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😶 急にハードボイルドが書きたくなった。(シナリオ没ネタ) 明るく輝いているのに、しかし薄暗い飲み屋街。夜も更けすっかり出来上がった酔っ払いが闊歩し始める頃合いだった。 そんな飲み屋街の水路沿いの裏路地で、直径一メートルほどの下水口から二人の男が滑り落ちてきた。一人は様々な古傷と生傷が入り混じった老兵。もう一人は腹部の銃創から血を流した若い男だった。 二人はお互い助け合いながらドブ臭い水路から這い上がり、死に掛けの体に鞭打って手近なベンチに腰掛けた。 若い男が言った。 「……世界は、守られたみたいだな」 老兵は答えた。 「ああ、そのようだな」 若い男は目の前の落書きだらけのレンガ壁を見て、そして点滅を繰り返すネオンの看板に視線を移し、土気色の顔をしたOL風の酔っ払いを感慨深く眺め、やがて視線を星のない夜空に向けた。 「世界を救ってやったっていうのに、歓迎の出迎えも感謝の言葉もなしか」 「そういうものだ、正義の味方の真似事など」 老兵は渋く重い声で返事を返した。 すると不意に、土気色の顔をしたOLがふらつきながら近づいてきた。OLは体重をかけて勢いよく若い男の太ももに手をつくと、爆発したかのように嘔吐した。 「うわっ! きったねぇ!」 若い男はOLの肩を慌てて押すと、軽い力であるにも関わらずOLはしりもちをついて地面を転がった。OLの酔っ払いは吐いてすっきりしたのか、街路樹に背中を預けて気持ちよさそうに眠り始めた。 「くそっ! 世界を救った報酬がこのゲロかよ!」 「……よかったな。実に正当な報酬をもらえたようで何よりだ」 老兵は穏やかな笑顔で答えた。若い男は苛立ったように返事を返す。 「こんなゲロが正当な報酬であってたまるかよ」 「まあそう言うな。我々はこのクソみたいな世界を救ったのだ。その成果を考えれば報酬としては実に妥当なものだと思わないか?」 老兵は笑顔を目の前の落書きだらけのレンガ壁に戻した。不思議なことにその笑顔には自重じみた皮肉はなく、誇りに満ちた力強いものだった。 若い男は溜息を洩らした。 「は~、あんたの言うこともごもっとも。なんで世界を救おうと思っちまったのかねぇ」 「降りるのなら今のうちだぞ。感謝はされない、報酬はゲロ、行きつく先は孤独死だ」 「そう何度も聞くなよ。もう選んじまった後だぜ。俺たちは世界を守る。今後も俺はグチを言うだろうが……、それでも、守りてぇんだ」 「ふっ……。それを聞いて安心した」 老兵は星のない黒ずんで汚らしい夜空を見上げる。 「どうして誰も世界を守ろうとしないのか。それは誰もが世界が守る価値もないゴミ溜めだと知っているからだ。だが我々は違う。我々だけが、この汚いゴミ溜めが美しい宝石の山に見えている」 「とはいえ俺たちは孤独で、でも敵の破滅思想者はたくさんの信者とパトロンを持っている。多数決なら勝てないだろうな。とてもじゃないが俺たちが正義の味方を名乗れるとはおもえない」 「その通り、正義の味方などおこがましい、我々は狂人なのだ。人類の未来を憂いたあの反出生主義者の男の方こそ正義の味方にふさわしい。世界の改変を認めない我々は狂気の異端者なのだ」 老兵は立ち上がり、若い男に手を伸ばした。 「そろそろ行こうか、全身傷だらけで下水を通ってきたのだ。感染症になる前に闇医者に処置してもらわねばならない」 「泣けるぜ、血を流しすぎて自力で立てないとはな。かっこつけたはずが、これほどかっこ悪い人生を歩むとは思っていなかった」 「やめたいときはいつでもやめられる。君や私の力を欲しがる組織は多い」 「誰がやめるかよ。俺はやりてぇことをやるだけだ」 若い男は老兵の手を掴んで立ち上がり、腹部の銃創を手で抑えながら歩き始めた。 二人の男は街の闇の中に消えていった。その闘いの日々が誰かに綴られることは、これまでも、そしてこれからもなかったという。 ※(上記は今日思いついたはいいが、シナリオ的に使い道のないショートストーリー。ここからストーリーも広げられそうだが、ハードボイルドはTRPGのシナリオに組み込むとPCの活躍を奪いかねないので死蔵。今後とも使う機会はなさそうだったですが、そこそこ出来はいいので日記に残して供養することにしました)
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