【ネクロニカ】【リプレイ】ネクロニカ 踊り沈んだラプンツェル【TRPGリプレイ】
注意: 当ページの内容の転載、複製は著作者の許可がない限り行わないでください。
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本作は、「神谷涼、インコグ・ラボ」が権利を有する「永い後日談のネクロニカ」の二次創作物です。
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本作は、「神谷涼、インコグ・ラボ」が権利を有する「永い後日談のネクロニカ」の二次創作物です。
人が死んだ、沢山死んだ、いっぱい死んだ。
そしてみんな死んだ。
空は放射能により暗雲に包まれ、海は下品に虹色に輝いている。
そんな海のど真ん中、沈みゆく船があった。
ラプンツェル号、それは豪華客船として有名で多くの人間に、戦前は愛された客船であった。
しかし今はその面影もなく、ゆっくりと船体を沈めていく。
どうやら限界のようである。
しかし、それを嘆くように何かが降り注いだ。
にわか雨だ。
放射能などで虹に染まったそれを、車椅子に座った少女はどこか狂気を含んだ笑で眺める。
しかし、スグにどうでも良くなったのかやがて頭を垂れて瞳を閉じる。
やがて少女は口元を歪ませ笑う、欲しかった玩具が手に入った子供のように、さぞ楽しげに。
「ふふふ…やっと起きましたわね。お寝坊なお人形さんたち?フフフフフフ…」
愉快そうに、狂気を含めた声は、広い海に消えていった…
ポタリポタリ、パラパラパラパラ。
そんな雨が窓に打ち付けられる音が響く。
その音で、眠りし少女は意識を覚醒させていく。
そのまま眠れていればどれだけ幸せだったか、知ることもなく。
やがて少女は体の感覚が戻ってきたのか、冷たい鉄の床から身を起こす。
しかし、違和感があるのかそれとも気になる物があるのか、しばしあたりを見回している。
やがて少女は気づく、ここはどこかの倉庫のようだと。
そして海の側にいるのであると。
塩の香りに混じって、サビの匂いが辺りに漂う。
「冷たくない……やっぱり死んでいるんだ」
少女は、やがてそう口に零した。
そうして再度あたりを見回す。
すると少女は気づく、すぐ側にもう1人、少女が眠りに付いていることに。
自分より少し幼く見えるその少女は、おそらく自分と同じように死んでいるのだろう。
しかし、安らかに寝息を立てるその様は、正しく生者の様であった。
だが、彼女はその少女に何故が嫌悪感を抱いてしまった。
顔も今知ったばかりの彼女に、何故か。
やがて少女は、目の前に鎖が繋がれた鉄球と、一振りの日本刀があることに気づく。
(武器がある。子供がいる。……つまり、この子を僕に殺せというのか?)
常識と逸脱したそんな考えが少女の頭をよぎった。
普通ならば考え付かない、少女もそう思ったはずだ。
しかし、少女はなぜかそれを抱かずにはいられなかった。
まるで、この少女が自身の親の仇のように思えて…
気がつけば少女は刀の柄を握っていた。
知らない、こんな武器の使い方。
しかし、それに違和感を覚える暇などなかった。
柄を持ち、ゆっくりと鞘から刃が抜かれようとして…
「ん…ここどこ?」
幸運にもその少女は目を覚ました。
やがて少女はあたりを見回し、刀を抜こうとしていた彼女を見つける。
「え?…どちらさま?」
困惑するのも無理はない、目覚めた直後に着られそうになってれば誰でも困惑するであろう。
「ここはよく知らないが、海が近くにあるらしい。僕は死体だよ」
「そう、あなたもなのね…。ところで刀をしまってほしいのだけれど」
「君も……。そうか、殺されるための子供ではなかったのか」
そこまで言われ、少女はようやく刀の柄から手を離した。
それをしかと見、ほっと一息ついたあと、彼の少女は口を開いた
「私はヴィオレッタ。あなたはなんていうの?」
少女、ヴィオレッタが自身の名を語る。
それにつれて、彼女も口を開いた。
「僕は……オリビア」
彼女、オリビアの名を聞いたあと、一人納得したのかヴィオレッタは少しした後ニッコリと微笑み語る。
「そう、よろしくね!オリビアお姉さん」
「お、お姉さんは、ちょっと……」
女性扱いされることに慣れていないのか、その言葉に少し動揺し、赤くなるオリビア。
しかし、それよりもヴィオレッタは海の匂いに気づいたか、やがて
「それはそうと、私海見てみたいな!」
と回りに星のエフェクトでも出そうな様子ではしゃぎ出した。
「そうか。……なら、ここから出ないとな」
「うん!」
まるで姉妹のような会話。
人間味のある優しいこの時間は、人としての心を安らげるには十分であった。
しかし、それはそれとしてまず自分たちが置かれている状況を理解しなくては。
そう考え、二人は改めてこの部屋を見回し、やがて窓を見つける。
よほどそれが嬉しかったのか、ヴィオレッタは全身でそれを表現する様に窓へと駆け寄った。
オリビアもゆっくりと付いていくが、ここでオリビアは奇妙なことに気づく。
窓が傾いているように見える、いやそれどころかこの部屋全体が傾いているような。
「うわぁ…海ー!」
しかしその思考はヴィオレッタの歓喜の声でかき消された。
まあ良いだろう、そう思いつつオリビアもヴィオレッタと共に窓の外を見た。
そう、海だ。
穢れてしまってはいるが、かつて多くの命を育んだ海は、それでも美しく感じるものであった。
「海……近い?」
しかしそれは違和感のあるものであった。
そう、海面が妙に近いような…いや、確実に近かった。
窓枠より数10センチした程度に既に海面があるのだ。
さらによく【めだま】をこらしれみれば、ゆっくりとだが、確実に海面がせり上がっていていた。
さらにはかなり小さくはあったが、辺りから金属の軋む音が響いている。
「私知ってる!みちしおってゆーんだよ!」
「満潮……しかし、出ないとまずいな」
最初はその言葉を少し考えていたヴィオレッタだが、やがてハッ!とした顔になり
「そうだね。溺れちゃう!」
と、すこし焦ったような表情となる。
「そうだ。丸ごと沈むな」
反対にオリビア、冷静に判断し出口を探す。
しかしよく【めだま】をこらす必要もなく、出口を見つけ出す。
「こっちだ」
「待ってよー!」
足早と部屋と出ようとするオリビアに付いていくように、ヴィオレッタと共に部屋の外へと足を踏み出した。
外にでるとそこはまさしく高級ホテルの廊下のような光景が広がっていた。
赤い絨毯が引かれており、けれどもかなりの年期がたっているのか、少々ボロボロになっていた。
そして自分達が出てきたドア以外にもドアがたくさん目に映るのであった。
「ここは……ホテルだったのか?」
「そうみたいだね。ドアいっぱーい」
キョロキョロと周りを見渡すオヴィオレッタ。
しかしそれも無理はないだろう。
この歳の少女というものは、死してなお好奇心旺盛というものだ。
「さて、出口はどこか」
オリビアがさて探そうか、そう思い踏み出した直後であった。
「こっち!」
ヴィオレッタの焦った声が響き渡り、彼女はオリビアの手を取りある扉へと走る。
その直後であった。
ヴィオレッタの向かう方とは反対の扉が轟音をたて破壊される。
すると大量の海水がとめどなく溢れ出て、あっという間に自分ちが先程までいた浸水し、しかしそこで止まるのであった。
だか2人には分かっていた。
このままではやがて全てが海に沈んでしまうだろうと。
二人は思った。
【沈み行く“何か“から脱出】しなくてはならないと。
「さすがだな。君……ヴィオレッタのおかげで助かった」
「そ、そう? どういたしまして」
しかし、ヴィオレッタの手は震えていた。
当たり前だ、目覚めたばかりでこのような目に、この年頃の少女が合えば恐怖の一つや二つは起こることだろう。
「……大丈夫だ。出られたら、怖くないぞ」
それを落ち着かせるように、オリビアは優しく声をかける。
それで多少気が落ち着いたのか
「…うん」
とヴィオレッタは頷いた。
繋いだ手を離すことなどしなかった。
そんな無粋なことは出来なかった。
やがて二人は扉をあけ、その先へ行くがその先の光景は、今いた場所と何ら変わりない廊下であった。
しかし、鍵が老朽化していた影響か三つのみ扉がなく完全に開け放たれていた。
やがて二人はそのうちの一番手前にある部屋へと足を踏み入れた。
そこには先ほど自分たちが入っていた部屋に比べるなどおこがましい豪華な、しかし時のせいかすこし古びた部屋であった。
しかし時のせいか埃臭いが二つのベットと壊れたテレビが鎮座している。
このテレビは二人とも知っている、最新型のテレビであったが、今では電源など付くことはないだろう。
二人は【めだま】をこらし部屋を探す。
しかし、それで何かが見つかることは無かった。
「なにもないね。次の部屋行こう」
「そうだな」
やがて二人はその部屋の探索に見切りをつけ、次の部屋。
この部屋と奥の部屋の中間に位置する部屋を探し始めた。
部屋の中は先程と同じ構造で、二人が探している内にオリビアは何かをベットから探し当てた。
それは拳銃のパーツだった。
45口径オートマチック【ガバメント】そのパーツ。
対人ならともかく、対アンデットには使うことない銃だ。
何故あるのであろうか、どちらにせよこのパーツは錆び付いて使えないだろう。
「人の銃があった」
「…を…した?」
オリビアの声が聞こえていないのか、しばし難し表情を浮かべつつ、ヴィオレッタはあるものと睨み合いをしていた。
それは紙であった。
年代のせいで黄ばんではいるが、読めないほどではなかった。
しかしヴィオレッタには少々難しかったようだ。
やがてオリビアの声が聞こえたのか、ヴィオレッタは
「銃?」
と、疑問の声を上げてオリビアへと駆け寄った。
「ふぅん…。それよりこれ、読める?」
興味なさげと言ったふうに呟いたあと、ヴィオレッタは先ほど手に入れた紙をオリビアに提示した。
「どれどれ…」
そしてそれはオリビアには読めるものであった。
それはこう書かれていた。
【噂のガキと共にターゲットを狙え。
激しい抵抗が予想されるだろう。
一般人の巻き添えも視野に入れろ。
もし一般人に死者が出た場合は、その死体は奴らに利用されないように海に捨て、処分しておけ~ション・バーノン~】
「…噂されている子供と、ターゲットを排除する命令のメモのようだ」
「なんか映画かドラマみたい」
ヴィオレッタが呟く。
それに共感を得たのか、オリビアも
「そうだな」
とぼやかすのであった。
「隠しておきたかったみたいだから、持っていこう」
「そうだね。…他にはなにもなさそうだね」
「ああ。次の部屋に行こうか」
そうして2人を部屋を出る。
そこでふたりは二人とも海面がもう最初に調べた部屋まで浸水してきているのに気づく。
しかしそれより、その海水から何かの背鰭が出ているのに気づいた。
生前の一般常識的に、もしあの海水に飲み込まれたら元々ない命が本当に、確実に終わってしまうと二人は直感で思うのであった。
おそらくあれはサメと言うものだろう。
故に、例えアンデッドであったとしても海から出てくることは無いだろう。
そう考えた二人は、海面に近づくことのないように、最後の奥の部屋へと足を勧めた。
やはりと言うべきか、最初の部屋と全く同じ構造のその部屋を、二人は探し始めた。
しかし、この時ヴィオレッタには奇妙な既視感がこの部屋にあった。
その正体の分からないまま探していくと、ヴィオレッタはベットからあるものを見つけた。
それは紙だ。
そう、ただの紙。
強いて言うなら殆どが燃えていて何も読めないし、復元もできない紙である。
しかしそれが何故かヴィオレッタの頭を刺激する、記憶が刺激される。
そうだ、いつだって自分はこうやってこの紙を燃やしていたじゃないかと。
誰にもばれないように、任務がばれないように。
殺しが…ばれないように。
そうだ、記憶は訴えかける。
この先のホールで、私は…
「……」
「ヴィオレッタ?」
突然呆然としたヴィオレッタを心配し、オリビアが彼女の手を優しく握る。
それにより意識が戻る。
ハッと記憶より戻り、ヴィオレッタは
「な、なんでもないの、なんでも」
と、ぎこちない笑顔でオリビアへと声をかけた。
「それより早くいこう。食べられちゃうよ」
「そうか……そうだな」
若干無理をしているようにオリビアには見えたか、それとも見えなかったか、どちらにせよ海水が迫り来る中、2人には進むしか道はなかった。
そして開いたその扉の先は…豪華なホールだった。
まさしくきらびやかに飾られ、ここでは多くの人間たちが楽しくパーティーを開いていたのだろう。
…大量の血溜まりや血飛沫が飛び散っていなければ。
テーブルはひっくり返り、絨毯は破れさがし、椅子は銃創でずたぼろだ。
ここで何かがあったのだ、何かの争いがあったのだ…
そして二人は考えつく。
この惨劇は人の手で起こされたと。
しかしそれ以前に妙な違和感を二人は覚えるた。
人の死体がない、一つもないのだ。
全てアンデットになってしまったとしても、ここに留まっているものもいても不思議ではない。
だが一体もいないのだ。
まるで何者か処分したように…
しかしそれを認知した瞬間、オリビアの頭に激痛が走る。
思い出してはいけない記憶を引き起こすように、そうだ思い出してはいけなかった。
あの日、自分はここで、この【船】で家族と、ああ顔が思い出せない家族と共に楽しくパーティーを行っていたのに、一発の銃声が場を地獄に変えた。
その地獄に、私は巻き込まれて…
「あ、うぅ……わた、し、ぼく、は」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
突然の姉の苦痛を見、ヴィオレッタは心配そうにオリビアの顔を見つめる。
しかし、次の言葉にヴィオレッタは硬直することになる。
「私は、ここで……あの、メモの任務に、巻き込まれて……!」
「えっ……」
「私が、まだ、人だった頃……家族とパーティーに参加していたんだ……」
「パーティー……」
「突然、銃の音がして、みんな、きっと海に捨てられたんだ……!」
「お姉ちゃん! 今はとにかく逃げよう!」
必死そうに顔をこわばらせオリビアの肩を掴みながらヴィオレッタは叫んだ。
自分の考えを否定したかった。
忘れてしまいたかったのだろう。
もしそうならば、自分が…
「そ、そうだな……」
ヴィオレッタのその言葉を聞き、オリビアは足を奮い立たせる。
ヴィオレッタはオリビア手をぎゅっと強く握った。
それこそが、自分を落ち着かせてくれると信じて。
やがて二人はその先へと歩みを進みた。
扉の向こうには…大量の死体があった。
しかしそれは全て殆どが機械であり、そして軍服を着ていた。
所謂サイボーグ兵であった。
その全てが銃を持っており、しかしそれは全てが破損しているか弾が切れていた。
まるで何か巨大なものと戦闘したように。
この凄惨な光景は目にした少女の心に痛恨の一撃を与えた。
二人の心に大きな罅が走った。
「ひっ」
「っ!」
2人の悲鳴も、そして手を強く握るのも同時であった。
やがて狂気が心へと入り込み、先にオリビアの感情が爆発した。
「これ、が、父さんと、母さんと、私を、みんなを、」
続けてヴィオレッタもその狂気に飲まれ声がこぼれ落ちる。
「違う! 私は・・・!」
狂気は互いの平静を奪い、正しい判断を狂わせる。
このタイミングでのこの言葉は、オリビアにはこう聞こえた。
この惨劇を引き起したのは自分だと。
「お前が、お前がやったのか!」
狂気に駆られた少女は錯乱気味にヴィオレッタを問いただす。
「違うよ!」
当然の如くヴィオレッタは首を大きく横に振り否定の意思をはっきりと見せる。
それがまた苛立ちを誘ったのか、オリビアはサイボーグの死体へと八つ当たりして殴る。
その様子を見、ヴィオレッタは若干冷静さを取り戻す。
そしてやがて呟いた。
「これ、みんな・・ロボット・・・?」
「サイボーグ、だな」
その呟きで、オリビアも平静を取戻す。
「こんなにたくさん、それもボロボロにやられてる・・」
「たーげっと、とは強いものなのだろうか……」
平静を取り戻した二人は、やがてサイボーグの死体達を調べ始める。
そして、このサイボーグたちは全員同じ組織ではない、それはズタズタになった軍服に付いていた部隊賞から確信するのであった。
しかし互いに争った形跡はあるものの、ここでこの二つがぶつかりあった痕跡はない、むしろ何かと戦うため共闘していたように見える。
そんな中、オリビアの記憶が訴えかける、部隊の片方が自分たちを襲った、もう片方は護ってくれたと。
しかし、ああなんと憎いことか、なんと彼らはターゲットにされていた父親を守れなかった、挙句自分も殺されてしまった…
自分の父親を殺した相手を呪いたいが、相手がわからないならば呪えない。
そんな忌まわしき記憶が蘇るが、それと同時にヴィオレッタも記憶を呼び覚ましていた。
部隊の片方は自分と共にターゲットを狙った奴らだ。
もう片方はターゲットを護っていた。
だが愚かだ、子供だと自分を侮っていた奴らは自分がターゲットに近づいても警戒しないで素通りさせてくれた。
「子供が純真だなんて考えるなんて時代遅れの老害だ」そう考えが走り、やがて自分は隠し持っていた【ガバメント】でターゲット…オリビアの父親の頭を撃ち抜いた…
「なんで、父さんが狙わられなきゃいけないんだよ!」
「なんで・・どうして・・・?」
【なぜ】、おなじ【なぜ】でもこの時の何故は意味が正反対違うものであった。
怒るオリビア、自分の手を見つめながら嘘だと思いたいヴィオレッタ。
そんな中怒りのオリビアが最早動かぬサイボーグ達の死体を罵る。
「あいつらは父さんを守れなかった!」
「守ってくれるって言っていたのに!」
信じていたものからの裏切り。
それは憤慨する最もな理由であった。
動かぬサイボーグの死体へと暴力をふるう。
しかし、それは誰も止める権利など無いだろう。
「なんで私が・・こんなのってないよ・・・」
しかしその反対に、ヴィオレッタには悲しみが支配していた。
自分が今信じている者、オリビアの父親を殺したのは自分。
その否定したくて仕方ない真実は、ヴィオレッタの幼い心に痛烈な重みとなってのしかかった。
彼女が悲しみに支配されているその時であった。
それは突然であった。ヴィオレッタのいる側面の壁が嫌な音を立てていた。しかし彼女は気づかない。
やがて限界が来たのか、壁が破裂し大量の海水が迫ってくる。
ああ、しかしヴィオレッタ、衝撃の事実を思い出したショックが大きいのか海水が迫ることが気づかず、やがてそれはヴィオレッタのアゴにぶち当たる。
吐き出された海水は最早凶器、あっさりとヴィオレッタのアゴは砕け散る。
「!」
当然の如く、その幼い体ではその衝撃を殺しきることなどできない。
衝撃により大きく体を吹き飛ばされる。
「……! ヴィオレッタ!」
サイボーグの死体へと攻撃をしていたオリビアも、壁が破砕される音と肉が砕け散る音を聞き、振り向けばヴィオレッタが宙に舞う様を見る。
それは頂点に達した怒りを最底辺まで落とさせるには十分すぎる、血の気の引く出来事であった。
「お姉ちゃん・・もうここも危ないよ、上にいかなきゃ・・・」
砕け散り、醜くなったそれを見せないように、ヴィオレッタは口元を隠す。
「そうだな」
そんなヴィオレッタをみて、オリビアは彼女を抱き抱え、次の扉へと歩を進める。
「……ごめんね」
オリビアには聞こえない、ヴィオレッタの小さな、だがもう手遅れの謝罪が零れるのであった。
そうやって扉の前につく。
しかし扉からただならぬ気配を感じる。
おそらくここに入れば戻ってこれないだろう。
二人はそう直感から読み取った。
だが行くしかない、そう思ってオリビアがドアに手をかけようとした時、ヴィオレッタが抱かれた状態をやめ、オリビアの顔を見つめた。
「……どうした?」
「……お姉ちゃんは私が守るから」
それは彼女なりの謝罪なのだろうか。
それともそれとは別か。
あるいは両方か。
「ああ、そうだな」
その言葉に、オリビアは精一杯の笑顔で答えるのであった。
「……うん、行こう」
「ああ」
そうして先に行こうとするヴィオレッタを一旦止める。
その手にはサイボーグから引きちぎったアゴがあった。
そうして、それをヴィオレッタに優しく取り付けた。
粘菌と粘菌が絡み合い、やがてそれは違和感なくヴィオレッタへと接着される。
「ん……」
少し照れくさそうに、ヴィオレッタは視線を逸らす。
「これで万全だ」
そんなヴィオレッタを、オリビアは優しくその頭を撫でるのであった。
その瞬間、ヴィオレッタには何か新たな感情が生まれた。
それはオリビアへの、ある種の【恋心】とでも言うべか。
「えへへ、ありがとう!」
しかし、どちらにせよヴィオレッタは、その屈託ない笑顔をオリビアへと送る。
そして二人は、そのまま手を繋いで扉を開いた…
扉を開けたその先は、甲板だった。
目の前には1面に美しい海が広がっており、この廃れた世界には珍しい朝焼けが見えかかっていた。
美しいと言っても、危険な水生アンデッドや油などで虹色で、かつ太陽の光を反射しているからであるが。
さて、そんな甲板には一人、車椅子に座った少女がいた。
少女はやがて、ふたりを見ると拍手を送る。
「愉快な、そして悲しいお話を有難うございますわ…ふふふ」
そう呟いた少女は、2人の反応を待つのであった。
「誰だ……?」
「あなた、だれ?」
2人の問はほぼ同時であった、そしてそれは至極当然のことであり、やがてその問に、少女は解を出す。
「あなた達を起こした人よ」
ニッコリと聖女のような微笑みを、少女は二人に返す。
「僕は起こしてくれと頼んでないんだけどね」
「どうして・・?」
その言葉を聞き、二人は共に警戒心を高めていく。
この謎の人物は、何故自分たちを起こしたのかと。
しかしその答えは、何ともシンプルで狂気的なものであった。
「面白そうだから、ですわ…うっふふふ」
少女は可笑しそうに笑い、そして続けて語る。
「だって、加害者と被害者が仲良く手を取って危機に立ち向かう。あの時のような、所謂【呉越同舟】のようなものはいつだって、滑稽で面白いですもの」
「な……!?」
「あの時・・・!?」
「えぇ、この船を沈めた時と同じ」
細い目をゆっくり開き、ニヤリと不気味に笑う。
「お前が、沈めたのか」
「あなた、人の命をなんだと思って…!」
「ええ。今でも思い出せますわ…ヴィオレッタ、あなたと貴女のお友達がオリビアとそのお父さんを撃ち殺した後でしたわねぇ…ふふふ」
その言葉は、2人の心底に忘れ去られた最後の【記憶のカケラ】を呼び起こした。
そうだ、二人は思い出すだろうあの直後を。
ヴィオレッタがオリビアの父親を撃ち殺した直後、甲板に轟音と共にこの少女は現れた。
「面白そうだから」という理由で、国のリーダーであったオリビアの父親暗殺に混ざった。
そこからは文字通り虐殺の嵐だった。
殺された兵士達は皆人々を撃ち殺していく。
彼女が呼び出した巨大なバケモノが船の全てを蹂躙していき…やがて全てが終わった。
オリビアもヴィオレッタもアンデッドの兵に撃ち殺さた。
そうだ、確かに父親を殺してしまったのはヴィオレッタだか、皆を殺したのはこいつだ。
【血の宴】の記憶は、2人の【記憶のカケラ】を繋げ、全ての真実を呼び覚ました。
「ねぇ?思い出しました?」
少女が2人へと問う。
その答えは火を見るより明らかであった。
「そんな……ヴィオレッタが……!」
まさかの真実を知り、困惑するオリビア。
「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
そしてそれを知られたヴィオレッタ。
所謂修羅場が今ここに出来た。
誰もが激怒するだろう。
怒りに身を任せても仕方ないだろう。
「私は……父さんを殺したヴィオレッタを許せない」
ヴィオレッタにとっての死刑宣告にも等しい言葉が、ゆっくりとオリビアから告げられた。
「……ッ!」
ヴィオレッタを恐怖が包む、嫌われる。
恨まれる、軽蔑される。
そのような無数の恐怖が迫る…しかし、どれも来ることは決してなかった。
この真実を知ったとしても、オリビアは常に冷静であった。
「だけど、僕は、ヴィオレッタのそばにいたい」
そして、とても強く、優しくあった。
「え……? いいの……?」
それでいいのだろうか、赦させていいのか?
恐怖がヴィオレッタから消えていく。
そして次の言葉が、恐怖を完全に拭いさった。
「ヴィオレッタは、僕を見捨てなかった。僕も、ヴィオレッタを見捨てたくない」
「お姉ちゃん……」
「だから、僕とヴィオレッタの脱出を邪魔するお前を倒す」
ハッキリ告げられたそれは過去との決別。
過去を捨て、今を生きる。
少女は【短い過去】よりも【永い今】を取ったのだ。
その言葉に同意するように、ヴィオレッタも強く頷いた。
「ふふふ、ははは…アッハッハッハッハッ!!」
その解を聞き、少女は大きく腹を抱え笑う。
そして続けて叫んだ。
「素晴らしい、素晴らしいですわ!!そうですわそうでなくてはつまらないつまらないつまらないツマラナイ!!ですが、私にはまた楽しみたいものがありますのよ…壊されてあげるのもいいけど、それは困りますわ。そうだ!なら敵討ちのチャンスを上げましょう!」
まるで機関銃のように高速で言い放った直後、指を軽く打ち鳴らす。
すると海から巨大な何かが飛び出してきた、そしてそれを二人は知っている。
奴が皆を殺したバケモノだと。
プロトアビス、二人の生前の記憶が思い出させる。
あれはブッチャーと呼ばれた生物兵器を、水中でも使えるようにしたものの試作品であると。
「さあ、私を楽しませて?フフアアアハッハッハッハ!!」
やがてそう叫ぶと、彼女は背中合わせから巨大な白翼を生やし、やがて薄汚い空へと消えていった。
しかしプロトアビスの出現に釣られ、後ろにいた動かぬ筈のサイボーグたちが起き上がった。
そう、彼らもまたアンデッドとして今、あの飛び発った少女否【ネクロマンサー】に目覚めされられたのだ。
「……逃げちゃったね」
「……そうだな。だが、あいつらを蹴散らすのが先だ」
「……うん、行こう!」
「ああ」
オリビアの一言を皮切りに、二人は戦闘態勢へと至る。
呉越同舟被疑者被害者今は無し、古きを捨てて新へと歩みて今踊る!
オリビアとヴィオレッタの戦いが鐘を鳴らした。
さあ、死へのカウントダウンが降りる時だ。
最初に動き出したのはヴィオレッタ。
彼女は実戦での動体視力と判断力が元からよかった。
ドールとなった今はそれは何倍にも、何千倍にも強化され、未来予知にも匹敵する【先読み】を可能とした。
そして彫り込まれた偽りの記憶が、この場にとどまることを否定した。
ドール、アンデッド特有の筋力と瞬発力を用いてあっという間に距離をとる。
それと同時にオリビアが起き上がったサイボーグ立ちへと一気に駆け出す。
やがてサイボーグ達とオリビアの距離は無くなり、抜刀斬りの射程へと踏み込む。
だがサイボーグたちも生前腐っても兵士。
その斬撃を躱させた。
「お姉ちゃん左!!」
だがヴィオレッタの【先読み】からきた的確な指示が、オリビアに連閃の機会を与えた。
捉えることさえできたならば最早何の対アンデッド改造されていないサイボーグなど、戦場の【死神】から逃れるすべはない。
肉体の頑強さを投げ捨てた【失敗作】としての力が加えられ、トドメとばかりに【ほとけかずら】かオリビアの輪郭をぼやかし、距離感を消失させた。
こうなってしまえば最早オリビアという【災禍】は猛威をふるう。
刃を振るえば必ずサイボーグは肉片残骸へと姿を変える。
美しくも残酷な剣戟は血を纏い、振るえば血飛沫という可憐な華を咲かす。
華が咲けばまた1人、刃が踊ればまた1人。
時間にして僅か2秒、しかし永遠にも感じたこの世界は最後のサイボーグの完全解体にて終わる。
【失敗作】の【死神】に相応しい【災禍】を彼女は見せてみた。
その隙を突かんが如くプロトアビスがオリビアへと向かう。
しかし、そうはさせんとヴィオレッタの【愛撫】のようなワイヤー捌きが、プロトアビスの巨体を転倒させた。
その隙を逃がすことなく、ヴィオレッタはプロトアビスが次に何をするか【先読み】する。
だがその【先読み】が完全に終わるその直前に、プロトアビスは体制を立て直し彼女へと取り付けられた【鍵爪】を振るう。
(よけれないっ!)
そう直感したか、ヴィオレッタがとった行動は、先に使ったあのワイヤーを、オリビアの服に絡みつけ、自身のそばまで引っ張った事だった。
やがてプロトアビスの【鍵爪】は吸い寄せられる様にヴィオレッタの【頭】に直撃し、生体兵器特有の【怪力】で【のうみそ】【めだま】【アゴ】を粉々に粉砕した。
普通の人間ならばここで終わりだ、しかしヴィオレッタもオリビアも人間ではない。
だからこそ、たかが【頭】が潰れても止まることは無い。
そして、プロトアビスはあのような大振りの攻撃を繰り出した反動で、先程引き寄せられたオリビアの接近に対処などできなかった。
苦し紛れに回避してみせるも、ヴィオレッタのあの【先読み】による助言があるためそれは自殺行為とも言えた。
しかしそこは生体兵器、物理法則を無視した回避方法を取ろうとした…その直後であった。
ヴィオレッタの【アームバイス】であった。
それがしっかりとプロトアビスの足を掴んで離さなかった。
動けぬプロトアビスなど、【失敗作】の【死神】であるオリビアの閃撃を耐えれるわけなどなかった。
それは正しく一瞬の美。
無数に【日本刀】が振るわれ、そして残心。
1拍遅れ、ゆっくりと…だが確実にプロトアビスの体はズレていき…そしてオリビアが刀身の血を払い、納刀し、キンッと金属音が響くと同時に、プロトアビスだったものは、呆気なく肉塊へと崩れ落ちるのであった。
オリビアが敵を肉片へと変えたのを視界の端に捕らえつつ倒れるヴィオレッタ。
しかし彼女の体が地につくことは無い。
「ヴィオレッタ!」
それよりも早くオリビアが彼女を抱きかかえた。
「良かった…守るって約束したもん…」
「ああ。ヴィオレッタのおかげで助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
その感謝に返答し、笑顔を見せようとするが、プロトアビスの一撃を受けたのが原因か、パーツが足りず笑えない。
しかしそれを見たオリビア、すぐさま先程の死体からパーツを持ってきて、彼女の欠けたパーツを補完した。
「えへへ……」
そして治り次第、満面の笑みでヴィオレッタはオリビアへと抱きついた。
それを見て、オリビアもされるがままに、そして優しく告げた。
「よく頑張ったな」
ヴィオレッタはオリビアに満足するまで抱きついたあとで呟いた。
「ところで……これからどうしよっか?」
見渡す限り海である。
泳いで行くなど考えられそうにもない。
「そうだな。ここから陸に上がってから考えようか」
そう呟き、オリビアがあたりを見渡せば、そこには1台のヘリがあった。
大分小型ではあるが、子供二人が乗るには十分であった。
何故がロゴを確認しなければならない使命を感じ、ロゴを見てみるが、特に変なものは書かれていなかった。
「それじゃあ…行こうか」
「うん!」
彼女達がヘリに乗り、そして飛び立ちしばらくして船は海へと沈んでいった。まるで過去を忘却するように。
そうだ、この世界は全てが終わった後日談。
もう取り戻すことは決してない。
だが、それならば新しく作ることだってできるのだ。
二人はネクロマンサーを追いかけることはしなかった。
この世界で生きることを選んだ。
過去を捨て、後日談と決別をし、新しい物語を創っていくだろう。
朝明けがヘリと彼女達を包んでいく。
それは放射能に塗れたこの空の中でも、とても美しく、ふたりを祝福するようであった。
これは永い永い後日談の一つの終幕。
この創られた物語の続きは、彼女達しか知らない。