【ゴブリンスレイヤーTRPG】ゴブリン・ダンスステージ・ウィズ・アドベンチャラーズ

いかさん
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登録日:2020/09/09 01:29最終更新日:2020/11/01 21:47

◆前書きな◆

これは8月31日に開催された、『【ゴブスレ】小鬼の踊り場【黒曜白磁】』のリプレイを小説風にまとめたものです。最初に誤っておきます。すいませんでした。でも死ぬほど楽しかったです。

◆◆◆

からんころんと賽子が踊り、今日も新たな冒険が生まれる

神々が振る賽子の女神が導いたのは一夜限りの奇妙な宴か

はたまた死が跋扈する世界の終焉か

◆◆◆

 冒険者ギルドの朝は早い。明け前から遠くへ以来を受けに行く一党が荷支度を整えてあくびを殺しながら出ていき、あるいは夜通し戦っていた一党があくびを隠さず上階の宿へ歩いていく。そんな横で、新しく冒険者になりに来た雑多な装備の無頼漢達が律儀に列を作っていた。
「代筆する?」
「あぁ、大丈夫っす。文字は多少書けるんで」
 ひどく眠そうな目をした一人の若者が他からすればかなり手慣れた筆致で文字を紡いでいく。早朝で眠いわけではなく、そういう顔立ちの男というだけだ。彼も他の無頼漢同様、食い扶持を稼ぐために冒険者になりに来た、何処にでも居る只人の若者だった。
 よくある話だ。村が滅び、生き残りが食い扶持を稼ぐために冒険者になる。彼の場合だってそう違いはない。特筆すべきことがあるならば、その原因が疫病だったことくらいだ。死に絶えた村からなんとか銀貨や銅貨をかき集め、親友とともに命からがら町へと出てきた。それだけだった。なんてことはない、よくある冒険者の生い立ちだった。
「よし、これでいいっすか?」
「ん、いーよいーよ、はいはい、リーアスくんね、はい、これがあなたの認識票ね」
 気だるげな様子の受付嬢から受け取った、物語を書かれる前の羊皮紙のようなまっさらな白、白磁の認識票。穿たれた穴に紐を通して首にかける。腰に下げた新品の舶刀、纏った綻びもない衣鎧、さっきまでただのならず者だった彼が、いまや冒険者だ。
 といってもまだ何も成していない冒険者というものは、やはり相応でしかないし、それよりなにより食い扶持を稼がなければならない。冒険者らしく仲間を集めて、冒険者らしく冒険に挑まなければならない。
 そしてふと目に入った白磁の認識票、ええいままよ、同じ白磁なら同じ事を考えているはずだ、きっと一党の人員を求めているはずだと、根拠のない自信を持っていた。
「なぁ、よかったら俺と一党を……」
 言葉は一旦そこで止まる。認識票しか見ていなかったため気づかなかったのだろうか、斥候にあるまじき視野の狭さだ。よりにもよって話しかけたのは恐らく年下だろう少女だった。なんだかバツが悪くなって、出かかっていた言葉は飲み込まれてしまう。そんな彼の様子を察したのか、錫杖を抱えた少女は苦笑いで返す。
「さっき登録していた人よね、私も今日冒険者になったばかりなんです」
「見たところ、神官か?」
「えぇ、交易神の。そちらは?」
「軽戦士のなりしてるが、一応斥候の心得はあるぜ」
 前衛と後衛、まぁ悪くない。だが、人数が多くて困ることはない、他にも声をかけてみようか、そう考えていたとき、二人を覆うように影が落ちた。
「では、戦士が必要か?」
 上から降り注ぐような声、見上げるとそこには紅い鱗に覆われた爬虫類の顔があった。大きな上背にたくましい肉体。誰が見間違えようか、恐るべき竜を祀り、その末裔を自称する生粋の武人、蜥蜴人だ。
「といってもオレもまだ修行の身でな、登録したばかりの駆け出しだが」
「いや、蜥蜴人がいてくれるなら心強い!」
 ぱん、と手を打つ景気のいい音が響く。
「蜥蜴人、初めて見ました。あなたは会ったことがあるんですか?」
「あぁ、訳合って村がなくなっちまってな、そのとき様子見に来てくれた蜥蜴人の司祭に助けられたんだ」
「父祖を祀る司祭殿か、同じ蜥蜴人としてオレも精進せねばな」
 これで前衛二人に後衛の術士一人、まぁ悪くない。足りない足りないと言っていても誰かがぽんとよこすなんてあるわけがない。足りないものを満たすためにも冒険者になったのだ。ともあれ、とにかく依頼だ、食い扶持を稼ぎにいかなければならない。
 掲示板でも覗いてみるか等と話していると、今度は低い位置から声がかかる。
「なぁ、そこの、ちと手を貸しちゃあくれんか?」
 小柄だ、しかし子供ではなく、太く、逞しい体の鉱人だった。見た様子からすると戦士のようだが、首から下げた白磁の認識票に並んだ、戦女神の聖印が彼を神官たらしめていた。階級こそ同級だが、円盾に刻まれた傷が彼らより前に冒険を済ませてきたものだということを示している。
「知り合いの神官が依頼を持ち込んできたんじゃが、ワシらでは手がたらん」
 正直なところ、一行にとっては渡りに船とも言える状況だった。だからといって意思確認をしないわけにもいかないことは、十分にわかっている。
「どうします?」
「俺はいいぜ。助けてって言われて見捨てるような真似するのは寝覚めが悪い」
「同感だな、良いにせよ悪いにせよ、話を聞かねば始まらぬというもの」
「ワシとしちゃあ話を聞いてもらえるだけでも助かるわい」
 おーい、と声をかけられて、ギルドの片隅で聞き慣れない音楽に合わせて調子外れな鼻歌を歌っていた少女らしき人影が向かってくる。しかし、その異様な風体に一同は思わず顔を見合わせた。
 一見して人のように見える、しかしその頭から伸びた角は明らかに只人のそれではない。なんだか動作も態度も大きいように見えた。首から下げた認識票は黒曜。彼らよりは上だが、それでも駆け出しに違いはない。
「人手が見つかったようじゃな、褒めて使わすぞ!」
「うるさいわい」
 ふむ、と蜥蜴戦士は顎に手を当てている。
「蜥蜴人だな」
「わかるんですか?」
「まぁ、見てくれは違うが同胞であるゆえに」
「混じり(ハーフ)か?」
「さてな、聞かぬほうが良いだろう」
 余計な詮索はしないのも、冒険者の処世術の一つだろう。
「なーにをごちゃごちゃと言っておる!ま・ず・は・自己紹介じゃ!」
 そういえば、一党を組むことになったものの、そう言えばお互いの名前すらも知らなかった。奇妙奇天烈に見えるが意外とまともなのかもしれない。よし、と声を出したのは眠そうな顔の若者、リーアスだ。
「じゃあ俺から自己紹介な。俺はリーアスっていうんだが、まぁありふれててな、周りからは眠そうなのとか半眼のとか呼ばれてる。まぁ好きに呼んでくれ。一応斥候をさせてもらってるが、登録したてだしそんなに使えるってわけじゃない。武器は刀舶と投石紐があるから、そのときに応じて前に出たり後ろに下がったりできる。こんななりだが一応教会で勉強してたし、なにか役に立つことを覚えているかもしれない。まぁ、よろしく頼む」
 では、と続ける交易神の神官。
「交易神の信徒のリディアです。家の借金がかかってるから依頼は報酬さえ妥当なら下水掃除だろうが小鬼退治だろうが選り好みはしないよ。奇跡は1日3回。それが尽きたらひたすら投石紐で石を投げる感じかな。こんな感じだけど、よろしくお願いね」
「いや、術はここぞというときに使うものだ……」
 声を出したのだから続けねばなるまい、と言うのは蜥蜴戦士だ。
「オレはコスモ・ビサイダー、見ての通り蜥蜴人で兵士をやっていた。呼び方は『トカゲ』でもなんでもよい。同胞の若い衆に修業を積むなら冒険者が良いと勧められて登録をしたばかりだ。器用なことは出来んが盾の扱いなら少し覚えがある。よろしく頼む」
「次はワシじゃな。ワシは鉱人の戦女神の神官出身じゃが、神殿が財政難で禁酒令を出しおったので、財政難の解消と自分自身の飲酒の自由を求めて冒険者になった、名をスログという。頑丈なのが取り柄じゃが小鬼くらいなら楽々成敗できるぞい。一応奇跡も一日2回使える。小癒のほかに戦女神様の槍を賜る場合もある。それではよろしく」
 うむ!と食い気味に少女が声を上げる。
「それでは依頼にゆくぞ!」
「おぬしも自己紹介せんか、いいだしっぺじゃろ」
「むぅ……ごほん!わらわはこの世を統べる蘇りし『Дьявол』クレブスクルムじゃ!クルムとよぶがよいぞ。わらわは下僕共を従え戦うことができる。皆の者、よろしくたのむぞ!」
 しかし、彼らには肝心なところが聞き取れないでいた、それは古い、とても古い蜥蜴人の言葉であった故に。駆け出し3人は顔を見合わせて小さな声で話す。
「なんて言ったんだ?」
「コスモさん、分かりますか?」
「いや、オレにもわからん。古い言葉のようだが……」
「なにをごちゃごちゃ言っておるか!はよう受けに行くぞ!」
 スログはやれやれと言った様子でため息を零す。なるほど彼女と2人では苦労しようというものだ。
 こっちじゃというスログについて行くと、先程クルムが耳を傾けていた不思議な音色を奏でる人影がそこにあった。
 頭をすっぽりと覆う深編笠、このあたりでは見かけない異国風の黒装束、植物をくり抜いたのだろうか、節だった見慣れない笛を携えている。見慣れぬものからしてみれば異様にも見える。大道芸人の類にも見えるだろう。事実、そばに置かれた小箱には、小銭が入れられていた。
「虚無僧っつう、異国の神官じゃ」
 スログの言葉にへぇと誰かが呟いた。虚無僧は演奏を止め合掌し、リディアとスログが各々の宗派の仕草でそれに答える。
「話を聞いていただけるようで、まずは感謝を。さて、依頼のことですが……」
 こほんと一つ咳をすると、虚無僧は祝詞でも読み上げるような朗々とした語り口で告げる。
「ある日、村人からはいった相談がきっかけでした。森の奥よりこの世のものとは思えない恐ろしい音が聞こえてくるとのこと。野伏を派遣し、様子を探らせたところ、小鬼どもが儀式のようなことをしていたと」
「儀式?小鬼が儀式なんかするもんなのか?祈祷師(シャーマン)じゃあるまいし」
「『祈り持たぬもの(ノンプレイヤー)』が一丁前って感じだね」
「そういう上位種がいるという話もあるな、虚無僧どの、どうなのだ」
 ふむ、と笠からわずかにでた顎を手でなぞりながら記憶を辿る。
「なんらかの上位種はいるだろうと、野伏は言っておった」
「まぐれでなにか起こる前に止めにゃあならんな」
「猿でも無限に言葉を連ねりゃそのうち詩がかけるってか?」
「失敗してかえって厄介なものを呼び出しちゃったりとか?それは怖いなぁ……」
 そうしているとしびれを切らしたのは、案の定クルムだった。
「細かいことはよい、今は受けるか、受けぬのか、それからじゃ!」
 メチャクチャなようだが、正論でもある。このまま話していたところで時間は無為に過ぎていくだけだ。何が起こるか、どうするかはその時に賽子の女神に尋ねれば良い。
「私はもちろん受けるよ。明日の飯のタネだからね」
「そうだな、駆け出しが仕事を選り好んでられるかっての」
「よろしく頼むぞ、虚無僧どの」
 虚無僧は合掌し、感謝の意を示す。
「依頼を受けてくださり、感謝する」
「うむ!わらわが受けたのだ『Грязевая лодка』?に乗ったつもりで任せるが良い!」
「すげぇ自信だな」
「なんだ?蜥蜴人の言葉に似ているが……わからん」
「蜥蜴人に会うのは初めてだけど、よく分からない言葉を使うんだね……」
「うちの知り合いにもひとりいるが普通に話してたぞ」
「Gryazevaya lodka?なんの呪文じゃ……」
 誰にもその詳細は伝わることはなかったが、それは『泥舟』という意味を持っていた。幸いにも一党で最高の階級を持つ彼女が言った、誰もを不安にさせるような言葉は誰にも伝わらなかった。
「さて、申し訳ないが伝えられる情報はこの程度だ、しかし、道案内は可能だ。森で迷うことはないぞ」
「それは助かる。辿り着けぬのでは笑い話にもならんからな」
「ここから森まではどのくらいなの?」
「近いわけではないが、1日で往復可能な距離だ」
「そこそこあるな、なんか準備しておくか?つっても金なんかないけど」
 リーアスは萎んだ硬貨袋をちゃりちゃりと鳴らす。
「10枚ほどありゃあ水薬程度は買えるじゃろ」
「まぁ、予防で持っておいて損はないかな。あ、受付さーん!」
「お、そうじゃ、森には子鬼以外に怪物とか獣はおるかの?」
「いるだろうが、その辺は拙僧に任されよ。伊達に森深き村で僧をしておらぬよ。獣避けの策はある」
 うむ、とコスモは感心したように頷く。
「ならば獣避けの香などは用意せんでもよかろう」
「買ってきたぜー、道中で何かと出くわしても安心だな」
「うむ、今しがたその心配がなくなったところだ」
「……」
「そう落ち込まないで、きっと役に立つ時が来るから……」
「あぁ……」
 あからさまに凹んだ様子のリーアスを無視して虚無僧は話をすすめる。
「拙僧も同行し、できる限りの支援をしよう。情報は多くないが、道案内は可能だ。森で迷うこともないだろう」
「たどり着けぬのでは笑い話にもならんからな、かたじけない」
「ここから森まではどのくらいなの?」
「近いわけではないが、一日で往復は可能な距離だ」
「なるほどな、それくらいなら準備はとっくにできておる」
「節約ってやつじゃな」
「あ、準備というなら私も神様にお祈りしておきたいな」
「うむ!祈りは大事じゃ!」
「ふむ、では神官殿の祈りが済み次第出発しましょう」

◆◆◆

 しばらくして、森の入口までたどり着いた。一見するとなにもないように見えるが、草が踏まれ、枝が折れた獣道が見える。
「この辺は滅多に人は来ないものです。森人あたりは精霊が多いとはいいますが、拙僧にはわかりませんな」
「なるほど、たしかにこの辺の野草は食えそうだな……」
「え、ほんと!?どれが美味しいの?」
「俺の言う『食える』は、『腹を壊さない』って意味だ」
「そっか……家系の助けになればと思ったんだけど……」
「できますれば、依頼を完了後にしてください。お腹を壊されると困りますので」
 怪訝そうな虚無僧の言葉に、リーアスは冗談だというふうに取り繕う。
「携帯食料あるうちはそっちを食うって!」
「いや『胃石(ベアゾール)』の奇跡でもあればあるいは……」
「おぬしも食うことを考えとるんじゃないわい」
 虚無僧の言葉から周囲をキョロキョロと見渡しているのはクルムだ。すこしして満足したように、うむ、と一言。
「精霊はいっぱいいるようだのう」
「ほう、見えるのか『D’yavol』?殿」
「当然!精霊術師じゃからな!」
「なるほど、精霊を使うと。いや待たれよ、下僕とは竜牙兵ではないのか?」
「わらわは戦女神の司祭じゃ」
「オレが言うのも何だが……本当に同胞か?」
 わいのわいのと不用心に話しながら獣道を進んでゆくと、木々が消えて空が見えた。開けた場所に出たようだ。さながら広場と言った様子でその中央には枯れた大木が諸行無常を訴えるようにその腰を下ろしている。枯れ木をなぞるように登る煙の下には小鬼の集団が周辺の村から攫ったのだろう、家畜らしい豚を焼いていた。周囲にも適当に手を付けて放ったかのように家畜の死骸が転がっている。
「たけき者もついには滅びぬ、であるな」
 コスモの小さな呟きに合わせるように虚無僧は合掌した。
「ところでおぬしら、大丈夫か?」
「はぁはぁ……結構遠いんだね……」
「森の中は歩き慣れてないせいかな……ちょっと疲れたぜ」
 今回が初の冒険になる2人はやや息を切らしているようだった。同じ新米のコスモは元兵士とだけあって歩き慣れているのだろう、2人ほどの消耗はないようだ。
「道草食っとるからじゃ」
「まずかったぜ」
「まじで食っとったんか!」
「草でも食べないとやっていけませんよ……」
「まさかおぬしも食ったんじゃあなかろうな……」
「……」
「わらわは平気じゃ!」
「おいおい」
「今はそれよりも、あれをなんとかせねば」
 コスモの指差す先にはひときわ大きい小鬼、大小鬼(ホブゴブリン)がいる。この子鬼の群れの頭目なのだろう。他の小鬼が媚びへつらっている。ろくに下処理もされてない家畜の焼ける不愉快な臭いも彼らにとってはごちそうなのだろうか。とても満足げな顔で笑っているようだ。
「大1,小が2、油断しなけりゃ容易いな」
「あほう、もっと周りを見よ、弓兵が居るぞ」
「お、ほんとだ」
 流石黒曜等級と言ったところか、指差す先には2体の小鬼弓兵が眠そうに見張りをしている。自分たちだけ食事にありつけないのが妬ましく、それでいて大小鬼に反抗できるだけの度胸もなく、ただごちそうを見下ろすだけだ。
「皆のもの、ざこどもを蹴散らすのじゃ」
「おぬしも働かんかい。ワシは下のをやる。上のは飛び道具持ちに任せたぞ」
「あいよぅ」
「任せてください!」
「オレも下をやろう、虚無僧殿、隠れておれ」
「あぁ、かたじけない、その前に、白磁級の方には拙僧から、祝福を授けよう」
「奇跡を授かるのに遠慮なんか出来ないな」
「へぇ、ありがたいね!」
「わらわにはかけられんのか?」
「これは、我が神の奇跡なのだが、何分、村人を守るための奇跡故に、強い者にはかけれなくてな。白磁までが限界なのです」
「私は白磁でか弱い女の子だから大丈夫だよね?」
「まぁ、そうですな」
「もらえるものはなんでもありがたいものだな」
「それでは」
 そう言って虚無僧が祈りを捧げると、白磁級の4人の武器は加護が宿ったかのように輝きで包み込まれた。
「それでは、頼みまするぞ」
 そういうと溶け込むように森へと消えた。先程までは周囲から見ると冒険者一党も同じようだったのだろう。
「では、行くぞ」
「待たれよ皆のもの!罠らしきものがあるぞ!」
 飛び出しにかかったスログをコスモが静止する。指差す先にあるのはロープだ。草の陰に隠れて見えづらい。稚拙だが恐らく罠だろう。
「どれどれ、見せてくれ。さすが蜥蜴人だ、こういったのには強いんだな」
「全然気付かなかったよ、ありがとトカゲさん!」
「兵士の経験が役に立ったようだ」
 こういった罠は斥候の領分だ、小鬼の罠程度、白磁の彼とて手まどうことはない。鳴子を鳴らないように押さえつけて、ロープを切断するだけだ。
「よっと、意外と簡単な作りだな」
「うむ、よくやった」
「さすが本職の斥候さんだ、器用だね」
 うむ、とコスモは頷く。
「これで不意を打てるか」
「いけそうじゃのう」
「ではわらわからゆくぞ!」
 ばん。と手のひらが打ち合わされる音がする。森人や、あるいは精霊使いがいれば雨馬(ケルピー)の舞い踊る姿が見れただろう。
「駆けろや雨馬どんと行け、土から森川、海から空へ!」
 雨乞(コールレイン)だ。クリムは蜥蜴人でありながら精霊に愛されている。故に触媒を使わずとも精霊は答えてくれる。強烈なスコールが子鬼の群れに襲いかかった。打ち付ける雨は急速に体力を奪っていく。
「雨よ!降るのじゃ!皆のもの、行くが良い!」
「わ、すごい大雨。精霊の力って凄いな-……」
 突然の雨に見舞われ、火がかき消え、視界が雨に沈む。
「GOOB?」
 何が起きたかもわからない小鬼の頭蓋を槌鉾が打ち砕いた。小鬼は雨から肉をかばおうとした姿勢のまま泥になりつつある地面に沈んだ。
「成敗!」
「GOBA!?」
 同様、コスモも取り巻きの小鬼に槌鉾を振り下ろす。グシャリと潰れた頭蓋からザクロのように脳髄がこぼれ落ち、槌鉾の返り血を雨が洗い流す。
「お父さん譲りの狩りの腕を喰らえ!」
 崖上の小鬼弓兵にまで雨雲は届いていた、広い視野を確保できていたはずだが、突然の豪雨に阻まれ、隣りにいる味方もよく見えない、よもや遠くで投石紐を振りかぶる冒険者など。
「GAA!?」
「GOB?GYAA!!!」
 時間を開けて飛んできた2つの石礫が見事にその頭蓋を穿った。生死などみるまでもない。
「よっし」
「これで残るはホブだけだね!」
 大小鬼は強かに打ち付ける豪雨にうまく動けないでいた。雨というものは以外にも急速に体力を奪うものだ、それは祈り持つものであろうが、持たざるものであろうが関係ない。
「GOOOB……」
「おっとっと」
 緩慢な動作で近場にいたスログに大金棒を奮ったはいいが、疲れからか速度が乗らない。スログは辛うじてそれを回避することが出来た。そして返しざまに槌鉾を振るう。力の乗ったそれが大小鬼の顎を打ち据えて、首の骨があらぬ方向へ曲がる鈍い音がした。
「GOA……」
 ずしん、と重い音を立てて大小鬼は倒れる。二度と起き上がることはないように見える。
「うむ、おわったようじゃな!わらわの雨のおかげじゃ!」
「スログさんナイス殴りだよー!」
「ワシにかかればこんなものよ」
「大子鬼を一撃で、見事であった」
 姿を隠していた虚無僧が小走りで駆け寄ってくる。
「皆さん、お見事でした。危なげなく勝てましたな。いやはや、これからは雨にも注意しないといけませんな」
 術の効力が切れたのか、嘘のように雨は上がっている。
「それにしても魔術ってすげぇな」
 雨の名残はもはや足元の泥だけだ。ぐちゃぐちゃと踏みながらリーアスは感心したように空を見上げる。彼には雨馬が見えないが、おそらくもう走り去ったのだろうと勝手に納得している。
「クルムちゃんの雨の呪文すごいんだね!」
「わらわにかかればあの程度の魔法簡単なのじゃ!」
 さて、と冒険の終わりに安堵する一党にわざと水を差すように虚無僧が指差した先には石室があった。扉は固く閉ざされ、遠目からでも鍵がかかっているのがわかる。
「どうやらあの石室の中から邪悪な気配がします」
「む、奥のあれか」
「あ、この肉焼きが儀式ってわけじゃなかったんだね」
「肉焼きが儀式になるなら毎晩どっかで儀式が起こってるぞ……」
「妙だと思ったんだよね-、あはは……」
「あれはただの宴会でしょう。流石に野伏もこれを儀式とは報告しないでしょう」
「とりあえず、中にあるのが魔物だろうが宝だろうが開けてみなけりゃ始まらねぇさ」
 リーアスは適当に拾った細い棒を隙間に差し込んでなぞってみたり、あるいは鍵そのものを検めて見る。
「罠はなさそうだが、俺の道具じゃ開けられねぇ」
「斥候のくせに鍵も開けれぬのかや?」
「複雑なんだよ!うるせぇな!図星だけど!でもどっかに鍵はあるだろ」
 ふむ、と、虚無僧もそれに同意するように続ける。
「野伏から聞いた数よりも少ないが、何処かにでかけた様子もない。鍵があるとするならば近くに隠されてるやもしれませぬ」
「はて、どこにあるのかのう……」
「みんなで探してみようか!」
「見つからなければ力が物を言うだけよ」
 ふぅむ、と顎髭をなでながらスログは雨で湿気った焚き火の残骸を木の棒で突き回す。しかし、焼けた家畜の死骸をのぞけば、なにかがある様子はない。
「それ、食えねぇと思うぜ」
「お前と一緒にするでないわ!」
「私も食べれるかななんて思ってませんよ!」
「えぇ……」
「おぉ!」
 クルムの歓喜の声に一党が視線を向けると、そこには10フィート棒を掲げる彼女が居た。
「お~この棒はいいのう……」
 ちゃんばらをする子供か、と声を出しかけたリーアスだったが、先程の魔術が恐ろしかったのでやめた。
「おっスコップ!これはよく手に馴染むね!」
 リディアもその近くに立てかけてあったスコップを何故か嬉しそうに掲げている。
「これで殴る!前衛デビューしちゃおうかな!なんてね!」
「やめておけ、戦司祭でもなかろうに……おや」
 コスモが木箱の中から見つけたのは鍵開け道具だ。見たところまだ新しく使えそうだ。
「オレでは使いこなせそうにないな、いるか?」
 こういうものは斥候の領分だろうとリーアスに見せると、もらえるものはもらっておくぜ、と言わんばかりに手を差し出していたのでポイと投げ渡した。
「ありがとな」
「いや、かまわん。そっちはなにかあったか?」
「あぁ、多分、穴蔵かな?」
「ほう、怪しさ満点じゃな」
 よっこらせと言いながらリーアスは穴蔵を漁ってみると、何やら指に触れるものがあった。それを引っ掛けて顔を出し、それを光に照らす。複雑怪奇な形状をしているが、それが何に使用されるものかはわかる。
「お、鍵だ!」
「うむ、よくやった!わらわの指示に従ったおかげじゃな!」
「そんな指示受けたっけなー俺。それより、まだ奥があるみたいだな、どうする?」
「穴蔵といやぁ鉱人じゃろうて、まかせい!」
「がんばってねー」
 スログは雨でもろくなった穴蔵を慎重に降りていく。
「なにかありそうじゃな」
 大分深くまで潜ったが、鉱人としての直感がこれ以上はまずいと告げていた。咄嗟に側にあったもんを掴んで穴蔵を這い出る。するとその直感が正しかったことを示すかのように穴蔵は崩れてしまった。
「なんかあったか?」
「汚れちまっとるが、恐らく聖印じゃな」
「わ、すごい!」
「でもそんなもんがここにあるとなると……」
「落とし主は気の毒だね」
「むむむ、この無念は晴らしますぞ……」
「奪われたものやもしれません、冒険者に使われるのでしたらきっと喜ばれるでしょう」
「そうじゃな……」
 よし、としんみりとしてきた空気を振り払うようにリーアスは鍵を掲げる。
「さっさと開けてみようぜ!」
「うむ、じゃが少し待つのじゃ。この先に何か居るやもしれん。増援を呼ぶとしよう」
「つっても今からギルドに戻るのかよ」
「言ったであろう?わらわは下僕を従えて戦うことができると!」
 すぅ、と大きく息を吸うと、今度は周囲の気温が少しばかり上がった気がした。
「掲げよ燃やせや松明持ち(ウィル・オ・ウィスプ)。沼地の鬼火の出番ぞな!」
 吐いた息に炎が宿る。すわ『竜息(ドラゴンブレス)』かとおもいきや、その炎は形を持ち、誰もが見える形でそこに顕現した。すなわち『使役(コントロール・スピリット)』の呪文である。通常のものよりも一回り大きいそれは、自由精霊と呼ばれるものだ。彼女の力量が伺える。
「よしよし、じゃあ開けるぜー。魔物が出るか、金貨が出るか!」
 リーアスは鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと回した。がちゃり、と独特の抵抗を指先に感じる。
「開いた、やっぱここの鍵だったみたいだぜ、さーて何がはいってるのかな-っと」
 意気揚々に石室の扉に手をかける。重たい扉がゆっくりと開き、中に光が差し込んだ。

その時である!

石室の奥に眠っていたのは渦を巻く魔法陣だ。溢れ出るマシックパワー粒子がタイフーンのように渦巻き、石室から溢れ出す。それはさながら濁流めいて枯れ木に吸い込まれていく!まさかこの石室が閉じ込めていたのは魔物でも宝でもなく溢れ出るマジックパワーだったのか!

「なんだ!この悍ましい気配は!?身の毛もよだつ音は!?」地を揺るがす地獄めいたヘビーサウンドが鳴り響く。出どころはどこだ?虚無僧はプリーストインスピレーションに従い枯れた大木見上げた!まさかアドベンチャラー一行は開けてはいけないパンドラボックスの蓋に手をかけたのか!

暗黒オーロラめいた光の奔流が大木の頂点から溢れ出し、暗黒非合法ディスコさながらの様相を見せている。おぉ、見よ!まるで世界の頂点に立ったとでも言うかのように踊る一つの小さな人影があるではないか!それはゴブリンの……ダンサー!しかもズンビー化しているではないか!

「あれは!」スログは声を上げた。彼は知っているのだ!あのモンスターの存在を!リディアとクルムも知っている。マジックキャスターの中では共通の常識として存在していてもフシギではない!モータルの不倶戴天の敵であるズンビーゴブリンダンサーだ!

「ドーモ、アドベンチャラー=サン、ズンビーゴブリンダンサーです」ズンビーゴブリンダンサーのアイサツと共に、倒れていたゴブリンの死体も、肉を置き去りにして起き上がる!フシギ!なんと面妖な光景か!これがかの預言書に記されたマッポーのいち側面とでも言うのだろうか!

「倒した小鬼が踊っておるぞ!?」スログは驚愕した。ゴブリンスケルトンは肉を失った身体を踊らせているではないか!しかもその落ち窪んだ眼窩には生者を恨んでいるかのような光が灯されている。コワイ!まさかこれがズンビーゴブリンダンサーのジツだというのだろうか!?

いや、それだけではない!家畜の死体も起き上がるではないか!「BMOOOO……」ズンビーバイソンだ!そのダンスは力強く、それでいて実際軽快である!もう一つ、いや、ふたつ起き上がる!「BHI……」「BUU……」ズンビーホッグだ!流れるようでいてキレのあるダンス!

「豚さん牛さんには悪いけど、これはちょーっと神の教えに反してるから、もう一回眠ってもらわないとね」ポエット!ズンビーは自然の摂理に実際反している。神官である彼女が見過ごせないのも無理はない。彼女は錫杖を構え、ジツを唱えられる姿勢をとった。

「これが俺の、ダンス・ネクロマンス・ジツだ!俺はこのジツでダンスで世界を支配する!」ズンビーゴブリンダンサーの動きに合わせて、ズンビーバイソンとズンビーホッグが踊り、アーチャーゴブリンだったスケルトンゴブリンが融合!スケルトンホブゴブリンへと変化する!

「くそっ来るぞ!構えろ!」リーアスはカトラス・ソードをイアイドーで構えた。それを合図にアドベンチャラー一行はズンビー軍団に飛びかかる!まず動いたのはスログだ。その小さな体格からは想像もできないアドベンチャラー脚力を駆使して向かうはズンビーホッグだ。

「BHIII!!!!」ズンビーホッグはそれを弟子を迎え入れるスモトリのような寛大な心で受け止めるように立ちはだかる。「イヤーッ!」スログの渾身のヘビーメイスが突き刺さる。だが、足りない!大きくよろめくが、全てを削り切るには至らなかった!恐るべきズンビー耐久力!

「ぬぅ!」「コレでは手が足らん!もう一体呼ぶぞ!」クルムはファイアースピリットの支援を受け、スピリット・ジツを唱えた。すかさずファイアー・エレメンタル降臨!「アバー」しかし、ズンビーゴブリンダンサーはすかさずスケルトンゴブリンをけしかける!アブナイ!

「ぬぅ!」スログはすかさずブロック!ハヤイ!だが、ウカツ!振り下ろされたスケルトンゴブリンの小さな腕は、ズンビーゴブリンダンサーのダンス・エンチャントにより強化されている!「グワーッ!」スログはかろうじて盾で受け止めた。しかし、そのダメージは深刻だ!

「スログ=サン!いや、いまはズンビーホッグを倒すのが先決!イヤーッ!」リーアスはズンビーホッグに追い打ち、斜めにイアイド斬撃を繰り出す!「アバーッ!?」胴体を切り裂く!ワザマエ!ズンビーホッグは物言わぬ肉塊へと再び帰った。「まず一つ!」

ズンビーホッグが倒れてもズンビーゴブリンダンサーのダンスのキレは衰えることはない!生贄はまだ残っているのだから。「いけ!」再びクリムにむけてもう一体のスケルトンゴブリンが襲いかかる。スログはすかさずブロック!「グワーッ!」やはり攻撃は非常に重い!

一方枯れ木を登り、ズンビーゴブリンダンサーを狙いに行くのはコスモとリディアだ。「ウオオオ私は野伏、森の子!木登り得意!」リディアの自己暗示シャウトだ!コスモは手慣れた動作で登っていく!アドベンチャラーは二手に分かれる作戦に出た!上下での並行作戦である!

「アバー」しかしそれを見逃すズンビーゴブリンダンサーではない!今度はスケルトンホブゴブリンがリディアに向けて襲いかかる。アブナイ!「ひゃああっ!」咄嗟にしゃがんで回避!ブオン!空を切る凄まじい音!「空振りの音すごっ!トカゲ君こいつ強いよ!!」リディアの涙の訴え!

下ではどうだ?別のスケルトンホブゴブリンがリーアスに襲いかかる!「アバー」しかしリーアスはスカウト身体能力を活かしこれをバク転回避!しかし、状況はジリープアーだ!なにか打開の一手を打たなければ、ツキジめいた光景が広がるに違いない!

「ゆけ!下僕よ!」クルムの命令によりファイアースピリットがカトン・ジツを使う!「イヤーッ!」強力な熱波が2体のスケルトンゴブリン、スケルトンホブゴブリン、ズンビーバイソン、ズンビーホッグを襲う!スケルトンゴブリン無残!骨は焼け落ち灰が残った!ナムアミダブツ!

「もう一発じゃ!」「イヤーッ!」もう一帯のファイアースピリットのカトン・ジツ!しかし、精霊としての各の差か、ダメージは思ったように与えられていない。無念!スケルトンホブゴブリンとズンビーアニマルたちはまだ健在だ!そこにリーアスが走る!

「まずはお前だ、これでも食らいやがれ!イヤーッ!」リーアスはカトラス・ソードを振りかぶり、ズンビーホッグにイアイド斬撃を繰り出す!しかし、手応えが浅い!ズンビーホッグの機敏なダンスに合わせることが出来なかった!機敏なダンスはとどまることを知らない!

「く、このままではオタッシャ重点、ヒーリング・ジツだ!」スログは実際度重なる攻撃のダメージが蓄積している。限りのあるジツを消費しても誰も責めはしない。「スゥーッ……ハァーッ……」神への祈りが通じ、呼吸とともにアドベンチャラー回復力が増加する!

「イヤーッ!」その頃枯れ木の足場ではコスモ、リディアの2人とスケルトンホブゴブリンのイクサが繰り広げられていた。コスモの振り下ろしたヘビーメイスはスケルトンホブゴブリンに実際有効である!しかし、それを踏まえてもなお硬い!ダメージになっていない!

「ホーリースマイト・ジツ!」リディアはプリーストロッドを振るう、しかし、不発!だがこう言った不測の事態のために行っていた祈りが通じ、ダイスの出目が裏返る!『リバース・ジツ』だ!再びプリーストロッドの先端に力がやどり、輝きを放っている!”

「ホーリースマイト・ジツ!イヤー!」プリーストロッドの先端からテスラコイルめいて放電!「アバー」しかし、仕留めきれない!なんというスケルトン耐久力、そしてズンビーゴブリンダンサーのワザマエか!通常の小鬼だったならば二度は死んでいるであろう一撃を耐え忍んだのだ!

「ごめんね!仕留めきれなかった!」リディアの悲痛な叫び!だが、敵はもう少ない!「あと一息じゃ!ここを耐えれば勝てる!」そうだ、そのとおりである!スケルトンホブゴブリンが向かったのは幸いにもファイアースピリットだ!その命と引換えに、主を守ったのだ!

「ンアーッ!!!!」しかし、上ではそうは行かなかった!リディアのホーリースマイト・ジツを危険視したのか、スケルトンホブゴブリンが襲いかかる。無念、コスモは間に合わない!コートが切り裂かれ、血が吹き出す!危険な状態だ!しかし辛うじて生きている!

「むむ、わらわが敵を鈍らせる、体制を立て直すのじゃ!」クルムはアマゴイ・ジツを使った。強烈な豪雨で敵を弱らせ命を奪う、残酷なジツだ!しかし、敵をすべて覆うには足りない!しかし、それでも効果は十分だ!ズンビーゴブリンダンサーのジツが弱まったではないか!

「ア、アバー!?」リディアノホーリースマイト・ジツで限界寸前まで痛めつけられたスケルトンホブゴブリンが無残にも崩れ去った。ナムアミダブツ!しつこく狙われていたリディアは安堵のため息。「はぁ……やっと骸骨ストーカーが逝ってくれた……」

「ファイアースピリットよ、スログ=サンを援護するのじゃ!」「助かる!こうなれば奥の手じゃ!うおお!ヴァルキリーランス・ジツ!イヤーッ!!!」精霊の力を借り、光の槍が浮かび上がる!ズンビーバイソンめがけ投擲!ゴウランガ!ズンビーバイソンの巨体が大木めいて崩れ落ちる!

「イヤーッ!」クリムはクロスボウを放つ!目標はスケルトンホブゴブリンだ!放たれた矢は頭蓋を打ち砕く!「イヤーッ!」そして残る一つ、ズンビーホッグに対し、リーアスはイアイド斬撃!炎に焼かれ、切り刻まれたズンビーホッグは、チャーシューめいて崩れ落ちた!

「下は片付いたぞ!」「任された!」スゴイタカイ・カレキの頂上では、ついにズンビーゴブリンダンサーとコスモが退治していた。「ドーモ、ズンビーゴブリンダンサーです」「ドーモ、ズンビーゴブリンダンサー=サン、コスモ・ビサイダーです。覚悟するがいい!」

「イヤーッ!」先に動いたのはコスモだ!豪快なヘビーメイススイング!ズンビーゴブリンダンサーは機敏なダンスステップで回避……できず!「グワーッ!」その威力は実際、強力!だが、ネクロダンス・ジツで強化されたズンビーゴブリンダンサーは未だ健在だ!

「やるな!これはお前たちの新しいダンスの風か!雨天も吹き飛ばす熱さだ!」「そうだ、これは俺とお前とのイクサだ!」「ここから先は貴様と俺との一騎打ちだ!」しかし、そう思っているのはズンビーゴブリンダンサーただ一人だ、アドベンチャラー一行は横槍を入れる!

「ホーリースマイト・ジツ!イヤーッ」リディアのアンブッシュだ!しかし、ジツはダンス・フィールドによってかき消える!それはまるで横槍を拒むかのようだ!「私のダンスが……眼中にもない……!?」「リディア=サン!敵のジツに乗せられるな!」

「よい動きだ!だが、はたして頂点に立てるかな!?」ズンビーゴブリンダンサーのネクロカラテだ!コスモはシールドガード!見事受け止める!しかし思い一撃でダメージを無効化出来ず!「くっ…なんてダンスの応酬…!すごい気迫だ!」リディアは完全にダンスの虜だ!

そこに急速に接近する影がある!スログだ!彼は優れたアドベンチャラー身体能力でスゴイタカイ・カレキを登頂!ズンビーゴブリンダンサーに殴りかかる!「イヤーッ!」「グワーッ!なんだ、俺たちのダンスバトルに走り込んでい来るだと!こいつ、できる!」

「これでとどめだ!ハイクを詠め、カイシャクしてやる」「やはり、最後はお前かライバルよ」「イヤーッ!!!!」コスモのヘビーメイスがその胴体を打ち据えた!サツバツ!それでもなお、ズンビーゴブリンダンサーの目にはまだ光がやどり、その口は言葉を紡ぐ。

「見事だ頂点にたったな。だが、忘れるなダンスを忘れた時。ダンスが牙を向く事を!サヨナラ!」ズンビーゴブリンダンサーは朝もやに溶ける夢のように消え去った。「や、やった……?」「恐ろしいやつじゃった……」「音が消えたのう、おわったのかや?」

 魔法陣の光が消え、音も雨雲と共にに消え去り、冒険者一行は夕日が照らす中で一行は一息休みを入れていた。短いようで、長く険しい戦いを乗り越えたのである。
「はぁ、疲れた……草食わなきゃもっと動けたかなぁ……」
「わーん、ほっとしたら痛くなってきたー!スログさん、ギルドまでおんぶして~!」
「ワシはもう動けんぞ……全力でてっぺんまで登ったから……」
「ふ~疲れたのじゃ、精霊よ、ちと膝枕をせよ、なんじゃ、皆傷だらけじゃのう」
「オレは見た目ほどではない。平気だ」
「女の子が大怪我してるんだから男を見せてよ~!」
「無茶言うでないわい」
「痛い……けどお金が勿体ないから水薬飲みたくない……」
 わいのわいの話していると、身を隠していた虚無僧が現れた。
「皆、ご苦労でした、治療は拙僧が請け負いましょう」
 虚無僧の小癒の術や応急手当により、辛うじて歩けるまでに回復した一行は、帰路についていた。夕日はもう沈みかけ、空には薄っすらとふたつの月が見え始めている。そんな中、スログがボソリと呟く。
「腕を上げればこれも良い思い出に・・・なるじゃろうか」
「その内笑って話せるようになるといいね……」
「なるさ」
 リーアスはあえて断定した。
「失敗しないで一流になったやつはいないと思うぜ」
 ギルドまでの道程は未だ遠い、しかし、それはいずれ語られるであろう彼らの冒険譚のほんの些細な始まりの1ページに過ぎない。今はただ帰り道を歩くのみ。
「ギルドに帰るまでがクエストだぜ!」
 道の先に、夜の帳に浮かぶ街明かりが見えた。

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コメント一覧

浅見
2. 浅見
2020/09/09 13:12
リプレイ小説の作成、お疲れさまでした〜!
細かい部分を地の文で補足・発展させていて読み応えがありました!
大変面白かったです。
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セス
1. セス
2020/09/09 06:00
 この辺、難しいですね、
「PCs/NPCs名を入れるとアレだし!」
ですが・・・。

 完全第三者視点の風景画風な小説的リプレイは、
やはり、難度高いですね。

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