8/30 【怠惰亭】はじめてのぼうけん

ウィルリプレイ  3
登録日:2016/08/31 05:21最終更新日:2016/08/31 18:26
秋の初めを感じさせる肌寒い風が吹く田舎道、四人の冒険者がとある村を目指していた。
早朝に出発した彼らが目的地へ到着したのは夕暮れ時を少し過ぎてからだった。

「日が、傾いてきたね」

細身の少年がポツリとそう呟いた。
病的なほどに白い肌と髪を持つ少年の名はゼル、魔法の知識と引き換えに短命の宿命を背負った一族『ハイマン』の血筋である。

「大分遅くなってしまったな……」
「村長って何処に居んだ? 普段」

そう言いながら辺りを見渡すのは長い耳が特徴的な『エルフ』の男性ハルハーディ――通称ハルと、大きな体と美しく輝く鱗を持つ竜人『リルドラケン』のアナンタである。
そしてもう一人、三人の後ろを歩く女性。十人が見れば十人が美女と答えるであろうその女性は、突然変異によってのみ生まれる謎の種族『ナイトメア』のソフィアだ。
初めて訪れる村、依頼を斡旋して貰ったギルドからは『討伐内容はゴブリンの討伐である』と言う事と『村長に会うように』とだけ伝えられていたのだが、村と言っても家屋の数は少なくは無い。
この中から村長の家を一度で当てられる者が居たら今すぐ冒険者を止めて違う職に就くべきだろう。
四人が途方に暮れていると、突如夕闇に包まれかけた農道に甲高い声が響いた。

「おーーーい」

その声の主を最初に見つけたのはソフィアだった。

「あそこで、女の人が手を振っているよ」

ソフィアの言う方向に顔を向けると、『村長』と言うイメージとはかけ離れた華奢で若い少女が手を振っているのが見えた。
思わずアナンタとハルは疑いの声を上げる。

「……あいつが村長?」
「村長にしては若すぎるような……」

こちらが存在を認知した事に気がついたのか、その少女は四人の方向へパタパタと走り寄ってきた。
軽く息を切らしながら、少女はまず四人に確認を取る。

「あのーーー、冒険者ですか?」
「あぁ、そうだよ」

アナンタが肯定の意を答えると、少女は少し驚いたような表情を浮かべた。
どうやら彼女はリルドラケンという種族は初めて目にする物の様だ。

「君が村長?」
「あ、いえ……まだ、村長代理です。未熟ですけどよろしくお願いします」

そう言って彼女は数回お辞儀をした後、名を名乗った。
彼女の名はマム、彼女の説明によれば先代の村長の父が無くなった後に本家の娘である彼女がその後を継いだということらしい。
しかしそう話す彼女の顔には暗い影が落ちていた。

「でも、村の会議で実績を出すまではまだ代理扱いって事に」

どうやらまだ彼女の立場は他の人間からは完全に認められたという訳ではないらしい。

「今回のみなさんのお仕事が上手くいけば、村長になれます。ご不安でしょうがお願いしますっ」
(あら、かわいい。お姉さん、こういうのに弱いのよね)

クスリ、とソフィアが頬笑みを浮かべる横でゼルが今回の依頼の詳細を訪ねる。

「僕たちに掛かっているという事か、ゴブリンの数はどれくらいだい?」
「えっと、ゴブリンは、たぶん15,16体くらいかなー」

首を傾げながらマムはそう言った。
15,16体と言うとかなりの大所帯である。
しかしゼルの顔はニタリと不気味に歪んでいた。

「15,16……か……ふふ……なるほど……」
「あ、それより、家に来てください。手作りのパイもありますよ」

そんなゼルに気が付いていないのか、マムは無邪気な笑みを冒険者たちに向ける。
しかしその笑みの中には微かな怯えが感じて取れた。
理由を聞くと彼女はこう答えた

「えっと、冒険者はちゃんと、もてなさないと、略奪をはたらくって分家の人が……」

彼女にとって冒険者は山賊に近い存在になっているらしい。
四人は困ったような顔をお互いに見合わせた。

「生憎金目の物に興味は無いんだ、それよりも……ふふ、早くゴブリンに会いたいね」
「略奪なんて……そんな事しませんよ」
「えっ? 皆そんな事するの?」
「し、しないけどー」

口々に弁明の意を話すとマムは少し安心したようにホッと息を吐いた。
誤解が解けたところで、ソフィアが依頼の詳細確認を続ける。

「ゴブリンの巣はどこにあるの?」
「ゴブリンの巣はここから4時間ほど行った山の中ですぅ」
「4時間か、結構かかるんだな」

予想以上の移動時間にハルが少し困ったような声を上げた。

「はい、山の中ですから私があるくと、どうしても時間がかかって」
「慣れてないからじゃないかな?」

伏し目がちになったマムをアナンタが優しくフォローする。
その横でソフィアは何かを考え込んでいるようだった。

「早朝に出ないと帰りが遅くなりそうだね、色々、『後始末』もあるだろうし」

そう話すゼルにそっと近づき、ソフィアは自分の考えを小声で述べた。

「ゼル、ちょっとこの子怪しいけど、ついていく? 女の勘がささやくわ」

そう疑うソフィアに、そんな事はどうでもいいと言わんばかりにゼルは囁き返す。

「僕は彼女が怪しかろうがそうでなかろうがどうでもいいんだ、むしろ彼女がクロの方が……ふふ、正当な理由が出来るね……」
「な、なんですか?」

ゼルの濁った視線に気づいたのか、少し怯えた目でマムが様子を窺う。

「いや、健康そうだと思ってね……血色も良い、凄く良い」
「あ、ありがとうございますぅ」

丁寧に、マムの体調を褒めるゼルであったがその裏には良からぬ意図も少なからず含まれている。
その様子を見てソフィアは心底呆れていた。

「とんだ、サイコ野郎だわ、ハル、アナタはどう思うの? ついていく?」
「現状、情報が少ないしな……とりあえずついて行っていいんじゃないか」

多少ソフィアの考えに同調するような素振りは見せたものの、ハル自身は彼女の家へ向かう事に異議はないようだ。
そうしていると、マムはゼルの手を握って農道を進み始めた。

「泊ってもらうのも、私の家になりますので」
「ちょ、ちょっとゼル 行くのー?」
「っと、俺たちもついていこうか」

明らかに不安そうな声を上げるソフィアにアナンタがそっと耳打ちをする。

「話した所敵意とか感じなかったぞ?」
「怪しさ抜群でしょ。ゴブリンが村を襲うのに4時間かけて山を降りる? しかも、略奪って? 何? 私たちが略奪されるんじゃないの?」
「ゴブリンも切羽詰まってるとかあるんじゃないのか?」

そうこう言っている内に一行はマムの家へと到着し、ソフィアも中に入らざるを得なくなってしまった。
扉を開けると、内部は古いながらもよく手入れされており良い匂いが漂っていた。

「じゃ、適当に座っててください、お茶の準備をしてきます」

そう言ってパタパタと走って行ったマムは、暫くして手にパイやケーキを持って現れた。
美味しそうな甘味に冒険者一行は目を輝かせる。

「晩御飯はもうすぐできますから、しばらくまっててね」
「ありがとう、ところですまないが御手洗いは何処かな?」
「手洗いは、あっちです」

礼を言って手洗いに向かおうとするゼルであったが、ソフィアは彼が持ち物から小型ナイフと大瓶を取り出した事を見逃しはしなかった。
当然、使用する理由を彼に問う。

「おい、ゼル トイレでなんでナイフが必要なんだ?」

彼は振り返り、ニコリを笑うとさも当然のようにこう答えた。

「あぁ、コレを食べたら血が作られてしまうからね……その分絞り出しておかないと、ね」

そう言って彼は手洗いへと消えて行った。
もはやソフィアに何かを言う気力は残っていなかった。

「じゃ、ゴブリンの事を話しますね」

一通り紅茶とスイーツを配り終わったマムは静かに語り始めた。

「この村のそばには、昔からゴブリンが住んでいて商人とかを襲っていました」
「ふむふむ」

美味しそうにケーキやパイを頬張りながらアナンタが相槌を打つ。

「でも、先代の村長までは『冒険者を雇うと村が荒らされる』って、放置してたんです」
「ふむ……ゴブリンが村を襲う事は無かったのか」
「襲われはしましたけど……死者はでませんでした……あ、時々出たかな」
「じゃゴブリンが冒険者に何かをして暴れたとか?」
「うーーーんと、よくわかんないですぅ。村の中の事は分かるけど、ゴブリンが外でどんなトラブルがあったかは、わかりません」
「しっかりしないわねー」
「でも、やっぱりゴブリンは悪いですから。みんなで、やっつけたほうが良いと思ってお願いしました」

話を聞き、ハルが少し不思議そうにマムへと質問を投げかける。

「ん? ということは特に襲撃があったから依頼したわけじゃないのか」
「そう、そこよ。ハル」

ソフィアが鋭い目線をハルへ送る。

「襲撃があったからじゃなくて、村の近くにゴブリンがいて、迷惑なんです」
「何か、痕跡とかないかしら、倉庫を荒らした痕とか、ないかもしれないけど足跡とか」
「痕跡? ……ないですね、青年団が大体かたづけるので」

そこまで話した辺りで、ゼルがテーブルへと帰ってきた。
服の下に瓶を隠してはいるが全員何が入っているかは大体予想出来ている。
気を取り直し、ハルが質問を続ける。

「青年団……っていうのは?」
「青年団っていうのは、分家の甥が率いてる私兵、みたいなものかな」
「ならその甥にも話を聞きたいところだね」

ゼルがそう言うと、マムはあからさまに嫌そうな苦笑いを浮かべた。
少し小声でその理由を呟く。

「ええーーーっと……甥の人には会いたくないなーって」
「……ふぅん、なら紹介状でも書いてもらって僕たちだけで尋ねるとしよう」
「そうだねー」
「だな……紹介してもらうだけでも」
「青年団から話を聞いてみましょう」

しかし、マムの表情は晴れなかった。

「うーーーんと、青年団には冒険者の事を話してないので……揉めるかなーーーって」

困ったように頭を掻きながら彼女はそう答えた。

「あの人たち、すごく排他的だから」
「あぁ、そういえばさっき冒険者を毛嫌いしているような事を言っていたね」
「冒険者が暴れるって言ってたね。それもあるのかな?」
「あ、はい。甥がとても冒険者を嫌っていて……」

そこまで言ってマムは何かに気づいたように言葉を訂正し始める。

「あ! でも私は町の学校で、冒険者はそんなに悪くないって、聞いていましたから。ちょっと、怖いくらいです」
「僕らを呼んで、君の立場は大丈夫なのかい?」
「えっと、立場はちょっとまずいけど……でも、他の人がゴブリンに悩まされずに済むならがんばろーかなっと」

彼女の話を此処まで聞いていると、突然ハルの目つきが鋭く変わった。
彼の目には、部屋の内部を扉の陰から伺う謎の影が映っていた。
ハルは平静を装いつつ全員に迅速に、状況を囁いた。

「誰か扉の外に居るぞ」
「んんん?」
「誰だろうね、大方見当はつくけど」
「あれ? みなさんどうかしました?」

キョトン、と不思議そうな顔でマムが冒険者たちに尋ねる。
ゼルが表情を崩し、答える。

「いや、少しこの部屋の書物が気になってね……もし良ければ後で読んでも良いかな」
「いいですよ」
「え? 本当ですか! 自分も読みたいです!」

そう言ってアナンタはプレゼントを貰った子供の様に目を輝かせ、本棚へと目を移した。
彼の頭の中は既に書物の事で一杯、知的好奇心の塊である。
そんな彼とは別に、三人は扉の外の不審者への対策を囁き合っていた。

「ゼル、あなたナイフ持ってたわよね、投擲してみたら?」
「外れたら逃げられるよ」
「出入り口は二つある、裏から回れば……」
「それで、支払いですが……」

そんな事を話していると、突然扉が大きな音を立てて開け放たれた。
それと同時に先ほどまで隠れていた男が姿を現した。
よれた上着に人相の悪い老けた顔、マムと同じ家の血を引いていると言われても信じる人間は少ないだろう。

「だめだ、だめだ、だめだ! おめー、何勝手に冒険者雇ってんだ? ん?」

そう言ってズンズンと男はマムの方へ近づき、マムの髪を掴みあげた。
マムは怯えた視線で男を見る。

「で、でもみんなゴブリ」

マムが言い終わらない内に、男の拳がマムの顔を殴打した。
衝撃でマムは倒れ、その上から男が彼女の顔を踏みつける。

「ちょっとあんた!! いきなり殴るのかい!!」
「ったく、だれのおかげで村長代理になれたんだと」

そう言いながら男はグリグリと汚れた靴底でマムの顔を擦っていく。

「女ごときが」

吐き捨てるようにそう言い、一層強く足に力を込める。
マムは男の足元で謝りながら口から零れた血を拭った。
それを見たゼルの目の色が、一瞬で変わった。

「どけっ!!」

男を止めに入ったハル諸共男をその華奢な体からは想像もできないような力で突き飛ばす。
突き飛ばされた男に鋭い視線を送りながらアナンタが二人の間に割って入った。

「あぁ……勿体ない……貴重な……貴重な血が……」
「え?」

ブツブツとそう呟きながらゼルはマムの口元を指で拭い、その指をそのまま口へと運ぶ。
異常な光景に一瞬思考が固まったのか当惑した表情でマムは固まっていた。

「ひどい奴だな」
「なに、人の村で勝手なこと言ってんだよ あーーーん?」
「ここに来て依頼を達成するように言われたのでね依頼主を傷付けるのは許さないよ」
「失礼ですが、どちら様ですか」

ハルがぶつけた頭を摩りながらそう聞くと、男はあからさまに不機嫌な態度で答えた。

「あ? 俺は分家の主の臭作、依頼主? 金もらってんのか? もらってねーだろうなー」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら臭作はマムの髪を掴んで無理矢理立ちあがらせる。

「こいつは貧乏だからなー、こいつが冒険者を雇った金もどうせ、俺が払うことになる」

マムはその言葉に少し悲しそうに冒険者たちから目を背けた。
マムの髪を掴んだまま臭作は下卑た視線でソフィアの体を品定めするように眺めている。

「ま、そこのおねーちゃんが、相手をするってんなら考えんでもないぞ」
「私は高いわよ」
「いくらだ?」
「最低でも1億ガメルよ、あと、体調によって値段が変わるわ」
「バカじゃねーか? おめーの価値なんざ、300ガメルだよ」

嘲笑うように唾を吐き捨て、臭作はマムの髪を離す。

「じゃあ、こいつら追い返せよ」

そう言って臭作は乱暴に扉を閉めてその場を去った。
その場に残されたのはマムと冒険者たちだけである。

「……すいません、お見苦しいとこを」
「大丈夫?」

スカートの汚れを払い、血を拭うマムをアナンタが心配そうに見つめている。
マムは冒険者たちの目を見ないまま、小さな声で話し始めた。

「甥は、あんなこと言いましたけど、私はゴブリンを退治してほしいです」

そして少しの間の後、震える声で彼女は言った。

「お金なら、なんとか払います。甥と結婚すれば、そのくらいは払えますから」
「え……」

ソフィアが絶句する、先ほどの言動から見てあの男は喜んで結婚するような相手ではないだろう。
彼女は村民の為に自分の人生を捨てると言ったのだ。

「とりあえずアイツについては後でも良いだろ……何か情報を持ってるかもしれないしな」
「依頼だから自分は大丈夫だが、皆はどうする?」
「金よりも、欲しい物が出来たからね」
「勿論、行くわ」

全員の意見が一致した。

「報酬は、あのクズの血だ」
「……ありがとうございます、優しい人ばかり……」

彼女の眼には、涙が浮かんでいた。

◇  ◇  ◇  ◇

そうして翌日の早朝、冒険者たちは準備を整えゴブリンの巣へと向かった。
天気は穏やかで、山道も冒険者たちにとっては何という事は無く目的地には楽に到着する事が出来た。
教えられたゴブリンの巣は山奥の古びた遺跡で、中からは多くのゴブリンの話し声や鳴き声が聞こえてくる。
そしていざ突入、という寸前、ゼルがこんなことを言いだした。

「出来るだけ、ゴブリンの血を出さないで貰えないかい?」
(でたー)
(うわぁ)
(うぅん……)
「可能なら、動けない程度まで痛めつけるくらいで止めてほしい」

全員が引き気味に冷めた視線を送っている事も全く気に留めず、ゼルは語り続ける。
暫くしてうんざりしたようにソフィアが話を遮った。

「まぁ瀕死の状態まで追い込むわ 努力する」
「……よし、行くぞ」

そして遺跡へと進んだ四人、前衛にソフィア、アナンタ、ゼルが構え後衛にハルが陣取る。
グラップラーのソフィアとフェンサーのアナンタは当然なのだが、ソーサラーのゼルが前衛に出ているのは彼の性格の問題である。
遺跡へと足を踏み入れると、中には6体のゴブリンが潜んでいた。
扉を開けた途端、内部のゴブリンが前衛の三人へと襲いかかった。

「ふふ……」
「きゃっ!?」
「キャー!?」

ソフィアと見た目とはかけ離れた可愛らしい叫び声を上げたアナンタとは間一髪ゴブリンの攻撃をかわしたが、ゼルは二匹のゴブリンの攻撃を危機として受け止めた。
脇腹と口から溢れる血を見て、彼は何とも嬉しそうな笑みを浮かべる。
体を捻り、攻撃をかわしたソフィアは目の前のゴブリンへその反動を乗せた連撃を牽制するように浴びせかける。

「獅子連撃ッ!!」
「エネルギーボルトッ!!」

よろめいたゴブリン目がけて、ソフィアの背後から飛来した魔法の矢がゴブリンの胸を射抜く。
深手を負ったゴブリンは忌々しそうな視線を二人に向けた後、奥へと下がって行ったがまだ五体のゴブリンが彼等を狙っている事に変わりは無い。
その中の一匹が冒険者たちの頭上をヒラリと飛び越し、ハルへと飛びかかる。
咄嗟の事で反応が遅れたハルはそのままゴブリンの攻撃をその体で受け止める事となったが、彼の判断は早かった。

「スリープ!」
「!?」

魔法使いにとって接近戦は非常に不利である、なら接近されたらどうするか? 答えは簡単だ、眠らせて無力化してしまえば良い。
糸が切れた人形のようにゴブリンはその場へ崩れ落ち、寝息をたてはじめた。
前衛だって負けてはいない。ソフィアがゴブリンの攻撃をかわし、そのまま一匹のゴブリンを連撃で空中へと打ち上げる。
それをアナンタは見逃しはしなかった、空中で身動きが取れなくなったゴブリンへジャベリンの一閃。
正に閃光の如き突きにゴブリンはその命を散らした。

「おいおいおいおい」

その直後、頭上から聞き覚えのある男の声が響き渡る。
全員が頭上に目を向けると、あまり会いたくは無い男がそこに立っていた。

「なーに勝手にゴブリンを退治してくれてんだ、あ?」
「臭作……!!」

臭作は何かを抱えながら頭上から飛び降りた。
臭作に抱えられているのも見覚えのある顔、マムだ。
マムは後ろ手に縛られ、臭作にその場に乱暴に座らせられた。
その後ろから新たな2体のゴブリンが姿を現す。

「ったく、ゴブリン殺されたら上前はねられねーじゃねーか」
「マム……! 汚いぞ、人質か」
「ゴブリンとグルなのか」
「あ? おれがゴブリンを使ってやってんのよ」

ベタベタとマムを触りながら臭作が面倒臭そうに答える。
臭作は懐からナイフを取り出し、冒険者たちに語りかける。

「で、おめーらどうする? このまま、ここで死んでくれるか?」
「僕は構わないけど」
「ゼル!!」
「ま、そこのでか乳は助けても良いぜ」

マムの胸を揉みしだきながら臭作は下卑た声で要求をソフィアに投げかける。

「助けてほしければ、下着になって俺の横に来な」
「いやー、それは勘弁。死んだほうがマシってやつだわ」

その返答に一瞬だけ臭作は不機嫌そうな顔を浮かべたが、すぐにまたニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべはじめた。
彼の言葉と同時にゴブリン達が再び戦闘態勢を取り始める。

「じゃあ、戦闘継続といくか……おっと!」

迎撃しようと構えを取る冒険者に大声で臭作が牽制を掛ける。
マムの首にナイフを当てながら意地の悪い笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。

「気をつけな、おめーらが動くと、このマムが死ぬことになる」
「……奴には会話は通じなさそうだな」

ハルがそう言うと何かを思いついたようにソフィアがゼルとアナンタに小さな声で何かを囁いた。
三人は臭作ではなく、ゴブリン達自身に事情を聞くことにしたのだ。
汎用蛮族語で三人は一番近くのゴブリンへ話しかけた。

「そこのゴブリン、何であの男の下で働いてるの?」
「おれ、あたまいい、あのおとこ、つかってる」
「何のために?」
「あいつ、たびびと、くる、おしえる」
「それでその旅人を襲うの?」
「そうだ」

ニヤリ、とゴブリンが三人を見て笑う。
人数で勝っている為絶対的な自信を持っているようだ。

「たびびと、おいしい、おまえらも、おいしそう」
「そうか、お前たちが使っている男は今『俺はこのド低能のゴブリンを使ってやってる』と言っていたが?」
「おれたち、だます、むだ」

どうやらゴブリン達にも話が通じるような様子は無い。
溜息を吐いて三人は顔を見合わせる。

「なーに、ごちゃごちゃ言ってんだ?」

痺れを切らしたように臭作が声を張り上げる。

「ま、道は2つだ。その女だけが助かるか? 全滅するか?」
「……もう、ダメね、私が降りるわ」

ソフィアは観念したようにそう呟いた。
驚いたようにハルとアナンタがソフィアを見るが、ソフィアの顔は変わらない。

「アナタのところについていくわ」
「ほう、じゃ、下着でこっちにこい」

ゆっくりと服に手を掛けながら臭作に近づいていくソフィア。
しかし彼女がまず脱いだのは上着では無かった。

「あせらないで、ゆっくりいきましょう?」

するりとスカートの中から絹の下着を脱ぎ捨て、挑発するようにクスクスと笑って見せる。
その様子に臭作だけではなく周りのゴブリンたちも目が釘付けになっている。

「ゴクリ……は、早く来い」
「ふふ、今、私の服をめくったら、どうなるのかしらねー」

そういって尚も臭作へと近づいていく。
臭作達はその近くの物陰を走る影には、気づいていない。

「あせらない、あせらない」

上着のジッパーに手を掛け、胸元まで下ろすとその大きな胸の胸元が露わとなる。
臭作の興奮が最高潮に達したのと、ハルがスリープの射程範囲10mまで近づいたのは同時だった。

「スリープ!!」
「!!」

しかし、ハルが詠唱を行う一瞬早く臭作がハルの存在に気づいてしまった。
スリープは臭作の抵抗により無効化され、臭作の顔が怒りに染まっていく。

「おいこら、何してんだ? この女がどうなってもいいのか!」
「ッ――! しまった!」

次の瞬間、別の詠唱が遺跡内に響き渡った。

「――エネルギーボルト」

ゼルから放たれるマナの矢、それが臭作の肩に突き刺さる。
只一つ誤算があったとすれば、とっさに臭作がマムへナイフを突き刺した事だけだ。

「「「「!!」」」」
「…………」

涙を流し、強い意志を持った瞳でマムは冒険者たちを見据える。

「後をお願いします……」

そう言ってマムは床に伏した。
この状況に一番驚いているのは臭作だった。

「や、やっちまった」

彼には最初から彼女を殺す度胸などなかったのだ。
時が止まったようなその空間で、誰よりも早く動き出したのはソフィアだった。
驚くべき速度でマムの元へと飛び込み、臭作から引き離し応急処置を始める。

「マム、死なないでね」

ソフィアの動きに背を押されるように、他の冒険者たちも行動を開始する。
ハルのスリープは驚き固まっているゴブリン一体を眠らせるには十分すぎる程の効果だった。

「エネルギーボルト」

ゼルの生み出したマナの矢が固まったままのゴブリンへと突き刺さる。
その矢を押しこむようにアナンタのジャベリンが矢を的確に突くと、ゴブリンは力なくその場に倒れ伏した。
ようやく状況が呑み込めたのか、ゴブリン達は逃走を開始した。
しかしその中でも少数の向かってくるゴブリンにはアナンタのジャベリンが待っている。
急所を的確に貫くアナンタの突きによってゴブリンは絶命、向かってきていたゴブリンも戦意を失いアナンタへと命乞いを始めた。

「いのち、たすけてー」
「まぁ、話を聞いてからだね」

散り散りになったゴブリン達は敵ではなく、直ぐに掃討は完了した。
そして立ちつくす臭作を確保し、縛るのも簡単な仕事である。
臭作を縛り終えた三人がソフィアの方へ顔を向けると、ソフィアはこちらにウインクを返した。どうやらマムは一命を取り留めたらしい。

「さて、こいつをどうするか」
「た、たすけてくれぇー! しかたなかったんだ、うちには年老いた母と、若い愛人が」
「うるせー」

ソフィアの強烈な一撃が臭作の脳天に直撃、臭作は涙ながらに訴え続けている。

「おれ、結婚してくれる相手がいなくて、マムなら結婚してくれると……」
「絶対いや」

いつの間にか目を覚ましたマムがハッキリと嫌悪の色を示しながら拒絶の意を表す。
何とも馬鹿らしい理由に冒険者4人は呆れた顔を見合わせた。

「マム、しゃべれるのか?」
「な、なんとか……平気ではないですけ……ど……」

マムはそう言ってまたフラフラとソフィアへと寄りかかって行った。

「村長として、この人は警備に引き渡します」
「役人に突き出すのね、それがいいわ」

ぜーぜーと息を切らしながらマムが臭作の処遇を告げる。
マムによれば分家は解散するだろう、とのことだ。

「あと、私を家に連れ帰ってください」

ニッコリと笑いながらそう言うマムは、どこか成長したように見えた。

◇  ◇  ◇  ◇

分家の陰謀を解き、無事依頼を達成したゼル、ハル、アナンタ、ソフィア。
彼らの冒険はまだまだ続く
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1. アポリオン
2016/08/31 18:26
いやあ、お見事!一気に読んでしまいました!
ウィルさん書くの上手いですね〜!そして速筆とは羨ましい限りです。私もただのタイピングならともかく、ちょっとした文章を考えながらだとどうも…汗
でも本当に面白かったです!お疲れ様でした!
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