ポール・ブリッツさんの日記 「厳密性と融通性の間で」

ポール・ブリッツさんの日記を全て見る

ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツ日記
2020/08/10 14:25[web全体で公開]
😶 厳密性と融通性の間で
まず理解しておくべきことは、「普通の人間は間違いたくて間違うわけではない」ということである。

そんな人間にいかに間違わせないか、という問題に対し、「厳密にする」ことと「融通性を持たせる」というふたつのアプローチがある。前者は、ある問題に対してどこをどうしたらいいか、を、誰でもひと目で間違いようもなく「その問題を、対処するためにもっていくべき場所はここである」とわからせることにより、人間は間違わずにシステムを機能させていくことができる。その最もいい例は、過去のSPI社などのシミュレーションゲームによく見られる、「法律書的に書かれたルルブ」であろう。いささかの解釈のずれも許さない形できっちりとルールは書かれ、ルールブックを読むだけの知力があれば間違わないでゲームをすることができる。SPI社がこのようなルルブを書くようになった原因を、デザイナーはこう述べている「世の中には『推測の法則』というものがあるからだ」と。

推測の法則。それはなにか、というと、もし、ルルブの制作者が「ここは細かく説明しなくても常識で推測すればわかるだろう」と考えてルールを書いたとすると、ルルブを読む人間は、自動的に、「デザイナーの意図とは正反対の方向にルールを推測して解釈する」という恐ろしい法則である。なんとも恐ろしいのは、長いことゲームをやっていると、その法則の正しさが実によくわかってくる、ということだ。

ということでSPI社の「推測の法則」を考慮したうえでの法律書的ルルブは成功したのか、といえば、成功はしたが、同時に弊害も生んだといえる。すなわち、あまりにも厳密に規定しすぎたため、プレイヤーは全部を把握できず、勢い「わかるところだけ読んであとはゲームを進めることでわからないことがでてきたら解決しよう」となってしまった。そして、そうなると、先ほど言ったように、「推測の法則」は猛威を振るうことになるのである。かつて遊んだシミュレーションゲームで、「遊んでいる間にルールの解釈でプレイヤー間でもめなかったゲーム」というものにわたしは覚えがない。ルールの文章は厳密でも、そこに至るまでのルールの解釈に錯誤があれば、同じルールの文章を読んでいても解釈が違ってくるのは当然の理屈である。

ある意味、そんな「ルールの解釈」というものを、「ゲームマスターに丸投げ」する形で、最大限の融通性をもって解決したのがTRPGだといえるのではないだろうか。その極北は、前にも言ったが無印のファイティング・ファンタジーだろう。行為の判定システムをすべて「技術点の2d6での下方ロール」と「運点の2d6での下方ロール」に乱暴なまでに集約し、あとは「適当」でいい、というのだからこれほど融通性のあるゲームもない。もちろん、行為判定にはさまざまなルールがついているのだが、それらは全部「オプションルール」と割り切って、まったく読まなくても何ら不都合なくプレイできる、という別な意味で恐るべきゲームである。

まあ、ルールの作成がこの二極の間で振れに振れまくるのが、TRPGの発展のためにもいいことなのだろうが、個人的には、人間集団のルールにせよ、TRPGのルールにせよ、「融通性」のほうに振れたほうがみんな幸せなんじゃないかなあ、と思う今日この頃である。
いいね! いいね!17

レスポンス

レスポンスはありません。

コメントを書く

※投稿するにはログインが必要です。