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😶 アフターストーリー③「心傷夢①」 (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)昨日、こんな夢を見た。 円型の蛍光灯の光に照らされながら、身長3尺ほどの小さな私が、両親と姉たちに囲われながら朗らかに笑っている。そんな夢。 笑っている、と言っても特段面白い笑い話をしているわけでもなく、身近な人間の失敗談を笑いの種にしているわけでもない。例えば、今日はたくさん勉強しただとか、たくさん友達と遊んだとか、そんなもの。しかし、そこにいる人たちにとっては、どれを取っても嬉しいだとか、喜ばしいと感激することばかりなのだ。 何故だか私はこれを夢だと自覚し、その光景を見続けている。 私は、観測者だった。 幸せの光景をただ何もできずに、傍から淡々と見続けている。そこには、喉から手が出るほど欲しいものが、失ったものがあるというのに手も足も動かず、何もできない。 正直、羨ましかった。 夢の私が、今そこで笑っている私が羨ましくてしょうがなかった。 しかし、渇望しているからこそこんな日々の光景を願ってしまっているのかもしれない。 こんな地獄を見せられている私からすれば、そうとしか思えなかった。 そんな光景は、ふと靄がかかるように、希薄と化していく。それは、水の中に絵具を落としていくような感覚にも似ていた。そして、最後には真っ白な世界になっていく。しかし直ぐに、まっさらなキャンパスに色を塗りたくっていくかのように、鮮明な映像が描かれていく。 そしてようやくと待たずして、その映像は流れ始めた。 そこにあるのは、鼻は機能していないはずなのに、むせ返りそうになるほどの惨たらしい光景。確かにあの部屋のはずなのに、そこに照明の明りなんてものはなく異様に暗い雰囲気に包まれ、部屋の壁は赤黒いペンキをバケツごとぶっかけたような様相を呈しており、床には、先ほどの笑いの輪にいた両親の顔が横たわっていた。 しかし、その首は既に胴体から離れている。絶命しているのは、事実は火を見るよりも明らかだった。 そんな中で、ただ一人生きている少女がいた。 私である。 血塗れになった部屋の中で、一人呆然と立ち尽くしている。 目の前に広がるこの光景は、夢の中の光景ではないはずだ。これは、実際に起きたことだ。現実に起きた出来事だ。だから、この光景が私の記憶の中に存在していることは、当たり前のことなのだ。 だから、私は早くこの悪夢が覚めてくれ。そう願いながら、瞼を閉じようと試みる。 そこで初めて、体が動くことに気づいた。 私は観客席から眺め続ける「観測者」から舞台を演じる「役者」へと変貌していることを理解した。 ならば、することは一つであった。 この悪夢を終わらせる。それだけが今の私にできる最善の選択だった。 私は、リビングからキッチンへと向かった。そして、包丁を手に取り、自分の腹を引き裂こうと包丁を振り下ろそうとした。 ――そのときであった。 「ねぇ、なんで私達を見殺しにしたの?」 そのゾッとする声に手が止まった。 その声質は、ひどく恐ろしいほど冷たいものだった。まるで、氷のように冷たく、刃物のような鋭さを持っていた。 その声は私の知っているものであるはずなのに、聞き馴染んだものであるはずなのに、まるで別人のそれに聞こえて仕方なかった。 私は、恐怖でまた先ほどのように体が動かなくなっていた。 それでも何とか視線だけ動かし、声の主の方へと向ける。 するとそこには、あの日、突如として失踪した次女である姉の姿があった。 いや、正確には、姉の姿をした何かが立っていたのだ。 その何かは私の方へゆっくりと近づいてくる。 一歩ずつ歩みを進めるごとに、その姿は朧げになり、やがて真っ黒な影となった。 私は、必死に体を動かし、その場から逃げ出そうとする。しかし、金縛りにあったかのように体は動かない。それどころか、呼吸さえもままならない。 そして、いつの間にか私の後ろにまで迫ってきていたそれは、再び口を開いた。 「ねえ、なんで?なんで、私達だけあんな目に会う必要があったの?」 それは、怨念のこもった声で私に問いかけてくる。 答えられるはずがなかった。 何故なら、私はその答えにまだ到達できていないから。 あのマダム=ジュリアが何故私たちの家族を襲ったのか、それを知らないから。 そして、その問いに対する回答を持ち合わせていないから。 だから、答えることができなかった。 「ねえ、答えなさいよ」 それに苛立ったのか、彼女はさらに語気を強める。 その声には怒りと憎しみが込められていた。 彼女の口から言葉が紡がれていく度に、憎悪は膨らんでいく。 もう既に、私はどうすることもできなかった。 だから、私はもう殺されるのだと悟った。 気づいたときには私が右手に持っていた包丁が手元から離れ、それが力強く握っていた。 私は歯を嚙みしめたが、それよりもこの悪夢が終わるのだとどこか安堵し、ゆっくりと瞼を閉じた。 そして、怨念の混じった叫び声と共に得物が私に向かって差し迫る。
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