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😶 ゆうこや卓リプレイ 先日行ったゆうやけこやけ卓、「肌の白いは春風駘蕩」、その途中を抜粋した、みにみにリプレイです。 思わず書きたくなってしまった。げに人の業とはかくも罪深く。 ※ 小さな少女のハミングが、風に揺れる枝葉の音色のように、ゆったりと、夜の一名町の小道に響いていた。 彼女の肩には、一羽の大きなフクロウが悠然と、苦労も悩みもなんにもなさそうな顔をして、どこか眠たげに目を閉じたまま、ぼぅぼぅと低い鳴き声で少女のリズムに合わせて夜の唄を歌っていた。 夜の小道に、少女の足取りはふらふらと右に左に危なっかしくて、見ていてとてもひやひやさせられるものだった。それはまるで、やっと立ち上がった赤ん坊のようだった。 その名を待宵丸という、千年ばかりも寝ているような、肩の左のフクロウが、それでもなんとか前に後ろに、時折羽ばたきバランスをとって、やっとこどうにか転ばず歩けている。だが、夜の小道の、小石や砂利や、木々の突き出た根っこなど、それらが少女の白い裸足の足裏を傷つける様子はないようだった。 二人はあるかないかの宵の小道をふらふらと歩いていく……。 ※ ……おいおい、あすこの連中、ずいぶんなうかれぽんちどもじゃない。ねえ? 暗がりに身を潜めた可愛らしい二人組、背に透き通った羽を震わせる方が、そう囁いた。子供ぐらいの上背で、昔話で妖精と呼ばれるものにそっくりだったが、まるでサーカスのピエロのように毒々しい色合いの衣装を身に着けていた。 ……同感、同感~!! それに応えて、絵本から抜け出てきたような、真っ白な“オバケ”がひそひそと囁き返した。 幽霊のポルは、さらさらした青い髪の下、まん丸に目を見開いて、悩み事、弱り事恨み事、悲しみなんて欠片もなさそうに笑っている。 二人は視線を合わせて、 「生意気だな!」「ナマイキ、ナマイキ~!」「こんな夜にふらふら出歩くなんて」「危ないよね~!」 「三叉路は、道と道の交差点。どこにも行けてどこにも行けない袋小路。何が起きても不思議じゃないぜ」「道に迷って迷ってうっかり迷子で、うっかりうっかり、大事なことも、忘れちゃうかも……! ゆ~れいも、うっかり飛び出しちゃうかもね~!!」 「なー! どうする?」「ヤっちゃう~?」「よっしゃ、一丁やってやるかぁ!」「いえ~い!!」 にまにまと悪だくみをして、 ――すうっと、 夜の中に隠れて、誰にも見えなくなった。 ※ 「田中さんの家のごはんはうちのごはんより豪華なんですよ」 「ほうほう。そうなのかい。そりゃあいいねえ。豪気だぁね」 さくらは顔をごしごしとやってから、にゃあといっぺん鳴いた。 「タイヤさんも今度一緒に行きませんか?」 「わしか? ふうむ。気持ちは山々じゃが、あいにく、まいな~な妖怪じゃからのう」 片輪車はそう言って、車輪をぎぃぎぃと軋ませた。 車輪の真ん中で目を閉じている、老婆の垂れた黒髪の、端っこを目で追う子猫の様子に、片輪車はおごそかにたしなめた。これこれ、タイヤではないと言うておるのに。 「まるまるなんだから、タイヤさんですよ。なんにも間違ってないです」 もごもごと言いかける片輪車をしり目にして、さくらはひょいと振り返った。 「……歌が聞こえませんか?」 「歌かい? こんな嵐の来ようって夜更けに、あたしら以外、いるとも思えないがねえ」 「そうですね。でも……」 「名のある楽人なら、そうだねえ。一度でいいから、流泉とやらを聞いてみたいねえ」 「しっ。静かにしてください……」 さくらはぴんと耳を立てた。集中して、耳を澄ませる様子に、片輪車も慌てて口を閉じた。 「……綺麗な歌。まるで……嬉しいって気持ちを始めて感じた人が、その気持ちを、ありのままさらけだしているみたい……」 「さくら……?」 小さな猫は、車輪を見上げると、「にゃあ」と小声で一度鳴いた。 ※ なべに一杯の牛乳をことこと火にかけるように、時が経てば経つほど、状況はゆっくりと煮詰まっていく。 「……おや」最初に気づいたのは待宵丸だった。 少女の肩にとまったフクロウは、ふとまぶたを開けると、目をぱちぱちさせた。 「こだますいか」 「……?」 呼ばれた少女は、そこからさらに二、三歩歩いてから、ふらふらと立ち止まった。 「あれは、悪い者たちではないよ」 「……」木霊の少女は、それを聞いて安心したように、にっこりと笑いかけた。 「おお。これは驚いた。見知った顔だ。名前までは思い出せないが」 「それは別段思い出せてないじゃろうが。……っは! おお、その物言い。待宵の爺さんじゃないかい!」 「おお。そういうお前は……そうだ! 大車輪!」 少し惜しい。片輪車は小さくつぶやいた。 「……おどろけ~! ユーレイだぞ~!」 幽霊と妖精の二人組がぬらりと影から飛び出した時、丁度鼻先で出くわした片輪車はすっかり肝を冷やした。潰れた蟇のような声を上げながら、ばたんと後ろに倒れこんだ。 「うわっ! ポルさんじゃないですか?」 「はっはっは。これはおどろいた、小さな幽霊もいるとはな」 「あれれ~? ランランはおどろいたのに~……」 「お、驚いてなんかいないって! あれはのーかん、のーかん!」 「あいたた……。さくら、お友達かい?」 「あ、さくちゃんか~。こんばんは~!」 「まあ、もう結構慣れちゃいましたからね。ポルさんのいたずらには」 待宵丸はばさばさと羽ばたいて、ぐるりと首を一度回した。かたわらの、猫の変化をじっと見据える。 「時にそなた。家にいて、仕合の時を待たなくてよいものか?」 「え? ええっと……」 「さくら、さくら。待宵丸は四六時中こんな調子じゃから、話半分に受け取っておきなさい」 「失敬な。人間たちは今宵“猫と仕合え”ときちんと申していたのだが……」 「ねこと……しあえ?」 「……そりゃ“犬や猫を、家に仕舞え”じゃろう」 だいぶ遠い。片輪車は小さくつぶやいた。 そんな、変化たちの賑わいを眺めながら。 木霊の少女は、嬉しそうに微笑んでいた。
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