」
「えぇ、ありがとう。」
「いくらでも感謝していいぞ。」
「…やっぱり、貴方のことは苦手ね。一生、反りが合わない気がするわ。」

最後にそのように言ったのが悪かったのだろうか。
コタンコロカムイは少し外れたところに花束を―――つまり私も落としたのだ。
しかし、(物理的に)投げ捨てる神あれば、拾う鳥もいるものだ。
つつりが片目を瞑って人差し指を軽く動かすと、不自然だが柔らかな風が吹き、花束はアカネの手の中に納まった。

「これって……もしかしてダイキ、あんたの仕業?」
「し…仕業って! そんな言い方ねーだろ! 第一しらねーし!」
「でもあんた昔っから、変な事ばっかりやるんだもの……」

そういいながらも、アカネの顔は嬉しそうに綻んでいた。
ダイキはつつりに、あんたたちの仕業か?と問いかけるが、つつりは含み笑いをこぼしてしらばっくれる。

「綺麗……それに、いい匂い…。ねえ、これ何ていうお花なの?」
「え? えっと……」
「それはー・・・えーっと・・・アヤメはなんて言ってたかなぁ・・・」
「白い狐花じゃったかな?わらわも狐じゃからおぼえておるぞ」
「お そうそう それー」
「へーえ!そうなんだあ!ましろちゃん、良く知ってるわねえ、物知り、物知り!」
「そうじゃろう?」

…この分だと、白い彼岸花、と言っていたら忘れていたのかしら?
白い狐が白い狐花を探すというのが面白かったから、そのように言ったのだけど。
それにしても、アカネという少女。ここまで無邪気で育っているのは中々見ない。
この辺りが様々な存在から好かれる要因なのかしら。

「まぁあんたは自分が思っている以上に想われているんじゃないかねぇ」
「え……なんのこと?」

つつりがニヤニヤと笑いながら言った言葉。
その真意を確かめようとした瞬間、ホームに大きな音が響く。
そろそろ時間といったことか。

「えっと……それじゃ、さよならね。ダイキ。それにみんなも。私の新しいお友達。ね?」
「うむ、友達じゃ」
「生きていればまた会うときあるだろう」
「ましろちゃんみたいな妹がほしかったわ。ダイキはうるさいばっかりで。また今度会ったら、いっぱいお話しましょ?」
「……ちぇ」
「アカネ殿が姉上か?それは楽しそうじゃ」
「そうでしょうとも」
「つつりちゃんも、もっと素直でいい顔で笑って見せて? ふふ、今日は妹が二人も増えたわ」
「友情・・・いや妹というもの悪くないな アカネ姉さんや また会おうぜ」

アカネは花束をトランクの上に優しくそっと置き、一人ひとり抱きしめてお別れを言う。
あの二人が妹…ねぇ。…いや、まて。つつりの見た目は二十歳近いわよ?
それを妹というのは…年上をも妹とする豪胆さか、内面を見抜く慧眼なのか。
どちらにせよ、不思議なものね。人間は時として私達よりも不可思議な力を見せる。

「な、なあ…姉さ……いや、アカネ。お、俺さ……」

ダイキがなにか言いかけたが、アカネはにっこりと微笑むと、もう一度ダイキと目の高さを合わせ……それからすぐに顔を離した。
ほっぺをおさえてぼーっとするダイキ。
アカネはわずかに寂しそうに笑いかけ、そのままひらりと列車に飛び乗る。
これは…いや、考えるのは無粋か。その気持ちは、その人自身のものだから。
ほどなくして、扉は閉まり、列車は動き出す。
…そういえば、私も別れを告げるべきだったか。
いや、いいか。また、会えるだろう。

タタン、タタンという列車の音と、コツ、コツという靴音。
アカネはほとんど無人の列車の一席に座っていた。

「さて…うう、これじゃ眠れないなあ……」

今にも泣き出しそうな表情。必死に見せまいとしていたのだろう。
別れは確かに悲しいもの。されども貴女は此度の主役。
主役が悲しい涙で終わる物語は好きではないもの。
ならば、私が変えてみせるしかない。
伝わらない言葉を伝えるしかない。
周囲に他の人間がいないことを確認してから、花から人間の姿に変化する。
ポンッという音と、コツッと列車の床をブーツが叩く音でアカネも気づいたようだ。

「さて、どうやら話す必要がありそうね。」
「っと、うお?!え?誰?」
「私はアヤメ。ちょっとした変化よ。」

…さすがに、いきなり紫の和服を着た可愛い美少女が目の前にいたら驚くか。
別にびっくりさせるつもりはなかったんだけど…まぁ、いいか。
本題はそこじゃない。

「私(アヤメ)の花言葉は『メッセンジャー』ってね。伝えられなかったことを伝えに来たわ。」

そういいながら、巾着からスノードロップの花を取り出し、床に落とす。
すると、そこから広がっていくように大量のスノードロップが生え、一面真っ白の花畑になる。
まるで、大雪が降っていた時の雪景色のようにも見える。
さぁ、ようこそ。【ゆめまぼろし】の世界に。

「わわっ……! な、なにごと……?」
「これはスノードロップ(雪の雫)。花言葉は『希望』『慰め』。別れがあっても、くじけちゃいけないわ。」
「なっ…何を……!」

贈り物にすると非常によろしくない意味を持つので、このような使い方になったけど…
うん、自分で思っていたよりも綺麗だ。流石は私。演出家としてもいい感じだ。
まぁ、こっちはおまけだ。本命は次から。
横の席においてあった花束…神の花と、白い狐花の花束を手に取る。

「それで、この白い狐花。ある土着神の山で取れた、少し毒のある花。…誰からの贈り物かわかるかしら?いや、彼のことを覚えてるかしら?」
「えっ……それは…そんな、だって…夢みたいに思ってた……」
「なに、夢はたやすく現実となるものよ。」

なにせ、ここは【ゆめまぼろし】。夢も、現も、幻も、全て等しく、全てを現実にできるもの。

「ずっとずっと……今よりずっと昔の、小さい頃で……」
「寂しそうで、とっても物知りで、案内してくれてる間ずっと、小さい私が退屈しないように、いろんなことを話してくれた……」
「ほんとうだったのね……? 私の、夢じゃなかった……」

ポツリポツリと話すアカネ。
一つ一つを思い出すように、言葉にしていく。
きっと、嬉しかったのだろう。夢だったのかと思い、悲しんだのだろう。
今まで覚えていたのだ。大切な思い出だったのだろう。
だが、まだだ。大切な『言葉』を伝えなければいけない。

「白の狐花の花言葉は『また会う日を楽しみに』。でも、それだけじゃないわ。」

「『想うのは貴方一人』」

「……!」
「ふふふ、伝えることは伝えたわ。それじゃあ、『また会える日を楽しみに』。」

伝えるべきことは全部伝えた。
用のない裏方はさっさと舞台袖に引っ込むべきね。
これにて概ね大団円。めでたしめでたし、って感じね。



…と、言えたらよかったんだけどねぇ。
翌朝、もう、物に化ける力はなかったから、人間の乗客のふりをして下車しようとした。
けど、呼び止められて気づいた。切符なんて持ってない!
葉っぱのお金で化かそうと一瞬考えたが、今は朝。
お天道様の時間では、すぐに葉っぱに戻ってしまう。
切符も持たず、一文無しの手ぶら。親もいなければ住所と呼べるものもない。しかも、このご時世に和服。怪しいことこの上ない。
何とか口八丁手八丁、詭弁でやり過ごそうとしても分が悪かった。
どうにかこの場を切り抜けたいが、どうしようもない。手詰まりだ。
ガサリ、と和紙のこすれる音と、花の匂い、そして

「ちょっといいかしら?駅員さん、アヤメちゃん。」

花束を持った少女。
…正直、こんな再会の仕方をしたくはなかったのだが、背に腹は代えられない。

「ま、また会えてうれしいわ。アカネ。えーっと…助けて?」

引きつった笑みを浮かべながら助けを求めた。

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