0話ー生まれ変わったアタシ(私)ー

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登録日:2023/04/18 12:43最終更新日:2023/04/18 21:50

「はぁ……」

魔神はため息をついていた。

久方ぶりに、冒険者がやってきた!と、喜んだのも束の間。

冒険者達は弱すぎた。

最上級魔神の一角と呼んで差し支えない私が強すぎるから……ではなく、冒険者としての経験値があまりにも低かったのだ。

冒険者達は手加減する間も無く全員事切れてしまった。

冒険者達との戦闘も楽しいが、何よりの楽しみは死闘を尽くした末に苦悶の表情を浮かべた冒険者の脳髄を喰うことだ。

洗練された冒険者の脳髄は堪らなく美味だ。

だがしかし、このような低レベルの冒険者の脳髄では口に入れるのも憚られる。

「はぁ……」

魔神が足を上げて軽く地に伏せた一人の冒険者頭の上に乗せただけで、その頭部は四散し血と髄液をあたりに飛び散らせる。

なんて脆いんだ。

このようなひ弱な身体を持ちながら、その身を鍛え上げ我らに挑んでくる。

そんなことを魔神は珍しく考えていた。

そしてふと、目に留まる。

自らが先ほど倒した冒険者だ。

褐色の肌に銀色の髪。

魔神は自分と色が似ていたので、目に留まったようだ。

魔神はその倒れた冒険者に近付いていく。

魔神はあまり、人族に化けた事がない。その能力こそがその魔神固有の能力の一端であるが、自分より弱いものに化ける必要性が無かったからだ。

試しにその冒険者に姿を変えてみた。

最後に人族に化けたのは、もういつだったかは覚えていない。

しかし、その身に刻まれた能力が故、遺憾なく発揮できる。

身長、体重、記憶、声、身に付けている物。

全てを変質させて、成り代わることが出来る。

しかし、それは表層だけだ。身体の内側まで変質させている訳ではない。

魔神はその冒険者の装備や衣類を脱がせ、有りのままの姿にして、つぶさに観察し再度化けた。

まだ、足りない。

何かがかけている。

次に魔神はその冒険者を蘇らせることにした。

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mist1212
4. mist1212
2023/04/18 21:48
状況が分からない………

アタシは今混乱している。

気がつくと、草原に一人たたずんでいた。

昨日、3人の仲間と一緒にこの平原にあった魔域に入った所までは覚えてる。

けど、その魔域が見当たらない。

でも、確かなことが2つある。

アタシが持っていた仲間の冒険者証と、アビスシャードだ。

これをアタシが持っていると言うことは、仲間が魔域で死んでしまい、アタシだけが命からがら魔域を攻略して帰ってきたってこと?

そんなはずない!アタシが仲間を見捨てるわけ……

ーーーーーー

彼女は膝から地面に崩れ落ち、すすり泣いた。

冒険者ギルドに戻った彼女が状況を説明すると、一部の冒険者達からは”冒険者殺し”とあだ名された。

冒険者殺しとは、魔域など遺体の回収が困難な場所で同行している冒険者を殺害し、金品を強奪する冒険者の事だ。

この事はギルドマスターが、同行していた先輩冒険者も含めて3人を無傷で殺害するどありえない。ということで、彼女は無罪放免となった。

が、しかしもう誰も彼女とパーティを組もうとはしなかった……
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mist1212
3. mist1212
2023/04/18 21:34
黒い渦は、別の奈落の魔域に繋がっていた。

そこは本来冒険者達が攻略する予定だった奈落の魔域だ。

黒い渦から出ると、目の前には奈落の魔域の核。アビスコアが浮かんでいる。

『いつの間に現れやがった!?』

この奈落の魔域の守護者であろう魔神が魔神語で喋っている。

「私………いや、アタシの暇潰しに付き合ってもらおうかな」

そう”冒険者”が囁くと、またも右手を白い影に変質させ、今度は空間を断ち切る刃を生み出し、魔域の守護者を真っ二つにしてしまう。

そして鎮座するアビスコアを軽く小突き、粉々にする。そして幾ばくかのアビスシャードをその手に納めた”冒険者”は奈落の魔域の脱出口へと入っていく。

”冒険者”の口元が白い影に変わり、ニヤリと口角を上げる。

「ククク……楽しめそうだ……ハハハッハーッハッッハッハ!」

”魔神”はその笑い声と共に、闇の中へと消えていった……
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mist1212
2. mist1212
2023/04/18 21:28
魔神は、冒険者を喰った。

普段は食べない身体も綺麗に取り込んだ。

が、やはり違う……

確かに、細胞の隅々やニューロンにいたるまで完璧に模倣できている。

ここにいるのは、冒険者ではなくどこまでいっても魔神が化けた冒険者でしかないのだ。

ひとしきり考えたあと、魔神はある決断をした。

ーーー主人格を冒険者に委ねよう………と。

魔神の力を封じ、いくつかのトリガーがないと魔神としての力や人格が目覚めないようにして、脳の活動を冒険者に委ねることにしたのだ。

そうと決まれば、魔神は残りの冒険者達から冒険者証を剥ぎ取り先ほど脱がせた装備を着用すると、冒険者の記憶を辿り元いた場所を思い出す。

「……ここはハーヴェス……だったか。随分遠いところから、こっちまで来たものだ」

魔神の居城は奈落の中枢。

普段は人族など到底入ってなどはこられない。

数年か10数年に1度か2度、世界で名の知れていたであろう冒険者が奈落の壁を越えてやってくるぐらいだ。

「運良くこちらと繋がってしまったか……ククク」

魔神は右手を広げ前に伸ばすと、右手が白い影に変わっていく。

そして広げた手の先に黒い渦が現れた。

魔神は冒険者の姿のままその渦に入っていく。

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mist1212
1. mist1212
2023/04/18 12:44
「ん……うぅ……」

冒険者が意識を取り戻す。

記憶の混乱があり、状況を把握するのに時間がかかる。

しかし、鏡が目の前にあることは理解できた。

自分の姿が写っていたからだ。

けれども、武器も防具も衣服すらない。

すぐさま身体に手を当てて確認する。

裸体だ。

そして同時に異変に気がつく。

鏡が同じ動きをしていないことに。

鏡の中にいる自分が近寄ってくる。

身体は硬直して動かない。

そして、鏡の中の自分がアタシを抱き締めてきた。

不思議な感覚だった。

そして鏡の中の自分はアタシを飲み込んだ。
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