マダラさんの日記
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日記一覧
マダラ | |
2020/09/30 15:20[web全体で公開] |
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マダラ | |
2020/09/20 15:05[web全体で公開] |
😶 キャンディ・レイン ちょっとあとのこと(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)春の雨が、昔から好きだった。 あたたかで、静かで、全てを洗い流してくれるような、そんな雨。それを降らせる雲も、毛ばだった灰色の絨毯みたいに憂鬱なものじゃない。体の奥の何かがうずうずと落ち着かなさげに身をくねらせるような、そんな春の興奮を帯びて、雨粒も昔懐かしい水色のドロップスのように、きらりきらりと輝いている。 だから、きっと、こんな日は、傘もいらないのだ。 そんなわけで、彼の四十九日を終えて帰路についた私の喪服はすっかり濡れて、袖からはあたたかな水が滴っていた。河川敷を歩く私の横を、突然の雨に降られた人々が慌ただしく通り過ぎていく。真っ黒な礼服に似合わずずぶ濡れで、そのくせ少しも急ぐ様子のない私を、彼らは皆怪訝そうに見てくる。そんな視線気にならないと言いたかったが、やっぱりちょっとだけ気まずくて、私は縮こまるように道の端に寄ってしまった。 学生時代の私なら、彼が隣にいて無敵だった私なら、もっと真ん中の道を行けただろうか。 そんなこと、考えたってどうしようもないか。そう息をついて、わたしは地面を打つ雨の音に耳を傾ける。さあっとしたかすかな音にも、よく聞けば細かな粒がある。アスファルトをたたく連弾が、どれだけ不規則に聞こえても、そこには一定のリズムがある。三拍子、メヌエット・ワルツ・マズルカ。雨、飴、アメ。 私の意識は、素朴で調子はずれで、でも美しいリズムの中に落ちていく。 ***** 「何をぶつぶつ言ってるの?」 ふっと気がつくと、そこは大学の学生食堂だった。その景色が当然連想させる学生の大群と、彼らの起こす大音響の予感に私は思わず耳をふさぐが、その場所は案外とそう騒がしくもない。辺りを見回すと人はまばらで、どうやら昼休みを過ぎた時間らしかった。 それから私は自分の着ている服に目を落とす。いつもの趣味と同じく飾り気のない服……そう言いたかったが駄目だった。田舎娘が無理をして飾り立てようとして失敗したような、目を覆いたくなるような服だ。 酷いセンスの服、目の前にはノートパソコン、人気のない時間の学生食堂を選んで逃げるように作業をしているとなると、後は簡単だった。これは私だ。大学二年の、まだ何にも馴染めず、記者を目指すと言いながらあてもなく、ふらふらとしていたころの私。 「ねえ、無視はひどくないかな」 その言葉に、私は先ほどから私を呼んでいた声の主に目を向ける。その先では、端正な顔立ちで、どこか朴訥とした表情の青年が、怪訝そうに私を見ていた。その顔にすぐにでも泣き出して抱き着いてもいいところなのに、私の体はこわばったまま、顔が勝手にその眉を顰め、口はかってにそっけない言葉を紡いだ。 「何か用?」 「いや、さっきから一人でぶつぶつ呟いてたから、何なのかと思ってさ」 「別に」 ──そう、普段ならそこで会話をきってしまうところなのに、その日の私はさらに続けて言ったんだ。彼のかわいらしい顔立ちにつられてだったか、まるで悪意を感じさせない話し方のせいか、もう忘れてしまった。 「……トレーニング、してた」 「なんの?」 「語彙を増やすための、ちょっとした連想ゲーム。何かを見たら、それから思い浮かんだ言葉を三つ並べるの」 「例えば?」 「えーッと」 そう聞きながら、彼はごく自然に私の向かいの席の椅子を引いて腰掛ける。随分なれなれしいが、その時の私は自然と彼を受け入れることができた。 そのとき、私の耳に水音が届く。外に目を向けると、雨粒が窓を打ちながら。ぱらりぱらりと音を立てていた。私は黙って、それを指さす。 「雨、飴、キャンディ、ドロップ」 「それって、ほとんどただの言い換えじゃないのかな、二つ目の時点で別に雨関係ないし」 「……」 唇を尖らせ抗議するような視線を返す私に、青年はくすりと笑った。 「まあ、それでもいいのかな。そういえば、僕の名前も雨って言うんだ。偶然だよね」 それからの記憶はおぼろげだ。名前と学年を告げた私に、あれ、先輩でしたか、と屈託なく笑った彼の笑顔だけ、よく覚えている。 ***** 気が付けば、私は河川敷のベンチに腰かけていた。どうも泣いていたらしいが、雨に濡れたおかげで、それも周りにはきっとわからないだろう。 あの出会いから、私と雨はよく行動を共にするようになった。最初の内は彼が声をかけてくれていたけれど、後はほとんど、私が彼を引きずり回す格好だった。彼は喜びを見出す天才で、私の脈絡のない連想ゲームに、いつも笑顔できれいなオチをつけてくれていたっけ。 彼がついてきてくれると思うと、いつも不思議と勇気が湧いてきて、私は無敵になれた。 あの時彼は私のことを「諦めないで真実に突き進むひと」なんて言ったっけ。それも、諦めが悪くて負けず嫌いなダサい私のことを、彼がそう呼んだのだ。彼がそう呼んでくれたから、私はそんなふうになれたのだ。 卒業してから入った新聞社をすぐ辞めてしまったのも、口では色々と格好のいいことを言っていたけど、結局、一人ではうまく“無敵”になれなかったからだ。素晴らしい日々が過ぎた、エンドロールのその先で、一人で生きていくのがこわかったからだ。ずっと、彼が言ってくれるような、まっすぐで強い私の夢を見ていたかったからだ。 「……置いてくなんて、ずるいよ。」 いつも大人しくついてくるくせに、肝心なとこでわがままなんだから。私はそう呟いて、ベンチから立つ。その拍子に、視界の端でふっと青い花が揺れ、私は思わず足を止めた。 ***** アパートは、いつもより物寂しく感じられた。ずぶ濡れの服を脱ぎ捨て、清潔で乾いたシャツを着る。頭をタオルで拭きながら、雨の化粧を拭き取って鏡に向かうと、そこには泣きはらした瞼を抱えて、ずいぶんと頼りなさげに震える、大人になってしまった女が映っていた。 指でフレームを作って、鏡に向けてみる。それを通して映る顔も大して変わりはなかったが、それでも少しはマシに見えた気がして、私は無理に唇を引き上げて笑った。 彼との別れ際、あの扉の前で、こうして彼のことを写したっけ。指のフレームと、瞼のレンズ、彼の屈託のない笑みは、今でも脳裏に焼き付いている。 ねえ、雨、私、寂しいよ。 でも、もう、前に進まなくちゃ。だって、あなたの言葉は、とってもきれいで、あなたの語る私は、とってもかっこよくて──夢で終わらせるには、あんまりにも勿体ないから。 居間に戻ると、ラジカセを操作し、最近聞くようになったアイドルの曲をかける。きらびやかな音楽に身を浸しながら、私は目の前に吊り下げられたコルクボードを見やった。とある事件で知り合った仲間たちとの写真に、私の口元に笑みが浮かぶ。 ──静葉さんなら、いつか、世界も救っちゃうんじゃないかって気がするよ。 うん、雨。私、世界だって救ったよ。思っていたよりずいぶんと不格好な形だったけど、そういうことを、ちょっとだけできたから。 だから、まだ、夢が覚めても、まだ進んでみるね。 そのコルクボードの隣に、私は水で満たしたドロップの缶を置く、活けるのは先ほどベンチの脇でつんだ花だ。綺麗な雨の色。あのキャンディとおなじ透き通った青の花。 その花からいつものように連想を広げようとしても、口から思うように言葉は出てきてはくれなくて、その代わりのようにあふれてくる涙を、私は思い切り拭う。 静葉さん、そんなに泣き虫だったっけ。揺れる花の──ワスレナグサの青いはなびらにそんな言葉をかけられた気がして、私は、ちいさく、うるさい、と、言った。 〈おわり〉 というわけで、先日のCoC「キャンディ・レイン」(KP:小笠原ナカジ様)に参加したマダラのPC:青桐静葉の後日譚でした。生きて、前に進むけど、あんなわがまま言ったんだから、私にももう少し泣かせてよ。 僕の後にナカジさん卓で同セッションにいった方の後日譚とやってること被っててわああああああとなってます。缶に花、活けるよな。わかる。静葉が選んだのはブルーのワスレナグサでした。 いやあ、とっても切なくて、綺麗なシナリオだった。静葉とNPCの雨くんとは大学の先輩後輩で、静葉が雨くんを連れまわしてた感じのイメージだったんですけど、今回とにかく彼女の出目が良くて、ずっとずっと成功キメてたんです。ああ、彼と一緒にいたころの学生時代の彼女はこんな感じで無敵だったんだろうなと思って、その輝いていた思い出を抱きしめながら、それでも前に進む感じの後日譚になりました。あと、彼女はやっぱり淡い恋のような気持ちも雨君に抱いてたんじゃないかな。テーマソングはきのこ帝国の「夢見る頃を過ぎても」。 彼女はとあるちょっと大きめのシナリオを通過した子でして、その要素もちょっとだけ後日譚に盛り込んでます。あのシナリオの後で雨君に「静葉さんなら、いつか、世界も救っちゃうんじゃないかって気がするよ」っていわれちゃったら、ねえ! こうなりますよ!(伝わる人にだけ伝われ)。別れ際に、雨くんの顔を指で作ったフレームに収めたのも、静葉にしかわからない、特別な思い出のつくり方でした。 そんなわけで、ここで新たな思い出を得た静葉の物語は、まだまだ続いていきそう。あの子の声を覚えておく耳と、彼の笑顔を覚えておく目を携えて、彼女にはこれからも頑張ってほしいものです。 それでは感想はこのあたりで、KPの小笠原ナカジ様、改めてありがとうございました。さんざん悩むPLに辛抱強く付き合って、時には助け船も出していただいてありがとうございます! よければまた遊びましょう!
マダラ | |
2020/09/02 15:23[web全体で公開] |
😶 白夜の歌 ちょっとあとのこと(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)『当店の惣菜は清潔な環境で調理しています』 スーパーマーケットの惣菜売り場。そんな文言の記されたパネルが私の目に留まった。ごちゃごちゃとした色彩と目を覆いたくなるようなフォントの暴力に眉を顰め、私は口の中でぼそぼそと単語を並べ立てる。 清潔、浄化、無菌室。 そのとき、私の目の前を、小さな少年が通り過ぎる。いかにも躾のなっていない様子と、いかにも清潔さを保っていない指で、彼はべたべたと惣菜に指を触れた。顔をしかめ、私は踵を返して惣菜売りから立ち去る。 ああ、でも、本当にただ清潔な世界に比べれば、何倍かマシだな。食べたくはないけど。 頭の中を、あの砂漠がよぎり、それと同時に喉の奥から言葉があふれる。三つのセンテンス。ボキャブラリーの訓練。脈絡なんて考えちゃいけない。だって世界には脈絡なんてない、あるのは気まぐれな共通項だけ。 月の砂漠を、はるばると。旅の駱駝が行きました。 月、砂漠。 「月の砂漠。月、十五夜、兎。砂漠、……サバ、味噌煮」 ぶつぶつとつぶやいて、私は鯖の缶詰を手に取った。脈絡のない言葉の結びつけも、たまにはなにかの役に立つ。特に夕食を決めるような場合には。 脈絡のない出会いも、きっとそういうものなのだ。 ***** 小さなアパートの一室の玄関に足を踏み入れ、私は大きくため息をついた。 別に大して疲れてはいないのだけれど、これはあくまで一つの儀式だ。フリーのネットライターなんてしていると、オンとオフの概念があやふやになる。仕事がない時は休みで、仕事がある時は休みじゃない。普通の勤め人がそうするように、夜に家に帰ってきて疲れたように息をつくポーズを取らないと、生活からメリハリが失われてしまう。 買い物袋をテーブルに置き、缶詰と缶ビールを取り出す。麦酒の泡立つ小気味よい音に耳を傾けながら、最近新調したノートPCを操作して、メールの着信を確かめる。 マッチングサイトで知り合って多少話したものの、急な取材のためにデートの約束を守れなかった相手からの奥ゆかしい非難が一件。別に元々たいして好きじゃなかった。別に。 とある企業からの訴訟で世話になった弁護士からの法律用語で美しく飾られた心配と忠告が一件。君が最近個人的に興味を持っている研究機関に、警察に過去にあったある組織。どちらも正気の人間なら目をつむるべきだ。頼むから訴訟漬けになるより前に、地元中学のマーチングバンドとかなにかそういう平和なモノを取材しろとか何とか。 そして、記事を書いているサイトの担当者からの着信が一件。壱岐島における君の取材と記事には、端的に言って失望した。文章や筋立てがどんなに良くても、新聞とは違ってうちには日々の小説欄はないのだ。この原稿は出版社の文芸部に持っていった方がいい云々。 デート相手や仕事の担当には少しも謝る気は起きなかったが、弁護士には悪いと言わざるを得ない。でも私にはあの団体の動きを監視する使命があるような気がした。また連中が何かしでかすとなったら、危険を覚悟で告発しないといけないのだ。まあ、いざとなれば日本有数の財閥も味方してくれるかもしれないし、命の心配だけはして、あとはこれまで通りにやるだけだ。誰かさん曰く、死なない限りはなんとかなる。 とにかく、そんなすべてをゴミ箱に放り込んで、私は鯖の味噌煮を箸でほぐす。目をあげると、壁に掛けられたクリップボードが眼に入る。普段は進行中の取材に関するメモや写真を張り付けているその場所には、今は四枚の写真と、いくつものメモがあった。 喉を鳴らしてビールを飲むと、私は目をつむる。それから小さく十秒数えて、私は思い切り目を開いた。素早く唇を動かす。いつものトレーニング。まずは左から。 「ガイド、バギー、自衛官、行動力」 彼にはきっとまた会うことになるだろう。今度はバカンスにでも行きたいものだ。そう、きっと近いうちに、今度は観光地とか、おいしい店とか、そういう場所を教えてもらわなくては。きっとあのぶっきらぼうな口調で、何かとはっきりしない私を引っ張りまわしてくれるはずだ。 「アイドル、財閥の娘、マフラー、秘めたやさしさ」 彼女には嫌われてしまったかも。でもまあ、ライブのチケットは送られてきた。大音響にはまだトラウマがあるけれど、響くのが綺麗な歌なら、きっと怖がる必要はない。 「研究者、元刑事、理屈っぽい、……あの人の友達」 新聞社時代に世話になった、女性記者の先輩。あの人は彼のことも随分評価していたっけ。彼はあの人から聞いていて想像していたヒーローより、なんというか、こう、うん、だいぶ人間らしかったと言っておこう。彼とは会う約束を取り付けている。露骨に嫌な顔をされたが、放っておくと死にそうなのだから仕方がない。彼には是非とも、研究を成し遂げてもらわないといけないのだ。 「メカニック、名匠の弟子、修理、約束」 彼の師匠を探すのは容易かった。専門外の私でも名前を耳に挟んだことがあるほどのメカニックだ。彼はぶっきらぼうに、弟子の伝言を伝えた私に礼を述べてくれた。彼のことは幾分毒のある口調で責めていたが、それでもその言葉にあふれる愛を聞き逃す私ではない。 トレーニングを終え、私は満足した顔でもう一度ボード全体を見渡す。うん、奇妙な共通項しかなくても、そこには確かな物語がある。 PCをもう一度開き、映画のサイトを開く。出会いのない仕事で、夜はビールとつまみと古いフランス映画で過ごしてたんじゃ、当分恋人は望めないだろうな。まあでも、これが心地いいんだから仕方ない。 ジャン・コクトー監督、『オルフェ』。 死者と生者の叶わぬ恋の物語。もう何度も観たお気に入りのその物語が展開されるのをぼおっと眺める。 「砂漠の女の子、歌、駱駝、変な野菜、水、チョコレート、月、丘、赤い花」 また唇が勝手にセンテンスを刻んでいることに気づき、私は思わず唇の端を引き上げる。本当に悪い癖だ。でも癖なんだから仕方がない。 それに、覚えておかなくてはいけないことがある。守らなければいけない約束がある。 心に留めておかなければいけない“またね”がある。 そのために私は言葉を刻む。今日も明日も、これから先も、ずっと。脈絡のない出会いと、奇妙な一夜を、伝え続ける。 だから、私はもう一度目をつむった。 浮かぶのは月夜の砂漠の風景。風変わりな動物にまたがって進む、二つの影。 「……大切な友達」 私の唇が再び、頭に浮かんだ言葉を勝手に紡ぐ。その感触を何度も味わいながら、私はすっかりぬるくなったビールを一息に飲みほした。 はい、というわけで9/1に完走した「白夜の歌」(KP:瑠奈様 PL:時雨様 じゃが様 りちゃ様 柏木様 マダラ)に参加したマダラのPC:青桐静葉の後日譚妄想でした。 いやーよかった! もうずっとずっと、CoC始める前から行きたかったシナリオなんですよ。 辿り着いたエンドはA-1、全員生還(一人は帰らないことを選んだかたち)となりました。憧れの物語を素敵なメンバーと一緒に頑張って走り抜けて、素敵なエンドにゴールインできてほんとによかった。 PC、NPC、舞台、描写、全部がとてもいい雰囲気にあふれていて、ワンシーンワンシーンを絵として切り取ってみてみたくなるような、そんなセッションでした。 いやまあセッション中はドキドキだったんですけどね。発狂でみんな揃って死にかけたり、最終戦闘もほんとにギリギリだったり。最後の最後、このラウンドで倒さないとというタイミングでみんなが行動を終え、非戦闘員の青桐にお鉢が回ってきたときは本当に息が止まるかと思いました。「人の特ダネ邪魔すんなパンチ」でとどめを刺せた時は、ジャーナリスト魂ここにありって感じしましたね。 NPCのシンちゃん(かわいい)となかよくしたりオルフェに名前つけたりして、会話の一つ一つを楽しめたと思います。コクトー、また会えるといいね。 青桐の連想ゲームじみた単語ならべロールプレイも楽しかったな。FチームのFから連想広げた時に、「Forte」なんじゃないかっていう発言をしたら、それがチーム名みたいになってラストのロールプレイに組み込んでもらえたのはちょっとうれしはずかしって感じですね。最後にみんなでおっきな声で歌えてよかった。 全体的にバラバラなんだけど、なんか妙にまとまりのあるチームだったと思います。それは青桐にとっては日ごろ並べ立ててる言葉たちのように見えるんじゃないかと思って、こういう感じの後日譚になりました。帰ってきたあと、とある関係者に自分たちの旅を語る役目を任された時の彼女の語り出しが「私たちのチームは、そもそもの最初から、全員が時間通りには集まらなかったんです」だったのは我ながらお気に入り。 ではこのあたりで。同卓してくださった時雨様、じゃが様、りちゃ様、柏木様。そしてKPの瑠奈様。ありがとうございました。また、次の悪夢で会いましょう。
マダラ | |
2020/08/06 22:52[web全体で公開] |
😶 涅槃館殺人事件 すぐあとのこと(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)ひどく冷えた体を、ちろりちろりと炎が舐める。 まるで紙芝居の中みたいにばかげて見えるな。そんなことを思った次の瞬間には、そんな風に見えるのは自分の体と、それを囲む世界の方だと気づいた。 ここまできて、何が起こったのかわからないほど自分は愚かではない。 そこまで言って、私はけらけらと笑いそうになった。それでも、声は出てこない。胸も上下はしてくれない。 “ここまできて、何が起こったのかわからないほど自分は愚かではない”だって? もし本当に愚かではないなら、もっと早く気付いているべきだったんだ。 私は頭を動かして、彼に目を向けようとするが、頭は動かない。くそ、私はあんな男に敗北したのだ。並一通りの倫理観と、くだらない超越者のポーズを気取ったあんな男に。 勝負自体に不満はない、僕は全く間抜けだった。ひどい手落ちだ。 それに、君が我々に用意してくれた事件はなかなかに面白かったね。君のそのくだらないポーズよりも、君が使った妙な力なんかよりももっと。やはり、一番面白いのは、人の心の動きと、それがもたらす出来事だ。 だが、それでも君の紙屑の一部として書かれるくらいなら、こうして死んだほうがましだ。 そんな風に強がりを言おうとする喉も、もうぴくりとも動かなかった。 くそ、死ぬ前に言いたいことはこんなことじゃないはずだ。全く違う信念を持った相手に、自らの姿を印象付けて死ぬなんて、くだらない、第一、彼は僕のことなんかもう見ちゃいないだろう。 だったら、せめて、彼女を。 彼女は単に僕が連れてきただけなんだ。本人の意思ではなく、僕が連れまわしていただけなんだ。彼女は僕よりずっと優秀で、素質があって、何より、優しい。きっと君も僕も敵わないほどの、素晴らしい探偵になるはずなんだ。 ──人々にとって宿というのは、単なる一夜の仮住まいではありません。人と人との思いの交差する四つ辻なのです。そこで生きる我々は、何より優秀な探偵である必要があるんですよ」 そんなこと、僕が言うまでもなく、彼女は肌でちゃんと感じていたはずだ。 彼女には、未来があるんだ。 そう心で唱えてから、僕は心で苦笑する。 死ぬ寸前に相棒の命乞いなんて、三文小説にしても売れなそうだ。実に彼の気に入りそうな話じゃないか。 最後にそんな言葉をこの僕が言うなんて、皮肉な話だな。 そう思いながら、薄れゆく意識の中で、僕は叫んだ。 せめて、彼女は。 叫んでも、口は、動かなかった。 《おわり》 はい、というわけで「涅槃館殺人事件」(KP:あひる様 PL:りちゃ様 マダラ)の感想です。 (このあとマダラは暴言を吐きますが全て趣味の合わないシナリオ世界のカミサマ相手へのものでPCのロールプレイの延長みたいなものなので悪しからず。KPさんもシナリオも同卓したPLさんもめっちゃ素敵でめっちゃ楽しかった) いやなんか自PCのムーブがあの世界のカミサマ(はっきし言ってしまうとあの物語世界の作者)の理想とする探偵に全然あってなくて、そのせいでボツにされるという形でロストしたんだけど、いやまあ最後に取りこぼしがあったのは完全にPLの迂闊さとはいえ、残りのムーブはめちゃめちゃ探偵らしいだろと。探偵は空気読まないで関係者怒らせてナンボだろと。 というわけでホテルマン探偵常盤稔、趣味の合わない作家の作品世界に巻き込まれて、そこで慇懃無礼の化身みたいな探偵ムーブをキメた結果、「趣味が合わない」って言われて殺されました。そんなのはこっちのセリフだってのバーーーカ! いやー楽しかった。マダラ的には本当に探偵らしくできたんだ。「探偵が探偵らしくRPすることを目的としたシナリオ」っていう説明を見た時からあーいうムーブをするって決めてたんだ。だから悔いはないんだ。 NPCとして入り込んでたその作家の作風を最初に聞かされた時点で「独善的で僕はあまり好きではありませんね」って言いかけてやめたんだ。言っときゃよかった。 常盤、冗談抜きで今までで一番上手いことRPできたと思ってたキャラだったんで、KPから「私は好きだったけどムーブが割と最初から最後までシナリオ的にアウトだった」と言われた時はめっちゃ笑いましたね。気に入ってくれて嬉しいし、ロストの悔しさよりもあの世界のカミサマに舌を出せた痛快さの方が勝ってた。なんだかんだ推理はほぼ完璧に仕上げてたしね。 ……と、まあこんなことをtwitterの方では言ったりしたのですが。ただの強がりです。めっちゃ悔しいです。いいとこまで行ったのになあ……。 一番の悔いは同行者の真宵ちゃんも巻き込んじゃったことですね。可愛くてキレのあるツッコミ役の助手ちゃんだった。常盤は彼女に同業者としても未来の探偵としても期待をもって同行させてたので、彼女の未来を奪われてしまったことがなにより悔しい。 とにもかくにも、KPのあひる様、今度は生きて帰って見せます! 同卓してくださったりちゃ様、またの機会がありました一緒に頑張りましょう。皆様、ありがとうございました。 それでは、このあたりで。
マダラ | |
2020/06/28 13:07[web全体で公開] |
😊 また明日。ちょっとあとのこと(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)藍生ちゃん、あの時めちゃめちゃ動き早かったよね。すごい真顔だったし。 うん、明日香ちゃん。私もそう思う。正直自分でもびっくりしたし、なんなら少し引いた。 すべてが終わったことを知ったあの病室で、職場からの電話を告げるスマートフォンの電源を切ってSIMカードを抜き取り、ソレをそのままベッドスタンドに置かれたコップを満たす水に叩き込んだあの一連の動作は、多分私のこの四半世紀近い人生の中で一番素早かったのではないだろうか。仕事バックレ選手権の世界記録とか狙えるんじゃないかしら。私にはまだ私の知らない隠れた才能があるのかもしれない。 ……こんなバカな妄想ばかりして日々をやり過ごせたのならいいのだけれど、そんな甘い話はあるはずもない。友達と過ごす幸せな一日を終えた私を待っていたのは、職場に出向いて平謝りしつつ、社会人にとっては冗談みたいな時間にしかアポイントメントの取れない携帯電話店に行って、やたらと態度の大きな店員相手に事情の説明をする、そんな一日だった。まったく、ろくでもない。冗談抜きに、「ましろ先輩の方が数百倍は謝り倒してる」という確信がなければ正気を保っていられなかっただろう。 そう、現実は絶対に私たちに追いついてくる。 まっさらなスマートフォンを操作して、とりあえず復元した連絡先の中から、みんなを探してメッセージを送る。隆水くんはもうさっそく全国巡業を再開したらしく、いうまでもなく忙しいましろ先輩共々、既読の表示はすぐには出てこない。 明日香ちゃんは事件の後でまだ休みを取っているらしく、にこやかな返事が返ってくる。ミドリは一秒足らずで返事してきたけど、今授業中なんじゃないの。 メッセージ欄に並ぶみんなの名前を見て、私の唇から自然と笑みが漏れる。大丈夫、皆前を向いているけれど、それでいて皆のままだ。 彼ら彼女らと過ごした大学時代の日々は、多分もう戻ってこない。まがい物を作ろうとすることだって、きっとどんどん難しくなる。恐ろしいことに、皆と最後に遊んだ日も、この期に及んで「こんな日がずっと続けばいいのに」という思いは常に頭のどこかにあった。 私は、私たちは、きっと怖かったのだ。楽しい時間が遠ざかっていくのが、あの日の微熱がさめてしまうのが。あのへどの出るような拍手の主は、もしかしたら私たちのそんな思いを見抜いていて、嘲笑っていたのかもしれない。 でも大丈夫だ。今ならわかる。なにがあっても、皆は皆のままで、私は私のまま。何度だって私たちを助けようとしてくれた明日香ちゃんのことを私は絶対忘れない。そして何度だって彼女のことを庇った、私の知らない私がいたことも忘れない。 自宅のドアを開いて、いつもよりもずっと味気なく見える灰色の部屋を見渡し、いつもより幾分おざなりに靴を脱ぎ捨てる。まったく、本当にろくでもない日だった。 そして、きっとこれからも、今日みたいな日は増えていく。 でも大丈夫。今日も私は私のままで、ここにいる。 だから今は、ちゃんと私たちに現実が追いついてくれることに感謝して、明日がちゃんと明日であることを祈って。ねえ、みんな。また──。 私はくすりと笑って、その合言葉を、スマートフォンに打ち込んだ。 〈おしまい〉 はい、というわけで6月20日開催のセッション『また明日』(KP:りちゃ様)に参加したマダラのPC:縦坂藍生の後日談妄想でした。 この「ちょっとあとのこと」、最近書いてなかったのでぼちぼちまたやっていきたいですね。想像が膨らむセッションは他にもあったしお前藍生は前にも書いてたろと言われればそうなんですが、自分で演じるPCといえどかわいい女の子の方が筆は進むものなので(まっすぐなひとみ)。 そんなことよりセッション感想ですね。とても素敵なストーリーでした。 NPCの明日香さんを含めて、基本的には大学の天文学サークルをきっかけに知り合った友人たちが社会に出てから久しぶりに集まったメンバーということで、なんというか独特の、それでいて素敵な雰囲気に満たされたパーティだったと思います。こう、RPにも絶妙な大学の同期感出せてたらいいな。これまで藍生はあんまり砕けた口調ではやってなかったんですけど、今回はけっこうフランクに話してたかな。明日香さんの呼び方はずっとふわふわしてたけど、最後に「明日香ちゃん」「藍生ちゃん」で落ち着いたの良かったです。 途中ののんびりした会話やずっこけたシーンではすごく笑いましたし、最後に明日香さんの苦労と思いが真に迫って伝わる演出はほんとにつらくなってしまった。クソ拍手神格は許さない。ぜったい。 それではこのあたりで。読んでくれた皆様、同卓させていただいた小笠原ナカジさま、ガジンラさま、柏木さま、そしてKPのりちゃさま、ありがとうございました!
マダラ | |
2020/06/26 16:34[web全体で公開] |
😊 初のオンセGM というわけで昨夜、ゆうやけこやけのセッションでオンセでは初めてのGM(語り手)をやってきました。 今回は自分もルルブ買ったばかりということで、数人のフレンドさん(皆様ゆうこやは未経験)にお声がけして、自分も含めた体験会&布教卓ということでやらせていただきました。企画段階ではルルブ掲載のシナリオを回す予定だったんですけれど、当日までにいろいろ思いついたことややりたいことがどんどん出てきまして、最終的にはその勢いのまま作成した「シロツメクサの約束」というオリシを(リアルの友人相手に回して評判を確かめたうえで)回させていただきました。 結果としては……どうだったんでしょうね。とりあえず参加者の皆様に楽しくRP していただけたようだったのでそれが一番です。ただ、物語の要所要所で語り手の方が詰まってしまったりテンポを損ねてしまったりしていたので、そこは猛省です。GMとしてっていうのはもちろんですし、目の前で展開される素晴らしい物語に水を差すことなく、もしできるならば花を添えられるような、そんな語り手でありたいなと思いました。 あとはやっぱりこのシステム好きだなあと。NPCの演じ分けは大変だったけれど楽しかった……! その場で生えてきたNPCにもお褒めの言葉と一緒に沢山の夢を投げていただいて嬉しかったです。 今後どういうスタイルでやっていくかはまだ未定ですけれど、どんどん語り手をやっていきたいし、作ってみたいシナリオもいくつかあったりします。機会があったら皆様にも見せられるといいな。 なにはともあれ、突然のお誘いにも応じてくださって、素敵なRPできれいな物語を描き出してくださった参加者の皆様に感謝でいっぱいです。改めてありがとうございました!
マダラ | |
2020/06/20 16:48[web全体で公開] |
😶 フットワークは軽ければ軽いほどいい ということで、昨日の今日でゆうやけこやけのルルブを入手してきました。本としてとても素敵で読んでて飽きない……これはいいものですよ皆さん。 昨夜のセッション一回で何を言うって感じですが、語り手もやってみたいなと強く思っているので、いつか卓が立つかもです。いつかね。 自分も初心者なもんで未知の世界ですが、フレンドさんでやってみたいなと言う方はいいね押してくれたらいずれ嬉々として誘いにいくかもしれません。
マダラ | |
2020/06/20 02:52[web全体で公開] |
😆 はじめてのゆうこや というわけで、ゆうやけこやけ「紫陽花の咲き誇る雨空にて」(語り手:あまちゃ様)参加してきました。 ゆうこやは初めてだったんですが、いやめっちゃ楽しかったですね……。システム自体もセッションの運びも想像していた以上に好みでした。やっぱ上手くはできないけど、ロールプレイって楽しいね。 自分、CoCの探索者とかだとシナリオの流れによっては自分の理想を外れたりピエロになってしまったりしかねないってことで、「自分の好みド直球の推し」を作ることはあんまりないんですが、ゆうこやはサイコーに推せるキャラを作って「此処でこういうムーブや言動をすれば更に推せる……!」をひたすら追求出来たのがたのしかったです。そうやってロールプレイを頑張ることがゲームをより良い方向にもっていくことに直結するシステムも素敵。 あと、弱点がキャラを彩るいちばんの個性になるっていうのは、なんかこう、創作論にも通じるものがあるなあなんてことも思ったり。物語やゲーム全体をつらぬく詩情もとても好きだったし、ドはまりの予感がする……。
マダラ | |
2020/06/08 18:53[web全体で公開] |
😶 ランタンの灯りは夜の明けない街に灯る ちょっとあとのこと(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)幼いころにシャーロック・ホームズに出会えたことが、僕の人生で一番の幸福だった。 そして、どう逆立ちしたって自分はシャーロック・ホームズではないというのが、僕の人生における一番の不幸だった。 今でもたまに夢に見る。鹿打ち帽を被って、靴音高くロンドンの街を歩く自分の姿。あるいはあの221-Bの椅子に妙な姿勢で腰かけてパイプをふかす自分の姿。僕はあの能無しのレストレードから事件のあらましを聞いて、少し目を瞑り、こう言うのだ(“エレメンタリー・マイ・ディア”? あれはナンセンスだよ。そもそも原典にそういう台詞はないんだ)。 「いいかい、ワトソン、どんなに──」 けれど、僕の意識はそこで暗転する。 次に目の前にあらわれるのは昔の記憶だ。小学校の頃、友人と組んだ探偵団という名前の何か、彼らは三日でその遊びに飽きて、虫メガネだけが今も僕の机の中に残っている。中学の修学旅行の新幹線の中、四人組の席で他の三人がトランプをする横で、僕はずっと本を読んでいたっけ。 高校生になって、好きな物語を語る僕から友人たちが離れていくのを見て、いい加減に現実を受け入れたけれど、あれは今思えばただの麻疹みたいなかっこつけ(所謂“高二病”ってやつだ)で、押し隠していた憧れが二十歳近い今になって悪化するという結果に終わった。 とにかく、物語みたいな探偵は世の中にはいないし、いたとしてもそれは自分じゃない。でもとにかく僕はいつまでも夢を見たままで……そんな僕だから、あんなことに巻き込まれたのかもしれない。 血で真っ赤に染まった部屋に佇む女。 積み重なる屍の上に咲いた真っ赤な花。 ごとりと落ちるぬいぐるみの首の赤黒い切り口。 彫像から滝のように流れ出す赤い液体。 そして、焦燥に駆られ飛び乗ったボートの上で見た、真っ黒な──。 そこで再びの暗転。通信のロスト。ブラック・アウト。サヨナラ。アデュー。グッド・バイ。 ──いいや、ちがう、それで終わりなもんか。 僕が見たものは、絶対に、きっとそんなものだけじゃなかった。 だって、皆にはとても言えなかったけれど、あの図書館で読んだ本は、そう、他ならぬ「渡会南」の物語は、掛け値なしのバッドエンドにもかかわらず、そう、あらゆる意味でろくでもないことばかりにも関わらず。今まで読んだどの物語よりも、シャーロックの冒険なんかよりも。 もっと、ずっと、面白かったから。 きっとそのほとんどは、僕の人生を彩った人々のおかげだろう。妙な警官、妙な種を持ち帰って以来追い掛け回されている生物学の教授、個性に満ちた大学の友人たち。棺桶を抱えたパフォーマー二人組。数え上げたらきりがない。 そう、そんな人々と出会って、僕は学んだ。そんな風に学んだことが、僕の物語をぐっと面白くしてくれた。僕を僕の人生の主人公にしてくれた。 「何がどうなるかなんて、やってみないと、分からないですよ」 あの日、骨董屋で自らの物語に怯える彼女に掛けた言葉も、朝の迫る街で皆を振り返ってかけた言葉も、彼らから学んだことだ。まったく情けないことに、こんな単純な事実に気づくのにだって、僕は鵜飼さんの言葉を聞かなければいけなかった。 奇妙奇天烈な事件を抜きにしたって、僕らの人生は何が起こるか分からない。でも、怯えていたら何も知ることはできない。だから、勇気と知恵を振り絞って、暗闇の中に踏み出す。その先で、何を見ることになっても。 きっと、天草さんや錦さんも、他の人々も、そして彼女も、そんな風にしてあの街にやってきたのだろう。だからこそ、僕はあの場所を壊したことを間違いだとは思わない。街を照らした美しいランタンの灯はいつだって、朝を、真実を目指していたから。 だから、みんな、どうもありがとうね。 でもごめん。格好悪いから、あの言葉が受け売りだってこと、彼女には絶対秘密だ。 「──ねぇ、ちょっと、起きて、南さん!」 隣の寝室から響く沙織の声に、僕は目を覚ます。窓の外はまだ朝日が昇る前で、気の早い小鳥の鳴き声が耳に突き刺さる。 とにかく、彼女はこの数日でもうすっかり明るくなった。僕の街にも、ついでに僕自身にもそれなりに慣れたらしい。問題なのは僕の方で、彼女を家に泊めて数日、ベッドを彼女にあけ渡し、リビングに毛布を敷いて寝ている。おかげで体中が痛い(お願いだから何も言わないでくれ。物事には順番っていうものがあるんだ。あるはずなんだ)。 沙織がもう一度僕のことを呼ぶ。大分前に目を覚まして、すっかり支度も済ませているらしい。まったく、近くの山の頂上から奇麗な朝日が見えるなんて教えなきゃよかった。そうじゃなくたって今日は社会的には宙ぶらりんになっているらしい彼女の身の振り方を考えるためにいろいろ忙しいというのに。まあ、また一緒に朝日を観たいなんて言われたら、断れないんだけどさ。 大きく一つあくびをして、僕は毛布をはねのける。その拍子に、机の上の不格好な彫刻が目に入った。彼女は彫刻が大好きらしいが、悲しいことに才能はないように見える(まったく、どこかの誰かみたいな話だ)。それでも、その彫刻は、今まで見たどの像よりも、僕の心の奥深くにまで、寄り添ってくれるように思えた。 そして僕の目は、隣に置かれた愛読書の表紙に向く。鹿打ち帽の男がこちらを見て、不敵な笑みを浮かべていた。 僕はその男に笑みを返し、指で作った鉄砲を向ける。 言わなかったけどさ、あんたも結構イカしてたよ。 だからさ、今度は僕の番だ。見ててよ。 そして、僕は指鉄砲で彼を撃ち抜く。 ばあん。 口の中の銃声の心地よい感覚を楽しみながら、僕は今行くよと沙織に声をかけた。 〈おわり〉 はい、というわけで昨日のセッション「ランタンの灯りは夜の明けない街に灯る」(KP:ゼロ様)のマダラのPC:渡会南の後日譚風妄想でした。マダラにとっては初のロスト救済シナリオでした。 自分、ロスト救済シナリオという文化は聞いたときからイマイチ馴染めていなくて、死んだキャラはそれっきりな方が性に合うなあみたいな突っ張ったことを考えていたのですが、ちょうどよく最近初ロストしたキャラもいるし、何事も経験だということで参加させていただきました。 いやあ、良かったです。死者が登場するシナリオならではの趣みたいなのもあって、思っていたよりもずっと自分好みの雰囲気のものでした。隣を歩くPCの歩いてきた知らない人生に思いを馳せながらのRPも楽しかったです。 こういうシナリオで救済したキャラクターを今後使い続けるかどうかはまだちょっと考えたいところですが、それでも食わず嫌いはいけないなと思いました。 さて、マダラのPCは渡会南、自分がCoCをはじめて最初に作ったキャラクターで、まあまあな数のセッションを通過したのち、「船上の恋」というシナリオでロストしました。 「船上の恋」通過者が卓にいたこともあって、陰キャ大学生が美少女とクルーズに行こうなんて思うからロストするんだぞなんて冗談をセッション前に言っていたのですが、そんなこいつ、このシナリオを通して、可愛らしくて素敵なNPCの女の子を死出の旅路から連れ帰るばかりか、同居を始めやがりました。 普段ならなんだこいつ幸せになりやがって許さねえってなるとこなんですが、結構なシナリオを共にしてロストまで見ている彼がこうして幸せを掴むのを見て、不覚にも感極まってしまいましたね。前半は(積極的に口説きに行くPCが他にいたのもあって)全然意識してなかったのに、大事なところで庇われたりしたら渡会もマダラも完璧に好きになっちゃうんだって!!! 感想の時間に参加者や見学者の方がこのカップルに尊い尊い言ってくれるのを聞きながらずうっとニヤニヤしてました。 さっきのロスト救済シナリオというものへの好み云々の話を別にしても、渡会は今後は使わないと思います。ここまで完璧なハッピー・エンドを見せられちゃうと、あとは僕の妄想の中で楽しい人生を送ってくれよという感じです。この日記は渡会と時間を共にしてくれた人々への、そんな妄想のおすそ分けの意味もあります。これまでのセッションで見たモノやご一緒したPCも拾いましたけど、全部は無理だった。ごめんなさい。 あと、他の方を真似して始めたこの後日譚妄想という日記形態、思ってる以上にいろんな方が読んでくれてると聞いてすっかり舞い上がっちゃいました。今後も参加したセッション全部について書くわけではない気まぐれな感じですが、もしセッションの終わりに一言言ってもらえれば嬉しくなって書くと思います。今回もあんまり自分のPCだけの話が長くなるのもなあと思っていたところをKPさんの「楽しみにしてます」の一言で調子に乗って書いちゃったみたいなとこありますしね。(もちろん、こういうのを書かれるのがお嫌な場合は言って下されば書きませんし、書いたものも取り下げます)。 それでは読んでくれた皆様、同卓させていただいた瑠奈さま、コルクさま、時雨さま、そしてKPのゼロさま、ありがとうございました!
マダラ | |
2020/06/04 23:39[web全体で公開] |
😊 最果ての底庭 ちょっとあとのこと(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)藍生さんのほうからそんな話してくるなんて、ちょっと珍しいですね。 そんな常連客の言葉に、私はポットに紅茶を注ぐ手を止めてふっと顔をあげた。ティー・カップを透き通った夕陽の色が満たす小気味の良い音と共に、テーブルを柔らかな香りがつつんだ。 え、そ、そうでしたか 「だって藍生さん、大体人の話をにこにこしながら聞く側じゃないですか」 まあ、確かに、そうかもね。彼女の言葉に私は苦笑を浮かべる。 客との会話でも、友人同士や家族の集まりでも、私はいつも聞き役だった。頬笑みを浮かべて話に耳を傾け、最後に紅茶を一口啜って気の利いたことを言う。それだけの役目。 ずうっとそんな風に話の糸を手繰っていくと、だんだん引っ掛かりが見えるようになる。そんな絡まりを少し解いてみせたりしているうちに、いつの間にか周りから安楽椅子探偵なんて言われるようになってしまったけれど、それを特別誇る気にもなれない。だってそんな語り草になる事件と引っ掛かりに満ちているのは、私の人生じゃなくて、彼女らの人生なのだから。 私はそれを聞くだけ、昔大好きで読んでいた物語とおんなじように、実家の大きな家の大きな窓から見る景色と同じように、それを眺めるだけ。贅沢な悩みだとわかってはいるけれど、それでも話を聞くたびに、誰かの人生と、そこに吹く風のことが羨ましくなってしまう。 けれど、今日の私はちがった。 「ちょっと、話振った割には、妙に口が重いじゃないですか」 そんな追及の言葉と共に向けられる視線から私は目を逸らす。今日の私にはとびきりの──全部は話せないくらいの──物語がある。そこに吹いている風は、いつも人から聞いて思い描いていたような清々しい希望に満ちたものではなく、生臭く、不気味な、想像もできないほど大きな生き物の吐息だ。 無数の触手。乾いた血、ラットの死骸の匂い。 どうかしましたか、という声が耳に突き刺さる。再び思考を目の前の現実に引き戻すと、私は、いつもと比べるといくらかおざなりな頬笑みを浮かべ──。 「いいえ。素敵な人と会ったというだけの話です」 ──くすり、と笑った。 そう、私が巻き込まれたことはきっと、この先誰に話しても取り合ってもらえないし、私自身の中でだって整理のつけられないことだろう。 それでも、とにかく私は、あの時、あの場所で、一人ではなかった。どんくさくて足手まといな私のことも少しも邪険にせずに、些細なことまで気にかけて優しくしてくれた、あの人がいた。 あの人がいなければ、今の私はきっと生きていない。そういう人に自分が出会うなんてまるで想像もしていなかったけれど、でも、きっと、あの人はそうだったのだ。 そう、そして、もしかしたら、これからも。 「そうですか? 何もなければいいですけれど、私たちの安楽椅子探偵に何かあったら困りますからね」 客のそんな言葉に、私はにひりと、面白い悪戯を思いついた幼子のように唇を引き上げた。 探偵、探偵ね。 今まではばかばかしいと思ってたけど、へえ、そう、探偵ね。 「……やってやろうじゃん」 「何か言いました? 藍生さん」 「いいえ、何も言ってませんよ」 小さな決意と、そして大きな希望と共に、私はいつもの完璧な微笑みを浮かべた。 ティー・ポットから、最後の最後の、真っ赤な紅茶の一滴が落ちた。 〈おわり〉 はい、というわけで、6/3に開催された「最果ての底庭」(KP:りちゃ様)に参加させていただいたマダラのPC:縦坂藍生の後日談妄想的な何かでした。彼女は憧れる人に出会って、一つ夢が増えたんじゃないでしょうか。 マダラにとっては初の異性PCでの参加となりました。女性のRPをするのがほんとに難しかった……油断するとすぐに声戻っちゃうんだもの。 シナリオ自体はクローズドで、かなり探索のしがいのあるものだったように思います。クリア時には実際のセッション時間よりももっとずっと長いことプレイしていたような、そんな達成感と心地よい疲労感がありました。 その理由には同卓させていただいた こるめ様のPC、二見さんとの兼ね合いの楽しさもあるのかなと思ったり。PL相談は少なめで情報交換や相談のほとんどをRPでやっていたことに、セッション後のKPの感想を聞いて初めて気づいたくらい、一緒にプレイしていて心地よいキャラクターでした。PCの藍生にとってもそれは同じだったように思いまして、今回の後日譚は二見さんへの憧れマシマシです。 どう振り返ってみてもとても楽しいセッションでした。同卓させていただいたこるめ様、KPのりちゃ様、本当にありがとうございました。