「鉄槍まみれ亭」に来て一か月。 こっちの冒険者達も皆良い人たちばかりで、他所からきたアタシ達を温かく迎え入れてくれた。 こっちの冒険者達ともパーティを組んで依頼に出ることも何度かあった。 こっちでは都度都度違う冒険者達とパーティをその場で組んで出ていく…という格好が多い。 「若気の至り亭」のように1つの班(パーティ)で何度かの依頼を行う…という事は中々無いようだ。 今日は久しぶりに、若気の至り亭から一緒に来ていたアモル、セーイ、レンベルクと近況を話し合っていたところだ。 しかし、どこかからアタシの名前を呼んでいる声が聞こえる… 振り向くと、ラージャハ帝国の第三皇子…ライジャがいる。なぜここに…!? 聞けば、アタシ達を追ってここまでやってきたらしい。依頼があるそうだ。本人が言っていたが確かに”義理堅い男”…なのだろう。 依頼というのが、なんでも”曜変天目ディスコ”という名前からは想像もつかない施設の完成祝賀披露宴…その警備をして欲しいという事だった。 各国の要人を招いての祝賀披露宴という事で、警備は万全にしないといけないらしい。通常の警備とは別に参列者に隠れて陰ながらの警護…という事だった。 なるほど。確かに冒険者向きだ。 ラージャハ帝国の専用車両にのり、魔動列車でラージャハ帝国へと向かう。 到着するなり”曜変天目ディスコ”へと案内される。瑠璃色の光が落ちていて、とても幻想的な空間だ。思わずうっとりしてしまう。 当日はダンスを踊らなければならないらしい…だが、アタシを始めアモルもセーイもダンスの経験はない。レンベルクだけが経験者だ。 ダンスを教えてくれる先生…なんとも言えない先生だ。男なのか女なのかよくわからない…しかし、見た目は間違いなく男だ。 ダンスは教えられた通り、何とか踊ることが出来た。セーイは先生にみっちりと指導されている…セーイにしては珍しい。しかし、真面目に取り組んでいるのはセーイだからだろう。 そして、衣装…なん十着…何百着…とある中から、自分に似合いそうなドレスを見つけた。赤いドレスだ。 一見して貴族か何かだと見間違えられるようなほどに、自分を着飾らねばならない…どうやらうまくいったようだ。 完成祝賀披露宴当日。 ライジャの挨拶から始まる…普段のアイツからは想像もつかない丁寧なしゃべり方だ。挨拶が終わると、音楽が流れ皆が踊りだす。 セーイとレンベルクはふらっとどこかに行ってしまった…残されたアタシはアモルと踊る…。アモルの踊りは実に見事だった。アタシの出来も悪くなかったと思うが、アモルの踊りには敵わない。 悔しさを表に出したつもりはみじんもないのだが、気を遣わせてしまったのかなんなのか、アモルが首飾りをアタシにつけてくれた。 プレゼントだと言う……またかッ! だが……ドレスを着ているからか、水晶の首飾りがとてもよく似合っているように感じる。少し……嬉しい。 その後戻ってきたセーイやレンベルク達とも一緒に踊った。 ダンスの息が合ったと感じたのはセーイだ。おそらくセーイが呼吸を合わせてくれたのだろうか。アタシも気持ちよく踊れた気がする。 そしてひとしきりダンスが終わると、セーイがふらっとライジャの近くへと移動している。何やら話をしているようだ。 かと思えば、隣にいた人をボコボコに殴っている…ただ事ではなさそうだ。 事態を重く見たライジャが、笛を吹く。警備への合図なのだろう。会場内があわただしく動き出す。アタシもレンベルクもアモルもセーイの加勢に入った。 敵は魔動機術を扱う暗殺者のようだ。 煙幕を駆使し、こちらを翻弄してくる。 だが、セーイの拳が見事に決まり暗殺者を捕縛することができた。 やはりセーイの力はすごい…見習わないといけないな。 暗殺者を捉えると、どこかに隠れていたライジャが現れ警備の者たちを呼ぶと、警備の者たちが暗殺者を連行していく。 改めてライジャから礼を言われた。今回の事を歌にしてアタシ達の名前を語り継ぐそうだ。 …やめて欲しい!と、アモルを始め、セーイも遠慮した。 ……しかし、結果歌は完成しラージャハ帝国で広まった後にキングスフォールまで広まってきてしまった。 鉄槍まみれ亭に戻ってからしばらくたったころ、その歌を耳に挟んでアタシは頭を抱えた……
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