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😶 グリオーマアクアリウム その後 (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)後日談の小話2本。楽しかったです。 *** 30年も生きていると、他人が自分を称する言葉などは限られてくる。その中で特に聞いてきたものといえば、妙に器用、だとか(逃げ)足が速い、だとかそのあたりだろうか。 しかし、今日は酷く足が重い。器用に嘘を吐ける気もしない。 不可思議な空間から、普遍的な街中に戻された動揺だけが原因ではないのは理解している。 はあ、と溜息を零して無理矢理に足を動かした。行き先は、いつの間にか感情のままに握り締めていたらしい、ぐしゃりと丸められたメモが知っている。 彼はなんと言っていただろうか。祖母への言葉を頼まれていたはずだが、一体何を伝えろというのか。 9年ほど前に他界した祖父の言葉が脳裏に蘇る。どうにもならないことはあれど、本来生き物は順に天寿を全うすべきなのだと、だから自分が先にいなくなるのが自然なことだと。自分がいついなくなっても、お前がこの仕事で飯を食えるように厳しくシゴいてやるからな、と。 普段は嫌になるほど厳格なあの人が、珍しく穏やかに笑って言っていた言葉。笑って言うことかよと呆れながら聞いていたソレも、今ならなんとなく意味が分かる。 ……10年も生きていないような少女が、非情な現実に怯えて死にたくないと言う少女が、病気でその命を落とすことが“天寿を全うする”ことになるのかと問われても、答えることはできないが。 そもそも、選択する権利を与えられなかった自分が何を“正”だと示しても、怯え震えながら答えを出した青年を止めることをしなかった自分が何を考えても、意味はないのだ。わかっている。 わかっているが、それでも。妙に明るくて懐っこかったあの男に、鑑みることはもっとあっただろうと、もっと言ってやれば良かったと思う気持ちが拭えない。お前の命と、それに関わる人の気持ちは、運命を捻じ曲げて捨てていいものなのかと。 頭では行き着く先のないものを考えていても、足はきちんと行き先まで動いていたようだ。メモにあった住所、目的地はもう目の前にある。 幸か不幸か、目視できるところについ先ほどに見た顔まで見つけた。 自分も決して明るい顔はしていないだろうが、きっと相手の方の顔色の方がずっとずっと悪い。 せめて彼の負担だけは減らしてやらなければと、声をかけるよりも先に目の前の家のインターフォンに手を伸ばす。 その時だった。 よくある電子音が鳴るより先に、勢いよく扉が開いた音が響く。 呆気にとられた自分の瞳が捉えたものが、更にこちらの思考を、動きを止める。 現れた彼の姿には覚えがあった、なんて話じゃない。この道中、柄にもなく人の頭を悩ませた原因である青年。 なにが、どうして。だって、この目はあの異様な空間で、彼の分かたれてはいけない部分が別れてしまった様を見たはずなのに。 驚きと焦燥、そして僅かな恐怖がじわりと背中をなぞったと同時に、青年の瞳がこちらを向いた。唾をひとつ飲み込んで、その名前を呼ぼうを口を開く。 ──つもりだった。 最初に感じたのは風。次に気付いたのは、目の前にはなんの姿も見えなくなったこと。 振り返ると、全力で街中を駆け抜けていく後ろ姿が見える。 あとはもう反射だ。持ち前の脚力で遅れを取り戻すことは容易かった。 おそらく同じものを見ていただろう、もう1人が追えているかは気になったが、そこはきっとどうにかなる。 名前と探偵事務所、あたりの単語で調べれば連絡先のひとつやふたつ得られるはずだ。少なくとも、目の前の人間の顔も認識しないほどに、またはそれを気にもできないほどに一心不乱に走る男の行き先を、見失った後から探すよりは楽だろう。 驚くほどに足が軽い。おそらく本気を出せばそろそろ捕まえられる気もするが、敢えてそれをしなかった。 少しずつ、進む先に何があるかを理解していったからかもしれない。走っている彼に絶望している様子が見えなかったからかもしれない。ただの勘だったのかもしれない。 彼の脚が止まった先に、泣き顔があるのを想像する。悪夢のような現実の最後に見た哀しいものではなく、未来の光に照らされたもの。 幼い少女と、それから、この心優しい青年と。…もしかしたら、後ろから来るであろう探偵の目にも涙が光るのだろうか。 そんな、恥ずかしくも眩しい光景を確認したら、自分のやることはひとつ。そう決めて、走りながら拳を握り込む。 優しくも無謀で、勇敢な男に愛のある拳骨を。ばか野郎とお帰りの意を込めて、与えてやるのだ。 *** 風に乗って喧騒が響く。色彩は鮮やかで、見る人々の心を震わせるのだろう。 聞こえてくる声のひとつひとつには熱に浮かされているような気配すらあって、それがこの空間の空気を更に温めているようだった。 連休初日のテーマパーク。天気は快晴とくれば、これだけの賑わいも理解できる。 ちゃんと覚悟をして来たのだ、と人混みに揉まれる自身に言い聞かせたその目に映るは、周囲の人間と同じく浮かれた笑顔を浮かべる少女と青年。 少し離れたところから眺めていると、楽しそうだ、と隣に並ぶ男が穏やかに笑った。 奇妙な縁で繋がった彼らと、こうしてどこかに出かけるのはもう何度目か。 病気でベッドの上に縛り付けられるしかなかった少女の本来の性質は、あの不可思議な遊園地で出会った時となんら変わりない。人懐っこく、たくさんのものに全力で向かう、活発で明るい女の子。 病、という彼女を縛るものが無くなったのなら、その本質が顔を出すのは当たり前…いや、我慢させられていた分だけ更に強まっているのかもしれない。とにかく、全快した彼女が興味を示すものは溢れんばかりで、尽きることを知らないようだった。 結局は全ての記憶を残していた少女と青年の約束を守る形で、何故か当たり前のように誘われて、初めてまともな遊園地に赴いたのはいつだったか。 少女1人、青年1人、おっさん2人というバランスの悪い組み合わせに、あらゆる方面での不安を抱きながら連れられた記憶はもう遠い。 慣れてしまうほどに、当たり前の面子になってしまっていた。 自分のコレクションないし商品を運ぶことだけが主な役割だった車に、人を乗せる機会が増えて、1人だったら死んでも行かない場所の情報と知識が増える。人生って何があるかわからねぇなと独りごちたところで、どうやら聞いていたらしい隣の男が可笑しそうに笑った。 距離をとって見守っていた2人のうち、少女の方が振り返る。こちらに向けて大きく手を振った彼女に、応えるように片手を上げると、満足したのか上げた手を青年の手の中へと戻していった。 逆の手には、いつの間にかテーマパークのメインキャラクターが描かれた風船の紐がくくりつけられている。2人の姿を目で追うと、キャラの被り物が陳列されているワゴンへ向かう様子が見えた。 どういう場所でもあるものだな、と感心したところで、風船の不規則な動きが海の中でゆらりと揺らめく魚に思えて、僅かに瞳を細める。 いくら回を重ねても、時が過ぎても褪せない記憶がひとつ。 人のいない遊園地。鮮明な青は、頭上にある晴れ空とは異なる色をしていた。 立ち並ぶ珊瑚礁の奥、突き付けられた事実と、求められた決断。震える、少女。 最初に、ひどく震えた少女を目の当たりにしたのは自分だった。帰りたくないと繰り返す言葉を聞いたのも。 そして最後、その少女を生かす決断を是としなかったのも自分だ。 残酷なことだとわかっていながら、優しい青年を脅して自らの命を選ばせようとした。 ひこおじちゃん、と小さな身体からは考えられないほどに大きな声が耳に届いて、途端に意識が現実へと揺り戻される。 再びこちらへと振り返っていた現実の少女が、モンスターの被り物と、可愛いリボンのついたカチューシャを両手に持って掲げている。どっちがいいー?と声を張り上げられてしまえば、周囲の視線も気になるもので。流石に距離を詰めざるを得ない。 気付くと隣にいたはずの男も、とうにワゴンの方へと近付いていて、あーでもないこーでもないと青年と言い合っている様子が見てとれた。 …これは、彼女の装備を選んでいるという話でいいのだろうか。自分にもつけろというお達しなのであれば、こればかりは勘弁をと逃げる準備をしなければいけない。 そんな心境などは知ってか知らずか、こちらの意見を求める少女は、変わらずに無邪気な笑顔を向けてくる。 あまりにも無邪気で、無垢な笑顔。言外に信用しているのだと言われているようで、思わず再び目を細めた。 (……知ってるかい、夏海ちゃん) 君が全幅の信頼を置いて見ているその男は、君を見捨てようとした男なのだ、と。 脳裏に流れるその言葉は罪悪感に似た何か。 それが、音となって飛び出すことはない。この先、何があったとしても口にすることはないものだ。 聡明な少女がどこから正気になって話を聞いていたのかはわからないが、そういうことではないのだと理解している。 最後まで己の無力さに歯噛みしていた優しい男も、己の身を呈しても彼女を救うと決めたヒーローみたいな青年も、そういう話ではなかったのだとわかっているからこそ何も言わない。 ならば自分が思うべきは、幼い少女に感じるべきは、罪の意識ではない。ここにいる奇跡を噛み締めて、未来の幸福を臨んで歩くことだ。 だから、多少不自然な組み合わせのパーティーにも所属するし、喜んで足にもなってやろうじゃないか。 ……それから、多少であれば財布役も。 悩んでいる少女の両手のものを遠慮なく奪い、ついでに彼女と並んで対になるキャラの被り物を引っ掴んでからレジへと向かう。 え?なに?それ誰の分? 背後から聞こえるいくつかの声は、無視することにした。 ************* まさかの後日談2本立てを書いてしまった自分に笑っています。 1本目はセッション後のお話で、夜野が林田くんの家行ったら林田くんと顔を合わせて驚くんでしょうね、の流れからそのあとこうなって〜と進んだ話があまりにも好きすぎて、文字に起こしてしまったという話です。 ポカポカやってる夏海ちゃんまで書くつもりだったのに…! 2本目はやっぱり遊園地行ってる話が欲しかったのと、中立の立ち位置にいた夜野が少しだけ考えることについて。 本当に、林田くんの決断が素晴らしかったんだよなという話が書きたかったんですが、そこがあまり書けずにうだうだ考えるだけになってしまった。 キラキラと明るいお話は別のPL様が書いていただいたので…まあ、うん…… きっと林田くんへの賞賛は、お酒が共に飲めるようになった頃に酒の席で言うのでしょう。 余談ですが、夜野昭彦という男は、私が生まれて初めて作ったPCでして。 色々と設定考えるのが楽しすぎて、キャラシに載せられないほどに長文の設定を書いて友人にひかれました。笑(技能値に対する理由をつけるだけのつもりがとても膨れ上がった結果) 元々身内卓でやるつもりで作った人で、実際初探索は身内卓だったんですが、身内じゃなきゃダメな特殊技能でも無い気がするし、何より個人的に愛着が湧いてきたのでこうしてオンセンのセッションでも使わせてもらいました。 回を重ねると…というかこういう心を揺さぶるシナリオやるとキャラに深みが出るなぁ…と楽しくなってきております。 いずれはどんな道を辿るかわからないですが、一先ずこれからも頑張ってSAN値減らしたり増やしたりしようね。
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