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😶 気付かせてはいけない それから 階下から灯りが消えるのを待って、僕はいつものようにそっとベッドを抜け出しました。 屋根裏部屋の床は油断するときしむので、足をつくときは注意が必要です。 窓から差し込む月明かりが部屋を幻想的に照らし出し、見慣れた机や本棚も魔法がかかったように不思議な光を湛えています。 見渡すと、お母さんが大事にしていた姿見の中から、僕がこちらを見ているのに気が付いて、思わず僕は眉をひそめました。 寝巻代わりのシャツ姿で鏡の中の僕は何か言いたげに見えました。 唇は動いていないのに、体全体から言葉が浮き立つようでした。 気付かせてはいけません――。 それはあの屋敷で最初に聞いた声にどこか似ている気がしました。 吹き抜けのロビーに、臙脂色のカーペット。 顔が映りそうなくらいに磨かれた手すりに、煌めくシャンデリア。 そして、絵に描いたような幸せな家族。 あの時、僕はそれを少しだけ羨ましく思ってしまいました。 だんっ、と大きな音がして、僕は肩を竦めました。 大方、叔父さんが寝がえりの拍子にベッドから転がり落ちたのでしょう。 現実に引き戻されると、急に冬の夜の寒さが足元から伝わってきました。 手をこすり合わせて、ほぅと息を吹きかけるとそこからじんわりと温かさが広がっていって、その温かさに僕はお兄さんの手を思い出しました。 民俗学者だと言ったあの人は、僕を大人と同じに扱ってくれました。 本ばかり読んで気持ちが悪い、何を考えているかわからない、可愛げのない餓鬼――僕に向けられる標準的なこういった評価に僕は慣れ切っていましたので、お兄さんの態度には最初は戸惑い、けれど大層うれしくも思いました。 僕は自分で思っていた以上に、僕を僕として扱われることを求めていたのだと気づきました。 そのような思索にふけっていると、月に雲が掛ったのでしょうか、部屋は徐々に薄暗がりに包まれていきました。 机や本棚も元の静けさを取り戻していきます。 部屋が見慣れた屋根裏に戻る直前、机の上に長らく伏せたままにされた写真立てが目に入りました。 僕は目を閉じましたが、瞼の裏にその中身が浮んできました。 絵に描いたような幸せな家族。 お父さん、お母さん、わたし、そして弟の有栖。 気付かせてはいけません――。 本ばかり読んでいる、星や花が好きな子でした。 わたしと同じ顔をした、わたしの半身。 気付かせてはいけません――。 屋敷で最後に見たさびしそうな表情が頭の片隅に残り続けていた理由は、きっと自分がある意味で同類だったからかもしれません。 気付かせてはいけません――。 それが滑稽な狂人の芝居だとしても。 粗末な食事でも徐々に育つ身体がそれを許さなくても。 もう少し、もう少しだけ。 いつの間にか雲が切れたようで、明かりが差し込んできました。 ゆっくりと、部屋に魔法が満ちていきます。 僕は直接月の光を浴びたくなって、夜の散歩に出かけることにしました。 ーーーーーーーー 先日、やなせ様キーパーでりじ様作の「気付かせてはいけない」に中学生探索者、伏木 有栖(ふくき ありす)で参加させていただきました。 シナリオ概要のRP重視という言葉を見て、なんとかなるなるという悪魔の囁きとキーパーやなせさんの寛大な許可に後押しされて、初の学生探索者で参加してきました。技能で足を引っ張ってしまったらどうしようかと思いましたが、出目の荒れと相方だったかぼちゃ頭さんに助けられつつなんとか生還できました。よかった。 やなせさんもいつもながら雰囲気のある会場を用意くださって、また、たくさんの登場人物をそれぞれ素敵に演じ分けられていて、おかげで気持ちを途切れさせることなく遊びきれました。 もう一つ初めてがあって、かぼちゃ頭さんがセッションを録画していらして、終わった後に動画をいただきました。終わったセッションを会話や記憶以外で振り返るのはなかなかに新鮮で気恥ずかしくも面白い体験でした。 というわけで後日譚妄想です。 伏木有栖は最初は単なる性別不詳の子くらいのつもりだったのですが、かぼちゃ頭さんが重たい設定付きのキャラクターを引っ提げてこられたので、ノリで「生き残った子」にしてしまいました。また、かぼちゃ頭さんの土屋お兄さんが最後まで有栖を男とも女とも扱わない素敵なプレイをしてくださったので、気兼ねなくはぐらかしながら演らせていただけて楽しかったです。 そんな経緯がありつつこんなことになってしまいました後日譚妄想でした。実際は叔父さん宅には余分の部屋がなく仕方なくだったりなんだろうなと思いつつ、書きながら盛ってしまいましたが妄想ということで。 改めましてかぼちゃ頭さん、そしてキーパーのやなせさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のりじ様にも感謝です。 また一緒に遊んでください。
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