【クトゥルフ神話TRPG】「ティアラを盗んで」 5.22~23リプレイ【TRPGリプレイ】

潮風
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登録日:2018/06/05 21:40最終更新日:2018/06/06 01:42

シナリオ名:「ティアラを盗んで」(ささやま様作)

※リプレイ閲覧前に
このリプレイは、5.22~23に行われた実際のセッションを、各PLの許可を得て製作しています。また、シナリオ製作者への報告も行っております。
本セッション開始前に、PL間で怪盗団のチーム名や事務所の場所、取得技能等の相談をして貰い、それを本編に反映させています。

本リプレイは、当日のセッションログを元にして、文章の加筆・修正や台詞の順番の入れ替え等を行い、ノベル「風」に編集したものとなります。
ある程度元シナリオから改変していますが、当該シナリオのネタバレを含みますので、PLとしての参加を希望される方は閲覧をご遠慮下さい。














怪盗団【ナーディガールズ】は、今日も路地裏の雑居ビル地下にあるバーの、そのカウンター裏にある事務所で暇をしている。
そもそも、怪盗たるもの狙うは大物でなくてはならない。
宝石店や銀行に忍び込んで金目の物を盗むのは、強盗かコソ泥のやることだ。
怪盗ならば華麗に大胆に、世間をあっと言わせたいじゃないか!

マキ「......今日も暇ねぇ...」
神咲「・・・・・・・・(トマトもぐもぐ)」

…しかし、そう簡単に心惹かれる獲物が見つかるはずもなく、仕事を選り好みしていた結果、
ナーディガールズの面々は、今日も作戦会議という名の井戸端会議に興じるのであった…。
ただ点けているだけで誰もまともに見ていないが、テレビからは「花木山に落下した隕石について…」というようなニュースが流れている。

神咲「・・・・・・・・(カタカタ)」

無心にキーボードを打っているのは神咲 考述。奇抜な服装が特徴的だ。
非常に小柄な体躯をしてはいるが、立派な成人女性である。

幽乃「え、ええと…(おどおど)」
神咲「ゆの、大丈夫か?」

おどおどしているのは伊賀乃莉 幽乃。友人である暁に巻き込まれる形で怪盗団に籍を置いている。
しかし、時折自分が怪盗であるという事自体を忘れてしまう事もあるようだ。

マキ「今日はもう探偵の仕事無いしなー...ひまなのーん」

と言いながら、トランプを色んな形でシャッフルして遊んでいるのが、ナーディガールズのリーダー、マキノキ…通称マキ。
明らかに偽名であろうその名前だが、メンバーは興味が無いのか何なのか、マキの過去には一切触れない。

暁「ルビーはもう頂いたけど...どうしようかねぇ...」

そして、怪盗団の荒事担当、暁 結友。先日違法営業の店を物理的に潰した際、戦利品として手に入れたルビーを掌で転がしている。

神咲「・・・おいノウキン。」
暁「脳筋って呼ばんといてな?何か?」
神咲「・・・また『ヤった』のか?」
暁「あーはいはい。勿論やったで?」

そう言って、暁は首を手で掻き切るような仕草を見せる。

神咲「・・・・・・・・おいおい。」
幽乃「そ、そろそろこういうのやめないのかなーって…」

各々が暇つぶしに興じている中、コンコンと扉をノックする音が。

マキ「んー...およ?」
神咲「生きていじめるからこs・・・・む?」

ドア越しに用件を聞くと、「あんたらにお客さんだよ」というマスターの声。
続けざまに、「あなたたち怪盗団に依頼があって参りました」と女の子の声がする。

暁「客様かい」
神咲「・・・」

神咲が先に動き、ドアを開けに行く。他のメンバーもそれに続いた。

マキ「.........おーう、これまた...」

ドアを開くと声の主はペコリとお辞儀をする。細かなレースの刺繍が入った白のワンピースを着て、長い黒髪はポニーテールに結ってある。
年齢は中学生くらいだろう。絵本から出てきたかのようなかわいらしい出で立ちとは対照的に、手には大きなビジネスバッグを抱えていた。
その姿を見た神咲は、背格好が彼女と同じくらいである事に気がつき、バツが悪そうに頭を掻いている。

神咲(大きい人が出てくると思ったら、同じくらいの背丈の人が出てきて驚いてるだろうなぁ…)
マキ「.........可愛いお客様だ、それで?何の用ですか...っと」
神咲「・・・・・・・・・ちっこ。」

自分の事を棚に上げて呟いた神咲を、少女は不思議そうに見返すが、すぐに用件を口にした。

まどか「初めまして、私は雨宮まどかと申します。今日は怪盗団の皆様に依頼があって参りました」
暁「怪盗団...ってあたしらの事知ってるんかいな」
マキ「雨宮まどか......んー?」

《アイデア》
暁:75 → 17
神咲:90 → 9
幽乃:65 → 31

メンバーは「雨宮」という苗字と、彼女のお嬢様然とした佇まいから、幾つもの大企業を抱える「雨宮グループ」の関係者なのでは、と思う。
「あなたの一日に寄り添う雨宮」のキャッチフレーズは、メンバーもテレビで必ず耳にした事のあるほど有名な企業だ。

神咲「・・・雨宮のご令嬢が何のようだ・・・?」
暁「...へぇ。雨宮グループのお嬢様がどうしてこんな所にいるん?」
マキ「雨宮......え?雨宮ってあの雨宮?」
幽乃「え、ええと…何か御用なのかな?」

そしてメンバーはふと思う。この事務所は当然「怪盗団の事務所」などとは公表していない。なのに、どうして彼女はここが分かったのか?

まどか「お察しの通り私は雨宮グループの社長・雨宮俊之の一人娘です。雨宮の情報力にかかればこちらの住所なんてすぐに分かります。もう少し上手く隠れてみてはどうでしょう?」

と、まどかは悪戯っぽく笑う。

マキ「.........うーむ、『アイツ』上手く隠蔽してないな...?」
神咲(こいつ・・・同類だ・・・!)

マキの心配をよそに、神咲はまどかに何かシンパシーのようなものを感じたようだ。
対するまどかも、背格好が近いからか神咲をかなり気にしている。

マキ「ほら、良かったね、仲間だよ」
神咲「・・・・・・おい、マキ、違う、こいつは普通にロリなだけだ・・・」
マキ「......ああ、そうだったね」

と、マキは意地悪く薄ら笑いをしてからかう。

神咲「私は合法ロリだ・・・・・」
神咲(やってることは非合法だがな)

まどか「ああ、そうです。皆様に依頼があって参ったのです」
暁「依頼、ね?」
マキ「...依頼?」

まずはまどかを事務所に招き入れ、全員が事務所のソファーに座るまどかと対面し、そして彼女は話し始める。

まどか「依頼内容というのは、今週の土曜日に行われる雨宮グループの後継者披露パーティーから、私を連れ出して頂きたいのです」

マキ「ほう?これまたなんで?」
神咲「・・・・・・・なんで、とは聞く気も起きないな。」
暁「...なんで連れ出すん?」

当然投げかけられる疑問に、まどかはふう、と息を吐いてから語り始めた。

まどか「1年前に母が亡くなってから、父は人が変わったようになってしまいました。
以前は雨宮グループの跡継ぎのことは気にしなくていいから、自分の好きな道を選びなさいと言っていたのに、最近は口を開けば会社の利益のことばかりなのです。
それに、書斎から突然怒った声が聞こえてきたり、血走った目で私に後継者になるように迫ったり…
このパーティーだって1週間前に唐突に決まってしまったのです」

語られた事情に、各々が多様な反応を見せる。

暁「自分勝手やなぁ」
神咲「・・・まあ、私も似たようなものだからわかるよ。」
幽乃「う、うーん…ご家族さんとのいざこざですか…」

それを受けてから、まどかは毅然とした表情で続けた。

まどか「私は自分の将来は自分で決めるつもりです。けれど、このままでは後継者としてのレールを敷かれてしまう。そんなの絶対に嫌です」
マキ「......ふーむ、一体何があったのか...まぁ、親ってそういうものだしねぇ...」
暁「...腹立つわ...ちょんぱしたろかほんま...」
マキ「...やめなさい」
神咲「やめろ脳筋。」
幽乃「ぼ、暴力はよくないよ…?」

父親への苛立ちから物騒な事を言ってしまう暁に、全員が突っ込みを入れる。聞いているまどかの表情は少し曇っていた。

マキ「...でも、脱出したとして、その後は大丈夫なの?」
まどか「連れ出して頂いたあとは、母方の祖父母の家に行こうと思っています。父とはお互いに冷静になってから、もう一度話し合おうと思います」
マキ「ふーむ...これまた独特な依頼が来たねー...」
暁「まぁ楽しそうやけどな、この依頼」

一風変わった依頼に思案するマキと、既に乗り気の暁。もっとも、マキもこの仕事は面白そうだと思っているようだが。

神咲「・・・それで、お嬢。『どっちが良い?』」

そう切り出した神咲の発言の真意を汲みかね、まどかは首を傾げる。

まどか「どっち、とは…?」
神咲「派手なのと、地味なの。
こう、わかりやすくさらってほしいのか、地味ーに、わかりずらくさらってほしいのか。」

合点がいったというように、まどかが大きく頷いた。

まどか「そうですね、できればあまり騒ぎにはしたくないのですが、皆さんが派手にやりたいのでしたら、私はそれでも構いません」
マキ「派手なのは捕まるリスクがあるわよ、ただでさえ1名を除いて犯罪まがいのことしてるんだから...
......まぁ、私は面白ければなんでもいいんだけどねーHAHAHAー」
幽乃「え……えええ………」
神咲「うん、じゃあ地味でいいかな。」

ちぇっ、と小さく舌打ちした神咲。派手にやりたかったようである。

暁「あ、予告状的なのはどうするん?マキの木」
マキ「んー...ま、作戦決めてからにしようか、いきなり予告状出して警戒されるのもやだし」
暁「おー」

そして、既にノリノリのメンバーは早速事前調査に移ろうとする。

神咲「・・・・じゃあ、とりあえず内装を調べるか。」
マキ「事前調査は大事よねー」

神咲は早くもパソコンを使い、パーティー会場である雨宮邸の見取り図を調べ始めた。

暁「んで、まどかお嬢様は当日はどこにおるん?」
幽乃「これで最後にしようよー…これ以上危ない事は…」

そこまで言ったところで、まどかがはっとして口を開いた。

まどか「その前に、報酬の話をさせて下さい」
マキ「ん?報酬?」

まどかはビジネスバッグから1枚の写真を取り出し、それをメンバーに示しながら言う。

まどか「後継者披露パーティーで、父は私に後継者の証としてティアラを贈るつもりです。そのティアラの資料がこちらです。
当日は私の身辺にもSPがつき、連れ出すのは容易ではありません。
ですから、まずはこのティアラを盗み出して会場を混乱させ、警備の隙を作った上で私を連れ出して頂ければと。
奪ったティアラは怪盗団の皆様に差し上げます。これが報酬では不満でしょうか?」

ティアラは雨宮俊之が今回のパーティーのために、自社のジュエリーショップに特注して作らせた大層豪華な代物である。
まどかの示した写真によれば、台座のプラチナは繊細にカーブし大小さまざまな宝石が所狭しとつけられている。
一見しただけでもとても高価なもので、それこそ求めていた大物なのではと思う。

神咲(いらねえ・・・・)

”表”の仕事で充分な収入のある神咲は心惹かれなかったようだが。

マキ「SPかー」
暁「ん、りょーかいー」
神咲「・・・脳筋なら倒せるかもしれないが・・・騒ぎがな。」

口喧嘩こそ耐えないが、暁の強さは神咲も信頼している。逆もまた然りだ。

暁「でもこんな大物、警備もつくよな...」
マキ「...なら、予告状はティアラに向けてでいいわね、1回目は」
神咲「・・・・2回に分けるのか?」
マキ「チーム自体を分けた方がいいかもね、サクサク進めるんだったら」

ある程度報酬の話が済んだところで、神咲が雨宮邸の見取り図を探り当てた。

神咲「・・・・ん、でてきたぞ、雨宮邸の内装。」
マキ「さっすが考述ぅ!」
神咲「ああ、私の報酬はケーキでも良いぞ。」

そんな話を尻目に、まどかはビジネスバッグから、怪盗団全員分の後継者披露パーティーの招待状を取り出す。

まどか「ええ、それが私の家の見取り図です。みなさんはこの招待状を使ってパーティーに紛れてください。
パーティーの間、私は父とSPと一緒に関係者に挨拶回りをします。
ティアラの周りにも防犯用センサーが設置され、広間にも多くの警備員が配置されるでしょう。
私も出来る限りはお手伝い致しますが、どうにかして警備の隙を作らなくては…」
マキ「隙...ねぇ」
暁「なーなーかんざし、ちゃうわ神咲、ハッキングできる?」
幽乃「んーと…」

《コンピューター》神咲:70 → 48

神咲「・・・たぶん、どこかに、電気系統をどこかで一括管理している部屋があるな。
まあ、わかりやすいとこでいくと警備員室だな。」
暁「おー!かんざしお前そこまでわかるんやなぁ!」
神咲「・・・・かんざきだ。」
暁「へいへーい^^」

などと口喧嘩を交わしつつ、

神咲(でも、かんざしもちょっとかわいいかも・・・・)
暁「お、なんか言ったかかんざし?」

と、少しだけ思う神咲を、暁が肘で小突いていた。何だかんだ仲良しである。

まどか「ええ、それでしたら、警備員室がそうです。電源系統は全て集約されているはずです」

《製作:予告状》マキ:70 → 45

そんな話の最中で、マキは予告状をサッと作成していた。

マキ「よしよし、それっぽく作れた」
まどか「カッコいい予告状ですね!」

まどかの反応も上々だ。

マキ「......まぁ、1番簡単なやり方は警備員絞めて服奪うことだよねー」
神咲「もしくは、親子連れを装って油断させる。
・・・子供役は・・・まかせて・・・くr・・・・」
マキ「自分で言ってて...」

自分で言っておきながら、悔しくなってしまった神咲。

暁「そういや背丈同じなんやね」
神咲「オノレ、雨宮父!」

八つ当たりもいいとこである。

暁「かんざし変装させてまどかお嬢様にできるんかな」
神咲「いや、目の色がまず違う。」

まどかに変装させるという点については、真顔で即却下する神咲だった。
そんな怪盗団の面々の中、一人だけ考え込んでいた幽乃が、ようやく口を開く。

幽乃「えーと…
先ずはえーと…お父さんがどうのこうのだけど。家出の検討とかはしたりしたのかな?」
まどか「…家出したのでは、ただの我儘だと父は思うでしょう。すぐに私は連れ戻され、パーティーは延期になるだけです。
パーティーの席で主役である私がいなくなれば、パーティーそのものがめちゃくちゃになります。
そうすれば、父も頭を冷やしてくれるのではと思っています」
マキ「さらにそこにティアラまで頂かれちゃったらねー面目丸潰れってレベルじゃないもんねー」

うんうんと頷いて、看護学生の習慣からか、持ち歩いているカルテに記入していく幽乃。

幽乃「二つめ、お父さんが変になっちゃった原因に心当たりは無いかな?」
まどか「…やはり、母が亡くなったのがショックだったのだと思います。
最初は優しかったのですが、だんだん過保護と思うことが増えていきました。
後継者になるよう血走った目で怒鳴られたことも何度もあります。まるで何かに迫られているようで…」
マキ「............」
神咲「・・・・・・悪霊じゃね?」

怪盗団に身を置くハッカーではあるが、神咲は元々”巫”の家系の生まれであり、霊障の類にも強い。

マキ「.........もしかしたら、それ以外にも原因があるかもねー」
まどか「父は、そんな人では絶対にありません。何かあるんじゃないかと思うのですが…」
暁「コウケイシャニナレーコウケイシャニナレー」

ふざけ半分に言った暁に、神咲から無言の腹パンが飛んだ。

暁「いたぁい」
幽乃「うん、うん。それはとても辛いね…。そのお父さんについてもう少し詳しく……そうだね、何か発作とか、病気の様な症状は?」
まどか「わかりません…ある時期を境に、突然今のようになってしまって」
幽乃「『ある時期』がお母さんの事に繋がる…と」
まどか「あとは、以前より部屋に籠もりがちになったようには思います」

まどかから聞いた父親の事を、一つ残らずカルテに記入している間に、神咲がふと疑問を口にした。

神咲「風呂とトイレが一室にあるのか?」
まどか「海外の住居をモデルにした、と父が言っていました」
神咲「・・・・ねえ、警備員室と、この部屋に何かつながりはあるかな?
・・・なーんか、違和感あんだよなあ・・・この間取り・・・・」

見取り図の上では隣り合う警備員室と風呂・トイレ。そこに着目した神咲だったが、まどかはきょとんとして小首を傾げる。

まどか「面白い発想をされますのね…」
神咲「・・・・?」

どうにも噛み合わなかった。

マキ「とりあえず依頼は承諾するよ、面白そうだし、何より...楽しそうだからさ☆」
神咲「うん、リーダーの意思には従うよ。」
まどか「ありがとうございます。怪盗団の皆さん、私を盗んでください」
マキ「まっかせときなさい!」
暁「ふっふーん!おうよ!」
神咲「・・・りょーかい。」

依頼を快諾したマキは、早速全員に携帯用無線機を渡して回る。

マキ「あ、とりあえずみんなはこれねー」
幽乃「部屋に引きこもりがち…お日様の光を浴びなくなっちゃったのかな…」

一人、幽乃だけはまだカルテに記入しながら、何かを考えていた。
他の3人は、マキを中心にして作戦を立て始める。

マキ「...さて、問題は...だけどまず3つ問題があるかな?
1つ目はどうやって警備員室に向かうか、そしてどうやって入り込むか。
2つ目、どうやってティアラを盗む警備を何とかするか...」

それを受けて神咲がパソコンを駆使し、警備員室、またはティアラ奪取の最適ルートを算出しようとするが、

《ナビゲート》神咲:70 → 71

神咲「・・・・もうちょっとなのにルートができない・・・・」

不確定要素が多く、なかなか上手いルートが算出できなかった。

暁「ん、じゃあ裏口から入って警備員絞めようか?」
神咲「・・・そんなんだからおまえのこと脳筋って呼ぶんだよ。」
暁「脳筋で悪かったなかんざし!」

《ナビゲート》
マキ:10 → 50
幽乃:10 → 91
暁:10 → 13

神咲に助け舟を出そうとしたメンバーではあるが、やはり専門外の事には上手く対応できないようだ。

幽乃「あとは…」

《図書館》神咲:73 → 63

まどかに送られるティアラについて調べた神咲。ティアラは特別製で、時価数億円はするのではと察するが、

神咲「・・・あたりまえだのくらっかー。」

想像していた以上の情報は出てこなかった。

マキ「...ん?...たしかに、裏口から入るのはありかもね?」
暁「お嬢様、裏口に警備は配置されるのかい?」
まどか「裏口は警備員室に直結しているという事から、警備は手薄になるかもしれません。警備員に変装して裏口から入る、というのも手段としていいかと思います」
マキ「だよねー」
暁「変装かぁ...あたしゃ自信ないね」
マキ「あ、変装なら任せてよ私自信あるよー」

一応の侵入ルートを確認し、マキは続ける。

マキ「んー、ならやっぱり2グループに分けた方がいいわね...まぁ、そこで最後の問題が起きるんだけど...」
神咲「うん。」
マキ「......ティアラを盗んだ後、どうやってまどか嬢を盗み出すか...だね」
神咲「・・・・・・・・」

そこまで会議が進んだところで、今まで考え込んでいた幽乃が口を開いた。

幽乃「あ、そうだった。まどかちゃんまどかちゃん」
まどか「はい、何でしょう?」
幽乃「『君を盗み出すこと』が本当に君の望むことでいいんだよね?」
まどか「……なぜ、そう思いましたか?」
マキ「いやぁ、幽乃は優しいねー、そういう所にも気を使おうとしてるのは凄くいいと思うよー」

まどかの表情が、若干強張る。幽乃は指を3本立てて答えた。

幽乃「三つ。
一つ目、お父さんについて話したときお父さんを悪く言いつつも『絶対にそんな人じゃない』と言ってあげたこと。
二つ目。ここにはそもそも回りくどいことせずに、君のお父さんの事業を失敗させられる人が揃ってる。だけど君はわざわざ『自分を盗んで』と依頼した」
マキ「幽乃......あなたなんでこっち側なのか私はたまに分からなくなるわ...」

幽乃の圧巻の推理に、表向きには探偵をしているマキもさすがに舌を巻く。

幽乃「え、えへへ…私も不思議に思いますよマキノキさん」

当の本人は照れ臭そうにそう言って笑った。

神咲「・・・そうだ、」

《電子工学》神咲:70 → 19

神咲「・・・この前、こんなものを作ったんだが使えそうか?」

と、神咲が取り出したのは、静音で強化ガラスを切断できる機械、その名も「強化ガラス切れるマシーン」だった。

マキ「......よくそんな物作れるねー」

さすがにマキも苦笑いである。

幽乃「まとまって三つ目。確信した、君はお父さんの事が大好きだ。きっとできる事なら『おかしくなってしまった父を戻して』と依頼したかったんじゃないかな?
が、何か理由があって今の依頼をせざるを得ない状態であると思うけどどうかな?」

自分の事情を最低限しか話していないながらもここまで言い当てられ、まどかは感心したように息を吐き、答えた。

まどか「……ええ、仰るとおりです。理由は…まだ信じて貰えないかも知れないので今は言えませんが。
けれど、どうすれば父が元に戻るのか、私には見当もつきません。ですので、父から離れる時間が欲しいのです」
幽乃「ふむふむ、お父さんと離れる時間…と」
神咲「・・・うん、やっぱゆのは優秀なこだな。」
暁「幽乃はやさしいねぇ」
幽乃「そ、そんなことないよ…神咲ちゃん」

しきりに照れる幽乃。彼女がこの段階でこの発想に至ったのは、まどかの依頼内容にある。
依頼内容は「自分を盗んで」だったはずだが、その大元を考えた場合、理由が全て「父親が~」だった事、
そして、メンバーが父親を好き勝手言っていた際、それに乗って来なかった事…
以上を総合して考え、幽乃はこの結論を導き出したのである。

そんな話を横目に、マキ達は必要な道具の調達準備に入る。
幸い土曜のパーティーまで1日の猶予があるため、各々が必要だと思ったものをリストに書き出していた。
マキは鉄製の鎖、そしてダーツ。
神咲は長めのロープ、そして暁はロープと安全靴。

《アイデア》暁:75 → 72

そのロープを使い、暁は脚を引っ掛けた際に足に巻きつき、逆さ吊りにする罠を作り出していた。
作戦会議は進むが、どうやって警備の気を引き、ティアラとまどかを奪取するか、という点にはなかなか突破口が見出せずにいる。

神咲「・・・うーん、難しいな・・・」
暁「警備の気を取るにはどうしたらええんかねぇ」
神咲「・・・・・・この真ん中の廊下が重要だな・・・・」
マキ「......前半2グループ後半2グループでいいかな?」
暁「ねぇねぇ、罠的な物思いついたんだけどさ、それで混乱出来へんかな」
神咲「とりあえず、着物着てくか。」

会議がなかなか進まない中、まどかがふと口を開いた。

まどか「…先ほど電源を一括管理しているという話が出ましたけど、停電させた隙にティアラを盗み出す、というのはどうでしょう?」
マキ「!いいね、それ!」

まどかのこの一言をきっかけに、作戦の方向性はほぼ決定する。

幽乃「メインターゲットがティアラ。第一目標は『雨宮まどかを連れ出す』第二目標が『雨宮パパの治療?』でしょうか?」
まどか「少なくとも、私はそれを望んでいます。…お願いします」
神咲「・・・さすが、ゆの。」
神咲(・・・ああ、やっぱゆの大好き!)
幽乃「ん、んん?どうしたの?神咲ちゃん…?」

と、抱きつきたい衝動に駆られた神咲だが、自分のキャラクター的に無理だと感じて葛藤していた。

マキ「...まず2グループずつ分けようか、裏口グループは私と考述、正面は幽乃と結友でいいかな?」
幽乃「はい、任せてくださいマキノキさん」
神咲「・・・ん?・・・逆じゃね?
マキと脳筋が警備員、ゆのと私がティアラで良いと思う。」
暁「脳筋言うなや」
幽乃「あ、あれ?私が正面?裏口?」
神咲「ゆのは正面。」
マキ「ん...?というか電気システム私たちで解除できるのかしら...」
神咲「・・・ああ、じゃあ私が裏か。」
マキ「...んー」

それぞれの能力と役割を巡り、なかなか結論が出ない。
しかしそんな作戦会議の様子を、まどかは楽しそうに見つめていた。

神咲「じゃあ、マキと私で裏、 脳筋とゆので表のほうが良いのか?」
暁「だから脳筋言うなや」

暁が神咲に軽くチョップする。

神咲「脳筋、いたい。」
幽乃「た、叩いちゃだめだよ…大丈夫神咲ちゃん?」
神咲「・・・・・・」

叩かれた神咲の頭を撫でる幽乃、そして突然頭を撫でられて敗北感と癒しを同時に感じ、複雑な心境になる神咲である。

マキ「...とりあえずさ、基本まどか嬢はどこにいるの?」
神咲「部屋でしょ?」
まどか「当日は父と一緒に挨拶回りをする予定です。会場を混乱させないと、私を連れ出すのはなかなか難しくなるでしょう」
幽乃「あ、それと…発振器?とかそういうのあったら、まどかちゃんが持ってたほうがいいかも。
もしまどかちゃんが何処にいるかわからなくなっちゃったりしたら大変だから…」
まどか「はい、あるのでしたら貰っておきます」
マキ「発信機は...ワンチャンバレてめんどくさいことになるわよ?」
幽乃「予告状渡してる時点でそれはそうだけど…あ、ならまどかちゃんの携帯のGPSを登録しておくのはどうかな?」
マキ「私が多分ティアラに行った方がいいんだよね、隠れる能力もあるし...とりあえず私からの作戦言ってもいいかな?」
神咲「・・・じゃあ、マキ、これ。」

神咲お手製の「強化ガラス切れるマシーン」を受け取って、マキは作戦を説明し始める。

マキ「ありがと......とりあえず、私と考述は裏口から入り、幽乃と結友は正面から入ろうか」
暁「了ー解!」
幽乃「はいっ、頑張ります!」

結局幽乃は、こうして怪盗を辞めたいと思いつつも、深みに嵌っていくのだ。

マキ「正面組は広間から廊下近くの扉待機して...
そして裏口組はまず侵入して電気システムを全て消す。
広間組は停電したらすぐにまどか嬢を回収して、脱出して。考述もその時正面組と合流して、まどか嬢の回収に向かってちょうだい。
...私は、広間で掻き回してるわよ、出来るだけ長く耐えられればいいんだけどね...」

《電子工学》
神咲:70 → 54
2回目70 → 54
3回目70 → 18
4回目70 → 53

この時、暗闇の中で動くために暗視ゴーグルが必要だと感じたマキの要請を受け、翌日神咲が人数分の暗視ゴーグルを自作して揃えた。
その際、幽乃の分だけ妙に出来が良かったようで、当人にも喜んでもらえている。

幽乃「わあ、すごい…」
神咲「喜んでもらえてうれしいよ。」
暁「かんざしお前何でも出来るんだな...」
神咲「・・・・まあ、電気には強い。」

暁はもはや呆れてしまっていたようだが。
閑話休題。

先ほどの幽乃の提案により、まどかの携帯のGPS情報を神咲がデータとして取り込む。
ちなみにまどかの携帯は、発売したばかりの最新鋭機だったのだが、そのあたりは誰もあまり気にしてはいない。
それよりも、暁は神咲の作った「強化ガラス切れるマシーン」に興味津々である。

暁「ガラスをレーザーで切るやつ~」
神咲「・・・・・・ちなみに指も切れるぞ。」
暁「指も切れるなら首も...」

ボソリと呟いた物騒すぎる一言に、まどかが若干怯えてしまった。

神咲(切れないようにしとけばよかった)
暁「あぁ安心してな、物理的にはせんよ」
まどか「は、はぁ…」

マキ「まぁ、結局の所この作戦は、停電した後私がティアラ盗んでそれで掻き回すっていう、下手したら私捕まるやつだけど...」
幽乃「ま、マキノキさん一人で大丈夫ですか…?」
マキ「......ワンチャン撃たれそうになったらティアラを盾にするわよ、流石の警備員もティアラは撃てないでしょ」
神咲「・・・・壊してほしくはないがな。」
マキ「......それに、私は1人でも頑張れるわよ......それに、この作戦なら上手くいけば最低犠牲は私だけで済むしね。
まぁ、連絡自体は携帯無線機で何とかなるでしょ?」
神咲「あと、盗んだとしてもかぶらないほうが良いな。」
幽乃「あとはえーと…えーと…」

全てが引っ掻き回し役のマキ次第という作戦だが、この時はまだこの作戦の最大の難点に気がついていなかったようだ。

暁「そうだ、警備はどれくらいおるん?」
まどか「今回はかなり増員されるとの事でしたので、合計で数十人はいるのではないかと。」
暁「ほぉ...!倒しがいがあるけんな...!」
マキ「10人?なら余裕よ......まどか嬢は頼むわよ?」

既に臨時増員の警備員を倒す事しか考えていない暁。念のため言うが、警備員は一般人である。
そうして一通り作戦がまとまると、マキが立ち上がって言いだした。

マキ「はぁ......大仕事になるわね。皆、よく聞いて」
幽乃「は、はい」
暁「へい」
マキ「...この作戦は失敗したら全員捕まるわ、それだけは絶対に避けなきゃいけない......
成功しても、私がワンチャン上手くいくかどうかってところだけど...全員、無事に戻れるように、この作戦...成功させるわよ!」
暁「へへっ、おうよ」
幽乃「はいっ!」
マキ「あ、でもまどか嬢を回収出来たら、無線機で連絡ちょうだいね?」

こうして作戦がまとまるとまどかは立ち上がり、

まどか「では皆さん、よろしくお願いします。」

と言い、帰宅した。その目は決意にあふれているように感じられた。

幽乃「大事な私の患者さんです!《お二人共》助けちゃいますよ!」



その後、まどかが帰った後と翌日の1日を事前準備に費やすナーディーガールズ。
今のうちに、調べられる事は調べておこうという事である。

《図書館》
マキ:25 → 23
幽乃:25 → 1 決定的成功/出せる情報報酬が無かったため保留

マキはまどかの父、雨宮俊之についてを調べる。
雨宮グループ6代目社長。50代前半で経営者の中では若手。
最先端の技術を取り入れグループを発展させた功績を持つ。対談記事などを読むと、とても温厚な人柄が見て取れる。
経営者にありがちな黒い噂は見つけることができない。
そして幽乃はまどかについての情報を探すものの、「雨宮俊之には一人娘がいる」、というような記事はでてくるが、娘は私人であるためプライベートは明かされていない。
わかったのはまどかに兄弟姉妹はいない、という事だけである。

《コンピューター》神咲:70 → 24

神咲は雨宮邸のコンピューターをハッキングし、監視カメラの位置を割り出す。
主にホールの隅や中央付近、ステージ上、その他スタッフ用通路や来客用入り口付近にもついているが、その全ての電源が一括管理されているとも気が付いた。

神咲「監視カメラの位置、把握」
幽乃「となるとえーと…神咲ちゃんの出番ですね」

《ナビゲート》神咲:70 → 19

そして監視カメラの位置から計算し、カメラに映りこまないように動くためのルートが割り出された。
と、何やら思案していた神咲が、マキに耳打ちをする。

神咲「・・・なあ、マキ・・・、ほんとはやりたくないんだが・・・作戦がある。」
マキ「何?あ、自分が犠牲になるってのは無しよ?そんなの私だけで充分だから」

(神咲→マキ 秘密メッセージ送信)

幽乃は1日中準備をしていたメンバーのために、紅茶を入れに向かった。

神咲「・・・いい作戦ではあるだろう?」
マキ「まぁ...でも私と考述は裏口から入るじゃない?」
神咲(普通、こんなロリっ子が天才ハッカーだとは思わないだろうし)

何らかの作戦をマキと打ち合わせた神咲は、おもむろに目薬をポケットに忍ばせた。

マキ「...まぁ、作戦通りにいけば何とかなるわよ、多分ね」



そして土曜日夕方、雨宮グループの後継者披露パーティーの日。
まどかに貰った招待状を使って広間に入ると、ふかふかの絨毯、豪華なシャンデリア、ぴかぴかと輝く食器たちがメンバーを迎える。
会場内にはすでに人が集まっており、テレビなどでよく見ている有名人も一人や二人ではない。
また、パーティーにはグループの重役のほかにも、取引先の重役、そして少数だがマスコミも出席しているのがわかった。
会場の隅には布のかかったショーケースと、その脇に警備員が2人控えていて、作戦会議で見た屋敷の見取り図からも、ティアラだろうと想像できる。

4人の中で神咲は、自分の思いつく限りの子供っぽい服を着てきていた。
そして、パーティーの雰囲気を各々感じている。

マキ「...2人か...薄いな」
暁「豪華だねぇ...おや、あれは...」
幽乃「あ、あの人この前音楽バラエティに出てた…、あ。あの人は…」
神咲(おい、うちの社長がいるぞ・・・・)

幽乃はすっかり来賓気分にも見えるが、神咲はある意味で危険な邂逅を果たしかねない状況にあった。

《目星》暁:50 → 1 決定的成功/出せる情報報酬が無かったため保留

暁「ティアラ付近はセンサーがあって、近づくと警報装置が鳴るようになってるっぽいよ」

全員が密かに身に着けている無線機を使い、迅速に情報を伝達する。

マキ「了解。考述、そろそろ裏口に回るよ」
神咲「・・・マキ、作戦通り行くぞ。」
マキ「りょーかい」

マキと神咲は、多数のゲストでごった返すホールを出ると、気付かれないように裏口へと向かって行った。
ホール内に残ったのは暁と幽乃。暁は仕事で来たという自覚はあるようだが、幽乃はすっかり一般客と化している。

やがて広間のライトがすっと暗くなると、それに答えるようにステージにスポットライトが輝き、ゲストから感嘆の声があがる。雨宮俊之である。

俊之「本日は雨宮グループの後継者披露パーティーにお集まりいただきましてありがとうございます。雨宮グループのこれからを祈って、乾杯!」
幽乃「わあ…あの人この前病院でオペしてた人…」
暁「ゆの、お父様のご登場やで?」

俊之「本日は後継者の証として私の娘、まどかにティアラを贈ります」
俊之がそう言うと、布のかかったショーケースに警備員が歩み寄る。
そしてその布の下には、見ただけでため息が出るほど優美なティアラが飾られていた。
「わあ、なんて素敵なのかしら」
そんな、女性のうっとりした声が聞こえた。

俊之はステージを降りると、SPを伴ってゲストたちと歓談を始める。

《保留していたクリティカルで目星を免除》
そこで暁、幽乃の両名が会場を見渡すが、まどかがパーティーに出席していないことに気が付いた。

幽乃「……あれ?」
暁「まどかお嬢様がいらっしゃってないで...」

暁は咄嗟にまどかのGPS情報を確認する。すると、

暁「...恐らくいるのは私用スペースだねぇ...」

雨宮邸の私用スペースから、GPSの反応が出ている事がわかった。



一方、裏口に回った二人も順調だった。やはりと言うか警備はザルで、簡単に裏口に近づける。
誰かがやって来ないかどうかを警戒しつつ、神咲は持ってきた目薬を使用した。

神咲「・・・・・よし、」
マキ「準備OK?」
神咲「・・・ノックしても良いかな?」
マキ「いいよー」
神咲「・・・じゃあ、クォーツ、お願い。」

即興で決めたコードネームでマキに指示し、呼吸を整える神咲。そして、マキが裏口をノックする。
ややあって、中から「もう交替の時間か?」との声が聞こえて来た。

──作戦、開始。

神咲「・・・・うえ~ん…ままとはぐれたよ~」
神咲(まじで泣きそう)
マキ「あのー...申し訳ございません...母とはぐれてしまったのですが...」
警備員「え、子供!?何でこんな裏口に…」
神咲「うえーん、どこー!」
マキ「母を探していたらいつの間にか...」

予想もしていなかった状況に、大いに困惑する警備員。

警備員「えぇ…そ、それじゃあちょっと待っててくれるかな、責任者に連絡を…」

と、警備員は2人に対して背を向ける。
その瞬間、神咲はマキにGOサインを送った。

マキ「バカがっ!隙を見せたなっ!」

《組みつき 不意打ち判定のため自動成功》

警備員「がっ…!?」
神咲「・・・・・・・よっ」

《STR対抗 2人合計で自動成功》

持ってきた鉄の鎖を使って警備員を締め上げるマキと、加勢する神咲。一般人相手でも容赦はない。

神咲「・・・・・・・・屈辱だった・・・」

そうして警備員を無力化したマキと神咲だったが、

警備員「な、なんだ君達は!?」

警備員室に、警備員は二人居たのだ。

マキ「やっべ、考述そいつよろしく」
神咲「・・・・PCアタック。」

《投擲》神咲:25 → 3 決定的成功

しかし、振り返って立ち上がろうとした警備員の顔面に、神咲が思わずぶん投げたパソコンが直撃し、警備員は一瞬にして気を失ってしまった。
こうして一人を捕縛、もう一人を気絶させ、警備員室を瞬時に無力化したマキ達。

神咲「・・・・・・・・PCゆがんじゃった。」

咄嗟の行動でパソコンを投げたが、あとあと後悔が湧いてしまう神咲。
マキは持ち込んだロープも用いて、2人ともを拘束している。その間に神咲が電源や警備システムを調べていた。

《コンピューター》神咲:70 → 44

電源はどこがどうなっているのか、を短時間で全て把握する神咲。そのまま彼女は監視カメラをハッキングし、電力復旧後も使えないようにしてしまおうとしていた。

《コンピューター》神咲:70 → 30

ハッキングに成功し、監視カメラを完全に掌握する神咲。なお、警備員を拘束し終えたマキは、新たに予告状を作ろうとしていた。

《製作:予告状》
マキ:70 → 93
2回目:70 → 78

…が、どうにも不恰好な予告状になってしまうのだった。

マキ「......もしもし、こちらクォート、侵入に成功した」
神咲「・・・かんざし、カメラの無力化に成功。」



ちょうど警備員室で騒ぎがあった頃、ホールではというと、

幽乃(……そういえば皆なんか変な呼び方で呼び合ってるけどどうしたんだろ…)

幽乃が完全な一般人化を果たしていた。
そんな中でも、最低限の仕事はする彼女。まずはパーティー出席者の病院関係者へと話を聞きに行く。
雨宮グループは日本最大手の企業グループの一つ。明治時代創業で、財閥を元にした巨大資本を持つ。
最初は鉱山関係の事業を主としていたが、現在は銀行・保険業、不動産業から製造業、小売業まで何でもやっている。
当然ながら病院も保有しているため、幽乃はその病院のトップと少しばかり話をするのだが…

幽乃(んーと…まどかちゃんにだけ…?それともまどかちゃんの狂言…?)

病院のトップ、または他の幹部達に話を聞いて回ったところ、俊之氏に対して軒並み好印象であった。
それこそ、まどかの語った話を疑ってしまうほどに。

《医学》幽乃:医学55 → 85

心因性の症状を疑って、似たような症例が無いか思い出そうとした幽乃だが、思いつく事はできなかった。
他の幹部にも話を聞いてみようと、暁は雨宮グループ副社長の岸田氏を見つけ、幽乃と二人で挨拶へ向かう。

岸田「ああどうも、本日は我がグループの…」

副社長の岸田氏は、雨宮俊之の長年に渡るビジネスパートナーとして知られている。
にこやかに応対する岸田氏、その時、不意に声のトーンを下げ、ギリギリ聞き取れる声でこう告げた。

岸田「…お嬢様から話は伺っております。私にできる範囲の事でしたらお申し付け下さい」
暁「...ありがとうございます」

突然の申し出に、驚きとも警戒とも取れる反応の暁。
岸田は、二人に俊之の変貌について語った。

岸田「社長は、海外ファンドからの買収話があった頃から様子がおかしいのです。我々には心当たりも無く、どうしていいのか…」

以前はそんな事はなかったが、その頃からやけに感情的になる事が増えたのだという。

幽乃「あら、それは…」
暁「買収、ね...副社長さん情報ありがとう。」
幽乃「あ、それと今まどかさんはどちらに…?」
岸田「…私にもわかりません。てっきり出席されるとばかり思っていたのですが」
幽乃「……?」
暁「...?」

岸田の言葉に、怪訝そうに眉をひそめる二人。

幽乃(私室に反応はあるけどこの人は知らない…?)

そこまで話したところで、岸田氏には別の来賓が声をかける。あまり長時間話し込むのは怪しまれると感じた二人は、そこで岸田氏と離れた。

幽乃(ぎりぎりになってから何かあったのかな…後で社長さんにも聞いてみないと)

そこで、幽乃は暁と共に、パーティーの主催である雨宮俊之の元へと向かった。

俊之「これはこれは…本日はご参加いただきありがとうございます」

と、俊之は社交辞令的な挨拶をするが、不審そうな顔をしている。自分の知り合いに、こんな少女達が居ただろうか…といった面持ちだ。
俊之の印象は温厚そうで、まどかの言うように様子がおかしくは感じられない。

幽乃「あ、えーと…」
暁「あ、社長様、今日まどかお嬢様はどうなされたのですか?」
俊之「あぁ、まどかは今日のパーティーに緊張して気分が悪くなってしまったようです。
申し訳ありませんが、パーティー最後の後継者披露の時まで休ませてやってください」

《言いくるめ》幽乃:80 → 53

幽乃「まあ!それは大変!かかりつけの医師はいますか?!」
俊之「ええ、雨宮グループは病院事業も手がけておりますので、そこはご心配なく」

天然の可能性もあるが、幽乃の機転によって必要以上に怪しまれる事なく会話をする事に成功する。

幽乃「ああ、良かったです…。ですが大丈夫でしょうか…念の為私も彼女の様子を見に行っても良いですか?」
俊之「いえいえ、少し休めば大丈夫と医師も言っておりましたので…おっと、呼ばれてしまいました。それではごゆっくり」
幽乃「ええ、お気遣いありがとうございます」

最低限の情報を聞き出し、俊之と別れた二人は、当初の予定通りにスタッフ出入り口近くに陣取る。

幽乃(後で変な呼び方について聞かなきゃ…)
暁「すてんばーい」

準備ができた事を無線機で伝える暁。ちょうど警備員室の制圧も終わった頃だった。



マキ(作戦...開始!)
神咲「・・・・よっ。」

神咲がスイッチを切ると、ブツンという音とともに。先ほどとは比べ物にならないほどの暗闇が訪れる。
会場からは「きゃー!…なに?停電…?」「なんだこれは?落雷でもあったか?」などと混乱するゲストの声と、
「落ち着いて、落ち着いてください!」とその場を収めようとするスタッフの声が響く。

暁「っし、開始の合図や」
神咲「へっへーい。」

用意していた暗視ゴーグルを装着するメンバー。その中で、

幽乃「へっ?く、暗い…?!」

幽乃は本気でその存在を忘れていた。

暗闇に紛れ警備員室を出たマキが、大急ぎでホールに侵入し、一直線にティアラを盗みに向かう。

《忍び歩き》マキ:80 → 13

培われた忍び歩きのテクニックで、ティアラの近くに居た警備員に気取られる事なく、ショーケースに近づくマキ。
警備員室に残った神咲は、遠隔操作用にパソコンを接続して、その場に置いて警備員室を離れ、一足先に私用スペースに向かった。

《忍び歩き》神咲:60 → 20

《隠れる》幽乃:80 → 81

幽乃は「そういえば作戦だったね」と言った感じで隠れようとしたものの、上手く隠れられない。

《保留していたクリティカルにより目星を免除》
そんな時、スタッフ出入り口付近に待機していた二人の傍を、何者かが駆け抜けていく。

暁「っ!」
幽乃「え、え?!」

《忍び歩き》
暁:10 → 17
幽乃:55 → 78

警備員「何だ!?」

ひとまずこの場を離れて人影を追おうとした暁と幽乃だが、その際に音を立ててしまい、ホールに居た警備員が一斉にそちらを注視する。
一方、一足先に私用スペースに侵入していた神咲は、誰かの気配を感じて咄嗟にリビングに逃げ込む。
そのまま隠れて誰かが廊下を駆け抜けていく後姿を目撃するが、その人物が「雨宮俊之」その人ではないかと感じた。

幽乃「み、皆どこー…?」
暁「あ、警備員あたしの方気ぃ向いた」

マキはティアラを傷つけないように注意しつつ、「強化ガラス切れるマシーン」を用いてティアラを奪取する。
その際、音を立てた暁と幽乃の側に警備員の注目が集まっていた事もあって、難なく奪う事に成功した。
そしてマキは手早く予告状をショーケースに入れて、こっそりとステージの上に向かう。
ちなみにこの予告状には、『ティアラ、頂いたよ ー』と、若干軽い一文が添えられている。

マキ「...ふっ...ふっはっは!」

突然暗闇に響いた笑い声に、会場内全員の視線が一気に集中した。

マキ(...他の人、今のうちに早くまどか嬢を!)

無線で指示を出すマキ。

神咲「ヘイ、クオーツ、ライトアップするか?」

神咲からの通信に、暗視ゴーグルを外して、ライトを照らす合図を伝えるマキ。
その際暁から、周辺の警備員をダウンさせるかどうかという提案が飛んだが、それより逃げる事を優先するようマキから怒られている。

神咲「・・・・よっ。」

ステージがライトアップされ、ヴィネチアンマスクを装着したマキが不適に笑う姿が、パーティー会場にいた全員の目に留まった。

幽乃「眩しっ!」
警備員「な、何者だ!?取り押さえろ!」

この間に暁はパーティー会場をこっそり離れ、私用スペースに潜り込んだが、幽乃はやはり一般人と同じ反応をしていた。

マキ「......予告がなくてゴメンなさいね?でも、そんなことをしてる余裕もなかったのよ」

と、奪ったティアラを見せびらかしてなおも気を引くマキ。

マキ「......お宝、頂いたよ!」

そして神咲が遠隔操作で、警備員室にあるパソコンからアラーム音を鳴らす。大音量のアラームが鳴り響き、広間は大パニックに陥った。
逃げ惑う一般のゲストでごった返し、来客用玄関の付近は大混雑だ。正面からの脱出は不可能に近いだろう。

神咲「・・・・我ながら五月蝿い。」
幽乃「きゃ、きゃー!え、えーと?!みんなどこー!」
マキ(おい!)

そして一般客同様にパニックに陥った幽乃には、マキが内心ツッコミを入れた。

マキ「......さてと...?」

そして、ここからがマキの正念場だ。十数人は居るであろう警備員達を振り切って、どうにか逃げなくてはいけないのだが…
どうにも、ここから先は行き当たりばったりというか、逃げるビジョンは無かったようである。最悪捕まる事まで想定していたのかも知れない。

《幸運》マキ:50 → 94

会場を逃げ回るものの、なかなか逃げ道が見つからずに走り回る羽目になったマキ。

《ナビゲート》神咲:70 → 69

神咲「はい、そこ右。」
マキ「おっけー!」

遠隔操作で防犯カメラを確認しながら、逃げられるルートを神咲が指示をする形でしばらく逃げ回ったが、流石に疲れの色は隠せない。

マキ「ゼェ…ゼェ…」

いよいよ警備員に捕まる事が現実味を帯びてきた頃、スタッフ出入り口の付近に差し掛かったとき、誰かがマキの腕を掴んでスタッフ用通路に引き入れた。

マキ「っ!?」
岸田「私用スペースへ、早く!」
マキ「!...分かったわ!」

即座に意図を理解して、マキは私用スペースに駆け込んだ。

岸田「族は裏口から逃げました!追ってください!」

そして副社長という立場にも関わらず、岸田氏は警備員をあらぬ方向に誘導して、怪盗団を匿うのだった。



さて、誰か一人忘れられているような気がするが。

幽乃「きゃー!きゃー!」

完全に一般人と化していた幽乃。パーティー会場の混乱の中で自身も混乱し、どうしていいのかわからなくなってしまっていた。
そんな中、マキの逃走劇による警備員の大移動の際、押し流されるようにして彼女もスタッフ用通路に押し出され、気がついた時には警備員は全員警備員室から外に出ており、残された岸田氏に促される形で、難なく雨宮邸私用スペースへの侵入を果たしていた。
警備員も、まさか怪盗の仲間だとは思わなかったのだろう。それほどまでに彼女は一般人だったのだ…



先に私用スペースに侵入していた神咲は、逃げ込んだリビングを一応調べる。
そこは俊之とまどかの二人暮らしと思えないくらい、広く豪華なリビングだった。
しかし、まどかの姿はないので神咲はすぐに部屋を離れる。
その際、棚に飾られた家族写真を目にした。そこには俊之とまどかの他にもう一人大人の女性が写っており、まどかの母親だろうと分かった。
三人はとても仲よさそうにカメラに向かって笑顔を浮かべていた。
その写真だけを確認すると、神咲は廊下を走って行った人物の後を追い、俊之の部屋へと向かった。

一方、他の三人はまどかの私室で合流する。無線機を使っている事もあって、神咲も会話には参加していた。
幽乃以外はヴィネチアンマスクを装着していたのだが…

幽乃「あ、みんなそのお面どうしたの?」
神咲「・・・・・・・・え”?」
暁「顔を見られたく無いけんね」
神「「ゆの、怪盗・・・だよね?」
マキ「......はぁ.........幽乃は作戦聞いてた...?...ゼイゼイ」
幽乃「……………、うん?、」
暁「完全に一般市民化しとるな」
マキ「バカ野郎!...ゼイゼイ...」
幽乃「ひゃい?!ご、ごめんなさい…」

完全に仕事を忘れていた幽乃に、さすがにマキも声を荒げる。

マキ「あー...もう怒る気も失せたわ......早く探して帰るわよ!」

そうして、改めて雨宮邸私用スペースでの、まどかの捜索に移るのだった。

まどかの部屋は、女の子の部屋らしく可愛らしい内装だ。 机や本棚はきれいに整頓されており、まどかの几帳面な性格を表している。
だが、部屋の中央に敷かれたカーペットは曲がり、テーブルやイスは倒れ、ゴミ箱のゴミは散乱している。
そして、ここにもまどかの姿はない。

マ「「ゼイ...ゼイ」
暁「争った形跡があるねぇ...!連れ出したんかいな...?!」

《目星》マキ:75 → 56

マキはこの部屋の荒れ具合から見て、まどか一人で荒らしたのではなく、誰かと争ったのではないかということが分かった。

《目星》暁:50 → 3 決定的成功

暁は持ち前の野生的な勘で、引き出しの奥に隠すようにして「天国のお母さんへ」と宛名のついた手紙があること、そして本棚に家族のアルバムがあるのを発見する。

幽乃「あ、あんまり漁ったりとかはその…」
暁「天国のお母さんへ、ね」
マキ「お、私にも見せて」
幽乃「え、ええー…でも…うーん…」

《まどかの手紙》
「天国のお母さんへ

お母さんが天国に旅立ってからお父さんは変わってしまいました。
始めは過保護になっただけだって思ってた。でも、違います。
今のお父さんは私がグループの後継者になることが、私の唯一の幸せだと信じています。
3人で旅行に行った時のこと覚えてますか?
お父さんは「まどかのしたいことをしなさい。君の人生は君が決めていいんだよ」って言ってくれた。
そのお父さんはもういません。

後継者の証のティアラを見た瞬間、背筋が寒くなりました。
これを受け取ったら、私は私でなくなってしまうとなぜか確信しました。
私の将来は私が決めます。
そのあとのことは…どうにかなるでしょう。
怪盗団の人たちはとても優秀な方ばかりです。
どうか、どうか脱出できますように。お母さんも祈っていてください。

雨宮まどか」

そして手紙の最後の行には、小さく震える字で「お父さんのこと、助けられなくて、ごめんなさい」と書かれていた。

暁「...!これはヤバい事になったなぁ」
神咲『・・・・・・すまない、音読してくれないか?』

一人別室を捜索する神咲は、無線機を通じてその内容を知る。

《目星》マキ:75 → 58

そして、手紙を受けて改めてティアラを確認したマキは、手にしたティアラが宝飾や材質などから偽物であると気がついた。

暁「なぁ、あとそれとな?」

と、暁はアルバムもマキと幽乃に見せる。どのページを見ても、俊之とまどかと母親とみられる女性の3人が幸せそうに写っている写真が並んでいた。
数か月前までの写真があり、母親が亡くなるまではほとんど毎月のように写真が追加されていたようだ。

暁「...幸せそうやな...」
幽乃「わあ…」

《目星》暁:50 → 34

アルバムをよく見ると、水のようなもので濡れた跡がついている。

暁「水に濡れとる...泣いたんやな」
幽乃「泣いた…そっか…」

アルバムを閉じて、部屋を見渡す幽乃。

幽乃「うーん…争ったにしては跡が少ないから…。まどかちゃんが一方的になって争い自体が直ぐに終わったのかな…
となるとえーと…複数人か元々まどかちゃんが敵意を向けない…お父さん、かも。
…患者の笑顔、取り戻してあげないと…」



《PL2食事離席中の茶番》

そんな中、幽乃は救急箱を取り出して中をゴソゴソとする。

幽乃「あ、暁さんケガとかは大丈夫ですか?走り回ったみたいですけれど…」
暁「いや、大丈夫やで。これでも頑丈やからな!」
幽乃「でも後で痛み出したりするから…」

何故かケガをしているかも知れない相手には妙に積極的な幽乃である。

神咲『・・・あまりその獣に近づかないほうが良いと思うぞ。』
幽乃「で、でも神咲ちゃん……」
暁「っと、かんざし、そろそろ人外扱いやめてくれへん?」
神咲『・・・いや、今女狐じゃんお前。』
暁「いや人間やから中の人」
神咲『・・・中『に』人なんていない。』
暁「割とワシの扱い酷いんやな」
神咲『・・・お前の中身の中身筋肉じゃん。』
暁「酷い言いようやな髪飾り」
神咲『・・・せめてかんざしかかんなぎと呼べ。』
暁「煩いねんチビ柳」
幽乃「めっ!悪口はだめだよ神咲ちゃん!!」
神咲『・・・ごめんねユノ、今度から気をつけるよ。』
暁「幽乃がお母さんに見えてくる...不思議やな」
幽乃「もう!」

やはり何だかんだと仲良しな面々である。

幽乃「……そういえばそのお面は…?」
暁「あー、目印と思ってくれれば大丈夫やで」



時間は少し遡り、俊之の部屋へとやって来ていた神咲。
大量の本と大きな机が目立つ、いかにも経営者の書斎といった部屋で、奥はパーテーションに区切られて寝室につながっている。
部屋に荒れた様子はない。

神咲「・・・うん、予想通り書斎か。・・・さて、」

と、まずは捜索の邪魔をされないように鍵をかける。

神咲(・・・・誰か来るかもしれないからな)

まずは手がかりを求めて本棚を探す神咲。

《図書館》神咲:73 → 85

見えた範囲にはビジネス系の書籍が揃っていると感じられたが、

神咲「・・・やばい、身長が足りない・・・」

本棚の上部には手が届かず、調べ尽くす事ができなかった。そこでまずは、机を調べてみる事にする。
鍵の掛かった引き出し以外には、ごく普通の机としか言いようがない。

《鍵開け・機械修理 複合ロール》神咲:70,70 → 3 決定的成功

難なく引き出しの鍵を開けると、中から一冊の日記を見つける。どうやら俊之の日記のようだ。

神咲「・・・・・・これは・・・・!」

《俊之の日記》
「1年前

優香が天国へ旅立った。
初めて君に話しかけた日のことも、想いを告げた日のことも、昨日のように覚えている。
まどかが生まれた日、君があまりに愛おしそうにまどかを見つめるものだから僕は本当に幸せだった。
これからは僕がまどかを守らなければいけない。
君がいつも側で見守っていてくれることを願っている。」

この後の日記は、俊之は大企業グループの社長という多忙な職にも関わらず、まどかに母親のいない寂しさを感じさせまいと努力している様子がうかがえるものとなっていた。
しかし、ある時期からその様相が変わる。

「数か月前
ラムダファンドが雨宮グループを買収する動きがある。
このままでは雨宮グループはラムダファンドに吸収合併されてしまう。
わが社の法務部が必死に手を尽くしてくれてはいるが、ラムダの投資額は半端ではない。
グループを失うのは私一人の問題ではない。社員とその家族、そしてまどか。私は数千人の生活を背負っている。守らなければ。

数か月前
ああ、僕はなんてものを手に入れたのだろう。
花木山に落ちた隕石。
一目見てぴんときた。昔、本で読んだことがある。
隕石とともにやってくる知的生命体のこと、交渉のしかた、利用のしかたについても書いてあった。
私は彼に交渉を持ち掛けた。「困っているのなら私を使ってはどうだ」と。
彼の圧倒的なまでの知性こそ私の必要とするものだった。私があの子を守るために。

10日前
ここ最近の夜の記憶が無い。
気づいた時にはベッドで朝を迎えている。
彼との契約のせいだろう。それでもかまわない。
ラムダの件はどうにか収めることができた。
それもこれも彼との契約のおかげだ。

1週間前
狙われている。
副社長だ。
あいつは危険だ。雨宮グループを乗っ取ろうとしている。
排除しなければ。牽制のために後継者披露をすることに決めた。

5日前
発注していたティアラができた。
これを彼に頼めばいい。
そうすればまどかを守ることができる。
優香、見ていてね。まどかのことは僕が守るよ。」

神咲「・・・・・・・・・うっわあ。」

日記を読んだ神咲は、まるで『脳を入れ替えられた』ようだと感じたようだ。

《図書館再挑戦を先のクリティカル報酬で免除》

神咲「あ、この椅子使えば手が届きそう。」

机に備え付けの椅子を持っていって踏み台として使って本棚を再び探すと、経営に関する本の中から変わったタイトルの本を見つける。
タイトルは「宇宙からの使者」。俊之にオカルトの趣味があったのかと意外に感じた。

神咲「・・・・・・・・・・・うん、日記とかみ合っちゃうな・・・・」

『宇宙からの使者』
「××年、彼らは稲妻よりまぶしい光とともにやってきた。
彼らは宇宙からの使者だ。高度な文明を築きながらも星を追われた者たちだ。
彼らは宿主を求めている。人間の体を提供することで、生存が可能になるのだ。
その見返りは彼らの知識だ。彼らとの契約で我々は全知にもなれるだろう。
彼らを上手く利用することこそが人類の栄光に繋がるだろう。」

また、その使者の封じ込め方についても記されていた。

《呪文:宇宙からの使者の封じ込め方を取得》

本は最後に、こう結んであった。
「彼らの英知に歓喜した者が、それを手放したがるかは私の知るところではないが」

ここまでの情報を揃えたところで、神咲は俊之が知能を得るために、何らかの生命体を自身の体に寄生させたのではないか、という考えに至る。

神咲(・・・・・・意味あんのか?そんなことして)

《聞き耳》神咲:70 → 86



4人はそれぞれの部屋で得た情報を、無線機を通じて共有する。

幽乃「えーと…となると…」

情報を統合して推理を巡らせるメンバー。

マキ「......父親自体は黒ではないけれど.........ふふ...はははは...!」
神咲(・・・・・五月蝿い・・・)
暁「頭おかしくなったんか薪の木」

何故か笑い出したマキにツッコミが飛んだその時。
メンバーは唐突に感じる。何かに見られている。観察されている。見定められている。
背中を何かが這う感覚が襲い、寒気がする。

《SANチェック》
神咲 → 成功 SAN85 → 84
暁 → 成功 SAN60 → 59
マキ → 成功 SAN50 → 49
幽乃 → 成功 SAN65 → 64

幽乃「え…?」
神咲(ザザザ…とノイズが酷い)
暁「...何かに見られとる気ィするんやけど...!」
マキ「...気のせいでしょう...」

異質な感覚に身を震わせつつも、ナーディーガールズはここからの事を否応無く考えなくてはいけない。

神咲「・・・さて。」

警察も出動し始めたのか、外の喧騒は一層大きくなっている。容易には脱出できないだろうし、私用スペースに捜査の手が及ぶのも時間の問題だ。

暁「...外もマズい事なっとるんちゃう?」
マキ「.........さーてと...」
幽乃「???」

幽乃だけはいまいちわかっていないようだが。
ひとまずマキ達に合流しようと、部屋を横切る形で出ようとした神咲は、

《アイデア》神咲:90 → 8

俊之の部屋のカーペットを歩いた際、一瞬だけ足音が妙に響いた箇所があったような気がした。

神咲「・・・・・・」

気になった神咲は、その場所にかかと落としをしてみる。やはり、そこだけかなり音が響いた。

神咲「・・・」

神咲は部屋のカーペットを剥ぎ取ってみる。すると、床下収納のようなものを発見した。
そして、神咲が出てこない事が気になったマキ達も、俊之の部屋へ合流した。

幽乃「あ、神咲ちゃんさっきぶりだね。ケガとかは大丈夫?痛いところない?」
神咲「うーん、強いてゆうなら頭が痛い。」
幽乃「大変!」
神咲「・・・うん、大丈夫だから、大げさだから落ち着いて。」
幽乃「本当?大丈夫…?」
神咲「・・・・・・ん。」

どうにもマイペースな幽乃に振り回されっぱなしの神咲である。

マキ「......そっちはなにか進展あった?」

聞いてきたマキに、神咲は無言でその扉を示す。

マキ「......なるほど、まどか嬢はここから連れ去られたのかな?...そんなのも見つけるなんて流石考述」
神咲「・・・ああ、ここから逃げたんだと思う。」
幽乃「わあ…すごい!こんなの見つけたの?」

扉を開けると、地下へと続く階段が現れる。恐らく雨宮父娘はこの先に居るのだろう。

マキ「.........さてと......私は今、猛烈に怒っている......キレそうになるのも本当に久しぶりだよ...
......私からの次の指令は言うまでもないな?」
神咲「・・・・・・ああ、ちょっと準備しないと。」
暁「...。」

語気を強めたマキの言葉に、力強く頷く神咲、暁、そして幽乃。

マキ「『取り返すわよ、私たちのお宝』...!」
神咲「ん。りょーかい。」
暁「了解」
幽乃「患者さんを助けてあげないと!」

そして、階段を下りる前に、神咲はまどかの部屋から彼女の服を持って来る。

神咲「これたぶん必要になると思うし。」

そして、全ての準備を整えると、ナーディーガールズは意を決して階段を降りて行くのだった。



マキたちは薄暗い階段を下る。
降りていくとそこには、探索者が見たこともない機械が所狭しと置かれていた。

幽乃「おっとっと…足元が…」
マキ「......」

そして地下室の中央にはぐったりとしたまどかと、手にティアラを持ち、待ち構えている俊之の姿が見えた。

俊之「ああ、やはり貴女方は怪盗団だったのですね。本物のティアラを隠しておいて正解だった」

俊之は微笑みながら話しかける。しかし、その笑みはどこか狂気的だ。
先ほど神咲がかかと落としで立てた音、それによって侵入者の存在に気付き、彼は待ち構えていたのである。

マキ「......怪盗団のお宝を横取りするなんて...いい趣味してるじゃない。...娘の第1を考えないなんて、あなたそれでも親なの?」
神咲「うーん、と、・・・・それじゃ、『意味無いと思うんだよね』、雨宮父。」
俊之「いいえ、私はまどかの幸せを亡くなった妻に約束しました。
グループを守り、その財産をまどかに引き継ぐことこそが彼女の一番の幸せなのです」

幽乃「って…あ!駄目ですよきちんと寝かせてあげないと!」

マキ「......それは、自分の勝手な考えで?」
神咲「・・・だから、『それじゃ、『意味無いんだよね』』」
暁「随分とイカレとるなぁ...自分勝手やね?」

幽乃「具合が悪いときにはきちんとした場所で寝かせてあげないと逆効果です!」

先ほど俊之と会った暁と幽乃は、先程よりも俊之の目が血走っているように感じる。

雨宮「意味があるかどうかは、私たち親子が決めることです。部外者の貴女方には関係ないですよ」
神咲「・・・あんたには、わかんないだろうが、『受け継ぐ』って、言うのは『プレッシャー』なんだよね。」
マキ「バカ野郎!」

幽乃「後お父さん、きちんと手洗いはしましたか!?こんな地下なんですから!」

一瞬の沈黙。
マキ達だけでなく、俊之までもが、その人物の顔を見る。
勿論その人物とは、一人だけ怒りの方向性が全く違う幽乃だ。

神咲「・・・いや、お前さ、言い間違えてるよ・・・?」
マキ「...ちょっと黙ってなさい」
幽乃「もがー!」

マキに口を押さえられる幽乃。気を取り直して、マキ達と俊之は舌戦を繰り広げた。

雨宮「ははは、プレッシャーですか…大丈夫。このティアラは知能を持つ者の媒介です。あの知能を手にすれば、まどかは何も困らなくなりますよ」
マキ「...親が決めたルートをだとっていけば幸せになれる?...バッカじゃないの?......そんな仮初の幸せなんて...誰もいらないに決まってるじゃない!」
神咲「・・・『親子』じゃなくてそれは『親』が決めたことでしかないのに気づけよ。・・・・・・頭良いってのも辛いんだよ・・・。
そこの、脳筋みたいに、何も考えず生きれるやつが私はうらやましいのさ。」
暁「知能だけがすべてとは限らないと思うんやけど?」
雨宮「いえいえ…彼は我々を全知にしてくれるパートナーです。彼は常に最適な答えを教えてくれる。だから何も考えなくていいのですよ」
神咲「・・・でさ、もう、それ、『人間』じゃないじゃん。」
マキ「......腐ってる、アンタ...腐ってるよ...ゲロ以下だ...っ...!」

マキは本気で怒りを露にしており、普段見せないような目つきで俊之を睨みつけている。

神咲「・・・弟も言ってたさ、『人間として生きることは、『自らの意志で決め、自らの意思で進むことだ』』って。
・・・私に自由をくれた弟には感謝してるからね。
とりあえず、その子にも『自由の喜び』を教えたいのさ。」
俊之「初対面の方々に罵倒されるのは心外ですね。私は会社の、まどかの将来を憂いているのですよ…貴女方のような人と接点を持つのは良くない」

《精神分析》幽乃:31 → 15

口を押さえられながらも幽乃は俊之の精神状態を分析する。恐らく俊之はまどかへの想いが暴走し、判断力を失った半狂乱状態にあるのではないか、と。

幽乃「んー!んんー!」
神咲「あと、マキ、そろそろ離してあげて。」
幽乃「ぶはっ!ぜー…ぜー…」

ようやく開放されて、息も絶え絶えな幽乃である。

マキ「......その狂った考え......貴方は何も分かっちゃいない...わかったつもりでいる...ただの大バカ者だ!」
神咲「うん、『大人』の悪いとこ全開。」
幽乃「んんー?これは…
とにかく!まどかちゃんの笑顔とお父さんの笑顔、取り戻してみせますからね!」

そして、マキは俊之を指差すと、高らかに告げた。

マキ「......怪盗団として......まどか嬢と...貴方のその腐った『正義』...頂くよ!」

幽乃「あ、や、やりすぎは駄目ですからね!!あくまで非殺傷で!!」
神咲「・・・あ、筋肉、罠かせ。」

マキ達の言い分を聞いて、俊之は静かに探索者に微笑みかける。

俊之「なるほどなるほど…怪盗団の皆様の言いたい事はわかりました。…ですが、

《私たちの幸せの邪魔をしないでいただきたい》」

その瞬間、俊之の瞳の色が変わったかと思うと、マキたちの頭にノイズが響き渡る。
立っているのも困難なくらいだ。俊之に、いや、俊之に体を借りる何者かに見定められている。
次は自分たちが寄生されてしまうのではないか、という恐怖に襲われた。

マキ「っ......!」
神咲「・・・うるっせえなあ・・・・・!」
暁「っ...!?」
幽乃「う…」

《SANチェック》
暁 → 成功 SAN59 → 58
マキ → 成功 SAN49 → 48
神咲 → 成功 SAN84 → 83
幽乃 → 成功 SAN64 → 63

神咲「・・だから・・・!それは『私たちの』じゃなくて『私の』だろうが・・・・!!」
暁「へぇ...!騒がしいゲテモノやな...!」
幽乃「患者が…騒ぐなー!」
マキ「うるせぇ...っ...アンタみたいなのが与えるクソみたいな幸せなんて...誰も幸せになれないのよ!あんたこそ...邪魔を...するなぁ!」

その時、階上から轟音がしたかと思うと、どかどかと誰かが階段を駆け下りる音で探索者たちは我に返る。

護衛「俊之様!ご無事ですか?この盗賊どもめ、とっ捕まえてやる!」

やってきたのは俊之専属のSPが一人。何かあったときのためにこの場所を教えていた、俊之の数少ない側近だ。

神咲「・・・・ふ、来るとおもったさ・・・」
幽乃「は、はわわ……」
マキ「落ち着け!パニックになるな!患者を救うんだろ!?」
幽乃「そ、そうでした…頑張らないと!」

この時、俊之はまどかのすぐ傍に立っていた。そしてその手には、本物のティアラが携えられている。
もしあれがまどかに被せられてしまったら…
これまで手にした情報から推測する限り、どうなってしまうのかは想像に難くない。
俊之とSPの二人を相手にしつつ、誰かがまどかを救いに行かなくてはいけないのだ。

真っ先に動いたのは暁。拳にメリケンサックを装着し、SPに殴りかかる。

《こぶし》暁:70 → 35

《回避》護衛:20 → 41

《ダメージロール》
暁:2d4+1 → 6
護衛:HP13 → 7

暁「オラァ!」
護衛「ぐほっ…!」

それを背にして神咲がまどかの元へ駆け寄り、俊之から引き離そうと試みる。

《STR:SIZ対抗ロール》神咲STR7 : まどかSIZ8 = 目標値45 → 88

…が、小柄で非力な彼女には、同じ体格のまどかの身体であっても容易には動かす事ができなかった。

神咲「・・・・・・・泣きそう。」

しかしそこは神咲。暁から借りていた罠を咄嗟に足元に設置しておいた。
そしてこの空間でただ一人、役割のない人物がいた。

幽乃(え、えーと何しよう…)

元から非戦闘員であり、非力で優しい彼女には、今この場でできることが一切見当たらなかった。

幽乃(なにを…しよう…)

考えすぎて眼からハイライトが消えていく。
そうして考えた末に、幽乃はなぜかSPに対してキックを繰り出していた。

幽乃「や、やー!」

《キック》幽乃:25 → 71

幽乃「あいたー?!」
護衛(え、何で普通の女の子がここに…?)

全く腰の入っていないキックを受け、ダメージを受けるどころか逆に戸惑うSP。

幽乃「あいたたた…け、腱を痛めました…」
マキ「言ってる場合か!」

足をさすりながら涙目になる幽乃を叱咤しつつ、マキは俊之の動きを封じるべく掴みかかる。

《組みつき》マキ:60 → 81

神咲「・・・・・・っと、やばいな・・・」
俊之「この盗人どもめ!」

マキの突進を避けた俊之が、まどかを救いに動いた神咲を優先的に排除しようと、懐からナイフを取り出してそれを投げつける。

《投げナイフ》俊之:60 → 99 致命的失敗

が、ナイフはあらぬ方向へと飛んで行き、そして神咲はにやりと笑った。

俊之「うおっ!?」

そう、俊之がナイフを投げる際に踏み出した足が、ちょうど神咲が仕掛けた罠に引っかかり、俊之は宙吊りになってしまったのだ。

神咲「・・・『バーカ』。」
暁「お、見事に罠に突っかかってくたんやな」
神咲「いやぁ・・・宇宙の知識ってそんなもんかなあ・・・?
たった、『一匹』の『人間』『サマ』に知恵比べで負けるだなんてさあ??」
マキ「バッカ...あーww 」

ここぞとばかりに煽りまくる怪盗団。特に神咲は徹底的にバカにしてかかる。

護衛「と、俊之様!?くそっ!」

《警棒》護衛:50 → 53

警棒で殴りかかろうとしたものの、目の前にいるのは非力な一般人の幽乃。さすがにこの子を攻撃してもいいのかと迷いが生じたのか、その一撃は空を切る。

マキ「...こりゃ簡単にティアラ盗めたわけだわ、ザルだもの...」
幽乃「あ、あの…、まんまと偽物掴まされたのはマキノキさんですけど…」
マキ「HAHAHA、私はティアラが目的じゃないからねー」

《こぶし》暁:70 → 54

《回避》護衛:20 →34

《ダメージロール》
暁:2D4+1 → 6
護衛:HP7 → 1

暁は攻撃を外したSPに対してとどめと言わんばかりの一撃を放ち、まともに食らった護衛は完全に気絶してしまった。

神咲「お、いい手加減パンチ。」
暁「さっさと死に腐れやボケナス」
神咲「おい、筋肉」
マキ「そいつは悪くないぞー」

何故か命を奪う気満々だった暁に対し、マキと神咲が一応釘を刺すが、

暁「敵をかばうやつは敵なんやで、知っとったか?」

と、暁は意に介さなかった。

幽乃「……けが人!!!」

そんな中、「自分にできること」を見つけた幽乃の眼の色が変わっている。
そして神咲はと言うと、

神咲「・・・ふひひ・・・」

意地悪く笑いながら、俊之の衣服以外の所持品を根こそぎ奪い取っていた。

神咲「・・・ついでにティアラゲット~。・・お、この財布いっぱい入ってんじゃ~ん。」
俊之「き、貴様!返せ!!」
神咲「・・・お、ナイフもこんなに・・・・うん、売ったらそこそこのお金になるかな・・・?」
マキ「......さーてと?......おしおきの時間だ」

指をパキポキ鳴らしながら俊之に対峙するマキ。その後方では、幽乃が救急セットを取り出して慌しく動いていた。

幽乃「けが人けが人!!」
マキ「せめて縛ったあとにしろ!どこぞのナイチンゲールかアンタは!」

《医学》幽乃:55 → 4 決定的成功
《応急手当》幽乃:80 → 30

マキに言われたからかそれとも天然なのか、幽乃は治療しつつもSPの身体を包帯でぐるぐる巻きにし、その無力化に成功していた。

幽乃「ぐーるぐーる…♪」
護衛「んー!?んー!!」

的確な治療で意識を取り戻したSPだったが、完全に身動きを封じられていて呻く事しかできない。

神咲「・・・さすがユノエル、うちから殺人罪がでない理由ちゃんだ。」

と、暁を見ながら神咲が言う。

暁「...なに見とんねん」
神咲「前にお前のせいで警備員が死にかけたときも・・・ねえ?」
マキ「警備員にパソコン投げつけて気絶させたやつがなんか言ってる...」
神咲「・・・・いや、そんなつもりはなかったし、あと、パニくってた」
マキ「宇宙人とかの話よりか向こうの方がなんか怖いんだけど...」

そんな会話を横目に、幽乃は処置を続けていた。

幽乃「あ、ちょっと染みますよー」
護衛「んーーーー!!!!!!!」

消毒液の噴射に悶え苦しむSP。一連の行動は、全て100%善意により行われているえげつない行為である。

暁「あ、そういやまどか嬢様はどうするん?」
神咲「助ける。と言うわけで、狐、力仕事は任せた。」
暁「ん、了解」
マキ「......こいつは任せてよ...怪盗団からお宝を奪った罪、思い知らせたいからね」

そう宣言すると、マキは持っていたダーツを取り出した。

マキ「......あー!こんな所にいいダーツの的があるなー!」

思いっきり棒読みのその物言いに、俊之の顔面が蒼白になる。

暁「マキノキさんやっちゃえー^^」
神咲「ちょ、落ち着け、落ち着けクオート。まじやm」

《俊之行動不能により判定自動成功》

マキ「ハイクを読め、まどか父=サン、カイシャクしてやる!」
暁「^^」

マキはダーツを拳の間に挟み込んで、そのまま俊之を殴りつけた。

《ダメージロール》
マキ:1D6+2d4 → 6 + 4
俊之:HP12 → 2

マキ「イヤー!」
俊之「──!」

その想像を絶する痛みに、俊之は一瞬にして意識を失った。

神咲「うわああああ!まじでやりやがったこいつぅぅぅ!!」
幽乃「あ、そっちにもけが人が…」
神咲「ゆ、ユノ、お願い・・・・」
マキ「あー、スッキリした^ ^」
暁「お疲れ様ー^^」
神咲「うわあ、血が、血がああ!」
幽乃「あら大変!急いで止血しないと!」

2人と2人で真逆の反応を示している怪盗団。刺し傷から血の流れる俊之を罠から解放し、すぐに幽乃が手当てに移る。

《医学》幽乃:55 → 1 決定的成功
《応急手当》幽乃:80 → 41

適切な処置によって、すぐに俊之の止血に成功した。幽乃が居なかったらどうなっていたのかとは考えたくもないだろう。

幽乃「えーと…あーもーマキノキさん深く刺しすぎです!神経まで達してますよもう…」
マキ「テヘ☆クズを見るとついやっちゃうんDA☆」
暁「人の中の底辺はぶっ潰すのがお決まりなんDA」
マキ「汚物は消毒とも言うしね......まぁ私今日それ以外にも警備員の首絞めたし...」

幽乃は笑顔を作ってはいるが、何かどす黒いオーラのようなものが背後に立ちこめていた。

神咲「さて・・・気を取り直して、と。」

神咲は、持って来ていたまどかの着替えを取り出して、気絶している彼女を着替えさせることにする。

《DEX×5 ロール》神咲:85 → 19

神咲「・・・・やばい、サイズ一緒だから意外と簡単だった。」

まどかと同じ体格の神咲には、思っていた以上に簡単だったようだ。
その時、俊之の治療をしつつ幽乃がふと口にする。

幽乃「それと、お父さんをなんとかする方法は見つかりましたか?」
神咲「・・・あ、そうそう。ちょっと小一時間ほど待ってくれないか?」
マキ「ん?あー、あの呪文ってやつ?」

マキの言葉に頷くと、神咲は一人で呪文の詠唱を開始する。
その間に、幽乃はまどかに駆け寄って、手当てを施した。

《医学》幽乃:55 → 92
《応急手当》幽乃:80 → 8

幽乃「と…ととと…えーと、この症状だと…」

やや手間取ったものの、何とかまどかは意識を取り戻す。
彼女はゆっくりと目を開けると、

まどか「ここは…?怪盗団のみなさん、助けに来てくださったんですね。ありがとうございます…」

と、弱々しい声で話した。

マキ「はぁ...まったく...大丈夫?」
暁「...目ェ覚ましたんやな」

まどかはマキ達に頷いたあと、伏し目がちに話し始める。

まどか「…父がパーティーの前に私の部屋にやってきて、『今すぐこのティアラをつけなさい』と。
父の目は血走っていて、今にも私につかみかかって来ようとしました。
やっぱり父はおかしくなってしまったのでしょうか。私どうしたら…」

涙声で話し、顔を覆うまどか。マキは返り血のついた手をうまく隠しつつ受け答えをする。

マキ「......ん?その父親なら」

と、マキの指し示す先で、幽乃が治療の続きを、そして神咲が儀式を行っている最中だ。

幽乃「止血はよし…後はこの体勢で…」
神咲(呪文詠唱中)
マキ「...今貴方の父親を治してる最中だからね...大丈夫よ」
まどか「え、治療…できるのですか?」
マキ「今考述がやってるから...」

呪文の詠唱を受けて、俊之はまるで悪夢でも見ているかのように手足が痙攣し、苦しげに呻き出していた。
それを見たまどかは、祈るように指を組みうつむいている。

幽乃「ととと…精神的な症状が出ていますね…
大丈夫。まどかちゃんも、まどかちゃんのお父さんも、きっと笑顔を取り戻せます」
マキ「ヒーラーが言うと説得力あるわねー」
まどか「でも、治すといっても、いったいどんな方法で…」
マキ「ん?...まぁ何かの不思議パワーでどうたら」

呪文は神咲がその存在だけを伝え、内容は教えていない。そのためマキにはその仕組みがよくわかっていなかった。
それを聞いて、まどかははっとなる。

まどか「不思議パワー…そう言えば、小さい頃に聞いたことがあります、大いなる知能を持つという、宇宙からの使者の話を」
幽乃「えっと…そうなの?」
まどか「花木山を管理していた、先祖代々に伝わる話なのだそうです」
マキ「...花木山...ねぇ」

花木山。元々鉱山事業から始まった雨宮グループが今でもその権利を有している、雨宮邸の裏手に聳える山である。
まどかが依頼に来た日にも、ニュースで隕石が落ちた事を伝えていた。

神咲「・・・・・・あ、個人的にその山行ってみようかな?・・・いや、やめとこ。」
マキ「やめときなさい、今度はアンタが寄生されるわよ」
まどか「おとぎ話の類だと思っていたのですが…まさかそうだったのですか?」
マキ「...まぁ、そうね...あのティアラも恐らくそいつ等の寄生道具だったってことよ」

そこまで話したところで、思い出したように神咲がニヤニヤしながら話し出した。

神咲「・・・・・・あ、宇宙の知能って『たった一匹の』『人間』『サマ』が仕掛けた罠に引っかかる程度だったよ。」
マキ「...いやぁ...綺麗にハマってたわね...フブ...」
暁「見事にも人間「様」に敗れとったなぁ」
幽乃「……???」
まどか「は、はぁ…父のこの惨状はそういう事でしたか…」

それにしても煽るのが大好きな面々である。

幽乃「うん、とりあえず外傷はこれでOKかも…」
マキ「......いやー、一体誰がこんな血まみれになるようなことしたんだろうね!」

幽乃の治療が終わったところで、マキはわざとらしくそう声を上げた。もちろん返り血のついた自分の手と血まみれのダーツは隠しつつ。
そんな話をしつつ神咲が呪文を唱え続けて、およそ1時間ほどが経過。

神咲「・・・・・・さーて、と。」
マキ「...仕上げかい、」
神咲「・・・セいっ!」

やがて呪文が終わると、ブーンという不快な羽音とともに小鳥くらいの大きさの虫が怪盗団の前に現れる。
奇妙なカーブを描く触角、ギラギラと輝く10本の足、鱗に覆われた翼を持ったその虫は、憎しみを持って怪盗団を睨みつけた。

幽乃「……ひっ?!」

《SANチェック》
マキ → 成功
幽乃 → 失敗 1D6 → 3 SAN63 → 60
神咲 → 成功
暁 → 失敗 1D6 → 1 SAN58 → 57

マキ「あー、虫だー」
神咲「あ、昆虫図鑑で見たことあるー(アヤカシのだけど)」
暁「虫やね」

それほど驚く事のなかった面々ではあるが、その中で虫が嫌いな幽乃だけは違った。

《短時間で5のSAN減少のためアイデアロール》幽乃:65 → 21

幽乃「きゃ、きゃあ……」
神咲「・・・・・ん?」

《発狂表ロール》
1D10 → 6 サツ人癖あるいは自サツ癖

幽乃「や…や…やぁぁぁぁ!!!!」
神咲「・・・ちょ、どうした?ユノ?」
マキ「ん?どうしたの?」

虫が嫌いな上、このような人知を超えた存在の悪意を受けたことで、幽乃は発作的に自分の首を絞め始めてしまう。

神咲「え、大丈夫?」

《こぶし》暁:70 → 75

口より先に手が動いた暁だったが、その拳は空を切る。
それを受けてマキが幽乃に対して平手打ちを敢行。

《こぶし》マキ:50 → 30

幽乃「キャッ?!」
神咲「ちょ、何しとんねん!?」

周囲が思っていた以上に強力な平手打ちが入り、神咲が思わず関西弁になってしまった。

《ダメージロール》
マキ:2D4 → 7
幽乃:HP11 → 4

《ショックロール》幽乃:50 → 92

幽乃「きゅう…」
神咲「あっ。」

そして、そんな思っていた以上の一撃を受けた幽乃は、あえなく気絶してしまう。

マキ「...あ、やっべ...手加減うまく出来なかったーや」
暁「...けっこうめり込んだな、起きとるかー」
神咲「・・・確かユノに習ったとおりだと・・・・・」

神咲が見よう見真似で幽乃に対して応急手当を施してみる。

《応急手当》神咲:30 → 3 決定的成功

神咲「うーん、こう、かな?」

適切な処置によって、幽乃が安らかな寝息を立て始めた。
その横で、マキと暁は相変わらず物騒な話をしていた。

マキ「この虫どーする?潰す?」
暁「...この虫、潰そか」
マキ「ま、とりあえずこいつつぶそか」

二人揃って血まみれの武器を取り出し、奇妙な虫に相対していた。彼女達には宇宙からの使者など恐るるに足らないのだろう。
その後、虫はマキたちの頭上をふらふらと一周すると、まるで形が保てなくなったかのようにバラバラに崩れ落ち消えた。
俊之の手足から力は抜け、ゆったりとした寝息が聞こえてくる。怪盗団の面々はまとわりつくような視線が消えるのを感じる。

マキ「...ちぇっ、消えちゃった」
暁「...消えたな」

心底残念そうな二人だった。

幽乃「あ、あいたたた…うう……」
マキ「ごめんねー、うまく手加減出来なかったよ...」

そこで幽乃も目を覚ますが、何故か神咲はどさくさに紛れて幽乃の胸を触っていた。

幽乃「??一体何が…?」
神咲「さあ?・・・・夢でも見たんじゃない?」
幽乃「うーん…だといいんだけど……あ、お父さんの治療終わったんですね!」

神咲(や、やわらかかった・・・)

疲れからかおっさん化が始まる神咲だった。

まどか「これで…父は助かるのですね。みなさんには何とお礼を言っていいか分かりません。本当にありがとうございます」

まどかはそう言って、と深々と頭を下げた。

神咲「さて、当初の目的をっと。」
マキ「......ま、こっちは依頼された身、ちゃんとそこまでしなくちゃね......そんで、まだひとつ問題があるけどさ?.........どうやって脱出する?」
幽乃「???普通に玄関から…」

相変わらず状況が飲み込めていない幽乃。この時暁が全員ぶっ飛ばす旨の発言をしたため、マキと神咲に諌められている。

《STR:SIZ 対抗ロール》神咲STR7 : まどかSIZ8 = 目標値45 → 63

と、神咲は何故かもう一度まどかを抱え上げようと挑戦してみたが、またしても上手くいかなかった。

神咲「・・・・・・泣きそう。」
まどか「え、な、何ですか…?」
マキ「......どんまい」
神咲「いや、こう、かっこよくお姫様抱っこしたかったんだ・・・・」

何かこだわりがあったらしい。

幽乃「あ、そうだ…まどかちゃんは大丈夫?どこか傷んだりふらついたりとかはない?」
まどか「ええ、それは大丈夫です…」
マキ「怪我に飢えてるなぁ...」

すっかり「見境無きナース」と化した感のある幽乃。今なら紛争地帯にでも喜んで赴くのかもしれない。
と、まどかは少し思案してから、

まどか「あの、少しいいでしょうか。今から上に戻ったら、皆さんは警備員さんに見つかって、最悪の場合は捕まってしまいます」
マキ「うん、だよね!」
幽乃「えっ、逮捕?!」
まどか「でも、以前父から聞いたのを思い出したのですが、この地下室には秘密の抜け道があるそうなのです。
雨宮グループは昔鉱山を所有していて、この地下室はその頃の坑道の名残なのだとか」
マキ「...秘密の抜け道...あー、なるほど」
暁「はぁ、何処までも富豪なんやな」
神咲「どうせ山につながってるとは思ったけどさ。」

まどかの言葉を受けて周りを見渡せば、おびただしい数の機械が並んでいるが、部屋の一角にぽっかりと隙間があり、近づくと扉と説明書きがあった。
木製の説明書きには「至花木山」と達筆な筆文字で書かれていた。字体や説明書きの素材からしてかなり古い時代に書かれたのだろう。
なお、まどかは自分の服が着替えさせられていることには、多分気付いていない。

神咲「でしょうね」
マキ「...これ大丈夫?」
幽乃「わあ…なんかいっぱい…」
暁「随分とむっかしに書かれた文字やなぁ」

脱出のための扉を見つけた怪盗団に、まどかは改めて告げた。

まどか「あの…脱出するのでしたら、私も皆さんについて行ってもいいでしょうか?
色々な事が起こり過ぎたのもありますし、私自身、一度気持ちの整理をつけたいのです」

まどかは断られるかもと、不安も半分抱えていたのだが、

神咲「あたりまえでしょ?」

と、神咲が即答した。

幽乃「…そっか、そういう依頼だったね…いいの?お父さんの事は…」
マキ「...あ、そういえばまどか父...」
神咲「・・・ついでにお父さんも『盗む』?」
暁「まどか、父さんはどうする?」

安らかな寝息を立てている俊之を横目で見つつ、目を閉じ、決意に満ちた表情で、答えた。

まどか「当初話したとおり、少し母方の実家に向かってみたいと思います。
私も、気持ちの整理をつけたいですし、いろいろと考える事もありますので」
マキ「......ここからは私たちの助けは借りられない...頑張るのよ?」
幽乃「…うん、わかった。まだわからないけど…。今はまだだけど…まどかちゃんも、笑顔に戻れるといいですね!」

《コンピュータ,電子工学 複合ロール》神咲:70,70 → 68

と、何故か地下室の機械の一部を最新型に改造し始めた神咲が、それを片手間にまどかに声を掛けた。

神咲「あ、待った。ケーキをおごってもらわないと。」
まどか「…そうでしたね、後日私のお気に入りのケーキをお届け致します」
神咲「いや、そういうのじゃなくてさ、」

神咲の意図を掴めず、首を傾げるまどか。

神咲「一緒にお茶しない?ってこと。」
まどか「…あぁ、そういうお誘いだったのですね。わかりました、落ち着いたらまた連絡しますね」
マキ(百合かな?)
神咲「ふふ、実はさ、あなたに一般的な女の子の喜びって言うのを教えたくてさ。」

何だかんだで神咲はまどかの事が気に入っていたようだ。

マキ「...まぁ、これで依頼達成!あー!つかれたー!」



扉を開くと、土がむき出しになっている地下道が続いている。
少し屈まないと頭がぶつかってしまいそうなくらい狭く、一切の光がない暗い道を手探りで進む。
本当に出口はあるのか、と不安に感じたその時、道の先に光が差し込むのが分かった。

暁「...見えんな」
マキ「あそこかな?」

出口は天然の洞窟になっているようだ。
木々の隙間から月の光が怪盗団を祝福するかのように照らしていた。

幽乃「わあ…きれいですね…」
神咲「・・・・・あー、トマトとモッツァレラーチーズ食いたい。」
マキ「帰ったら食べさせてあげるわよ...」

雨宮邸のある方角へと視線を向ければ、かなりの大騒ぎになっているようだ。
花木山が今でも雨宮家に権利があるとは言え、山狩りが行われるのも時間の問題だろう。

マキ「...ふふん、やらせていただきましたぁん!」
神咲「あ”、PC忘れてた。・・・爆発させとこ。」

遠隔操作で警備員室に置いたままのパソコンを爆発させて証拠隠滅する神咲。

神咲「さよなら・・・私の研究成果・・・・」
幽乃「しかし!なんにせよ皆さん無事で何よりです!」

しかし、ここからどうやって事務所まで戻ろうかと思案していたところで、一台の車が近付いてきた。

マキ「......ん?あの車...」
神園「...マキノキ、派手にやったな、おい...」
マキ「!輝......何故ここに...」

その車の中からは、男性っぽいが、女性の声がする不思議な人物が顔を出した。
神園 輝、マキが表向きの顔・探偵として所属する探偵事務所の代表を務めている。が、マキ以外のメンバーとは面識が無い。
神園は別の場所でも事務所を構えていて、怪盗団事務所はマキが好き勝手に使っているのである。

神咲「お、かr・・・彼女?」
幽乃「??」
神園「.........僕は生物学上女だ」
神咲「・・・あ、知り合いにも同じのいるよ。医者だけど。・・・ぼくっ娘の探偵もいるね。」
暁「生物学者さんかい?どうもー」
神園「......僕は探偵だ」

疲れているのか話をちゃんと聞いていない暁。

マキ「イヤー、悪いね☆...この人は安心できるから、皆も早く車に乗りなよー」

暗がりのためわかりにくいが、黒塗りのプリウスで現れた神園。隠密行動には最適である。
マキはさっさと助手席に乗り込んで、続くようにして他のメンバーとまどかも車に乗り込んだ。定員外乗車違反待ったなしである。

神咲(・・・まどかと並んで一人ぶんの座席に座れた・・・・・)
幽乃「……あ、あいたたた…うう、後できちんと診ておかないと…」
神園「...はぁ...我ながらめんどくさいやつを匿ったもんだ...とりあえず、君たちの事務所に戻るよ、僕はこれから君たちが隠れている事務所を隠蔽処理をしなくちゃいけないからね」

そして、花木山を走り去るナーディーガールズを載せた車。途中、まどかが自宅の方を物憂げに眺めていたが、何を思っていたのだろうか。

暁「ぶーん^ω^」
神咲「・・・脳筋、バカに転職するか?」
暁「煩いかんざし!」
幽乃「悪口はめっ!!」
神咲「ごめん、ゆの。」
マキ「賑やかねぇ...」
神園「全く...探偵なのになんでこんなことをしてるんだか...」
マキ「HAHAHA☆」

こうして、雨宮グループ次期後継者披露パーティーでの怪盗団の仕事は無事完遂。
まどかが依頼した通り、彼女自身の身柄と、報酬のティアラを盗み出す事に成功したのであった。
翌日のマスコミ報道は大騒ぎとなり、彼女たちはそんな報道を見つつ、達成感に包まれていた事だろう。



──数日後、怪盗団事務所。

ナーディーガールズの面々がテレビを点けると、雨宮グループ社長の雨宮俊之と副社長の岸田、そして会社の幹部が数人出席しての記者会見を開いていた。

神咲「・・・・・・・・(トマトもぐもぐ)」
暁「...お、父さんやんか」
幽乃「セイロンティー、入りましたよー」

マスコミの質問はやはり、後継者披露パーティーの騒動に集中する。
怪盗にティアラを盗まれたというのは本当なのか、実際のところは何があったのか、と。

神咲「あ、同じティアラダブってるけど片方どうする?」
マキ「両方飾っときましょ」

それに対し、俊之はあの日見た狂気的な笑みではなく、本当に人の良さそうな笑顔で答えた。

俊之「世間の皆様、お騒がせして申し訳ありません。実はパーティーでの一件につきましては…まどかのイタズラでした」

どよめくマスコミ。その様子を見ながら、俊之は続けた。
怪盗として現れたのはまどかが秘密裏に雇った劇団員で、副社長の岸田や一部側近もまどかに協力して仕掛け人となり、あの大掛かりなイタズラを仕掛けた事。
そして、盗まれたとされたティアラが偽者だった事と、劇団員の一部が役にのめり込み過ぎて警備員に怪我をさせてしまった事、などを説明する。

幽乃「あ…お父さんの笑顔…戻ってますね!」
神咲(劇団員・・・・・)
暁「そういや気絶させてたな」
神咲「・・・・・・暁、ニュースになってるぞ?^^」

俊之「まどかは父親の目から見ても、考え方や知性など、凄く大人びています。ですが…それでもやはり、彼女はまだ13歳の少女なのです」

13歳の社長令嬢による、一世一代の大反抗。真実かどうかは別にして、マスコミにとってこれ以上のネタは無いだろう。

マキ「...まぁ、奇術師としてはいい幕切れかな?」

そして、娘がそんな大規模な計画を実行するに至った経緯について聞かれた俊之は、ふう、と大きく息をついて、

俊之「…妻が亡くなって、私は心の余裕を失っていました。
ラムダファンドによる買収話も持ち上がったことで、まどかとの時間は減り、仕事の事で頭を悩ませる日々が続きました。
きっと、まどかは寂しかったのだと思います。
ここにいる岸田や側近達、そして社員達に対しても、感情的になる事が増えていたように思います。
そんな心労が重なったからなのか…いつしか私は冷静では無くなっていました。
『グループの安定と本人の将来のために、早くまどかに後を継いでもらわなくてはいけない』と、思い込んでしまっていたのです。
仕事ばかりで碌に父親の顔もしない日々が続いた中で、ある日いきなりそう言われたとあっては、まどかが反発するのは当然だったのです」

神咲(・・・こいつ・・・!うまくまとめやがった・・・!)
暁「口上手やね」

会見では同時に、俊之氏の社長退任と岸田副社長の昇格が発表された。本来の俊之氏が全幅の信頼を置く岸田氏ならば、グループはこれからも安泰だろう。

幽乃「あ、あの人…昇格するんですね」
マキ「...いい人だったよね、あの人なら大丈夫だよね?」

そして、記者の一人が「俊之氏は今後はどうされるのですか?」という質問をすると、俊之氏はとても優しい表情で返した。

俊之「しばらくは、仕事から離れて、父娘だけの時間を過ごしたいと思っています」

この父娘ならば、きっともう大丈夫。そう確信した探索者は、チャンネルを変えて改めて暇つぶしを始めるのだった。

神咲「・・・・・・・」
幽乃「……ふふ、良かったですね皆さん」

淹れてきたセイロンティーを配りながら、幽乃は満足そうに言うのだった。



それからさらに数日後。怪盗団の事務所に、一通の可愛らしい便箋が届けられた。
それは、雨宮まどかからの手紙である。 開封してみると、以下の内容が書かれてあった。

[怪盗団の皆様へ]
「お久しぶりです、雨宮まどかです。皆さんお変わりありませんでしょうか?
私のほうはと言うと、父が社長を退任してからというもの、親子水入らずの時間が増えたのはいいのですが、
それはもう、うっとうしいくらいに構おうとして来るので、これではどちらが子供かわからない、なんて思っています。」

幽乃「まぁ…」

「あれから私なりに色々考えました。
父は、あのような危険な存在に縋ってでも、グループと社員、そして私を守ろうとして下さいました。
結果として狂気に身をやつしてしまう事となりましたが、その事実は変わりません。
父がその身を捧げてでも守ろうとした雨宮グループ、そして私という家族。

父が必死に守ろうとしたものを、今度は私が守る番だと、そう決心しました。

しかし、そのためには私はまだ幼すぎます。
まずはしっかりと経営を学び、跡継ぎとして恥じないよう知識と経験を積んでからになります。
いったい何年掛かるのかは見当もつきません。しかし、いつか必ず後継者として、私もこの身を捧げて雨宮グループを守り抜きます。」

神咲「・・・あっれえ?」
マキ「...頑張ってるのね、あの子も...」
神咲「・・・・・・うーん、と、」

神咲だけは何かが引っかかっているようだが、メンバー全員がまどかの前途を祝していた。

暁「へへ、まどか嬢様も頑張っとるんやね」
幽乃「そっか…」
マキ「......私とは違って、キチンとした人生を...楽しんでほしいわね」
神咲「・・・うん、これだと・・・・・・まあ、いっか。」

「怪盗団の皆様には、本当に感謝してもしきれません。
皆様にはそんなつもりはなかったかも知れませんが、父を救っていただいた事、本当にありがとうございました。
事情を知った父も、それはそれは感謝していたと、岸田さんに後から伺いました。
皆さんは、私たち親子の永遠のヒーローです。
そんなヒーローさんに、父からも何かお礼がしたいと言っていました。楽しみにしていて下さい。」

マキ「...ヒーロー...ねぇ」
神咲「・・・いや、実際はただのナーディーガールズ(いたずら娘)だけどね。」
幽乃「ヒーロー…?良かったですね皆さん!」
暁「いんやぁ、ゆのも十分ヒーローやで」
神咲「いや、ユノはゴッテス。もしくは、アークエンジェル。」
幽乃「え、ええ?そ、そんなことないよー」
暁「どっちかというと悪いプリキュアみたいな感じやけど」
幽乃「…笑顔。取り戻せましたね」

そして、手紙の最後はこう追伸で結ばれていた。

「P.S.神咲さん、お茶の件はもう少し騒動が落ち着いてからでもいいでしょうか?」

神咲「・・・何ヵ月後だろう。」

そんな神咲を見て、メンバーはまた笑うのだった。

その後怪盗団の面々は、まどかにも教えていなかったはずの怪盗団の海外口座に、信じられない金額の入金がされている事に気がつく。

マキ「......え?......え?.........ティアラだけで充分だったのに...」
神咲「・・・うーん、ボーナスかな?」
暁「ん...???ちょっとまってなんやこれ...???」

謝礼というにはあまりに多すぎるその金額は、彼女達を困惑させるには充分だった。



人知れず世を騒がせた怪盗団【ナーディーガールズ】。
彼女達の仕事はひとまず終了し、またしばらく、獲物を選り好みする日々が続く事だろう。

暁は今日も自分から荒事に首を突っ込んでいるかもしれない。
幽乃は相変わらずマイペースに、怪盗から足を洗えないでいるのだろう。

幽乃「あ…ヤカンが吹いてる!」

《電子工学》神咲:70 → 2 決定的成功

神咲は暇つぶしに作っていたパソコンが、気がついたらメーカー品の最新機の性能を超えてしまっていたり。

神咲「あっ、最新機種超えちゃった。」
マキ「逆に非対応になりそう...」

そしてマキは、表向きの探偵業に精を出していることだろう。
そんな彼女達が次に狙うものは──まだ、彼女達も知らない。



マキ「...さてと...とりあえず終わりの挨拶を......
『これにて舞台は終了となります...お客様は、お忘れ物の無いようにお帰りください...』
ま、こんなイタズラなんて真に受ける人はいないと思うけどね?
...ま、奇術師は霧に紛れて消えるさ。
次は...どんなイタズラをしようかしらね♪」



KP:潮風 (セッション唯一のファンブル)
PL1:悪運(PC 暁 結友)
PL2:マキシグ(PC マキノキ)
PL3:ハマノん(PC 伊賀乃莉 幽乃)
PL4:レン(PC 神咲 考述)

NPC:雨宮まどか・雨宮俊之・岸田副社長・警備員・護衛(KP)
ゲストPC:神園 輝(マキシグ)

セッション日時(中断含む・シナリオ本編前後の雑談・SAN報酬等は含まない)
2018 5.22 19:47~23:11
2018 5.23 20:17~23:55

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