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😶 ジュリエット それから 翻訳とは情熱を伝える作業だと思う。 『生きるべきか 死ぬべきか それが問題だ。』 ハムレットのこの一節を訳した日本語を、私はこちらに来てからはじめて目にした。 正確な訳者はわからないらしい。 憑かれたみたいに他の訳版を尋ねて回った。 そこにはそれぞれの情念があった。 伝えずには居られない衝動を浴びせられて、 そうして私は翻訳家になった。 午前11時の喫茶ヴェローナ、一番奥の窓際の席は店内がよく見渡せる私のお気に入りの席だ。 この特等席に開店直後から居座っているのだけれどほかに客は誰もおらず、さぼりの茂木さんか、仕事あがりの先生たちがやってくるまでは今日も貸し切り状態だろう。 私はここ数日、就労ビザの更新を控えてどうにも冴えない日々を過ごしていた。 収入は多くはないけれど、まずまず安定はしているし、残るのに不都合はなく、けれど帰って悪い理由も見つけられていなかった。 理由のわからない焦燥が足をすくませていた。 カップを取ってコーヒーをひと舐めした。 行き過ぎた酸味と水っぽさが脳みそに突き刺さった。 書類に顔をうずめるようにテーブルに突っ伏すと、虎目石の指輪が目に入った。 見入っていると吸い込まれるようにして思考はあの奇妙な旅路に彷徨っていった。 私はあの時、訳がわからないまま歴史を辿って、夢を手繰った。 鮮明に覚えているのは暗闇を進む色彩の乏しい揺れる視界と、痺れるような甘い香り。 昏く妄執のこびり付いた祈りと、真白く止まった時に満ちる静かな祈り。 私はそのだれにも届ける言葉も持てず、私の手は、私の夢は、ただただ拒絶の運び手となった。 思い返すとそれは悔しいことだと思った。 ふと呼ばれた気がして窓の外をみた。 黒猫がいつの間にか軒下に座ってこちらを見ていた。 『生きるべきか 死ぬべきか それが問題だ。 どちらが心にとって高貴なことだろう』 店の入り口が騒がしくなったと思うと、聞きなれた声が耳に届いた。 藤村先生が黒猫に駆け寄ってするりと逃げられている。 私はこの先いくつになっても、チャレンジを怖がらずに笑えるだろうか。 わからない、でもそうしたいと思った。 ホーソン先生が羨ましそうな笑顔で店の奥の絵を見つめている。 私はこの人の手を引いたことにいつかきちんと向き合うことができるだろうか。 わからない、でもそうしたいと思った。 茂木さんがママさんに何かを報告している。 私は小さな祈りを掬い上げて、絶望に包まれた涙に届けられるだろうか。 わからない、でもそうしたいと思った。 『生きるべきか 死ぬべきか それが問題だ。 どちらが心にとって高貴なことだろう 荒れ狂う運命が投げつける石や矢を耐え忍ぶのと 困難の海に対して武器を取り 敢然と対峙して終わらせてしまうのと…』 翻訳とは情熱を伝える作業だと思う。 そしてそれは祈りでもあり、その祈りへの応答でもあるのだと思った。 そうして私は翻訳家を続けることに決めた。 ーーーーーーーー 先日、デモ様キーパーで喀血卓様作の「ジュリエット」に参加させていただきました。 平日開催だったので2日にわけての探索行だったのですけど、ほんとうに良いところでちょんぎれてくれたおかげで再開までのインターバル期間がもう妄想が広がりのわくわくが溢れの大変でした。半クローズドの構成になっていて、シティもクローズドもそれぞれ好きなので一挙両得といった感じでそういった面でも本当に楽しめました。 そして合間にこっそり投下されていたお茶の子さんの1コマまんがのかわいさといったら!まさかの贅沢をありがとうございました。 という訳で後日譚妄想です。 シナリオタイトルはジュリエットだったのですけど、ずっとあちこちでハムレットのこのフレーズが浮かんでいました。しかも終わった後に調べたのですけど、「耐えて生きるか、戦って死ぬか」みたいなニュアンスだったみたいでびっくりしました。 そして今回他の3方がほんとうに素晴らしくて、個人的に敵わないな、羨ましいな、あれでよかったのかなと思ったところを思い出に書かせてもらいました。いつも言い訳のように言っていますけどあくまで妄想書き連ねなのでニュアンス違うなあとかあったらごめんなさい。 戦利品としていただいた虎目石の指輪ですが、タイガーアイは『幸運を招く聖なる石』とされていて、本当に必要なものを見抜く、行動力、決断力を助け、失敗することへの恐怖を和らげるのだそうです。必要なものをピンポイントでいただいたなあと感謝です。 改めまして、ままままさん、お米の子さん、Kadenaさん、そしてキーパーのデモさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者の喀血卓様にも感謝です。 またよければ一緒に遊んでください。
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