りちゃさんの日記 「りんごはあまい それから」

りちゃ
りちゃ日記

2020/05/31 21:16

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😶 りんごはあまい それから
三枚におろしたアジをぶつ切りにする。搬入されたくらげからピンセットで寄生虫を取り除く。水槽をスポンジで丁寧にふきとり、フィルターを交換して目が通るまでよく洗う。偽岩についた藻をブラシでこすり落とす。
ほぼ毎日皆で繰り返す作業だったが、ここ1週間は当番以外の仕事も空き時間を埋めるように積極的に買って出た。
新米が仕事を早く覚えたいと言えば受け入れられたし、仕事に没頭している間は嫌なことを考えずに済むのはありがたかった。

餌に我先にと群がってくる魚たちを見ていると、羨ましいような気分になった。


仕事から帰ると姉が居間でうたた寝をしていた。
夢でも見ているのか、ぐふふと気色悪い笑い声を漏らしたり腹を掻いたりしている。
5つ上のこの姉はこれで外づらだけは大したもので、しかもこちらが逆らえないのをいいことに事ある毎に弟を子ども扱いするものだから、俺は中学生にして「憤懣やるかたない」という言葉を覚えたほどだった。


その晩、スクーターに乗って星の海を滑走している夢をみた。
でもよく見るとスクーターは真っ白い平皿で、すぐ隣を見知った女性が三人、同じように平皿に乗って滑走していた。

慌てて加速すると、皿は海に飛び込んで嵐の中を漂う板切れになった。
頼りなさげな板切れに海の中から黒い長い手が何本もしがみついてくるので必死に振り払った。振り払うたびに甘酸っぱい香りが鼻を突いた。

そのたび泣き出したい気持ちになったけれど、気づかれないように平静を装った。

岡橋さんは妹さんと笑いあっているべきだし、泉さんには泉さんを頼りにしている人たちがいるはずだし、一木さんが俺たちにひどいものを見せないように気遣ってくれていたことはきちんと報われるべきだと思う。
だから自分がやったことは正しかったのだと思う。
そう思いたい。

けれど多分、あれは私事で、我がままで、新米社会人の自分では気づけなかった冴えた方法がどこかにあったのかもしれない。

心が折れてしまいそうになったとき、板にしがみついていた両手が温かい手に繋がれていることに気が付いて顔をあげた。
白い、ぼんやりとした人の形をした光が、掲げるように繋いだ両手を持ち上げると、自分の体が宙に浮きあがるのを感じた。暗い海から明るい空へ持ち上がっていく中で、ありがとう、と声を聴いたような気がした。


目を覚ますと、頬が濡れていた。


次の日、電車に乗ってあの駅で降りた。
住宅街の中を歩いて、森の中のような公園の中道を進んでいく。

あの人たちはそこに居るだろうか。

伝えたいことがあった。聞きたいことがあった。
それが出来れば紙くずのようになって戻らなかった何かに答えは見つかるだろうか。
許してもらえるだろうか。
気づいていたよと笑われるような気もした。

行く手に白煉瓦を組んだ建物が見えてくる。

足を速めた。こんどは距離を埋めるために。
勇気は、もうもらったから。


ーーーーーーーー
本日、やなせ様キーパーであるている様作の「りんごはあまい」に参加させていただきました。

やなせさんはオンセンほぼ同期で自分がキーパーやってみたいと思ったのも実はやなせさんが挑戦されているのを聞いて奮起したからでもあって、とても刺激を受けている方でした。テストプレイの募集が折よく空き日程で見つかったので、一も二もなく申請させていただき承諾してもらってからは本当にうれしかったです。

同卓させてもらったお三方もとてもよい方たちばかりで、同じくらいの戦歴だったり初プレイだったりとは思えない頼もしさで、シナリオが深まるにつれて仲間と感じられました。皆と一緒に喜んだり悩んだりできて良かったなあと思います。
そうであるが故に、自分がシナリオの中でした一つの決断があれでよかったのかと思わずには居られない、そんな気持ちを引きずりつつ

というわけで後日譚妄想です。
ネタバレ防止のためあれやこれやは言及できないのですが、キーパーのやなせさんが最後に言ってくれた一幕と、同卓のみなさんからいただいた言葉を乗せて、なんとかもう一歩踏み出す準備として捏ね上げてみました。
3人の年齢がちょうど想定していた姉の年齢に近かったことで、我がままをさせてもらってしまっていましたが、特にあのとき同じところにいた一木さんとはもう少し一緒に何かできる線も提示できたかもしれないというプレイヤーとしての反省を込めて、隠し事を白状しに伺わせていただきたいというそんな再訪でした。
もちろん完全な私見、ifですので、もしもにょもにょがごにょごにょする場合は、かくかくしかじかでてくあっといーじーにしていただければ幸いです。

改めましてよりさん、こるめさん、とまとさん、そしてキーパーのやなせさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のあるている様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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レスポンス

とまと/新規×
とまと/新規×りちゃ

2020/06/02 00:20

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綺麗な文章で心が浄化されました。
水野さんのあの選択は、相当の覚悟が必要だったかと思います。覚悟を決めて、誰もできなかったことをやり遂げた…その意思は尊いものです。

一緒に参加できてよかったです。
またご縁があったら是非遊びましょう!

こるめ
こるめりちゃ

2020/06/01 22:06

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情景が目に浮かびます。一つ一つの描写が沁みます…素晴らしい…妄想が膨らみます…
悩みながら出した決断だから、尊重されるべきだと思います。
一緒に参加できてよかったです。
よろしければまたご一緒できるのを楽しみにしてます!
やなせ
やなせりちゃ

2020/06/01 00:39

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> 日記:りんごはあまい それから

ほんとりちゃさんの後日譚は文章が綺麗で心が洗われるようというか、クトゥルフのやるせない気持ちが的確に表現されてて、これがその現場にいた人間には2倍にも3倍にも美しく映るんですよね、ほんとよき……。
水野さんのあの選択は、絶対に素晴らしい選択でしたよ。そしてなかなかできる事じゃない!ムネアツでした!

そして刺激を受けてるなんて……私こそですよ……ウレシイ……。
こちらこそ、またぜひ同卓お願いいたします!PL同士、私がKPでももちろんですが、ぜひりちゃさんKPの卓におじゃまさせてくださいね!

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