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🤔 夢日記創作物語版:青年将校 (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)東国北方東邦国 十七時十四分 霧のち曇り 青年はただ憂鬱で。 空を眺めた。 何もかもが、アンニュイですらあった。 ぼんやりと眺める蜃気楼の先は鬱蒼としたジャングルで、それ以上先の視界を遮るベールであった。 此処から先の境界線は何も見通せない。そう思わせる。 喧噪の近づく音。 青年は窓から身を乗り出してベランダの下を覗く。 青年のいる三階から下はそれより上の世界とは一変して騒々しい。 銃剣付きだったりそうでない小銃・ライフル銃があっちこっち右往左往して見えた。 身分の低い下級兵士達の姿がやがて見えてくる。 青年のいる基地から逃げ出す兵士の群れである。 友軍撤退。 それが決まったのはいつだったろうか?青年にとってはまるで他人事の様に感じられた。 …今この瞬間にも敵軍部隊はこちらへの進撃中だというのに。 此処、東邦国は内乱の最中にあった。 元々は母体であった東邦国からほとんどクーデターの様な分裂で東国が現れた。 軍政の腐敗、民族の問題、貧富の格差、理由を挙げればいくつもある。 ただ今この時重要な事は東邦国はもう終わりであるということである。 練度の不足、装備の不足、兵士の士気の低さ、横行する不正。 それとは正反対に軍事企業の支援を受けた東国は最新鋭の装備に身を包んでいる。 こちらはボルトアクションライフルが現役なのにあちらはアサルトライフルが行き届いている。ブルパップ式まであるくらいだ。 こんな条件下で勝てるはずもない。兵士は流れていく、それは怖ろしいほどに早い急流の如く。みな我先に逃げていく。 情けない…ただそれだけが青年の胸の奥で染み渡る感慨深さ。 青年は将校であった。枯草色の軍服は濃緑色の戦闘服とは一目で違う。 新規気鋭、順当に歩めばこのまま上へ上へと約束されるエリート階層に居た。 それがどうであろう、若きエリートは気が付けば最前線の基地司令官だ。 家柄がいいから能力が高いから戦果を挙げたから、そういうものではない。 書面上のお飾り指揮官。危険を押し付けられ銃火の槍玉に挙げられる哀れなスケープゴート。 二千人近くの兵が居た。 それらは近辺からの撤退兵やらが大挙して集まった数だ。 だがその実態は意気地なしの敗残兵の群れでしかない。 青年に付き従う者はおらず、ただ書面上の書類を整理するだけしか出来ない。 それでも部隊の指揮権は形式上は青年のものだ。 …諦めに似た感傷が、基地の遺棄を決定づけた。 方々に散っていく臆病者の逃亡者達を見届けて、なお青年は一人基地に残る。 ちっぽけな使命感、それでも捨てられないプライド。 それが彼を此処に留まらせる。 指揮官としての責務を果たす、それだけの為に。 残る敗戦処理を誰かがしなければならない。 明らかな貧乏くじでしかなくとも後始末をつけることは大事な事なのだと理解していた。 仮初でも将校として、進軍してきた敵部隊に投降することを決意させた。
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