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😶 アップルパイの行方(りんごはあまい、ネタバレ小話&諸々) (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)実のところ、どうやって“かえった”のか、圭はハッキリと覚えていない。 見つかった恐怖、落ちていく恐怖。 それから、なにか。恐ろしく、おぞましい、なにか── そこから先の記憶が曖昧だった。それどころか、今なら思い出せる“怖かった”という感覚すら甘い何かに溶かされていた気がする。 あの時、もし誰かに『悪い夢だったね』なんて囁かれていたら、ソレを無条件に信じたのだろう。 「……あげないよ」 「え?」 ダイニングテーブルを挟んだ向かいからの慣れた声に、思考が現実に引き戻された。瞬きをひとつ、間の抜けた声をひとつ発した圭の目の前には小学生の妹の姿がある。 「昨日、お姉ちゃんがくれるって言ったんだからね。返されないからね」 皿を覆うように背を丸め、明らかに警戒の色を滲ませた瞳と声にようやく相手の意図を理解した。 違う違う。そう笑って首を振ったところで、訝しげに向けられた瞳が大人しく彼女の前の皿へと向かう。 小さなフォークがパイ生地を貫いた。シナモンとバターと、それから甘ったるい匂いがふわりと舞って、鼻腔に届いたそれは言葉の代わりに突き刺さる。全て、全てが現実なのだ、と。 覚えていない。その言葉に嘘は無い。 ただ、それでも。記憶に無いとしても、理解していることがある。 不可解な場所だった、奇妙な時間だった。道徳が通用しないあの空間から、自分達は抜け出した。アップルパイを買って、自分の居るべき場所に帰ってきた。 アップルパイを、買ったのだ。 あの部屋で、フルーツの盛り合わせを手に取ったのは誰。 少しの逃げも許されない拘束具に捕らわれている細い首を見たのは、消え入りそうな声で紡がれた願いを聞いたのは。 子どもっぽいなぞなぞの裏に隠されていた、残酷な示唆に気付かなかったなんて言えるわけがなかった。言える、わけが── カタン、と突如鳴った音にが思った以上に強張っていた身体を震わせた。いつの間にか俯いていた顔を持ち上げた圭が、戸惑いを多く含めた瞳が捉えたのは、ひとかけらのアップルパイ。 小さなフォークと、と小さな手。その向こうには、喜ぶべきか悲しむべきか、見慣れてしまう程に幾度となく見た呆れたように笑う顔。 「しょうがないなあ。はい一口」 可愛らしく甘えるものや無邪気なものよりも最近は多く聞くようになった、どこか背伸びした声。 私は、これに会いたくて帰ってきた。 ぐ、と喉の奥から込み上げてきたものを押さえ込む。ここから先も、言葉にしてはいけない。 “私以外の誰か”が帰らせてくれた。 迂闊に近い年頃の妹がいることを零してしまい、すべき選択を察しても往生際悪く部屋の中を漁り続けた自分の代わりに、重い物を背負ってくれた誰かがあの中にいたのだ。 それに向けて言うべき正しい言葉が見当たらない。何かを言う権利すらないように思えた。 眼前にある甘い欠片。先ほどのように甘ったるい匂いを感じないのは気のせいか真実か、はたまた願望か。結論が出るより先に、小さな欠片が音もなく落ちる。 「あっ、ほら落ちちゃうっ。早く!」 「は、はいっ」 逆らえるはずがない。なんせ、相手は我が家のオヒメサマ、遠慮なく厳しい声がかかれば動く以外の選択肢は無かった。 僅かに腰を浮かせ、身を乗り出してその甘味に向けて口を開くその直前、僅かに震えた指先に力を込める。もう焼き立てでもない、そのたった一口は残酷なほどに美味しかった。 ************* 今更ながら、りんごはあまい探索者、岡橋圭の後日談を。 ちょっと恥ずかしいので公開先を狭めてます… 岡橋はまさかのまさか、最後を不定発症で終わらせている分、色々な部分が曖昧だろうなとは思いつつ、流石に何も気付かないまま日々を呑気に過ごすのは無理だろうと思ってこんな感じに。 PL目線としては「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えたけど、PCとしてはどっちも言えない気がしている…うーんまたあの方々に会えた時に違う形で挽回したい、と思うかも。 ところで、これを書いている時に PL発言では「妹がいる」とは言ってもPCではちゃんも明言していなかった とか ギロチンの目星情報をRPで共有していなかった などの事実に気付いてしまいました。 ほんとRPは今後の課題…もっと場数踏んで頑張りたいです。
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