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😶 「迷子の国のアリス」狒々嶋ましろの後日談(長い) (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)覚えているのは小学生の頃。 きっかけはテレビのドラマという、しょうもない話。 だけど僕は、あの液晶の中でひたすら命に向き合い、死という運命に抗う存在に、心から惹かれてしまったんだ。 ◆◇◆ 初夏を迎えた気だるい午後。 朝一番から参加していた手術を先ほど無事に終え、患者の容態が落ち着いたのを見計らって、僕は一息つくために少し外に足を運ぶことにした。 そうは言っても午後にも手術の予定が入っているので、院内の中庭に足を運ぶことくらいが精一杯だったけれど。 入院患者やその付き添いの看護師、ご家族の方々がちらほらと小さな箱庭での散歩を楽しむ中、丁度良く木陰に空いたベンチを見つけたのでありがたく腰を落ち着けることにした。 程よい日差しが手入れの行き届いた緑地を包み込んでおり、ほのかにじんわりと肌を刺激する。 建物の中は肌寒く感じることが多いので、少しほっとした心地になる。 日頃から「狒々嶋先生は白を通り越して蒼白な死人のようだ、もっと健康的になったほうがいい。」と周囲の人間に注意されている身だ、ここで少々日向ぼっこをしたくらいではそう簡単に肌が焼けることはないだろうが、前向きに努力をしているくらいには受け止めてもらえるかもしれない。 緊張で無意識に凝り固まっていた肩をほぐすように宙空へ向かって軽く伸びをすると、視界の端に小さな影を捉え、そちらに視線を向けた。 目を細めて見れば、頭上の木の枝に小さな鳥が数羽、仲睦まじげに戯れながら羽を休めているようだった。 太陽光の反射からかその体が少し赤みを帯びて見え、不意に先日の夢のような体験がデジャブのように蘇る。 目覚めた場所はおかしな空間で、何もかもがヘンテコな、ともすれば悪夢であれと願いたくなるような、歪な世界。 探偵だと名乗っていた三人の男と、身元不明の少女が二人。 喋る動物、涙の池、処刑場、女王、約束。 まるで不思議の国のアリスの物語を紡ぐように辿った数時間の冒険。 現実に戻った今でも、俄かに信じがたい体験だったとは思うけれど、あの日目覚めた時傍らにあったアリスの本が、夢ではないのだと思い知らせる。 目の前で無残に散っていった命の色が、鮮明に瞼の裏に浮かび上がる。 「きみは、人が死んだのにうろたえないのか。」 その言葉を言ったのは誰だったろう。 あの紳士的で冷静でありながらも信念を持った探偵だったか。 それとも好奇心が旺盛で直感の冴えたまっすぐな探偵だったか。 もしかすると他の誰よりも人の死に動揺していたあの優しい探偵だったかもしれない。 「僕、お医者さんやからね。」 表情を変えずにそう返した内心が鋭利な刃物で切り裂かれたような感傷を感じていたこと、そして湧き上がる激しい怒りを抑えて努めて冷静を装っていたことなど、きっとあの場にいた誰も気づくことはなかっただろう。 医者だから、見慣れている。 いつだって、最前線で惨たらしい死と向き合っていた。 いつだって、この手の中からこぼれ落ちる命への責任に苛まれていた。 医者だから、苦しくて、悲しくて、怒り狂って叫び出したくて仕方が無かった。 正体不明の不条理で無慈悲な悪意に対する怒りで、煮えたぎった脳が爆発する気さえした。 そしてなにより、一瞬の判断ミスのせいで目の前で救えたかもしれない命を失った、そしてその事実を受け入れることに慣れてしまっていた自分に、堪らず反吐が出そうだった。 幼い頃に夢見ていたあの物語の中の医者のように、我武者羅に命を救うようなヒーローとは程遠い現実。 ただ自分が他人の命を救えると思い込んだだけの傲慢な人間。 結果から言えば、全員が生きている。 しかし、あの時の選択と決断が正しかったのかは、今もまだわかっていない。 だからこそ、彼女が僕らを信じると約束を受け入れてくれた時、その思いを後押しされた気がした。 人間は傲慢で、愚かで、いつだって自分勝手だ。 だけどそんな人間を信じることを諦めないと決断してくれた。 あの美しい朱色の記憶を、僕は生涯忘れることはないだろう。 「せんせー、なにしてるのー?」 幼く軽やかな声に意識が浮上する。 物思いにふけっていたのだろう、気が付くと小児科病棟の入院患者である数人の子供たちが、不思議そうに僕のことを見ていた。 心配そうに覗き込んでくるくりくりとしたいくつかの目に驚きつつも、安心させるように笑ってみせる。 「ああ、今休憩中やって、ちょっとおひさんが気持ちえかったからうとうとしよったんよ。」 「こんなとこで寝ちゃうと熱中症になっちゃうんだよ?」 「せやなあ、うっかりしとったわあ。起こしてくれてありがとうなあ。」 小さな頭を撫でてお礼を言うと、照れくさそうにはにかんでみせる。 すると隣の少年がいたずらな表情を浮かべて白衣の袖をくいくいと引っ張ってきた。 「どないしたん?」 「ましろせんせー暇なんでしょ?僕らと遊んでよお!」 「ええ…暇ちゃうんやけどお…。」 「だって今お昼寝してたじゃん!」 少年を皮切りに、他の子供たちもそうだそうだと口々に同意し始め、僕の腕や服の裾を引っ張り始める。 周りで見ていた看護師さんがおろおろと止めに入ろうか迷っている姿が目に入り、しゃあないなあと笑って手をひらひらと振ってみせた。 「ええよ、そんならましろセンセのきっちょーな休憩時間をお子ちゃんたちに進呈してあげようやないか。」 「やったー!」 「ただし走り回るんはあかん。」 「えー…じゃあ何するの?」 「せやなあ…。」 思考を巡らせるために視線を空へと飛ばすと、木漏れ日の向こう側で、誰かが笑った気がした。 ━━忘れないでね。 心地の良い風が木々を揺らし、小鳥が羽ばたいていく。 それはまるで、彼女の暖かな羽の残照のようで。 「うん、せやな、ましろセンセが物語でもおはなししたろかな。」 「おはなし?」 「どんなおはなし?」 「かわいいおひめさまはいる?」 「仮面ライダーは?」 「うーん、そうやね、可愛い女の子はおるよ。残念ながら仮面ライダーはおらんけど、その代わりとっても頭のいい探偵さんが三人もおる。あとおっちょこちょいなお医者さんもな。」 「なあにそれ。へんなの。」 「ねえ、それって本当にハッピーエンドになるの?」 僕たちが選択して、彼女が信じてくれた物語の結末は確かにハッピーエンドだった。 あの空間から全員が無事生還できたこと、あの人が僕らを信じてくれたこと。 何より、物語の最後のページに描かれた少女の笑顔が、その結果を物語っていた。 「…うん、ハッピーエンドちゃうかな。きっと。」 だけどあの日の夢の物語は、これからもずっと続くのだ。 それは僕が、あの探偵たちが、誰かに話して聞かせ、きっとそれを聞いた誰かがまた誰かに伝えて。 頭上で木漏れ日を彩る、あの無数に広がる枝のように語り継がれていくこと。 そしてその先で、きっとハッピーエンドが続いていくこと。 僕は、きっと、ずっと、願い続けるだろう。 「忘れへんよ。」 それは不意に泣きたくなるような、優しい約束。 そして同時に、これは僕の罪であり、命の責任なのだ。 黄金の昼下がり。 早く早くとせがむ子供たちに、困ったように笑いながら。 柔らかな初夏の日差しの下で、僕は子供たちに物語を語り聞かせ始める。 「さあて、ほな、おはなしを始めようか。」 幼い少女と三人の探偵と一緒に、黒いうさぎを追いかけるデタラメで暖かな物語を。 ーーーーーーーーー 先日参加させて頂いた「迷子の国のアリス」の狒々嶋ましろの後日談妄想になります。 後日談を書くのが初めてなので、とっても長くなってしまいましたが、こんな感じかなという妄想を詰め込んだ結果こうなりましたすみません。 セッション中は何度も謎にぶちあたり、その度に探索者の皆様に助けて頂き、KPさんにヒントを貰いながらなんとかベストエンドを迎えることができ、無事生還がかなったこと、本当に感謝がつきません。 春賀さんのRPの上手さや冷静な判断力と謎解きに対するリアルINTの高さ。 かいとさんの安定したダイス運の良さと先陣を切って行動してくれるポジティブなところ。 無可有郷さんのリアルアイデア値と立ち振る舞いのうまさからくる確実な探索。 そして沢山の場面切り替えがあるシナリオをしっかりと回して頂き、見事に探索者をくるくると翻弄してくださった白兎さん。 今回のセッションも沢山のことを学ばせて頂く機会が多く、また同じだけ反省することも多いものでしたが、みなさんの優しさやチームワーク、とっさの機転に沢山助けて頂いたなと感じております。 数時間にわたる進行を行ってくださった白兎さん、そして迷い絶望しながらも共に生還してくださった春賀さん、かいとさん、無可有郷さん、本当に本当にありがとうございました!
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