りちゃさんの日記

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日記一覧

りちゃ
りちゃ日記
2020/06/07 23:50[web全体で公開]
😶 グリオーマアクアリウム それから
プシュ、と小気味のよい音を立てて泡を噴き出した缶ビールを持ち上げると、横合いからカツンとぶつかる感触がして泡が宙を舞った。
それじゃま、お疲れさまです、と視線は前を向けたまま喉に流し込むと、隣からも同じように喉を鳴らす音が聞こえた。

季節は夏の盛り。
ビーチは大勢の人出でごった返していたが、あの二人は否が応にも目立っていたから見失う心配もなくて保護者役の二人で早々に一杯ひっかけ始めていた。


林田はいまからあれでこの先大丈夫なのか、と漏らしたのは自分だったか、夜野さんだったか。
彼女が退院して外を出歩くのに不自由しなくなってからも林田青年は少々過保護に見えて、けれどそれがほほえましかった。

麦わら帽子を取っただの取られだので、二人がくるくると追いかけあっている。
降り注ぐ太陽の光が二人を追いかけて瞬いた。
それはまるで回遊魚の群れのように。
水底のメリーゴーラウンドのように。


見守っているこちらに気づいて彼女がこれでもかと両手を振って笑う。
林田は少し恥ずかしそうにして、何か大声で叫んでいたが、こちらがひらひらと手を振って応えると、一刻も惜しい様子の彼女に波打ち際の方に引きずられていった。


そう、これくらいのことはあってもいいじゃないか。
あの慟哭を、振り絞るような覚悟を知っている俺は祈りにも似た気持ちで見送った。


ビールを飲み終えて、手が癖で折りあげていた二匹の金魚が風に吹かれて大空を舞った。

そうだ、行け、心のままに。
たとえここがどこかの誰かが用意した水槽の中なのだとしても、あいつらは自分たちのフォームで泳いで行けばいい。どこまでも、望む限りどこまでも。

そしてもしもその先に見えない壁が立ちはだかったときは、今度こそ道を作るのは俺たちの役目だとそう思いたかった。
誰かに選ばされるのじゃなく、あいつらが選んだ先が安心して進める道になるように。

木の壁なら蹴り破ろう、鉄の壁ならパワーショベルでもなんでも持ってこよう。
おやっさんが俺にそうしてくれたように。


これは長生きしなきゃいけなくなったな、と呟いた。
煙草はやめられないけどな、と被せられてたまらず噴出した。


ーーーーーーーー
本日、クロウ様キーパーで35様作の「グリオーマアクアリウム」に参加させていただきました。

海の底のような遊園地、開けたようで閉じた不思議な舞台で若人のきらめきにやられっぱなしでした。ぎこちなく心を触れさせる交流があり、直接言葉にしないでも同じ気持ちで支えあうチームであり、そしてそれでもやっぱりクトゥルフ神話TRPGでもあって、ネタバレ防止というだけでなくなかなか簡単に言葉にできないあれこれがあったひと時でした。

という訳で後日譚妄想です。
まあ、これくらいは許されてしかるべきでしょうという勢いにまかせた書き連ねです。明日が休みだったら本編の長さくらい続いていたんじゃないかと思える感想戦であーだこーだ話していたところからせめてニュアンスは拾えていると信じて。我らがヒーロー林田青年に精いっぱいのエールを送りつつ、抜群の安定からくる信頼感の夜野さんと大人の特権というやつをやらせていただきました。本当にこのPLたち、このPCたちだから出来上がった物語だと思います。

改めましてよりさん、緑茶さん、そしてキーパーのクロウさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者の35様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/31 21:16[web全体で公開]
😶 りんごはあまい それから
三枚におろしたアジをぶつ切りにする。搬入されたくらげからピンセットで寄生虫を取り除く。水槽をスポンジで丁寧にふきとり、フィルターを交換して目が通るまでよく洗う。偽岩についた藻をブラシでこすり落とす。
ほぼ毎日皆で繰り返す作業だったが、ここ1週間は当番以外の仕事も空き時間を埋めるように積極的に買って出た。
新米が仕事を早く覚えたいと言えば受け入れられたし、仕事に没頭している間は嫌なことを考えずに済むのはありがたかった。

餌に我先にと群がってくる魚たちを見ていると、羨ましいような気分になった。


仕事から帰ると姉が居間でうたた寝をしていた。
夢でも見ているのか、ぐふふと気色悪い笑い声を漏らしたり腹を掻いたりしている。
5つ上のこの姉はこれで外づらだけは大したもので、しかもこちらが逆らえないのをいいことに事ある毎に弟を子ども扱いするものだから、俺は中学生にして「憤懣やるかたない」という言葉を覚えたほどだった。


その晩、スクーターに乗って星の海を滑走している夢をみた。
でもよく見るとスクーターは真っ白い平皿で、すぐ隣を見知った女性が三人、同じように平皿に乗って滑走していた。

慌てて加速すると、皿は海に飛び込んで嵐の中を漂う板切れになった。
頼りなさげな板切れに海の中から黒い長い手が何本もしがみついてくるので必死に振り払った。振り払うたびに甘酸っぱい香りが鼻を突いた。

そのたび泣き出したい気持ちになったけれど、気づかれないように平静を装った。

岡橋さんは妹さんと笑いあっているべきだし、泉さんには泉さんを頼りにしている人たちがいるはずだし、一木さんが俺たちにひどいものを見せないように気遣ってくれていたことはきちんと報われるべきだと思う。
だから自分がやったことは正しかったのだと思う。
そう思いたい。

けれど多分、あれは私事で、我がままで、新米社会人の自分では気づけなかった冴えた方法がどこかにあったのかもしれない。

心が折れてしまいそうになったとき、板にしがみついていた両手が温かい手に繋がれていることに気が付いて顔をあげた。
白い、ぼんやりとした人の形をした光が、掲げるように繋いだ両手を持ち上げると、自分の体が宙に浮きあがるのを感じた。暗い海から明るい空へ持ち上がっていく中で、ありがとう、と声を聴いたような気がした。


目を覚ますと、頬が濡れていた。


次の日、電車に乗ってあの駅で降りた。
住宅街の中を歩いて、森の中のような公園の中道を進んでいく。

あの人たちはそこに居るだろうか。

伝えたいことがあった。聞きたいことがあった。
それが出来れば紙くずのようになって戻らなかった何かに答えは見つかるだろうか。
許してもらえるだろうか。
気づいていたよと笑われるような気もした。

行く手に白煉瓦を組んだ建物が見えてくる。

足を速めた。こんどは距離を埋めるために。
勇気は、もうもらったから。


ーーーーーーーー
本日、やなせ様キーパーであるている様作の「りんごはあまい」に参加させていただきました。

やなせさんはオンセンほぼ同期で自分がキーパーやってみたいと思ったのも実はやなせさんが挑戦されているのを聞いて奮起したからでもあって、とても刺激を受けている方でした。テストプレイの募集が折よく空き日程で見つかったので、一も二もなく申請させていただき承諾してもらってからは本当にうれしかったです。

同卓させてもらったお三方もとてもよい方たちばかりで、同じくらいの戦歴だったり初プレイだったりとは思えない頼もしさで、シナリオが深まるにつれて仲間と感じられました。皆と一緒に喜んだり悩んだりできて良かったなあと思います。
そうであるが故に、自分がシナリオの中でした一つの決断があれでよかったのかと思わずには居られない、そんな気持ちを引きずりつつ

というわけで後日譚妄想です。
ネタバレ防止のためあれやこれやは言及できないのですが、キーパーのやなせさんが最後に言ってくれた一幕と、同卓のみなさんからいただいた言葉を乗せて、なんとかもう一歩踏み出す準備として捏ね上げてみました。
3人の年齢がちょうど想定していた姉の年齢に近かったことで、我がままをさせてもらってしまっていましたが、特にあのとき同じところにいた一木さんとはもう少し一緒に何かできる線も提示できたかもしれないというプレイヤーとしての反省を込めて、隠し事を白状しに伺わせていただきたいというそんな再訪でした。
もちろん完全な私見、ifですので、もしもにょもにょがごにょごにょする場合は、かくかくしかじかでてくあっといーじーにしていただければ幸いです。

改めましてよりさん、こるめさん、とまとさん、そしてキーパーのやなせさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のあるている様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/31 00:25[web全体で公開]
😶 初キーパーを終えて
とうとうKPデビューということで、唯様作の「最奥の底庭」を回させていただきました。

何度ココフォリアをいじっても、何度シナリオを読み返しても緊張して緊張して、当日なんとかまわしきれてほっとしつつ、集まってくださったお二人の人柄に助けてもらったなあと感謝してもしきれないです。
芯のぶれないお嬢様と天才少女の組み合わせは、噛みあいばっちりでずっとほっこりさせてもらえました。
情報量の多いシナリオで心配だったですけれど無事脱出してもらえてわがことのようにうれしかったです。
改めてありがとうございました。また機会があれば遊んでください。

また、準備するにあたって、ハウスルールとココフォリアのデザインを参考にさせていただいたあひるさん、読みスピードについてアドバイスいただいたそばうどんさんにも感謝いたします。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/30 19:01[web全体で公開]
😶 Life goes on それから
目覚ましがなるよりはやく起き出して顔を洗う。
鏡の中からわたしがわたしを見返してくる。

おはよう、と言おうとして言葉が喉に引っ掛かった。
顔、顔、顔。

三面鏡に映ったわたしたちの顔がぐにゃりと歪んで苦しそうにわたしを見返してくる。
左の鏡に映った右の鏡に映ったわたしの顔が。
右の鏡に映った左の鏡に映ったわたしの顔が。
顔、顔、顔が、たくさんの顔が。

お、お、おは―。


わたしが占い師を休業して1か月が過ぎようとしていた。
それはあの出来事からもう1か月が過ぎたということでもあった。

人が怖い、正確には人の顔が怖い。
たくさんの人の顔が怖い。

わたしは言葉をうまく人に伝えることができなくなっていた。
それは話すことはもちろん筆談さえもそうだった。

幸い自由業みたいなものだったので仕事を一旦たたむことは誰の迷惑にもならなかった。

以来、わたしは自宅に籠って貯金を切り崩しながらリハビリを続けている。
病院の世話にならなかったのは、なんとなく避けたい気持ちがあったのかもしれないけれど、意地のようなものもあったと思う。

これは正しく与えられた代償だったという思いと、だとしたらどうにか乗り越えられるという確信めいたものがあった。

右足を踏ん張ると右肩にそっと触れ、ゆっくりとなでおろす。
二の腕、肘、腕、手首、そして指先へ。

『いまはキミがそばにいる 迷わずに踏み出すんだ』


思えばたくさんの励まし、忠告を、おべんちゃらを送ってきた。
他人の望みを、恐れを、言葉にのせて手渡して、ワンダラー・アキはそうやって生きてきた。目深に被ったフードローブで本当を包み隠して。

それが必ずしも悪いことだとは今も思わないけれど、言葉を伝えることができなくなった今、本当の言葉が欲しくなった。

『キミが教えてくれた 自分らしくあることを』

無邪気に笑うあの子のことが、敵意にさえ優しかったその心根が、
仲間と重ねた指先が、
わたしを奮い立たせて、背中を押してくれる。

テレビではもう名前を聞くこともなくなったけれど、わたしは覚えていよう。
ずっと、ずっと覚えていよう。

それは、過去に縛られるというのじゃなくて、わたしの背中を押してくれる思い出を、残してくれたわたしと一緒に、未来を生きたいと思った。
フードを脱ぎ捨てて、わたしの言葉を紡いでいきたい。


『瞬く星の向こう 夢見た未来描こう
 だからその時は 一緒にいようよ』


人生は、続いていくのだから。


ーーーーーーーー
先日、そばうどん様キーパーでぱぱぴっぷ様作の「Life goes on」に参加させていただきました。

これは大変なシナリオで、ネタバレせずに誉めるのが難しいのですけど考えさせられるシナリオだったと思いますし、まさに即興劇のウェイトが大きくてキーパーの負担やいかほどと感心するやらありがたいやらでした。
しかも今回使ったキャラクターは、開始前にキーパーのそばうどんさんに「大丈夫ですか」と心配されてしまったのもやむなしな怪しげ設定でしたが、その割に活かしきれなかったのは未熟さを痛感したところでした。その節は心配をおかけしてすみませんでした。

というわけで後日譚妄想です。
シナリオタイトルを見た瞬間から、Chemistryの「Life gose on」と繋がってしまって、せつなさが爆発していました。今回の文中の『』内は歌詞引用です。このシナリオを体験した方にはぜひ一度聴いてみてほしいです。
自分の言葉が欲しいという切っ掛けは、ワンダラー・アキこと田中弘子の経験したことはもちろんですけど、一緒に探索した東野洋子さんの説得が格好良く決まっていた時自分は言いくるめしか持っていなかったことだったり、平川おとさんが他3人が不定落ちしたときに立て直した姿だったり、佐藤太郎くんの全体をみてカバーするような動きだったりに触発された結果だったと思っています。
Life gose on、いい言葉だと思います。

改めまして、ゆねさん、akumuさん、四柳ののかさん、そしてキーパーのそばうどんさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のぱぱぴっぷ様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/26 11:59[web全体で公開]
😶 うそつきだれだ それから
全然まじめに聞いてないですよね。
と言い当てられて、ちょっと驚いた。

今日の相談者は部活の後輩の妹の友達とのことだった。
駅前のドーナツショップはいつも通りの混雑で、差し向いに座ったテーブルにはくしゃくしゃになった包み紙と冷えきった紅茶のカップが並んでいた。


自慢じゃないけどわたしはよく相談を持ち掛けられる方だし、相談し甲斐があるって言われることだって多い。
コツは相手をちゃんと見て最後まで話を聞くことと、相手がどうしたいかを引き出して応援することだ。中身はあんまり問題じゃないし、相槌を打つためのポイントさえ押さえておけばちゃんと聞いている風に見せるのは難しくなかったりする。
結局のところ、ほんの一握りの切実な相談事を除けば、みんな最初から答えを持って話に来てるんだしね。


だけどたまにはこうやってイレギュラーだって起きる。
まあ、いいですけど。と言ってそっぽを向いたその子に少し興味がわいた。

この子は特別勘がいい子なのかな。
わたしに何か油断があったのかな。
それとも単にかまをかけてこっちの注意を引いているって線もある。

わたしは脚本を修正して、チップを上積みしてみることにした。


かき氷のシロップは実は全部同じ味なんだって、知ってた?
唐突なわたしの質問に、その子は少し驚いたような顔をしてみせ、ちいさくうなずいた。

でも買うときはついどの味にするか迷っちゃうじゃない?あれなんでなんだろうね。
わたしは組んだ腕をテーブルにもたれながら聞いてみる。
彼女はぽかんとした表情をして、ううん、と首をかしげた。

これは…外しちゃったかな。ほっとしたような残念なような気持になって、かわいいなもう、と頭をなでた。


有線放送が棺桶ダンスを流している。
最近静かなブームらしく、動画で火付け役になった二人組のナンバーらしい。
イッツアルーム、と軽快な合いの手が挟まれる。

そう、人はみんな心に真っ白な部屋を持っている。
鍵はかかっていないかもしれないし、ピンで簡単にあいちゃったり、鍵がその辺りで見つかったりするのかもしれない。
わたしは部屋に招かれると後ろ手にナイフを持って入っていく。
どうこうするためじゃなく、ただなんとなく。


なんですかもう、と笑って手を押しのける彼女の顔に覚えがあるような気がしてきた。
文化祭に来たことがあるのか。部活の皆で遊んだ時についてきていたのか。
違う、そうじゃない。それ以外のどこかで。

紅茶を飲み干すとポットに残った紅茶を注いだ。
出過ぎた紅茶は黒味を帯びて、茶葉のかけらがぐるぐるとカップの中で踊っていた。


ーーーーーーーー
先日、アメマス様キーパーでミヤモリ様作の「うそつきだれだ」に参加させていただきました。

緊急事態宣言解除に向けた動きもあって、なかなか先の予定が立たない中、突発卓で雰囲気よさそうなところに飛び込んだのですが、開始前に「人狼っぽい要素があります」と言われてかなりテンションあがりました。
シンプルな中にも推理要素があって、ヒントの少なさも進行描写も確かに人狼っぽい、と思いました。最近ご無沙汰ですけどひと頃かなり人狼にのめりこんでいたこともあって、キャラクターを演じるより人狼プレイヤーとしてのプレイになってしまったなーと反省も残りつつとっても楽しかったです。

というわけで後日譚妄想です。
セッション内であまりキャラクター色を出せなかった分、技能から膨らませた結果、すこし悪い人になってしまいました。こういうキャラクターを一人くらい持っていてもいいかなあ。
ちなみに棺桶ダンスは一緒に事件に巻き込まれたケヴィン・コフィンさんと棺桶旦 修さんの持ちネタで、多分別シナリオのネタなのかな。話に詰まったらとりあえず踊っていらしていて怪しさ抜群でした(笑)

改めまして、ままままさん、マダラさん、タケノコさん、そしてキーパーのアメマスさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のミヤモリ様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/24 18:11[web全体で公開]
😶 リボルバー それから
衝撃的な体験をしたあの日から数日。
またいつもの日常が戻ってきていた。
連日ワイドショーをにぎわしているニュースがお前も当事者なんだとその都度思い出させてくるけれどやっぱり実感はついてこなくて、山のように押し寄せてくる仕事に席をあっさり明け渡していた。


昼食をとりながら社員食堂のテレビをぼんやり見ていると、ペット特集だかでハムスターを撮った素人動画が流れていた。
コメンテイターは口々にかわいいですねと笑顔を浮かべている。
ハムスターは奪い合うように回し車に乗り込んではせわしなく車を回していた。
駆けても駆けてもどこにもたどり着かない檻の中になぜ喜んで入り込むのかわからないなと思ったが、自分の境遇も似たようなものかと思い至った。


午後一番で部長がにこにことこちらにやってくると、嫌な予感は的中していつものマシントラブル対応を頼まれた。
何も変なことはしてなんだよ、と言うが自覚がないということは進歩もないわけで心の中で悪態をついた。
と、部長との間に不透明な板がはさまったように遠のいて見え、右手にずしりと何かが握られたような錯覚が続いた。思わずつばを飲んでまばたきすると、視界は元に戻っていて右手には何も持っていたなかった。

ガチャリと金属が冷たく噛みあう音が聞こえたような気がして、振り払うように機械の点検に取り掛かった。


その日、夢を見た。
俺はリボルバー拳銃を手にもっていてシリンダーをくるくると回していた。
シリンダーを左に押し出すと、銃弾の代わりに小さい人間が込められていた。
目を凝らすとどれも見覚えのある顔だった。

そして、その中のひとつに自分を見つけると、自分が狭い井戸の底に立っていることに気が付いて空を見上げた。

不思議とパニックはなくて、ああそうかと腑に落ちた。
俺たちもあの男も、老人も、女性も、あそこに関わった誰もかれもが、きっとそれぞれに拳銃に込められた一発の弾丸だったのだ。


ガチャリ、ガチャリ。
何かが回転しているような音が響く。
いつの間にか手にしていた台本の役名がパタパタと書き換わっていく。
それがいつ止まるのか、息をつめてただ待ち構えた。


電光掲示板にとらえどころのない言葉が流れていく。
荒野に乱立する巨大なアンテナに宇宙の果てから届いた電磁波のように。

そんな途方もなく遠くから発信される基準の前では、次に撃ち出されるのが誰かなんて俺たちにとってはただの運次第なのだ。そんな気がした。


ーーーーーーーー
先日、木枯らし様キーパーでシャイ様作の「リボルバー」に参加させていただきました。
有名なシナリオらしく、あれこれ試行錯誤が楽しかったです。
決して重たくはない分量でしたけど、探索、推理、演技に決断、全部が詰まっていて、なるほどの評価だったなーと思いました。
今回、受け身キャラのつもりで参戦したのですけど、全体のバランスから最前列から2番目くらいをずっと走っていた気がします。同行する場面が多かった蛇崩さんには大変お世話になりました。
あとはRPというかキャラクターが演技をするという劇中劇みたいな場面もあって、黒須さんの後ろでガヤをしたり、無機物さん渾身の長回し演技を息をつめて見守ったりとなかなかない体験ができたのも楽しかったです。

というわけで後日譚妄想です。
SAN値も耐久力もぴんしゃんしていて、技能も聞き耳くらいしか変化しなかったのでどうしたもんかなと悩みましたが、仁井谷も衝撃的な目にはあうにはあっていたしこれくらいかなと落ちつけました。
すべてがどうしようもない気まぐれによるものなら、次は自分が――という妄想で、明確な人間関係を築けていないと一人芝居になってしまうなあと反省を込めて夢頼りでした。極力ネタバレを回避したつもりでしたが大丈夫だといいなあ。

改めまして、かいかいさん、サンタさん、無機物さん、そしてキーパーの木枯らしさん楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のシャイ様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/23 14:15[web全体で公開]
😶 五月雨屋敷の走馬灯 それから
秋も深まるころ、わたしは絶賛引きこもり生活を送っていた。
寝て、起きて、ぼんやりと時計を見やる。
時計の針が10時を指していても、カーテンはしっかりと閉め切っていたから、いまがいったい朝なのか夕方なのかもわからない。
部屋の外に物音がしないことを確認してそっとドアを開ける。
ドアのすぐ外に置かれているトレイの中にトーストとサラダと牛乳が並べられているのを見ていまは朝なんだとやっとわかった。そんなどうしようもない生活をかれこれ3か月は続けていた。

昔から他人の笑い声が気になってしまう性格だったけれど、あの不思議な体験をしてからは人目のないところでも、誰かがわたしを指さして笑っているような錯覚が止められないでいた。


夏休みの間は笑って放任していた両親も、新学期になっても頑として登校を拒否するわたしを心配たのか、何人ものカウンセラーか何かが入れ代わり立ち代わり家にやってくるようになった。
でも、あの恐怖を知らない人がわたしの何をわかれるっていうんだろう。
最初はにこにこと質問をしてきた彼らも最後には結局ありきたりなことを言ってあきらめ顔で帰っていった。


誰かがいつもわたしを見張っている。
誰かがいつもわたしをなじっている。
誰かがいつもわたしを哄笑っている。
そして昏い、寒い、どこか遠くに連れて行こうとしている。


本当は何かあったかい、きらきらした何かがあったはずの夏の日々。
何とか自分を奮い立たせようとそういった思い出をかき集めようとしても、ふと雑念がよぎって気がそれた瞬間にそれらは幻のように立ち消えてしまって、どんなに目を凝らしても見つけられなくなってしまうのだった。


玄関のチャイムが鳴った。
この時間は最近はお祖母ちゃんもパートに出ているはずだ。
どうしたらいいものか右往左往していると携帯からLINEの着信音が鳴った。
翠からのスタンプが3つ並んでいたのをみてほっと胸をなでおろした。
翠はこんな風に家に誰もいない頃合いを見計らって時々様子を見に来てくれていて、わたしも彼女らと居るときだけは不安を和らげることができていた。


玄関の扉を開けるなり、するりと入ってきた翠に飛び掛かられて目の前が真っ暗になった。アイマスクのようなものをかけられて、続けて耳当てで何も聞こえなくなった。
動転しているわたしの両手を誰かが握ってきて、わたしは捕獲されたリトルグレイみたいな恰好でのそのそと廊下を引きずられていった。

最初は体中から汗が噴き出してきたけれど、ゆっくり確かめるように連れられていくうちに繋いだ両手に懐かしさがあふれてきて、温かいトンネルを丸まった自分がどこかへ押し出されていくようなそんな気持ちになっていった。


歩みが止まり、両手が離された。
続いて視界が開けて、耳に音が戻ってきた。

突然の明るさに、二度、三度まばたきをすると居間に知った顔がずらりと並んでいた。
手を引いてくれていたのはやっぱり阿良川と鴎だった。
翠がアイマスクと耳当てを持って笑っていた。
三村が指さしたテーブルの上には、山盛りのお菓子にジュース、そしてホールのケーキが並べられていた。

そこでようやく今日が自分の誕生日だったと気づいた。
胸に言いようのない感情が込み上げてきた。
みんなで確かに何かを共有したあの夏の日々が鮮明に蘇ってくる。

だれからともなくあの唄を口ずさんでいた。
日差しの強い坂道で、潮の香りのただよう木立で、夕暮れの浜で、確かに聞いたあの唄を。
空気がどんどん軽くなるのを感じた。
明日の終業式来られそう?と聞かれて、我ながらぎこちない笑顔でハーゲンダッツおごってくれるなら、と答えた。


ーーーーーーーー
先日、ダイン様キーパーでJACK.Z 野生の無貌の神様作の「五月雨屋敷の走馬灯」に参加させていただきました。

すごい、これはすごいあおはるですよ。
プレイヤー全員友人で16才で夏休み、不思議なうわさの真相を探るシティもの。これ絶対面白い奴だーと思っていましたが、期待以上のとうとさでした。
PC4人が揃いもそろってインドア派で、屋内シーンのダイスロールにはめっぽう強いのに屋外にでるとポンコツになっていくのも笑えましたし、オカルト部に新聞部というマイナー路線の集団が、探索を続けていくうちにうちとけてガードが崩れていく感じはほんとよいものでした。

というわけで後日譚妄想です。
ほんとうなら圧倒的にハッピーな日記になるはずだったのですが、ふとした油断とダイス神のいたずらで発狂、3か月の一時的偏執症を引き当ててしまったのでした。どうしてこうなった(笑)
そんなこんなで、同卓したPCさまたちのお力を勝手にお借りしてしまいました。妄想話と思って流していただければ幸いです。これは小守文乃一生頭あがんないな。
堅物に見えてお茶目な一面もみせてくれた阿良川、何故か対人交渉の一番の矢面にたたされていた三村、破天荒ながらセラピストでもあった翠、リーダーだったはずだったはずの鴎、天に愛された美少女ゲーム実況投稿者の四葉杏様、みんな大好きでした。
サイゼリアでだべったり、LINEタブでしょうもないことを発言しあったり、謎の唐突な〇〇回が発生したり。この面子だったからあの夏の日を体験できたのだなーと思います。
あと翠は絶体絶命のときに精神分析してくれてほんとありがとう。アフター的におおげさでなく一命をとりとめました。

改めまして、木枯らしさん、マダラさん、柏木@さん、そしてキーパーのダインさん、楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者のJACK.Z 野生の無貌の神様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでください。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/19 14:46[web全体で公開]
😶 瑠璃色絵画 それから
日傘をずらして空を仰ぐと雲一つない空が広がっている。
陽気も強くなってきた。
額の汗をハンカチで押さえて辺りを見渡す。
往来には半そで姿が増えてきたが、わたしはまだ衣替えするふんぎりが付けられなかった。
右襟が気になって引っ張り上げてから、癖になってきているなと、苦笑した。


家と家の間を縫ってしばらく歩くと目的の看板が目に留まった。
個人宅を使ったささやかな絵画教室で、あまり繁盛はしていないようだった。
研修先の大先生の古くからの知り合いでアートセラピーも行っているそうで、勉強になることがあるかもしれないね、と紹介してもらったのだ。
講師は温和な雰囲気の初老の女性だった。


最初だから何でも好きなものを描いてみてくださいと言われて、スケッチブックと画材を渡されると自然と青色に手が伸びた。
やっぱりここが引っ掛かりどころなんだろう。
絵具を溶きながら描くものを決めようとしたが思い浮かばず、とりあえず平筆で横線を引いてみた。これは空だろうか、それとも海なんだろうか。続いてすぐ下にもう一本。水を都度含ませながら引いたせいで自然とグラデーションが生まれていく。


瑠璃色。ラピスラズリ。青金石(ラズライト)を主成分とした半貴石。複数の鉱物を含むため深い青色から藍色までその色合いには幅がある。しばしば黄鉄鉱の粒を含んで夜空の様な輝きを持つ。
かなり古い時代から見出されていた石で、宝石としてのほかに顔料ウルトラマリンの原料として用いられてきた。有名どころでいうとフェルメールの「青いターバンの女」だ。フェルメール・ブルーなんて呼ばれ方もしているそうだ。とにかく高価で聖マリアやキリストのローブを塗るために使うとっておきの顔料だったらしい。


そんな蘊蓄を思い出しながら、ゆっくりと線を重ねていく。
下半分を塗り終えてしまうと今度は上に向かって同じように青を広げていく。
やがて紙いっぱいに線を引き終えると体を反らして眺めてみた。
これは一体何だろう。と考えても思いつけずにただ濃い青に目が吸い込まれた。

そこに隠された何かを掬い上げようとする。
それは無垢な深淵であり、穏やかな信頼でもあり、秘めた孤独でもあるように感じた。


わたしが描き上げた様子を見て先生がやってきて、いいですね、とうなずいた。
意味はわからなかったが、その落ち着いた笑顔と声の調子からはそれが心からのもののように思えた。


先生に礼をして教室を後にした。
喫茶店に入ってスマホを眺めていると占いページが目に留まった。

ラピスラズリ。パワーストーンとしては自他の邪心を取り除き、良い方向に導く。長期的な視野での試練を与える。

隣の席では大学生らしき男女が遊びの相談をしている。
そうか、そろそろ大学も夏休みか、と思い出して先日追加されたばかりの連絡先に指を伸ばした。


ーーーーーーーー
先日、そばうどん様キーパー紅音様作の「瑠璃色絵画」に参加させていただきました。

いやあ、「袋の人間」でも思いましたけどタイムリミットものはどきどきしますね。
わいわいやりながらも終始残り時間が気になっていました。
導入の壁紙がとてもおしゃれで、セッション中ずっと色彩豊かなイメージがついてまわっていたのも印象的でした。

で、このセッションの募集要項にもシナリオ製作者様のコメントにも、ロストはあるにはある、発狂もほぼない、とのことだったのですが、当パーティでは1名重症、1名不定という謎の現象が起きていしまいました。ダイスって怖いですね。
かく言う自キャラの河雲聖来が重症者でした(笑) しかもアイデンティティと言っていい精神分析をしくじって同行者の不定を解除できなかったのも、実は河雲聖来だったのでした。本当にダイスって怖いですね(笑)

というわけで後日譚妄想です。
無事に揃って脱出でき、目立った後遺症もなかったハッピーエンドだったので爪痕をどうしようかなと悩んだのですが、未熟さを痛感しながらも支えを受けての再スタートといった心持にしてみました。
信頼できる上司に、天真爛漫な蛍ちゃんや、気配りのできる年下の智也君、頼れる貫禄の己斐さんと周囲が盤石の布陣なのできっと明るい未来に続いていけるのではと思っています。

また、今回のセッションでは、「ピース・メイカー」でご一緒させていただいた物部さんとの再同卓でき、「クレイジーガーデン」でご一緒させていただいたしまさんに来ていらして、縁はこうやって広がっては繫がっていくんだなあと4戦目にして感慨深くもありました。

改めて、すぬさん、物部皐さん、柏木@さん、そしてキーパーのそばうどんさん、楽しい時間をありがとうございました。シナリオ製作者の紅音様にも感謝です。
またよければ一緒に遊んでくださいね。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/17 02:05[web全体で公開]
😶 クレイジーガーデン それから
晴れ晴れした気分!
あんなにやきもきした1週間はテスト期間にだってなかった。
もう大丈夫だよね?って何度も何度も胸に手をあてたっけ。


あの誘拐事件から無事に家に戻ったとき、安心でお母さんにわんわん泣きついたりしちゃたけど、それだっていま思い返すとちょっと恥ずかしい。あのお父さんが、あのお父さんが、ちょっとうるっときてたのをわたしは見逃さなかったよ。
ご飯も残しちゃったりして心配させちゃってたんだろうなあ。
もう大丈夫だってわかったとたんご飯をおかわりしちゃう現金なわたしだけど、ほっとした感じで顔を見合わせてるふたりだったし、これも親孝行だもんね。


ニュースで犯人が捕まったって見た時、クラスでも少しざわざわしたけど、わたしは実は少し前に浜辺さんからこっそり教えてもらっていたのだ。
今度、快気祝いっていうの?だってしてもらうんだ。浜辺さんと、矢矧さんと、鈴木さんとみんなで。
ケーキ屋さんがいいなって思ってるんだけど、男の人は恥ずかしがるかしら。大人だから平気かな?
ケーキはチョコレートのがいい。季節のフルーツも大好きだったけど、ちっさい種を見るとまだ、うっ、てなっちゃうからね。
家族でも先生でもない大人の友達がいるのって、ちょっと特別な気分。


わたしはもうこうやって元気100倍なわけだけど、寝るときに時々思い出すあのときのすーっと寒くなる感じ、あれにはまだまだ慣れそうにない。
そんな時は無理せず起きだして、サーブのポーズ。
ポーズをゆっくり繰り返しながら思い出す。イメージする。
ばっちり決まった鈴木さんの必殺キック、てきぱき調査してる矢矧さんのきりっとした顔、しっかり抱きとめてくれた浜辺さんの温かさ。

気分が落ち着いてベッドに戻ろうとしたら、机の上に置きっぱなしだった進路調査の紙が見えた。
何にも決まらないでまっしろのままだったけど、いまだとそうだな、婦人警官なんて良いんじゃない?
指でピストルを作って鏡に向かって、ばーんってやったあとさすがに恥ずかしくなってベッドに潜り込んだ。
頭まで布団をかぶって、ひとしきりじたばたしてるうちにぐっすり眠ってしまうわたしなのであった。


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本日、Adam様のキーパーで詐木まりさ様作の「クレイジーガーデン」に参加させていただきました。
クローズド探索もの楽しい!
しかもほぼほぼパーフェクトクリア!

もともとリアル脱出ゲームも大好きな人間なので、密室に閉じ込められるとがぜんやる気がわいてきてしまいまして、不安なはずのキャラクターとの折り合いをつけるのが難しいやら楽しいやらでした。

また、探索者メンバーの中では最年少かつ唯一の未成年キャラでしたので、あっちこっちひっくり返しては見つけたものをお姉さんお兄さんの元にお届けするという使いっ走りプレイがたのしゅうございました。
それにしても、マルチリンガルインテリに婦警さんに探偵って勝ち確メンバーですよねwキャラクター的には頼りっぱなしにさせていただいておりました。

というわけで後日譚妄想でした。
そう言えば連絡先交換する場面なかったなあと思いつつも、いやするでしょ、たぶん、きっと、するよね?
浜辺さんの傷の具合はどれくらいで大丈夫になるんだろう。何てことないよって顔しそうだけど。
おそらく今回の同行者さんにはすごく影響されたと思うので、そういうところも年若いキャラクターを使う楽しみだなーと発見でした。

しまさん、Kadenaさん、めいろんさん、そしてキーパーのAdamさん、楽しい時間を本当にありがとうございました。シナリオ製作者の詐木まりさ様にも感謝です。
またよろしければ遊んでやってくださいまし。
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りちゃ
りちゃ日記
2020/05/15 01:01[web全体で公開]
😶 ピース・メイカー それから
どうして。もし。たら。れば。
何百回目かになる自問と共にスマホの画面に目を落とした。

そこには村で知り合った一人の少女のアカウントが映っていた。
もちろんそれに答えるものはなく、どんな答えを求めているのか自分でもわからない。

それでも自問を止めることができないで、しばらく一覧とトークの画面を行ったり来たりしたあとで画面を閉じ、思いつくままこの手記をつけている。


村から戻ってきた俺は、いろいろな人たちからあの時のことを尋ねられた。
家族から、職場の同僚から、古い友人から。
あるいははれ物を扱うように、あるいは訝しむように、あるいは気遣うように。
大丈夫か、何があったんだ、何かしてあげられることはないか。

その全てに俺は、わからない、と答えるしかなかった。

わからない。わからない。わからない。

自分でも自分がわからないのにどうして他人にそれが伝えられるっていうんだろう。
それが他人のことならなおさらだろう。

それでも問いかけずにはいられない。
どうして。もし。たら。れば。



あの時偶然同行することになった人たちと後日話すこともあった。
体に後遺症が残った人もいれば、五体満足な人もいた。
けれど話していると共通して、みんなどこかずれてしまったように思えた。

何度も聞いた話もあれば、はじめて聞く話も合った。
そのどれもが現実味がないくせに妙に心に溜まっていって、たとえばいま自分たちがいる「ここ」が、実は本当の何かの上にかぶせた布切れなんじゃないか、そんな風に思えてきてしまう。

職場では、肝が据わったと言われることが多くなった。
実際、同僚が口元を思わず抑えるような現場でも、あまり心が動くことがなくなった。

それは自分が本当の何かを目にしてしまったからじゃないだろうか。
すべてのピースがかちりとはまったと感じたあの時から、俺のやるべきだったこと、感じるべきだったこと、そんな何かが決定的になってしまったのかもしれない。

けれどもそれらは叶うことはなかった。
背中にずしりとした重みを感じる。
宙ぶらりんになってしまった俺は、あれからずっと、頭上の何かにかじりつきながら見えない足元に地面を探してもがき続けているんじゃないだろうか。



手記に戻ろう。

職業柄、いろんな人の手記を目にすることがある。
そんな中にときどき、誰にあてたものでもない、取り散らかっているようでいて妙に詳細な手記を目にすることがあって、そういう手記には何故か決まって引き付けられた。

彼ら彼女らがどうしてそんなことをするのか今ならよくわかる気がする。
彼ら彼女らは、書くことで自分をここにどうにか繋ぎとめていたのじゃないか、そんな風に今は思える。
いま、俺がこうしているように。



開け放した窓から風が吹き込んでカーテンを揺らした。
視界の端に白いレースがふくらんで踊っている。

笑い声が聞こえてきた気がした。


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先日、Rounin様キーパーでこりかん様作「ピース・メイカー」に参加させていただきました。
いやあ、やられました。これがクトゥルフか!

実に7時間以上のセッションでしたが、それを感じさせないお話で、終わった後は眠気と疲労感以上に心に鉛の塊をずどんと残されました。

例によってネタバレできないので、あれがこうしたことも、あばばーをごぼぼーしてしまったことも、せいやそいやがわっせわっせだった衝撃も書けないのがもどかしくも何かアウトプットしないのは勿体ないような体験でした。

というわけで後日譚妄想です。
何が起きても最低値しかSAN値が削れず、逆にクリア報酬で初期値から20もSAN値が増えてしまった鋼メンタルな渋谷八郎太でしたが、狂わなかったのじゃなく、狂えなかった結果なんじゃないかという気もしています。
この世とこの世ならざるものの狭間が埋められないときに人は狂ってしまうのだとしたら、この世ならざる方にすっぽり心を置いてしまったとき人はどうなってしうまうんだろうという妄想でした。

また、今回はキャラクターとプレイヤーの差があることで難しく、けれど楽しかったセッションでもありました。メタ的にはこっちに行くべきなんだろうけど、キャラクターがそちらに行ってくれないジレンマ。それでも最後にはなんとかキャラクターがしたいだろうことをさせてあげられたかなあと思います。

その過程で寄り道や手間を増やしてしまって、同卓してくださったみなさんには申し訳ないなあと思いつつ、一緒にお話をくみ上げられたことへの感謝に堪えないです。

物部皐さん、木枯らしさん、デモさん、紫芋さん、そしてキーパーのRouninさん、本当にありがとうございました。シナリオ製作者様のこりかんさんにも感謝です。
またよければ遊んでやってください。
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