明地さんの日記 「四畳半シェアリング大学生UGNチルドレン」

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明地
明地日記
2022/11/14 22:27[web全体で公開]
😶 四畳半シェアリング大学生UGNチルドレン
ただしシェアするのは武器だがな!!!!!!!


はいでは今日の授業を始めていくぞー。
上級ルルブのp.30を開いてください。
では出席番号404番の……人がいないのはいつものことなのでその対角線の席の明地さん、読んでください。

◆マイナーアクション
(略)
▼アイテムを拾う
 足元に落ちているアイテムひとつを拾う。拾ったアイテムは所持品となる。そのアイテムにエンゲージしていなくてはならない。

(略)

◆オートアクション
▼所持品の破棄
 イニシアチブプロセスに宣言することで、キャラクターは装備しているアイテムを破棄できる。
 破棄したアイテムはそのキャラクターと同じエンゲージに落ちるものとする。


つまりどういうことかわかるかね。

イニシアチブに武器を落とす→マイナーで拾う→その武器は「所持品」となる
→所持している武器を参照する《ヴァリアブルウェポン》の対象になる

ということだよ明地くぅぅぅぅん!!!!!!



12月、東京。
寒風吹き荒ぶ都会の中心から少し離れた、寂しい学生街の片隅に立つオンボロアパート。そこが彼らの城だった。
四畳半に、5人。
過密もいいところ、しかしここに住むほかなかった。UGNは屈指の財政難、わずかな予算は定期的にバスが爆発するN市に割り振られ、比較的平穏なこの街の支部の家計は火の車。
寮を運営することもできず、どうにか見つけた安アパートにチルドレンを押し込めざるをえなかった。
十分に布団を敷く隙間もなく、一人は毎晩交代で押し入れの中で世を明かすことになる。

彼らの夢は、いつか一般人として自由に生きることであった。
オーヴァードが”普通”となり、訓練も殺し合いもしなくて済む日々。学友たちが何気なく享受する日常。
この四畳半での日々は、そんな輝かしいものとは無縁に思えた。だから出ていくために牙を研いでいる。
彼らに支給された武器は一人につき二本のナイフ。たったそれだけだ。
奇しくも、全員が明晰な頭脳で常人離れした運動制御を可能にするシンドローム『ノイマン』を発症している。そのおかげか効率的な戦術とチームワークに基づく二刀流を用いた戦法を得意とし、一定の評価を得られていた。

だが、足りない。
決定力がない。
超常の力が常となるオーヴァードの戦闘において、如何な効率的運用といえども彼らが振るうただのナイフは、しばしば力負けすることがあった。
そも、オーヴァードは全員がすさまじい回復力を身につけているものである。いくら刻んだとて回復されれば効果が薄い……危うい局面も何度かあった。
それを戦術のせいにするのももはや限界だと、誰しもが感じていた。

「リーダー……その武器……」
ある日、戸口に立ったリーダーを見てキャプテンが呆然と呟いた。
リーダーの背には新品の「大槌」があった。
「これから、この武器をシェアして戦おう」
リーダーは断固として言った。目に涙を溜め、声を震わせながら。
その様子を見てキャプテンもチーフも隊長も親分も一斉に察する。
何人かは気付かないふりをしようとした。しかしノイマンの《インスピレーション》がそれを許さなかった。

リーダーには夢があった。
孤児であった彼女は欧州の生まれだという。物心ついて間もなくレネゲイドの力に目覚め、UGNに保護された彼女は、その力を期待されてチルドレンとして日本に送られた。そしてただの一度も故郷に戻ることなく、死に物狂いの鍛錬を続けていた。続けさせられたのだ。
彼女の夢は、いつか自立して故郷の地へ戻ること。そして両親を探す。天涯孤独の彼女は家族の暖かさに飢えていた。
そのための資金だった。
そのための資金を使って、彼女は戦闘用の大槌を買ったのだ。

「リーダー!そんな……」
最初に声を上げたのはチーフだった。
心優しく賢い彼は、誰も喧嘩したり頭ごなしに命令したりすることなく戦術を組み立てられるように、と今のややこしいコードネームを名付けた。
そんな彼は、いま、リーダーがどれほどの想いを抱えているのか痛いほどに理解してしまっている。

「バカ野郎!オレたちに相談くらいしろって!」
親分がリーダーに駆け寄って肩を揺する。
乱暴だが面倒見がいい彼女は、だからこそリーダーが一人で夢の資金を使ったことに心から怒っていた。それがたとえ彼女が決めた献身だとしても。
親分の怒りは自分に向いていたのだ。察することができなかった無力さ、リーダーの夢を閉ざしてしまったことの情けなさに……。

「……必要なことなんだろ?」
隊長が苦々しげに口を開いた。
彼はチームの中で最も冷静だった。作戦立案も効率的な戦術も、最終的に組み立てるのは彼だった。だからこそ、チームの戦力に決定打が欠けていることにいち早く気付いたのも彼だった。
氷のように冷徹な頭脳が、大槌を用いた戦法を組み立てる。しかし、その心は猛烈な後悔にただ翻弄されていた。

リーダーは震えていた。
何も言えなかった。
夢を語り合い、寝食を共にし、死線を潜り抜けた無二の仲間たち。家族と言っても差し支えがないだろう。
その溢れる優しさと感受性をもってすれば、自分の決断が彼らも大きな痛みを背負わせることになるだろうとは覚悟していた。
だが、想像以上だった。泣き、悔しがり、呆然とするその様を見て、自分が諦めたものにどれほどの価値があったのかを本当に思い知った。
けれどもはや、取り戻せない。後には引けない。だから進むしかない。なのに言葉は出ず、足も動かない。
泣いてはいけないと強く思った。
泣けば飲み干してきた辛酸も、チームのこれからも台無しになる、なのに、溢れそうで……。

「リーダー」
ふと、キャプテンがその手を握っていた。

「私はリーダーに敬意を表する。だから、私にも背負わせて」
キャプテンはスマホをリーダーに見せた。その画面には、彼女が貯金全てを投げ打って、「フルオートショットガン」を購入したとあった。
思考が停止する、その間隙をキャプテンが言葉で埋める。

「みんな、聞いて」
三者三様の反応を示していたチームの視線が、キャプテンに注がれる。

「私たちは共犯者だ。力が足りないばかりにリーダーの夢を踏み躙ることになってしまったから」

そしてスマホを全員に見せる。
動く数字を一目見ただけで全員が理解する、キャプテンもまた夢を諦めたのだと。

「私も罪を重ねることにした。リーダーも含めて、全員共犯者だ」

全員が息を呑む。
”釣り合わない”。
家族同然の二人の夢を諦めさせて、残る三人の背負う罪悪感がそれと釣り合うなんて、誰も考えていなかった。
色めき立ち、反論しようとする親分を手で制してキャプテンは言葉を紡ぐ。

「後悔も罪悪感も、背負いきれないのはわかりきっている。わかるよ、私たちは家族だもん」

「だから、シェアしよう」

「この武器は私たちの罪。後悔。背負いきれないならみんなで分け合うんだ」

「いつか夢を叶えるその日まで」

「……キャプ、テン」「うおおおおおお!!」
リーダーが縋りつくのと、チーフと親分がキャプテンに抱きつくのは同時だった。理性的な隊長は流石に止まりながらも、彼女がこの場の空気を収めた手腕に舌を巻いている。
チームを引っ張るための行動力があるリーダーと、戦術眼はさほどでもないが、チームの輪を保つ技術は随一のキャプテン。この二人が、貧乏チルドレン5人組の要であることは疑いようもない事実だった。

かくして5人は新たな戦術を身につける。
リーダーが「大槌」で、キャプテンが「フルオートショットガン」で攻撃した後、イニシアチブプロセスでそれを放棄する。
続くチーフと親分がマイナーアクションでそれらを拾い、《ヴァリアブルウェポン》を使用して攻撃する。
隊長は主に《ファンアウト》を用いたセットアッププロセスでのチームの散開を担当する。
これにより、彼らチームの戦闘力は大幅に向上し、ゆくゆくはN市への転属も、と噂されるほどになったとか……。



誰もキャプテンの夢を知らなかった。

全員が重苦しい事情を抱えているこのチームにおいて、頑なに夢を語りたがらない彼女のことを詮索しようなどという無粋な者はいなかった。
ただ、いつも優しく、気配り上手な彼女が笑顔を浮かべているならそれでよかった。もし笑顔を失うようなことがあれば全力で取り戻すという覚悟だけは抱いていた。
誰もがキャプテンを好いていた。

暴走して暴れる親分を宥められるのはキャプテンだけだった。トラウマを思い出し塞ぎ込むチーフを慰められるのはキャプテンだけだった。隊長の抽象的な戦術理論についてゆけるのはキャプテンだけだった。リーダーが弱さを吐露できるのはキャプテンだけだった。

だから、誰しもがキャプテンに甘えていた。
その闇の部分に気づいていながら、誰しもが目を逸らしていた。ただ涙するときにこそ傍にいてやろうという、甘ったれた考えを抱きながら。
そうして晒された闇が現実を侵食し、5人はいずれ離れ離れになる。
それはずっと続くと思われた日常が、ボロボロと崩れ始めた日。


『嗚呼、私たちはいつ迄幸福を切り落とし乍ら生きてゆかねばならぬのか』


to be cotinued...






なんだこれ
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レスポンス

邪神幼女もやし
邪神幼女もやし明地
2022/11/15 10:34[web全体で公開]
> 日記:四畳半シェアリング大学生UGNチルドレン

ノイマン経済難問題…!
ブラックマーケット取る余裕は、ない!

ヴァリアブルウェポン、ショットガンと白兵じゃ組み合わせられないんじゃ(粛清)
聖岳生馬
聖岳生馬明地
2022/11/15 00:11[web全体で公開]
> 日記:四畳半シェアリング大学生UGNチルドレン

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あ、なにか昔の掲示板を思い出したりしましたw
弐魚
弐魚明地
2022/11/14 22:50[web全体で公開]
> 日記:四畳半シェアリング大学生UGNチルドレン

全て読みました。
溢れ出る涙が止まらない傑作です。素晴らしい!

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